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16 炊き出しは続くよ王都までも!
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国内をスレイプニルの引く馬車で回り続けて、最後に王都へたどり着いたが、そこも散々な状況だった。
私と同じように魔物の肉をある程度扱いなれている下層級の人達は食いつないでいたが、魔物の肉など食べられないという貴族や富裕層のせいで雇われている使用人まで飢えかけている。
王族はさすがというべきか、それを食べることに抵抗はあったろうに自ら進んで魔物の肉を食べていたが、大体の人は魔物の肉を焼くか、硬くなるまで煮ることでやっと食べているという有様だった。
可及的速やかに炊き出しをしなければいけない。恥じている場合でもない。
聖女や聖人は王族よりも上の存在である。体のいずれかに輝石を抱いている事がその証左になるというのなら、と、私は貴族街の真ん中で胸元の金剛石を露わにして炊き出しの準備を始めた。打ち合わせていたのか、魔物を狩りにいった騎士団員たちが続々と魔物の死骸を抱えて王都に集ってきている。
これだけあれば行き渡るし、これからも暫く狩りは続くだろう。安全面からも、食糧の面からも、国全体に冒険者が行き渡り、その調理方法を広めてこれたのは幸いだった。
環境によって出て来る魔物も違うが、食べるのに抵抗が無さそうなものばかりなのは幸いである。
私はとにかく各貴族の家を訪ねて鍋と調理道具、あるなら薪と兵士にかまどを解体させて広場に持って来させ、暫くは広場の炊き出しでご飯を食べるように伝えた。ただのルーシーの言葉には何の価値も無いが『金剛の聖女』という肩書がこんな形で役に立つとは思わなかった。
渋々ながら使用人たちと一緒に調理の準備が整った場所で、噴水の水が飲めることを確認して噴水の周りにずらりとかまどを置き、水を沸かし、魔物を捌いては料理にしていく。下ごしらえも、各家に薬草を育てていると聞いて薬草やらハーブやらを頂戴した。
「いいですか、各地皆同じ状況です。食糧がどうにかなるまで、この方法で食事を続けてください。生き延びてください。私にできるのはこれと……たぶん色々できると思うのですが、今はこれです! 身分も恥も捨てて、安心安全な魔物料理で食いつなぐ、協力しあってください!」
渋々、といった様子で腹を空かせ頬をこけさせた貴族たちが集まって来た広場で、平民に混ざり器を受け取る姿を見ながら、私は大音声に告げた。必死だった。こんなに飢えておきながら、プライドが邪魔してまだ匙を掬えない人がいるとは思わなかった。
私が料理方法を教え、炊き出しに魔物を狩って来た騎士団の人にも参加してもらい、集まった人たちが腹を満たしていく姿を見て、貴族たちも胃に優しいスープを飲んだ。魔物なんて捌いてしまえば食材だ。特に、臓腑のスープは内蔵にも優しい。
騎士団の人達は身寄りのない人間もいたので、魔物をその場で捌いて焼いて食べていた人達もいた。他の地域の冒険者もそうだったが、そういう人の方が魔物の肉に抵抗が無い。が、私が作った鍋の料理を(これは体力回復を重視した胃には重ための特製シチューだ)食べた騎士団の人達が、不思議そうに手を握ったり開いたりしている。
「……どうか、されました?」
「『飯炊き』さんの飯……なんか、森で飯を食った時には違和感あったんだけど」
「なぁ、やっぱり、そうだよな?」
確認し合うように、一緒に国を出てぼろぼろになるまで戦ってくれた騎士たちが何かを言い合っている。
「3年前、初めて飯を食った時から……『飯炊き』さん……じゃない、ルーシー様の飯を食うと、こう、いつもより調子がいいっていうか……」
「そう、ルーシー様が休みの日は調子が出ないんだと思ってたんだけど」
「これ、明らかに俺らの力を底上げしてる飯です」
