妻子持ちに、恋をした。

 「妻子ある人に恋をした」──それは、誰に許されるわけでもない、静かな恋の物語です。

 主人公は三十代の会社員。定時で帰宅しても、家の中は片付かず、冷めた食卓と気の抜けた会話が待っているだけ。子どもの存在は愛おしく思いながらも、妻に対する不満や苛立ちは日に日に募っていく。家族を養う責任を背負いながらも、彼の心はいつしか乾ききり、どこにも行き場を失っていた。

 そんな彼が出会ったのは、友人の集まりに偶然顔を出したときに知り合った、年下の女性だった。最初は軽く言葉を交わす程度で終わったはずだったのに、何度か同じ場で顔を合わせるうちに、彼女の存在が心の中でじわじわと膨らんでいく。

 やがて二人は連絡先を交換し、軽いやり取りのはずが、いつしか一日の中で欠かせないものへと変わっていく。
 彼女の何気ない一言に、救われてしまう自分がいることに気づいたとき、彼はもう後戻りできなくなっていた。

 一方、彼女は彼が既婚者だと知ったとき、大きな衝撃を受ける。
 「もう会うのはやめた方がいい」と頭ではわかっている。
 それでも、彼と過ごす時間に心が惹かれていく。彼の不器用な優しさに触れるたび、どうしようもなく「この人を独占したい」と願ってしまう。

 二人の関係は、最初から許されないものだった。
 会えば会うほどに、もう引き返せないとわかっていながら、互いに求めずにはいられなくなっていく。
 けれど、恋と罪悪感はいつも背中合わせで、寄り添った体温の裏には、冷たい現実が横たわっていた。

 これは、夫婦関係に疲れた男と、彼に心を奪われてしまった若い女性が、互いに「救い」を求めながらも決して結ばれない恋を描いた物語です。
 彼にとって彼女は、日常の重圧を忘れさせてくれる唯一の拠り所。
 彼女にとって彼は、これまで出会った誰とも違う、安心を与えてくれる存在。

 けれどその関係は、光に照らされることのない、影のようなもの。
 「会いたい」と思えば思うほど、二人を縛る現実が濃く立ち上がってくる。
 次に会える日のことを待ち望む彼の横顔に、彼女は希望と絶望を同時に見てしまう。

 ――もし、あと一歩踏み込んでしまったら。
 その先にあるのは、幸福か、それとも取り返しのつかない破滅か。

 本作は、背徳と切なさに彩られた“大人の恋”をテーマに、互いの心の揺らぎを丁寧に描いていきます。
 ただの気まぐれでは終わらない。
 ただの遊びでは片づけられない。
 「愛してはいけない人を、愛してしまった」男女の行く末を、どうか見届けてください。
24h.ポイント 0pt
0
小説 221,606 位 / 221,606件 恋愛 64,647 位 / 64,647件

あなたにおすすめの小説

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花
恋愛
政略結婚で美しい妻を貰って一年。二人の距離は縮まらない。 そんなとき、アレクトは妻の日記を読んでしまう。

誰の代わりに愛されているのか知った私は優しい嘘に溺れていく

矢野りと
恋愛
彼がかつて愛した人は私の知っている人だった。 髪色、瞳の色、そして後ろ姿は私にとても似ている。 いいえ違う…、似ているのは彼女ではなく私だ。望まれて嫁いだから愛されているのかと思っていたけれども、それは間違いだと知ってしまった。 『私はただの身代わりだったのね…』 彼は変わらない。 いつも優しい言葉を紡いでくれる。 でも真実を知ってしまった私にはそれが嘘だと分かっているから…。

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」