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第三章
ティラミス 002
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「ターニャが言うのでしたら間違いはありませんわね」
「そうだな。この中で一番味覚が確かだからなあ」
「その点、アイリの味覚だけはある意味信じられないんだよな」
「それは否定しませんわね。美味しいかまずかだけで判断しておりますものね。最近になってやっと旨味を覚えたようですけれども、それでもまだまだですわ」
「もうっ皆様厳しいですわね」
アイリは扇子で顔を半分隠して怒りを表現すると、ティラミスに再度フォークを刺して頬張った。
「ほら、ちゃんと苦みと甘さのハーモニーを感じておりますわよ」
「ならミトとラルクにも食べていただきましょう?二人も味覚が大雑把ですもの、同じ感想でしたらアイリの舌もまだまだということですわよ」
「まあ!そんなことをしたら私が食べる分が減ってしまいますわよ?」
「あら、わかってしまいました?」
「もうっターニャってばいじわるですわね」
「ふふ、交換条件にレシピをこっそり教えていただけると嬉しいですわね」
「かまいませんわよ。ティカル様からも広めるように言われておりますもの」
「そうなのですか」
「レシピは明日持ってまいりますわね」
「お願いしますわ」
「それで、俺たちはいつになったらそのティラミスを食えるんだ?」
「明日皆さんの分も作らせて持ってまいりますわ。けれども、カロリー?というものが多いそうなので、食べすぎには注意なのだそうですわ」
「カロリー?聞かない言葉だな」
「ええ、隣国の国母様がお気になさっているのだそうですわ」
「それならば、何か重要な事なのかもしれませんわね。アイリ、ティカル様にその件について聞いておいてくださいませね」
「わかりましたわ」
そこまで話して、アイリはそう言えばと切り出す。
「このティラミスという名前には意味があるのだそうですわ」
「意味って?」
「私を引っ張り上げて。という意味があるんだそうですの。なんでも隣国の国母様がふさぎ込んだ時期があって、その時に作られたのだそうですわ」
「まあ!そんな逸話がありますのね」
「王妃になったことのない国母というのも大変そうだもんな」
「そうだね。ティカル様は特に国母様に懐いているというし、随分と親しくしているんだろうね」
「ええ、第二の母親だといっておりましたわ」
「それにしても引っ張り上げて、か。今のアイリにやターニャにはぴったりのお菓子なのかもしれないね」
「「え?」」
「アイリのことはオレが引っ張っていかないといけないし、ターニャはレティカ様に引っ張っていってもらうべきだろう?だからぴったりなお菓子じゃないか」
「それを言うと、俺はレベッカを引っ張っていかないといけないわけだな」
「そうだね、いつまでもそれなりの対応じゃ駄目だと思うよ」
「わかってるって」
「レベッカ様は本当にお可愛い方でいらっしゃいますわよね。私、次期妖精姫はレベッカ様になるのではないかと思っておりましたのよ」
「それはないなあ。いくら可愛くても、レベッカぐらいの容姿はざらだろう?それだったらリア様の方が同じ年齢の中ではずば抜けて容姿がいいだろう。レベッカが狙うなら花姫だな」
「花姫ですか、リア様も妖精姫のお役目を終えたら、花姫になる予定だと聞いておりますし、私とターニャの次代はそのお二人で決定でしょうか?」
「そうですわね」
花姫は幼い子供のころから約二十代前半までに許される二つ名であり、その後は社交界に影響は残すものの、表立って動くことはほとんどないと言われている。
もっとも、次の代の花姫がお役目を果たせないのならばその限りではない。
ちなみに、アイリ達の前の代の花姫がグレンダとなっている。
妖精姫と違い、その二つ名を冠する時期が長いのが花姫の特徴と言えるのかもしれない。
「それにしても、アイリはティカル様と相変わらず文通をしておりましたのね。私は挨拶のお手紙をしてからはしておりませんでしたけれども、お元気でいらっしゃいますか?」
「ええ、輿入れの準備で忙しくしていらっしゃるそうですわ。輿入れの際には付き添いでユリア様という、育ての親のような方がいらっしゃるのだそうです。ユリア様はあのオキニス様の側近の方だったそうですわ」
「まあ、あのオキニス様の側近ですか。さぞかし優秀な方なのでしょうね」
「だそうですわ。自身もお子様をお持ちなのにもかかわらず、オキニス様のお子様を育て上げていらっしゃるのですから素晴らしいですわよね」
「オキニス様は、ご夫君を追って自害をなさった方ですものね、お子様はまだ生まれて間もない子もいたと聞きますけれども、それに関しては賛否両論ありますわよね」