私はポカンとなってしまった。騎士さんたちが顕著にその差を感じたのは、1週間離れて過ごしたからだろう。
聖女の力が、ごはんにまで及んでいるとは、一切思っていなかった。
私と同じように魔物の肉をある程度扱いなれている下層級の人達は食いつないでいたが、魔物の肉など食べられないという貴族や富裕層のせいで雇われている使用人まで飢えかけている。
王族はさすがというべきか、それを食べることに抵抗はあったろうに自ら進んで魔物の肉を食べていたが、大体の人は魔物の肉を焼くか、硬くなるまで煮ることでやっと食べているという有様だった。
可及的速やかに炊き出しをしなければいけない。恥じている場合でもない。
聖女や聖人は王族よりも上の存在である。体のいずれかに輝石を抱いている事がその証左になるというのなら、と、私は貴族街の真ん中で胸元の金剛石を露わにして炊き出しの準備を始めた。打ち合わせていたのか、魔物を狩りにいった騎士団員たちが続々と魔物の死骸を抱えて王都に集ってきている。
これだけあれば行き渡るし、これからも暫く狩りは続くだろう。安全面からも、食糧の面からも、国全体に冒険者が行き渡り、その調理方法を広めてこれたのは幸いだった。
環境によって出て来る魔物も違うが、食べるのに抵抗が無さそうなものばかりなのは幸いである。
私はとにかく各貴族の家を訪ねて鍋と調理道具、あるなら薪と兵士にかまどを解体させて広場に持って来させ、暫くは広場の炊き出しでご飯を食べるように伝えた。ただのルーシーの言葉には何の価値も無いが『金剛の聖女』という肩書がこんな形で役に立つとは思わなかった。
渋々ながら使用人たちと一緒に調理の準備が整った場所で、噴水の水が飲めることを確認して噴水の周りにずらりとかまどを置き、水を沸かし、魔物を捌いては料理にしていく。下ごしらえも、各家に薬草を育てていると聞いて薬草やらハーブやらを頂戴した。
「いいですか、各地皆同じ状況です。食糧がどうにかなるまで、この方法で食事を続けてください。生き延びてください。私にできるのはこれと……たぶん色々できると思うのですが、今はこれです! 身分も恥も捨てて、安心安全な魔物料理で食いつなぐ、協力しあってください!」
渋々、といった様子で腹を空かせ頬をこけさせた貴族たちが集まって来た広場で、平民に混ざり器を受け取る姿を見ながら、私は大音声に告げた。必死だった。こんなに飢えておきながら、プライドが邪魔してまだ匙を掬えない人がいるとは思わなかった。
私が料理方法を教え、炊き出しに魔物を狩って来た騎士団の人にも参加してもらい、集まった人たちが腹を満たしていく姿を見て、貴族たちも胃に優しいスープを飲んだ。魔物なんて捌いてしまえば食材だ。特に、臓腑のスープは内蔵にも優しい。
騎士団の人達は身寄りのない人間もいたので、魔物をその場で捌いて焼いて食べていた人達もいた。他の地域の冒険者もそうだったが、そういう人の方が魔物の肉に抵抗が無い。が、私が作った鍋の料理を(これは体力回復を重視した胃には重ための特製シチューだ)食べた騎士団の人達が、不思議そうに手を握ったり開いたりしている。
「……どうか、されました?」
「『飯炊き』さんの飯……なんか、森で飯を食った時には違和感あったんだけど」
「なぁ、やっぱり、そうだよな?」
確認し合うように、一緒に国を出てぼろぼろになるまで戦ってくれた騎士たちが何かを言い合っている。
「3年前、初めて飯を食った時から……『飯炊き』さん……じゃない、ルーシー様の飯を食うと、こう、いつもより調子がいいっていうか……」
「そう、ルーシー様が休みの日は調子が出ないんだと思ってたんだけど」
「これ、明らかに俺らの力を底上げしてる飯です」
私はポカンとなってしまった。騎士さんたちが顕著にその差を感じたのは、1週間離れて過ごしたからだろう。
聖女の力が、ごはんにまで及んでいるとは、一切思っていなかった。
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