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賢者、王都から旅立つ。
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「いえね。ミウとウルとケヴィンとデューン、そしてラダ……新しい仲間たちと楽しく旅ができるといいな、と」
呟きに主語がなくてよかった。
ミウはともかく、魔獣であり私の言葉を解してしまうウルならば、あんな微かな呟き声でも拾ってしまうのだから。
それを聞いたウルはさらに尻尾を嬉しそうに振り、ミウはまだキョトンとした顔で私を見つめる。
「それはともかく……もうそろそろ行きませんと。デューンが正門の外で待っているでしょうから。まずは彼らをロダムスの村に連れて行きましょう。約束の再訪よりもずっと早いですけど……ウルに新たな首輪を作ってもらわないと」
「そう……でした!行かないと!」
ピョンッ!とミウが元気よく飛びあがり、ラダがやや呆れた顔で跳ねるミウとウルに笑いかける。
ケヴィンが優しくミルベルと抱き合ってしばしの別れを惜しみ、ようやく私たちは店を後にした。
「遅い」
デューンがそう言ったが、皆が特に言い訳もせずに軽く「ごめーん」とだけ謝って荷台に乗りこんだ。
どうやら待ち合わせに遅れるのはいつものことらしい。
ウルはもちろんそんなことを気にすることはなく、ミウが気軽に乗り込む後に続いてピョンと飛び上がって荷台に上がったが、私はデューンの座る御者台に同乗させてもらうことにする。
見た感じでは大きめの商業馬車のようであるため、どんな商品を持ってきたのかと近寄ってきた者たちがデューンやケヴィンの姿を見て目を丸くし、次いで顔を上気させて握手を求めてくるのを見て、改めて彼らが『勇者』として認識されていることに気が付いた。
「……となると、やはりあの宿の主人は……?」
「うん?ああ……あの宿の」
ミウを『勇者パーティ』の一員とわからなかったあの宿の者たちはいったい何だったのだろうかと、今さらながら私は不思議に思った。
その謎をデューンが巨大な馬──に見える一角獣を操りながらゆっくりと前に進めながら教えてくれる。
「ミウはまだ正式にお披露目されていないからな……余所者であれば、勇者パーティーに入った者などの情報がなかったのだろう。きっとあの宿屋は働いている者がほぼ異国の者だったのだろうな……でなければ、王都から冒険者に関する絵姿や所属するパーティーなどが情報として回る。さもないとランクごとに決められている宿代と、普通の旅行者用の宿代とを区別できないからな」
「はっ?」
「だいたいミウは王都の貴族の娘だ。しかもあの宿屋周辺の商店などには顔馴染みも多かっただろう?なのに、あいつらはミウに対して親しげでもなければ遜ってもいなかった……『伯爵令嬢である』ことを知らない異国の者である可能性が高い」
「いろいろ決まりごとがあるのだねぇ、この国には」
「実際君も、ミウが伯爵令嬢だとは知らなかったのだろう?」
「……そういえば、そうだね」
「王都で何か商売をしようと思っても、簡単にはいかない。地方になればなるほど魔獣や魔物たちの危険にさらされるから、簡単に王都から引っ越す者もいないしな。それなのに宿屋の主人として収まり、さらに貴族年鑑も冒険者パーティーも押さえていない……つい最近、どうにかしてあの宿屋の本来の主人と入れ替わったのだろうが。そこらへんは俺たちの仕事ではなく、宮廷関係者に任せておけばいい」
「なるほど」
だからあれほど速やかに、しかも周辺の住民たちにわからないように宿屋の従業員すべてが入れ替えられ、主人も代わったというわけだ。
あまり踏み込みたくない闇だと、私もそれ以上追及することは止めることにした。
呟きに主語がなくてよかった。
ミウはともかく、魔獣であり私の言葉を解してしまうウルならば、あんな微かな呟き声でも拾ってしまうのだから。
それを聞いたウルはさらに尻尾を嬉しそうに振り、ミウはまだキョトンとした顔で私を見つめる。
「それはともかく……もうそろそろ行きませんと。デューンが正門の外で待っているでしょうから。まずは彼らをロダムスの村に連れて行きましょう。約束の再訪よりもずっと早いですけど……ウルに新たな首輪を作ってもらわないと」
「そう……でした!行かないと!」
ピョンッ!とミウが元気よく飛びあがり、ラダがやや呆れた顔で跳ねるミウとウルに笑いかける。
ケヴィンが優しくミルベルと抱き合ってしばしの別れを惜しみ、ようやく私たちは店を後にした。
「遅い」
デューンがそう言ったが、皆が特に言い訳もせずに軽く「ごめーん」とだけ謝って荷台に乗りこんだ。
どうやら待ち合わせに遅れるのはいつものことらしい。
ウルはもちろんそんなことを気にすることはなく、ミウが気軽に乗り込む後に続いてピョンと飛び上がって荷台に上がったが、私はデューンの座る御者台に同乗させてもらうことにする。
見た感じでは大きめの商業馬車のようであるため、どんな商品を持ってきたのかと近寄ってきた者たちがデューンやケヴィンの姿を見て目を丸くし、次いで顔を上気させて握手を求めてくるのを見て、改めて彼らが『勇者』として認識されていることに気が付いた。
「……となると、やはりあの宿の主人は……?」
「うん?ああ……あの宿の」
ミウを『勇者パーティ』の一員とわからなかったあの宿の者たちはいったい何だったのだろうかと、今さらながら私は不思議に思った。
その謎をデューンが巨大な馬──に見える一角獣を操りながらゆっくりと前に進めながら教えてくれる。
「ミウはまだ正式にお披露目されていないからな……余所者であれば、勇者パーティーに入った者などの情報がなかったのだろう。きっとあの宿屋は働いている者がほぼ異国の者だったのだろうな……でなければ、王都から冒険者に関する絵姿や所属するパーティーなどが情報として回る。さもないとランクごとに決められている宿代と、普通の旅行者用の宿代とを区別できないからな」
「はっ?」
「だいたいミウは王都の貴族の娘だ。しかもあの宿屋周辺の商店などには顔馴染みも多かっただろう?なのに、あいつらはミウに対して親しげでもなければ遜ってもいなかった……『伯爵令嬢である』ことを知らない異国の者である可能性が高い」
「いろいろ決まりごとがあるのだねぇ、この国には」
「実際君も、ミウが伯爵令嬢だとは知らなかったのだろう?」
「……そういえば、そうだね」
「王都で何か商売をしようと思っても、簡単にはいかない。地方になればなるほど魔獣や魔物たちの危険にさらされるから、簡単に王都から引っ越す者もいないしな。それなのに宿屋の主人として収まり、さらに貴族年鑑も冒険者パーティーも押さえていない……つい最近、どうにかしてあの宿屋の本来の主人と入れ替わったのだろうが。そこらへんは俺たちの仕事ではなく、宮廷関係者に任せておけばいい」
「なるほど」
だからあれほど速やかに、しかも周辺の住民たちにわからないように宿屋の従業員すべてが入れ替えられ、主人も代わったというわけだ。
あまり踏み込みたくない闇だと、私もそれ以上追及することは止めることにした。
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