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「無駄だぞ」
「殴らせなさいよ」
「譲羽の力では、譲羽の手が痛くなってしまうだけだろう」
その言葉に、所詮は子供の力なのだと言われているような気がして、ムっとしてしまう。
まあ、実際問題十六歳の力であっても、黒龍には勝てないとは思うのだが、まさか私の心の動きに鋭敏な黒龍からそんな事を言われるとは思わず、少なからず傷ついてしまったのも事実だ。
私が手の力を抜くと、黒龍も手を離してくれたので、自由になった手で舐められた首筋をゴシゴシと拭う。
しかし、いったい何だったのだろう? 大人扱いと言われたが、確かに子供扱いは嫌いだけれど、あんな事を急にされても、戸惑いと一緒に怒りが込み上げてきてしまう。
私にとって現在一番身近であり、一番信頼できる黒龍にあんなことをされると思わなかったので、今後黒龍に対する見方が変わってしまうかもしれない。
なんというか、保護者がいきなり肉食獣に変わってしまったような、そんな裏切りを感じたような気分だ。
「何で舐めたの?」
「譲羽が美味しそうだったからな」
「意味不明すぎ」
美味しそうとか、本気で肉食獣にでもなっちゃったわけ? 否、元々そうだったのかもしれないけど、隠していただけかもしれない。
そうなのだとしたら、やはり今後黒龍に対する見方を変えるべきなのだろうか? 今までのように身を任せるような信頼を寄せるのは良くないのかもしれないと思ってしまう。
そう考えていると、黒龍が私そっくりの器を撫でる。
「ほら、訓練はしないのか?」
その言葉に、させなくさせたのは誰だ、と思いつつも、今度は器の手を取って霊力を込めていく。
掴んでいる手が、だんだんと柔らかくなり、人に近い触感を持ったところで、顔を合わせ、瞬きするようにイメージすると、バチバチ、バチバチと瞬きが止まらなくなってしまい、慌てて手を離すと、器の動きがピタリと止まってしまった。
流し込む霊力を止めるとカクン、と首が下を向いて動かなくなる。
「難しい」
「これに慣れなければ、自分で人型にした式神を操作することは出来ないぞ」
「別に、そこまで式神を操りたいとか思ってないし」
「そうか? 使えるようになると色々と便利だぞ」
「うーん、確かに女房がわざわざここに来なくていいから便利になるかもしれないけど」
「穂積もこの局に来なくなるだろうし、我が譲羽を独占できるな」
その言葉に思わず眉間にしわを寄せてしまう。
さり気なくヤンデレ発言をされてしまったのだろうか?
「独占って、何?」
「いや、龍神は巫女を独占したがるものだ」
「そういうものなの?」
「ああ、他の龍神が巫女が穢れを浄化する時に人型になって連れ添うのも、その欲求からだ」
「へぇ」
そんな感情から浄化に付き添っていたなんて、龍神というのは意外と俗物なのかもしれない。
しかし、龍神にとって巫女と言う存在は、いったいどういうものなのだろうか? 独占欲を持つ程度には愛着があるのだろうが、実際問題として、愛情を持ったりする対象になりうるのだろうか?
「ねえ、過去に龍神と結婚した巫女っているの?」
「いるぞ」
「いるんだ」
もしかして、とは思ったが、本当に居ると言われるとなんだか驚いてしまう。
「もう一回練習する」
「わかった」
黒龍はそう言って器を一旦消すと、もう一度作り直してくれる。
再び手を取り、霊力を流し込んでそっと手を離し、ゆっくり腕が上がるようなイメージをすると、ギ、ギ、とぎこちなく腕が持ち上がる。
なるべく滑らかに動くようにイメージしながら、その手に文机の上に置いてある扇を持たせると、ゆっくりと開くようにイメージしたが、なかなか手が動かず、動いたかと思ったら勢いよく扇を開け、ベリ、という音と共に扇が壊れてしまった。
「あ」
扇は穂積から嗜みとして貰った物なので、壊してしまった報告をしなければいけないのだが、なんと言い訳をすればいいのだろうか?
流石に十六歳にもなって振り回してて壊れたなんて言えないし、本当にどうしよう?
式神の訓練の最中に壊したと言えば納得してくれるだろうか?
