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美味しい飲み物(他者視点)
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「マリナ様、お出かけになるのでしたら御供をいたしますよ」
「うっさいわね。もう慣れた場所なんだし、一人で十分よ。あんたは家の掃除でもしてなさい」
「そうおっしゃって、この間は治安の悪い地域に足を向かわせ、スラム街に行きそうになったではありませんか」
「あ、あれはたまたまよ! いいからあたしの事は放っておいて!」
ついてくると言う使用人を振り切って、あたしはお忍び用のワンピースに着替えると、街に繰り出す。
あの使用人は、お約束っていうものをわかってないわ。
ヒロインが危険な目に遭っている時に、ヒーローが助けに来てこそ物語が盛り上がるんじゃないの。
本命はワーグナー様だけど、迎えに来るのが遅いし、ちょっと浮気をするのは仕方がないわよね。
あたしってば魅力的だし、男の方が放っておかないのよ。
気分よく歩いていくと、視線を感じるけど、やっぱり美少女のあたしが歩いてると目立っちゃうのよね。
でも、この辺は治安がいいから、危険に巻き込まれるとかないし、やっぱり今日もちょっと足を伸ばして下町の方に行かないとだめね。
面倒だけど、これも素敵な出会いの為よ。
そう思って初めて一人で下町に来たけど、貴族街から離れてるせいか、活気が違うわ。
こういうのも悪くはないわよね。
そんな事を考えて歩いてると、露天商の人に声をかけられる。
「そこの可愛いお嬢さん、見て行ってくれないかい?」
「えぇ、どうしようかなぁ」
「あんたみたいな美人さんがいるだけでも、客引きになるってもんだ」
「そこまでいうなら、仕方ないわね」
かわいいとか、美人って言われて気分がよくなったし、少しぐらい見て行ってあげようかしら。
そう言って覗き込んだ露店の商品は、オーダーメイドで作った宝石の装飾品とまではいかないけど、それなりに可愛いものが多かった。
まあ、庶民にはお似合いね。
「どうだい、うちの渾身の商品は」
「なかなかいいんじゃないの? あたしが身につけるにはふさわしくないけど」
「あっはっは、その服だもんな。こんなところにいるけど、いいところのお嬢さんなんだろう?」
「そうよ」
あたしが即答すると、露店のおじさんは何度か頷く。
やっぱり、あたしの魅力ってどこにいっても隠せないものがあるのね。
「それにしても、あんたみたいなお嬢さんが、御供も連れずにこんなところに来るなんて、危ないんじゃないか?」
「平気よ、いざとなったらヒーローが助けに来てくれるもの」
「なんだい、恋人でもいるのかい?」
「恋人じゃないけどね」
あたしの言葉に、おじさんは不思議そうな顔をしたけど、何か考えた後に、「喉が渇いただろう」って飲み物を渡してくれた。
確かに、ちょっと喉が渇いたし、遠慮なく貰っておこう。
「へえ、なかなか美味しいじゃない。こっちで商売した方がいいんじゃないの?」
「そうかい? まあ、飲みたくなったらいつでも来てくれよ。お嬢さんは別嬪さんだからな、いつでも大歓迎だ」
「まあ、その気になったらね」
そう言って、あたしはその場を離れた。
帰ってすぐに、使用人が眉間にしわを寄せて、「解毒薬を飲んでください」とか言ってきたけど、意味が分からなかったし、「毒を飲まされています」とか、妄想を言ってきたから放置したわ。
◇ ◇ ◇
「おや、お嬢ちゃん。今日も来てくれたのかい?」
「感謝してよね。あたしぐらいになると、一人で出歩くのが大変なんだから」
「あっはっは、来てくれて嬉しいよ。まあ、これでも飲んでゆっくり見て行ってくれ」
「そうするわ」
本当にこれ、美味しいわね。
◇ ◇ ◇
「今日も来てあげたわよ」
「おや、今日は遅かったんだな」
「うちの使用人がうるさかったのよ。解毒剤を飲めとか、解毒魔法を受けろとか意味が分かんないわ」
「へえ? そりゃ大変だな」
「このあたしに毒を飲ませるとか、いつ出来るんだって話よね」
