私は妹とは違うのですわ

茄子

文字の大きさ
上 下
66 / 84
第三章

悲劇的な事件 006

しおりを挟む
「聞きましたわ、スコット様。なんでもメイリン様が手足に怪我をなさったんですってね」
「ええ、声も出せなくなってしまったようなんですよ」
「まあ!それはお気の毒ですわね。スコット様もあの事件以来家に帰られていないことですし、さぞかし不安な日々を送っているのではありませんか?」
「そうですね。けれども、自分はこちらですることがありますので」

 スコットは夜会で令嬢たちに捕まり、おしゃべりの相手をさせられていた。
 話題の中心は、先日亡くなった故ディミタス侯爵夫妻と、負傷したメイリンの話だ。特にメイリンは、この場にいないと言うだけで盛り上がってしまうのは仕方がないことなのかもしれない。
 令嬢達も、流石に死人に鞭を打つような真似をするつもりはないようで、フォルトとレイチェルのことはほとんど話題には出さない。
 しかし、メイリンのことは別だ。この場に居なくても令嬢たちの格好の話のネタなのだ。それはスコットもわかっていることで、あえて幾分かの情報を流すことで令嬢たちの噂をコントロールしている部分もある。

「見事なものですわね」
「まったくですわね」

 アイリ達はそんなスコットを見て感心するというか、呆れてしまっている。仮にも妻が動けなくなるほどの重傷を負っているのだから、緊急措置として学院と騎士団をしばらく休んでも、罰は当たらないはずなのだ。

「アイリは大丈夫ですの?」
「ええ、私は大丈夫ですわ。両親が亡くなったと言いますのに、随分とひどい話ですわよね。メイリンも大怪我を負っておりますのに」
「気にすることはありませんわよ、アイリとの縁は切れているのですから」
「そうですわね」
「ところで、スコット様はどうしてあのようにご令嬢たちとお話をなさっているのでしょうか?グレンダ様はどうなさったのでしょう?」
「グレンダ様はあちらの方々とお話をしているようですわ」
「まあ」

 見れば、グレンダは老紳士に囲まれていた。言ってしまえば逆ハーレム状態なのだが、グレンダはそれをうまくさばいているようだ。
 流石は元花姫というべきだろう。

「グレンダ様もお忙しいと言ったところなのでしょうか」
「そりゃあ、元花姫だからなあ。現役の二人よりましかもしれないけど、それなりに忙しいだろうさ」
「あら、私たちはさほど忙しくはありませんわよね」
「何を言っておりますのアイリ。これからが忙しくなりますのよ」
「まあ、そうなんですの?」
「そうですわよ。親父共の相手にご令嬢やご婦人方の相手をしなければなりませんもの。忙しくて目が回りそうですわ」
「そうでしょうか?私たち、それでも結構抜け出していたのではないでしょうか?」
「それはそうですけれどもね」

 ターニャは苦笑を浮かべて、アイリの腕を取ると、そのままホールの中央に連れていく。そこには令嬢たちのグループが居り、アイリ達が近づいてくるのを見ると、早速と言わんばかりに近づいてくる。

「ご機嫌ようターニャ様、アイリ様。アイリ様におかれましては、この度のご不幸、なんと申しましたらいいか……」
「どうぞお気になさらないでくださいませ。野盗に襲われたことは不運ですが、これも天命だったのでございましょう」
「そうですわね。おかげでアイリのディミタス侯爵継承も早まったことですし、悪いことだけではありませんわよ」
「それもそうですわね。アイリ様の継承もありますものね。ティカル様の輿入れ前までに継承できるのは良いことかもしれませんわね」
「ええ、そうですわねえ」
「私も、早めに成すべきことが成せるのは良いことだと思っておりますわ。もっとも、両親の死という事での継承は、あまりいいことではないとは思いますけれども」
「それはそうですけれども、私どもはほっとしておりますのよ」
「まあ、どうしてですの?」
「なんといいましても、死人に鞭を打つのは良くありませんけれども、フォルト様が公爵におなりになってしまったら、メイリン様に爵位を与えてしまうかもしれませんでしょう。そうなりましたら、ねえ」
「ええ、そうですわよね。私共も、メイリン様とは友人関係でしたけれども、今後もお付き合いして行きたいとは思いませんものねえ」
「まったく皆様はメイリンをうまいこと使って楽しんでいるだけですわね。お家の方からも叱られたのではございませんか?」
「それは確かに、ほどほどにするように言われましたが、それでもまあ要注意というぐらいなものでございましたわよ」
「そのぐらいで済んでしまうのが、困ったところですわね。あまり王家に関しては噂で遊ばないようになさいませね」
「分かっておりますわ。私共あまりおふざけは致しませんもの」

 令嬢たちはクスクス笑ってアイリ達の前から立ち去っていく。

「まったく、皆様にも困ったものですわね」
「アイリ、あれは困ったというよりも厄介というのですわよ」
「まあ、確かに厄介と言えば厄介ですわね」
「あの令嬢たちのおかげでメイリン様を押さえられておりましたけれども、ある意味暴走もさせておりましたものね」
「メイリンは加減が難しいですものねえ。もっとも今後はそのような心配はしなくて済みそうですけれども」
「手足を怪我なさって、声も出ない状況なんだそうですわね。使用人も苦労しますわね」
「どうでしょうか、逆に負担が減ったのかもしれませんわよ」
「ふふ、アイリもなかなかに言いますわね」
「そうでしょうか」
「そうですわよ。さて、私どもも花姫のお役目を全うしないといけませんわね。気は進みませんけれども、タヌキ親父共のお相手と参りましょうか」
「ターニャの得意分野ですわね」
「なりたくてなったわけではありませんわよ」

 アイリとターニャはそんな風に話しながら、グレンダがいる集団に近づいていく。

「ご機嫌よう皆様、お話に混ぜていただいてもよろしいかしら?」
「まあ、もちろんでしてよ。私もそろそろ若いお嬢さんたちから愛人を返してもらおうと思っていた所ですのよ」
「そうでしたか」

 グレンダはそう言うと、早速という感じに場を離れてスコットのもとに行ってしまった。
 残されたアイリ達は、老紳士達と会話を続ける。

「アイリ様に置かれましては、ディミタス侯爵位の継承をとりあえずはおめでたい、というべきでしょうか、ご両親の死という代償と引き換えでしたがね」
「そうですわね。今回のことは本当に突然のことで、私も驚いておりますのよ」
「そうでしょうとも、まさか学院に通っている間に爵位を継承するなんて、それこそ滅多にないことですからな」
「そうですわね。お爺様が手配してくれている代理人が居なければ学業も儘ならないでしょうね」
「いやはや、まるでこうなることを見越していたかのような準備の良さですね」
「ふふ、まさかそんなことがあるわけがないではありませんか」
「それはそうですな。まさかディミタス公爵も自分の息子を殺してまで孫に爵位を継承させようとは思いますまい」
「ほほほ」

 実際はその通りなので、アイリは曖昧に笑っておく。全く持って喰えないタヌキ親父達である。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:18,268pt お気に入り:1,207

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,100pt お気に入り:845

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:988pt お気に入り:33

甘い婚約~王子様は婚約者を甘やかしたい~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:385

処理中です...