上 下
69 / 181
連載

魔王化について

しおりを挟む
 リリナディアが意識を失ってから1時間後

 トントン

 俺とルナさんは椅子に座ってベッドで寝ているリリナディアの様子を見ていると突然部屋のドアがノックされる。

「どうぞ」

 俺は外にいる人達に向かって声をかけるとラフィーネさんが部屋に入ってきた。

「どう?」
「ラフィーネ様。先程は突然倒れてしまい申し訳ありませんでした」
「いいのよ。それより大丈夫?」
「大丈夫です。ご心配おかけしました」
「元気なら良かったわ。それとリリナディアさんは⋯⋯まだ寝ているみたいね」
「いえ、先程1度目を覚まして⋯⋯どうして傷だらけであのような場所にいたのか理由をお聞きしたのですが⋯⋯」
「ちょっと触れて欲しくないことを聞いてしまったみたいで⋯⋯ルナさんが落ち着かせてくれてまた眠っている所です」
「やっぱりこの子には何かあるのね」
「ええ、リリナディアに聞いた話では――」

 俺は先程聞いたリリナディアはザガド王国に拐われたこと、そこで10年間血を抜き取られていたこと、その血は何かの進化を促すのに必要なこと、フェニシアという言葉を口にしたことを伝えた。

 リリナディアから聞いた内容を全て話すとラフィーネさんは俯いて黙ってしまう。

「ラフィーネさん?」

 俺は動かないラフィーネさんが心配になり問いかけてみるがやはり反応がない。
 疲れて寝てしまったのだろうか? 今日は戦いに事後処理と疲れているため、俺の話が長くて寝てしまってもおかしくはないだろう。

「許せない!」

 だが突然ラフィーネさんが机をバンッと叩き立ち上がる。

「こんな可愛い子になんてことをするの!」

 どうやらラフィーネさんは寝ていたのではなく怒りに打ち震えていたようだ。

「魔王だから? でも勇者が魔王を倒した後、魔族には手を出さないよう国家で決まっているのよ!」
「そうなんですか」
「ええ、あまり公にされてはいないけど各国のトップで共有している内容だわ。もしそれを破るとしたらエグゼルド皇帝陛下だと思っていたけど」

 失礼な話だがあの戦闘ジャンキーの皇帝陛下ならありえない話でもない。俺より強いやつに会いに行く的な感じで魔族に戦いを挑みそうだからな。

「でも勇者が魔王倒したからそのままの流れで魔族を滅ぼすなんて話があっておかしくない気がするけど」
「⋯⋯確かに勇者様は魔王を倒しました。でも実はその後すぐに勇者様も亡くなっているわ。魔王の呪いによって」
「「呪い?」」
「ええ。厳密には呪いじゃないかもしれないけど魔王を倒した直後に勇者様の身体に痣が浮かび上がり、1ヶ月後に亡くなったと本に記されているの。当時魔王を倒したことは疲弊した民達に取って復興に向けて最高に明るい話題となっていたから本当のことを言えなかったんじゃないかしら」

 確かに実は引き分けで勇者も死にましたなんて言ったら復興に向けてのやる気が削がれるのは間違いないな。

「勇者様の死、そして魔王側にはこちらにとって未知の魔法やアイテムもあったことで互いに干渉しないという約定がされたと聞いています」
「そしてその約定をザガド王国が破ったということか」
「長い年月をかけて人族は繁栄したけど魔族は衰退していったのかもしれないわね」
「でもだからといってそれでリリナディアを捕らえるなんて⋯⋯」

 前いた世界でも突然戦争をふっかけてきて勝手に実効支配を行い領土を奪っていく国がいたな。当時ニュースで見ていたけど正直胸糞悪かったし自分には何もすることができなくて悔しかった記憶がある。

「そのことについては1つ思い当たる節があるわ」
「えっ? それはどういうことですか?」
「フェニシア⋯⋯さっきリックさんはそう言いましたよね」
「ええ、リリナディアはその言葉を口にして取り乱していました」

 フェニシア⋯⋯この言葉に何か意味があるのだろうか。人の名前? どこかで聞いたことがあるような気がするけど⋯⋯。

「あの方ならリリナディアさんが取り乱すのも頷けるわ」
「あの方?」

 ラフィーネさんの言い方からして年上か身分が高い人だと予想できる。

 あっ! 思い出した! フェニシアとは⋯⋯。

「エグゼルド皇帝陛下の娘でザガド王国に嫁いで今は王妃になった人よ。確か10年程前の出来事で2人は幼かったから知らないのも無理もないわね」

 そう。ラフィーネさんの言うとおりフェニシアは皇帝陛下の娘だ。ただ皇女という人から尊敬される立場だったけどあまり良い話は聞かなかったぞ。

「ちょっと⋯⋯いえ、かなり研究狂いの方で人体実験で犠牲にした人はかなり多くいたと聞いているわ。これは噂だけどフェニシア様は女性で身体を動かすことは得意ではなかったため、皇帝陛下から冷遇されていていたみたい。そして人体実験をしていたのも皇帝陛下を見返すためだったじゃないかって」
「そんな人だからリリナディアを拐ってもおかしくないと」
「私はそう見ている」

 やれやれ。そのフェニシアという王妃はとんでもない人のようだ。どうしてそんな奴に限って権力を持っているのか神様を恨みたくなる。

「進化、人体実験、フェニシア⋯⋯もしかして魔物の魔王化は⋯⋯」
「もしかしなくてもザガド王国が行っていると考えた方がよさそうね」

 クイーンフェルミから始まった魔王化について真相が見えてきたかもしれない。

 こうして俺達は魔王化に繋がるかもしれない情報を手に入れ、そして夜が更けてきたのでこのまま役所の宿泊所に泊まることになるのであった。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

夜の帝王の一途な愛

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,314pt お気に入り:86

伯爵令嬢は執事に狙われている

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,882pt お気に入り:458

皇帝の隠し子は暴れん坊公爵令息の手綱を握る。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:953pt お気に入り:2,975

彼方の大地で綴る【四章まで完結済み】

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:11

カーキボーイ

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:13

残業シンデレラに、王子様の溺愛を

恋愛 / 完結 24h.ポイント:617pt お気に入り:331

【完結】「離婚して欲しい」と言われましたので!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,193pt お気に入り:4,627

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。