「だよなあ。案外、そんな事を言うやつが犯人だったりするもんだぜ」
「そうなの? いやだ、そんな人が近くにいるとか冗談じゃないわ。辞めさせた方がいいわね」
「そうだな。ああ、これはいつもの礼だ」
「これを待ってたのよ。これを飲むために来てるって言っても過言じゃないわ」
「そりゃ、作ってる側にとっては嬉しい言葉だな」
「作り方教えてくれる?」
「あっはっは、そりゃあ流石に言えないな」
「ケチね」
◇ ◇ ◇
「マリナ様、いい加減解毒薬を飲むか解毒魔法を受けてください!」
「うるさいわね! 何の毒も飲んでなんかないわよ!」
「麻薬を飲まされています!」
「あんたが食事に入れてるんじゃないの?」
「そのようなことをするはずがありません。とにかく、すぐに処置をしなければ」
「あたしのことは放っておいて」
「ミレイア様にご報告させていただきます」
「やめてよ! そんなことしたら、あんたをこの家から追い出すからね!」
「私が辞めてもすぐに次の者が来ますよ」
「うざいのよ!」
◇ ◇ ◇
「ねえ、あの飲み物を頂戴?」
「ああ、もちろんだとも。随分気に入ったようだな」
「めちゃくちゃはまっちゃったわ。本当に、これで商売したほうがよくない?」
「大量生産は出来ないんだよ」
「ふーん」
「貴重な材料を使ってるしな」
「でも、これからもあたしのためにくれるんでしょ?」
「あっはっは、そりゃお嬢ちゃん次第だな」
「どういう事?」
「そのうち、この飲み物なしじゃいられない体になっちまうかもな」
「そんなわけないじゃない」
◇ ◇ ◇
「マリナ様、またお出かけになるのですか?」
「そうよ」
「ミレイア様にご報告をさせていただきました。解毒魔法を使える魔術師を今夜にでも派遣してくれるそうです」
「余計なことしないで!」
使用人を振り切って下町に行くと、いつもの露店のおじさんの所に行く。
解毒魔法を無理やりかけられるかもしれないって言ったら、家に匿ってくれるって提案してくれたから、あたしは迷うことなくそれにのっかったわ。
連れていかれたのは、下町にしては綺麗な家だった。
「なかなかいいところに住んでるのね」
「そりゃあ、客商売には信用が必要だからな」
「そういうものなの」
「しっかし、解毒魔法なんざ、上級魔導士じゃなきゃ使えない一級魔法だろう。ほいほいと手配されるものじゃないぞ。お嬢ちゃんは何処の貴族の娘さんなんだい?」
「ラーゼフォン王国の侯爵家の養女よ」
「あのラーゼフォン王国?」
「そうよ。せっかくこっちの世界に来て勝ち組になれたのに、あのクソ女のせいでめちゃくちゃだわ」
「こっちの世界に来た……。ああ、お嬢ちゃんが噂の『渡り人』かい」
「そうだけど?」
「そりゃあいい」
叔父さんはそう言っていつもの飲み物を出してくれたから、あたしは遠慮なくそれを飲む。
本当に、相変わらずおいしいわ。
「この国に住むことになった『渡り人』には、中級魔導士が護衛についてるって話だったんだが」
「あたしだって、魔力量だったら中級魔導士ぐらいはあるもの。目をごまかすなんて簡単よ」
「そうかいそうかい。そりゃますますいいね」
おじさんの手が伸びてくる。
よけようとして、体に力が入らないと言うか、おじさんに逆らう気が起きないことに気が付いた。
「異世界の女なんて、滅多にない商品になる。時間をかけて暗示と薬漬けにしたかいがあるってもんだ」
「え?」
にたり、と笑うおじさんに、あたしは目を瞬かせる。
「どういうこと?」
「お嬢ちゃんは暗示が効きやすくて助かったよ。お貴族様の中には、暗示阻害の魔道具をつけてるやつも居るから薬も併用しておいたんだが、必要なかったかもな。ところで、お嬢ちゃんは処女か?」
「違うわ」
「ちっ、価値が下がっちまったか。まあいい」
これからせいぜい稼いでもらうっていうおじさんの言葉がわからないほど、あたしだって馬鹿じゃない。
これって、娼館行とか、凌辱エンドじゃない? 冗談じゃないわ!
でも、逃げなくちゃって思ってるのに、逃げる必要がないって思ってるあたしもいる。
あたし、どうなっちゃうの?