「それはそうでございましょう。幼い子供を残しての自害は、流石にいくら聖女とはいえ褒められた行動ではありませんもの。もっともオキニス様はわがままな性格もあったとも聞きますし、自害もわがままの一環なのかもしれませんわね」
「わがままですか?」
「ええ、ご夫君を愛していたのでしたら、一緒に天に召されたいと願ってもおかしくはないのではないでしょうか」
「そういうものなのでしょうか?」
「まあ、私たちにはわからない感覚ですわね。貴族として、親としての責任を放棄してまで愛する者を追いかけることが出来るかと言われれば、いくらアイリが亡くなったとしてもできませんもの」
「私もですわね。ターニャがもし死んでしまっても後追い自殺はしませんわね」
「まあ、だからと言って、オキニス様を否定するつもりもございませんけれども」
ターニャはまるでこの話に聞き耳を立てている令嬢たちに牽制するように付け足すと、ちらりと視線を向けた。
視線を向けられた令嬢たちは慌てて視線を逸らすと、わざとらしく楽しげに話し始めた。
「ふう、まったく油断も隙もありませんわね」
「まあそう言ってやるな。彼女たちにとっては噂話ぐらいしか楽しみはないんだからな」
「メイリン様もそれで散々弄ばれましたものね」
「あの子は噂に弄ばれすぎておりましたわね。今は田舎で静かに暮らしているといいのですけれども、使用人に迷惑をかけていないか心配ですわ」
「まあよろしいのではないですか?何かあれば病死になるだけなのでしょう?」
「そうですわね。ケット侯爵家との話し合いではそういうことになっておりますわ。その後にスコット様が再婚なさるかはわかりませんけれども、グレンダ様との愛人契約は無事に結ばれたのでしょうか?」
「形式としては、スコット様の愛人にグレンダ様がなるのではなく、グレンダ様の愛人にスコット様がなる形になりますものね」
「そうですわね、流石にスコット様が部隊長になれば契約内容も見直されるでしょうが、現状ではスコット様の方が格下ですものね」
そうアイリ達が話していると、ちょうどスコットがサロンに入ってくるのが見えた。
スコットはサロンに入って来るなり、令嬢たちが立ち上がって取り囲み、自分たちの席に招き入れる。
おそらくグレンダとのことを聞き出そうとしているのだろう。スコットも覚悟を決めているのか、表情を変えることなく、グレンダとの関係を話し始めた。
「そうだな。この中で一番味覚が確かだからなあ」
「その点、アイリの味覚だけはある意味信じられないんだよな」
「それは否定しませんわね。美味しいかまずかだけで判断しておりますものね。最近になってやっと旨味を覚えたようですけれども、それでもまだまだですわ」
「もうっ皆様厳しいですわね」
アイリは扇子で顔を半分隠して怒りを表現すると、ティラミスに再度フォークを刺して頬張った。
「ほら、ちゃんと苦みと甘さのハーモニーを感じておりますわよ」
「ならミトとラルクにも食べていただきましょう?二人も味覚が大雑把ですもの、同じ感想でしたらアイリの舌もまだまだということですわよ」
「まあ!そんなことをしたら私が食べる分が減ってしまいますわよ?」
「あら、わかってしまいました?」
「もうっターニャってばいじわるですわね」
「ふふ、交換条件にレシピをこっそり教えていただけると嬉しいですわね」
「かまいませんわよ。ティカル様からも広めるように言われておりますもの」
「そうなのですか」
「レシピは明日持ってまいりますわね」
「お願いしますわ」
「それで、俺たちはいつになったらそのティラミスを食えるんだ?」
「明日皆さんの分も作らせて持ってまいりますわ。けれども、カロリー?というものが多いそうなので、食べすぎには注意なのだそうですわ」
「カロリー?聞かない言葉だな」
「ええ、隣国の国母様がお気になさっているのだそうですわ」
「それならば、何か重要な事なのかもしれませんわね。アイリ、ティカル様にその件について聞いておいてくださいませね」
「わかりましたわ」
そこまで話して、アイリはそう言えばと切り出す。
「このティラミスという名前には意味があるのだそうですわ」
「意味って?」
「私を引っ張り上げて。という意味があるんだそうですの。なんでも隣国の国母様がふさぎ込んだ時期があって、その時に作られたのだそうですわ」
「まあ!そんな逸話がありますのね」
「王妃になったことのない国母というのも大変そうだもんな」
「そうだね。ティカル様は特に国母様に懐いているというし、随分と親しくしているんだろうね」
「ええ、第二の母親だといっておりましたわ」
「それにしても引っ張り上げて、か。今のアイリにやターニャにはぴったりのお菓子なのかもしれないね」
