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フラグス編

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「皇太子様、そろそろ次の方にご挨拶にいきませんと」
「ああそうだな」

 私たちは次の方のご挨拶に行くために移動を始めます。

「皇太子様、パラディ様のことで随分余裕がなくなっているようでございますけれども、よろしくない傾向ですわ」
「お前に指摘されたくはないな」
「私以外の誰が指摘するといいますの?」
「……」

 だんまりですわね。まったくもってパラディ様のことになると人が変わったようになってしまいますわね。
 パラディ様はそれほどまでに魅力的なのでしょうか?

「真実の愛とやらは結構なことですが、執務として私との婚約も重要な事だとわかったおいでではないのですか?婚約破棄をしたいなどとこの場でおっしゃるような真似だけはなさらないでくださいませね」
「わかっている。父上にもきつく言われたさ」
「そうでございますか。陛下もすでに動いてくださっているのでございますね」
「ああ」
「皇太子様もいい加減頭を御冷やしになさいまし、責務を果たしてさえ下されば私は何も申しませんのよ」
「責務か、責務とばかりお前は言うが、それは私を見ているわけではないだろう。私は私を見てくれるものがいいのだ」
「たわごとを」
「たわごとだと!?」
「……そろそろ気分を切り替えてくださいませ。次の方が見えてまいりましたわ」
「……」

 納得なさったのか、皇太子様はお黙りになられました。
 それにしても、個人を見て欲しいなどとおっしゃる等、随分とおかしなことをおっしゃいますわね。
 自分が相手を個人として見ていないにもかかわらず、相手には見て欲しいなどとおっしゃるなんて、馬鹿げてますわ。
 皇太子様こそ私のことを只の婚約者としてしか見ていないではありませんか。
 私を個人として認識してくださっているのは後にも先にも、トゥルフ様お一人でございますわ。
 誰にも個人として認識されていなかった私を初めて個人として認識してくださったのですわ。
 もっとも私もそれまでは相手のことを個人で見ることなどありませんでしたから、お互い様なのかもしれませんけれどもね。
 けれども、私はそれでも、真実の愛などという甘いものに酔いしれることなど許されるはずもなく、皇太子妃になるべく勉強にいそしむ日々を送るだけでしたわ。
 それなのに、少し我慢すれば皇太子様は愛する者を傍に置けると言いますのに、なぜ婚約破棄などおっしゃるのでしょうか?
 理解に苦しみますわね。
 私と違い、いくらか年を重ねてからの真実の愛だからかもしれませんけれど、はっきりいって迷惑でしかありませんわ。
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