「うっさいわね。もう慣れた場所なんだし、一人で十分よ。あんたは家の掃除でもしてなさい」
「そうおっしゃって、この間は治安の悪い地域に足を向かわせ、スラム街に行きそうになったではありませんか」
「あ、あれはたまたまよ! いいからあたしの事は放っておいて!」
ついてくると言う使用人を振り切って、あたしはお忍び用のワンピースに着替えると、街に繰り出す。
あの使用人は、お約束っていうものをわかってないわ。
ヒロインが危険な目に遭っている時に、ヒーローが助けに来てこそ物語が盛り上がるんじゃないの。
本命はワーグナー様だけど、迎えに来るのが遅いし、ちょっと浮気をするのは仕方がないわよね。
あたしってば魅力的だし、男の方が放っておかないのよ。
気分よく歩いていくと、視線を感じるけど、やっぱり美少女のあたしが歩いてると目立っちゃうのよね。
でも、この辺は治安がいいから、危険に巻き込まれるとかないし、やっぱり今日もちょっと足を伸ばして下町の方に行かないとだめね。
面倒だけど、これも素敵な出会いの為よ。
そう思って初めて一人で下町に来たけど、貴族街から離れてるせいか、活気が違うわ。
こういうのも悪くはないわよね。
そんな事を考えて歩いてると、露天商の人に声をかけられる。
「そこの可愛いお嬢さん、見て行ってくれないかい?」
「えぇ、どうしようかなぁ」
「あんたみたいな美人さんがいるだけでも、客引きになるってもんだ」
「そこまでいうなら、仕方ないわね」
かわいいとか、美人って言われて気分がよくなったし、少しぐらい見て行ってあげようかしら。
そう言って覗き込んだ露店の商品は、オーダーメイドで作った宝石の装飾品とまではいかないけど、それなりに可愛いものが多かった。
まあ、庶民にはお似合いね。
「どうだい、うちの渾身の商品は」
「なかなかいいんじゃないの? あたしが身につけるにはふさわしくないけど」
「あっはっは、その服だもんな。こんなところにいるけど、いいところのお嬢さんなんだろう?」
「そうよ」
あたしが即答すると、露店のおじさんは何度か頷く。
やっぱり、あたしの魅力ってどこにいっても隠せないものがあるのね。
「それにしても、あんたみたいなお嬢さんが、御供も連れずにこんなところに来るなんて、危ないんじゃないか?」
「平気よ、いざとなったらヒーローが助けに来てくれるもの」
「なんだい、恋人でもいるのかい?」
「恋人じゃないけどね」
あたしの言葉に、おじさんは不思議そうな顔をしたけど、何か考えた後に、「喉が渇いただろう」って飲み物を渡してくれた。
確かに、ちょっと喉が渇いたし、遠慮なく貰っておこう。
「へえ、なかなか美味しいじゃない。こっちで商売した方がいいんじゃないの?」
「そうかい? まあ、飲みたくなったらいつでも来てくれよ。お嬢さんは別嬪さんだからな、いつでも大歓迎だ」
「まあ、その気になったらね」
そう言って、あたしはその場を離れた。
帰ってすぐに、使用人が眉間にしわを寄せて、「解毒薬を飲んでください」とか言ってきたけど、意味が分からなかったし、「毒を飲まされています」とか、妄想を言ってきたから放置したわ。
◇ ◇ ◇
「おや、お嬢ちゃん。今日も来てくれたのかい?」
「感謝してよね。あたしぐらいになると、一人で出歩くのが大変なんだから」
「あっはっは、来てくれて嬉しいよ。まあ、これでも飲んでゆっくり見て行ってくれ」
「そうするわ」
本当にこれ、美味しいわね。
◇ ◇ ◇
「今日も来てあげたわよ」
「おや、今日は遅かったんだな」
「うちの使用人がうるさかったのよ。解毒剤を飲めとか、解毒魔法を受けろとか意味が分かんないわ」
「へえ? そりゃ大変だな」
「このあたしに毒を飲ませるとか、いつ出来るんだって話よね」
「だよなあ。案外、そんな事を言うやつが犯人だったりするもんだぜ」
「そうなの? いやだ、そんな人が近くにいるとか冗談じゃないわ。辞めさせた方がいいわね」
「そうだな。ああ、これはいつもの礼だ」