ギ、ギ、とぎこちなく動き続ける器に霊力を流し込むのを止めると、すぐさま黒龍が器を消したため、壊れた扇がポトリ、と床に落ちた。
扇を拾ってみれば、繋ぎの紐が千切れ、竹の部分もバキバキとひびが入ってしまっている。
やはり振り回していて壊れたと言うには厳しい壊れ方なので、式神の練習をしている時に壊したと言ったほうがまだ信じてもらえるかもしれない。
溜息を吐き出し、扇を文机の上に置き、疲れたように息を吐き出して、そのまま文机の上に頬を付けて力を抜く。
簡単にいくとは思っていなかったが、ここまで上手く行かないと自分には才能が無いのではないかと思ってしまう。
実際問題、一朝一夕で出来るようなものではないはずなので、こんな風に落ち込まなくてもいいはずなのだが、やはり出来ないと落ち込んでしまう。
「まあ、ゆっくりやればいい」
そう言って黒龍が頭を撫でてくれるが、先ほどの事もあり、警戒心が出てしまう。
「もう信頼できる人なんてこの世界には居ないのかも」
「我は人ではないぞ」
「上げ足とらないで」
私はムッとして頭を撫でて来る黒龍の手を乱暴に振り払った。
「殴らせなさいよ」
「譲羽の力では、譲羽の手が痛くなってしまうだけだろう」
その言葉に、所詮は子供の力なのだと言われているような気がして、ムっとしてしまう。
まあ、実際問題十六歳の力であっても、黒龍には勝てないとは思うのだが、まさか私の心の動きに鋭敏な黒龍からそんな事を言われるとは思わず、少なからず傷ついてしまったのも事実だ。
私が手の力を抜くと、黒龍も手を離してくれたので、自由になった手で舐められた首筋をゴシゴシと拭う。
しかし、いったい何だったのだろう? 大人扱いと言われたが、確かに子供扱いは嫌いだけれど、あんな事を急にされても、戸惑いと一緒に怒りが込み上げてきてしまう。
私にとって現在一番身近であり、一番信頼できる黒龍にあんなことをされると思わなかったので、今後黒龍に対する見方が変わってしまうかもしれない。
なんというか、保護者がいきなり肉食獣に変わってしまったような、そんな裏切りを感じたような気分だ。
「何で舐めたの?」
「譲羽が美味しそうだったからな」
「意味不明すぎ」
美味しそうとか、本気で肉食獣にでもなっちゃったわけ? 否、元々そうだったのかもしれないけど、隠していただけかもしれない。
そうなのだとしたら、やはり今後黒龍に対する見方を変えるべきなのだろうか? 今までのように身を任せるような信頼を寄せるのは良くないのかもしれないと思ってしまう。
そう考えていると、黒龍が私そっくりの器を撫でる。
「ほら、訓練はしないのか?」
その言葉に、させなくさせたのは誰だ、と思いつつも、今度は器の手を取って霊力を込めていく。
掴んでいる手が、だんだんと柔らかくなり、人に近い触感を持ったところで、顔を合わせ、瞬きするようにイメージすると、バチバチ、バチバチと瞬きが止まらなくなってしまい、慌てて手を離すと、器の動きがピタリと止まってしまった。
流し込む霊力を止めるとカクン、と首が下を向いて動かなくなる。
「難しい」
「これに慣れなければ、自分で人型にした式神を操作することは出来ないぞ」
「別に、そこまで式神を操りたいとか思ってないし」
「そうか? 使えるようになると色々と便利だぞ」
「うーん、確かに女房がわざわざここに来なくていいから便利になるかもしれないけど」
「穂積もこの局に来なくなるだろうし、我が譲羽を独占できるな」
その言葉に思わず眉間にしわを寄せてしまう。
さり気なくヤンデレ発言をされてしまったのだろうか?
「独占って、何?」
「いや、龍神は巫女を独占したがるものだ」
「そういうものなの?」
「ああ、他の龍神が巫女が穢れを浄化する時に人型になって連れ添うのも、その欲求からだ」
「へぇ」
そんな感情から浄化に付き添っていたなんて、龍神というのは意外と俗物なのかもしれない。
しかし、龍神にとって巫女と言う存在は、いったいどういうものなのだろうか? 独占欲を持つ程度には愛着があるのだろうが、実際問題として、愛情を持ったりする対象になりうるのだろうか?
「ねえ、過去に龍神と結婚した巫女っているの?」
「いるぞ」
「いるんだ」
もしかして、とは思ったが、本当に居ると言われるとなんだか驚いてしまう。
「もう一回練習する」
「わかった」
黒龍はそう言って器を一旦消すと、もう一度作り直してくれる。
再び手を取り、霊力を流し込んでそっと手を離し、ゆっくり腕が上がるようなイメージをすると、ギ、ギ、とぎこちなく腕が持ち上がる。
なるべく滑らかに動くようにイメージしながら、その手に文机の上に置いてある扇を持たせると、ゆっくりと開くようにイメージしたが、なかなか手が動かず、動いたかと思ったら勢いよく扇を開け、ベリ、という音と共に扇が壊れてしまった。
「あ」
扇は穂積から嗜みとして貰った物なので、壊してしまった報告をしなければいけないのだが、なんと言い訳をすればいいのだろうか?
流石に十六歳にもなって振り回してて壊れたなんて言えないし、本当にどうしよう?
式神の訓練の最中に壊したと言えば納得してくれるだろうか?
ギ、ギ、とぎこちなく動き続ける器に霊力を流し込むのを止めると、すぐさま黒龍が器を消したため、壊れた扇がポトリ、と床に落ちた。
扇を拾ってみれば、繋ぎの紐が千切れ、竹の部分もバキバキとひびが入ってしまっている。
やはり振り回していて壊れたと言うには厳しい壊れ方なので、式神の練習をしている時に壊したと言ったほうがまだ信じてもらえるかもしれない。
溜息を吐き出し、扇を文机の上に置き、疲れたように息を吐き出して、そのまま文机の上に頬を付けて力を抜く。
簡単にいくとは思っていなかったが、ここまで上手く行かないと自分には才能が無いのではないかと思ってしまう。
実際問題、一朝一夕で出来るようなものではないはずなので、こんな風に落ち込まなくてもいいはずなのだが、やはり出来ないと落ち込んでしまう。
「まあ、ゆっくりやればいい」
そう言って黒龍が頭を撫でてくれるが、先ほどの事もあり、警戒心が出てしまう。
「もう信頼できる人なんてこの世界には居ないのかも」
「我は人ではないぞ」
「上げ足とらないで」
私はムッとして頭を撫でて来る黒龍の手を乱暴に振り払った。
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