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賢者、寄り道をする。

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何度私が転生しても、必ずではないにしても魔王と関わってしまうのは、あいつがいつの間にか私につけたという『匂い』のせい──?
しかし私自身からは『私』と認識される匂いしかしないが、一体どういうことなのか?
「違う、違う!ウルの友の身体ではない!ウルの友の魂!だからウルの友は短い!」
「短い……」
それはきっと、知覚できない『魔王の匂い』につられて、きっと私の今までの生には『悪いもの』が近付きやすかったせいで、長生きできなかったことを言うのだと私は理解した。
しかしわからないのが、女性として生きた時はたいてい天寿を全うしたように思うが、大半は男だった記憶ばかりなので、そこにも何か理由があるのかもしれない。
「ウルの友?何か考えてる?」
「あ…ああ……うん……村長の言葉をね、ちょっとね」
「そうか?そうか!でも、時間がない!ウルの友、村長の友になりたい!」
え?
それは私から言わないとダメなのか?
一応私の様子を心配してくれたらしいカヤシュの言葉にハッとなったが、こちらを見つめている村長に顔を向けると、またうんうんと頷かれて手に持つ筒を差し出された。
「あ、そうか……器……」
さっきミウに渡したコップを綺麗な布で拭い、差し出してみる。
「よし!ウルの友!ロダムスの友となる!飲め!」
ん?
「ロダムスの友?私は『村長の友』になるのではなく?」
「ロダムスの村はロダムスの村。ロダムスの友はロダムスに住むすべての者の友となる!」
言い方が混乱過ぎてわからない。
しかしまあ、とにかく『村長』から水をもらい受けることで村長と繋がりができ、結果的にすべてのノームたちとも繋がりができる──カヤシュと話していた時に理解していた時よりも壮大な関係性の話になってしまった。

その水は虹どころか黄金色に輝き、カヤシュがミウに差し出した甘い香りよりも深く、まるで酒のような豊潤な香りであった。
これがいわゆる格の違いなのか。
コップにたっぷりと注がれたその美しい水はトロリと重みがあったが、口に含むと喉にするりと落ちていく、まさしく甘露。
「あぁ……」
ミウが勢いよく飲み干し、悦楽の溜め息をついた理由がわかる。
だが──
「光ら……ない……?」
ミウが放ったようなまばゆい光に私自身が包まれることはなく、わずかに皮膚がキラキラと輝くだけですぐに治まってしまった。
これで本当にノームたちとの繋がりができた──のか?
「うむ!仕方ない!ウルの友でロダムスの友は、もっともっと強い力と繋がっている!だが、勇者とも友だ!皆と繋がる、強い男だ!」
「強い男ー!」
ワァッとノームたちが歓声を上げると、何故かその喜びが私の中にも湧き上がり、無性に一緒に踊りたくなってくる。
「ウルの友でロダムスの友!名を名乗る!」
「えっ……あ、私はパトリックと申します。あなたは……ロダムス?」
「パトリック!賢者!ロダムスは皆の名。ティファム!」
「あ、はい。ではティファム。あなたの友として、この村の友として、よろしくお願いします」
「うむ?それがパトリックの挨拶だな?うむ!ではティファムの友として、よろしくお願いします!」
そういうとティファムは正座してよろしくと頭を下げた私を真似して、ちょこんと頭を下げる。
まるで人形のようなその姿にフフッと笑いが漏れたが、頭を上げて周りを見渡すと、カヤシュも含めてすべてのノームが同じように正座をして頭を下げていた。

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