「これを待ってたのよ。これを飲むために来てるって言っても過言じゃないわ」
「そりゃ、作ってる側にとっては嬉しい言葉だな」
「作り方教えてくれる?」
「あっはっは、そりゃあ流石に言えないな」
「ケチね」
◇ ◇ ◇
「マリナ様、いい加減解毒薬を飲むか解毒魔法を受けてください!」
「うるさいわね! 何の毒も飲んでなんかないわよ!」
「麻薬を飲まされています!」
「あんたが食事に入れてるんじゃないの?」
「そのようなことをするはずがありません。とにかく、すぐに処置をしなければ」
「あたしのことは放っておいて」
「ミレイア様にご報告させていただきます」
「やめてよ! そんなことしたら、あんたをこの家から追い出すからね!」
「私が辞めてもすぐに次の者が来ますよ」
「うざいのよ!」
◇ ◇ ◇
「ねえ、あの飲み物を頂戴?」
「ああ、もちろんだとも。随分気に入ったようだな」
「めちゃくちゃはまっちゃったわ。本当に、これで商売したほうがよくない?」
「大量生産は出来ないんだよ」
「ふーん」
「貴重な材料を使ってるしな」
「でも、これからもあたしのためにくれるんでしょ?」
「あっはっは、そりゃお嬢ちゃん次第だな」
「どういう事?」
「そのうち、この飲み物なしじゃいられない体になっちまうかもな」
「そんなわけないじゃない」
◇ ◇ ◇
「マリナ様、またお出かけになるのですか?」
「そうよ」
「ミレイア様にご報告をさせていただきました。解毒魔法を使える魔術師を今夜にでも派遣してくれるそうです」
「余計なことしないで!」
使用人を振り切って下町に行くと、いつもの露店のおじさんの所に行く。
解毒魔法を無理やりかけられるかもしれないって言ったら、家に匿ってくれるって提案してくれたから、あたしは迷うことなくそれにのっかったわ。
連れていかれたのは、下町にしては綺麗な家だった。
「なかなかいいところに住んでるのね」
「そりゃあ、客商売には信用が必要だからな」
「そういうものなの」
「しっかし、解毒魔法なんざ、上級魔導士じゃなきゃ使えない一級魔法だろう。ほいほいと手配されるものじゃないぞ。お嬢ちゃんは何処の貴族の娘さんなんだい?」
「ラーゼフォン王国の侯爵家の養女よ」
「あのラーゼフォン王国?」
「そうよ。せっかくこっちの世界に来て勝ち組になれたのに、あのクソ女のせいでめちゃくちゃだわ」
「こっちの世界に来た……。ああ、お嬢ちゃんが噂の『渡り人』かい」
「そうだけど?」
「そりゃあいい」
叔父さんはそう言っていつもの飲み物を出してくれたから、あたしは遠慮なくそれを飲む。
本当に、相変わらずおいしいわ。
「この国に住むことになった『渡り人』には、中級魔導士が護衛についてるって話だったんだが」
「あたしだって、魔力量だったら中級魔導士ぐらいはあるもの。目をごまかすなんて簡単よ」
「そうかいそうかい。そりゃますますいいね」
おじさんの手が伸びてくる。
よけようとして、体に力が入らないと言うか、おじさんに逆らう気が起きないことに気が付いた。
「異世界の女なんて、滅多にない商品になる。時間をかけて暗示と薬漬けにしたかいがあるってもんだ」
「え?」
にたり、と笑うおじさんに、あたしは目を瞬かせる。
「どういうこと?」
「お嬢ちゃんは暗示が効きやすくて助かったよ。お貴族様の中には、暗示阻害の魔道具をつけてるやつも居るから薬も併用しておいたんだが、必要なかったかもな。ところで、お嬢ちゃんは処女か?」
「違うわ」
「ちっ、価値が下がっちまったか。まあいい」
これからせいぜい稼いでもらうっていうおじさんの言葉がわからないほど、あたしだって馬鹿じゃない。
これって、娼館行とか、凌辱エンドじゃない? 冗談じゃないわ!
でも、逃げなくちゃって思ってるのに、逃げる必要がないって思ってるあたしもいる。
あたし、どうなっちゃうの?
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