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社会勉強はほどほどに

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 俺達はジルク商業国から国境を越えてドルドランドに到着した時には既に日が落ち、辺りが暗闇に包まれた時間だった。

「何とか今日中街に着くことができたな」

 テッドは野宿しなくて済むことに安堵のため息をついていた。

「盗賊さん達がたくさんいたから仕方ないよ」
「人間の世界は治安が悪いのね」

 ノノちゃんから旅の疲れが見え、リリは人間の世界に呆れているようだった。

「ここを基準に考えないでくれよ。ズーリエの治安は良かっただろ」
「確かにそうね」

 まさかゴルド達が追放されたことでこんなに治安が悪くなっているとは思わなかった。いや、元々ゴルドの統治能力が悪く、そこからさらに荒れたという所か。
 街の中にいる人達も以前と比べ明らかにがらの悪い奴らが多くなっている。

「リックよ。このまま領主の屋敷に行くでいいのか?」
「いえ、今日は宿に泊ましょう」
「何でだ! 豪華なベッドで寝れると思ったのに!」
「もう遅いしこの時間に行ったら迷惑になるので。代わりに今日はドルドランドで1番高い宿に泊まりましょう。もちろんお金は俺が出します」
「マジか! それならリックの意見に従うぜ」

 正直今のこの街の状況だと下手な宿に泊まると馬車が盗まれたり、強盗に襲われそうだからな。
 テッドはともかくノノちゃんとリリをそのような所に泊める訳にはいかない。
 それに領主の屋敷にいる人達が俺の味方とも限らないから出来れば万全の体制で向かいたい。

「ほら、リック早く行くぞ」

 テッドの声に従って俺達は街の中央区画へと向かい、領主の屋敷に程なく近い高級宿に宿泊することにした。
 そして宿に到着するとチェックインをして遅い夕食を取った後、部屋へと向かう。
 部屋割りは俺とノノちゃんとリリ。テッドは夜に失踪した勇者ケインさんについて情報を仕入れたいとのことで1人部屋にしたため、自動的にマークさんも1人部屋になる。
 そして時刻は20時過ぎ。就寝するにはまだ少し早い時間帯に部屋のドアノックがされる。

「どうぞ」

 俺が声をかけると部屋の中に入ってきたのはテッドだった。

「まだ寝るのははええだろ? リック、ちょっとこの辺を案内してもらいてえから付き合えよ」
「ケインさんの調査ですか?」
「まあそんな所だ」
「わかりました」

 俺はテッドに肯定の言葉を返す。
 ケインさんのことだったら断ることは出来ないな。

「えっ? お兄ちゃんお外に行くの? ノノも行きたい」
「チッチッチ⋯⋯これからは大人の時間だ。お嬢ちゃん達は大人しく宿で待ってな」
「え~」
「外は危険だから2人はマークさんと宿で待ってて」
「お兄ちゃんがそういうならわかったよ⋯⋯」

 ノノちゃんは少し不満そうだが治安の悪いこの街を歩かせたくない。夜なら尚更だ。それにうちの妹とリリは容姿がいいから絶対によからぬやからが声をかけてくるに決まっている。

「お土産を買ってくるから」
「本当! それなら私リリお姉ちゃんとお留守番している」

 良い子だ。
 そしてリリは元々人間のいる街を歩き回りたくないのか特に意見を述べることはなかった。
 だけどマークさんがいるとはいえ、2人のことが心配ではあるから、テッドへの案内はなるべく短い時間にしてすぐに帰るとしよう。

「それじゃあ行ってくるね」
「行ってらっしゃ~い」

 そして俺達はノノちゃんとリリナディアに見送られ宿の外へ向かう。

「それでどこに案内すればいいんですか?」

 ケインさん絡みのことだと情報が集まりやすい冒険者ギルドや酒場だろうと思っていたが念のためテッドに聞いてみた。
 だけどこの後テッドから放たれた言葉はとんでもない場所だった。

「可愛い女の子と酒が飲める店に連れていってくれ」
「えっ?」

 聞き間違いか? 今テッドの口から可愛い女の子と酒が飲める店に連れてけと聞こえたが。

「だから可愛い女の子と酒が飲める店を教えてくれ。出来れば高級店で」

 この男は何を言ってるんだ? ラフィーネさん達がいないからといって羽目を外しているのか? これは交信の腕輪を使って報告する案件だな。

「ラフィーネさんに言いますよ」
「ちょっと待て! 何を勘違いしているんだ」
「勘違いですか? そうですね。テッドさんのことを良い人かもって勘違いしてました」
「ちげえよ! 情報を仕入れるのは酒が飲める高級店がいいんだよ!」

 簡単に言うとキャバクラに行きたいってことだろ? テッドの欲望を満たす以外何があるというのか。

「やめろ! 汚物を見るような目でこっちを見るんじゃねえ!」
「いや、そう言われても。普通情報を集めるなら冒険者ギルドや酒場とかじゃないんですか?」
「確かに場末の居酒屋でも情報は入る。だがガセネタの場合がほとんどだ。逆に可愛い姉ちゃんがいる高級店だと民度が高いから信憑性があるんだよ」

 テッドの言うことも一理あるかもしれない。酒場や冒険者ギルドはがらが悪いので、金欲しさにガセネタを掴まされる可能性もある。だけど高級キャバクラにいる人達は金があるので、少なくとも金欲しさに嘘の情報を伝えてくることはなさそうだ。

「それにお前はこの街の領主になるかもしれねえんだろ? 今このドルドランドがどういう状態かしっかりと見た方がいいんじゃね?」

 確かにテッドの言うとおりだ。領主になるにしてもならないにしてもこの街の現状はどうなのか把握しておいた方がいい気がしてきた。

「お前には人生経験が足りない。これも社会勉強だと思って俺についてきな」
「わかった。それじゃあ可愛い女の子がいる高級店に連れていくよ」
「よし! そうこなくっちゃな」

 こうして俺はテッドの説得もあり、このドルドランドで1番高級なキャバクラ店? へと足を向ける。

 だが俺はこの時の選択が間違いであったと数時間後に後悔するのであった。
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