「「え?」」
「アイリのことはオレが引っ張っていかないといけないし、ターニャはレティカ様に引っ張っていってもらうべきだろう?だからぴったりなお菓子じゃないか」
「それを言うと、俺はレベッカを引っ張っていかないといけないわけだな」
「そうだね、いつまでもそれなりの対応じゃ駄目だと思うよ」
「わかってるって」
「レベッカ様は本当にお可愛い方でいらっしゃいますわよね。私、次期妖精姫はレベッカ様になるのではないかと思っておりましたのよ」
「それはないなあ。いくら可愛くても、レベッカぐらいの容姿はざらだろう?それだったらリア様の方が同じ年齢の中ではずば抜けて容姿がいいだろう。レベッカが狙うなら花姫だな」
「花姫ですか、リア様も妖精姫のお役目を終えたら、花姫になる予定だと聞いておりますし、私とターニャの次代はそのお二人で決定でしょうか?」
「そうですわね」
花姫は幼い子供のころから約二十代前半までに許される二つ名であり、その後は社交界に影響は残すものの、表立って動くことはほとんどないと言われている。
もっとも、次の代の花姫がお役目を果たせないのならばその限りではない。
ちなみに、アイリ達の前の代の花姫がグレンダとなっている。
妖精姫と違い、その二つ名を冠する時期が長いのが花姫の特徴と言えるのかもしれない。
「それにしても、アイリはティカル様と相変わらず文通をしておりましたのね。私は挨拶のお手紙をしてからはしておりませんでしたけれども、お元気でいらっしゃいますか?」
「ええ、輿入れの準備で忙しくしていらっしゃるそうですわ。輿入れの際には付き添いでユリア様という、育ての親のような方がいらっしゃるのだそうです。ユリア様はあのオキニス様の側近の方だったそうですわ」
「まあ、あのオキニス様の側近ですか。さぞかし優秀な方なのでしょうね」
「だそうですわ。自身もお子様をお持ちなのにもかかわらず、オキニス様のお子様を育て上げていらっしゃるのですから素晴らしいですわよね」
「オキニス様は、ご夫君を追って自害をなさった方ですものね、お子様はまだ生まれて間もない子もいたと聞きますけれども、それに関しては賛否両論ありますわよね」
「それはそうでございましょう。幼い子供を残しての自害は、流石にいくら聖女とはいえ褒められた行動ではありませんもの。もっともオキニス様はわがままな性格もあったとも聞きますし、自害もわがままの一環なのかもしれませんわね」
「わがままですか?」
「ええ、ご夫君を愛していたのでしたら、一緒に天に召されたいと願ってもおかしくはないのではないでしょうか」
「そういうものなのでしょうか?」
「まあ、私たちにはわからない感覚ですわね。貴族として、親としての責任を放棄してまで愛する者を追いかけることが出来るかと言われれば、いくらアイリが亡くなったとしてもできませんもの」
「私もですわね。ターニャがもし死んでしまっても後追い自殺はしませんわね」
「まあ、だからと言って、オキニス様を否定するつもりもございませんけれども」
ターニャはまるでこの話に聞き耳を立てている令嬢たちに牽制するように付け足すと、ちらりと視線を向けた。
視線を向けられた令嬢たちは慌てて視線を逸らすと、わざとらしく楽しげに話し始めた。
「ふう、まったく油断も隙もありませんわね」
「まあそう言ってやるな。彼女たちにとっては噂話ぐらいしか楽しみはないんだからな」
「メイリン様もそれで散々弄ばれましたものね」
「あの子は噂に弄ばれすぎておりましたわね。今は田舎で静かに暮らしているといいのですけれども、使用人に迷惑をかけていないか心配ですわ」
「まあよろしいのではないですか?何かあれば病死になるだけなのでしょう?」
「そうですわね。ケット侯爵家との話し合いではそういうことになっておりますわ。その後にスコット様が再婚なさるかはわかりませんけれども、グレンダ様との愛人契約は無事に結ばれたのでしょうか?」
「形式としては、スコット様の愛人にグレンダ様がなるのではなく、グレンダ様の愛人にスコット様がなる形になりますものね」
「そうですわね、流石にスコット様が部隊長になれば契約内容も見直されるでしょうが、現状ではスコット様の方が格下ですものね」
そうアイリ達が話していると、ちょうどスコットがサロンに入ってくるのが見えた。
スコットはサロンに入って来るなり、令嬢たちが立ち上がって取り囲み、自分たちの席に招き入れる。
おそらくグレンダとのことを聞き出そうとしているのだろう。スコットも覚悟を決めているのか、表情を変えることなく、グレンダとの関係を話し始めた。
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