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賢者、『魔王(偽)』を討つ。

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確かに傍目には単に縄に縛られ、別の縄を何本かかぶせられているようにしか見えない。
今は目を閉じたままだが、気を取り戻せば簡単に立ち上がって逃げそうだ。
どうせならここで息の根を止めてくれればいいのにと、恨みがまし気な声も聞こえないではないが、私はわざわざ無抵抗な人間を殺すような趣味はない。
むしろこの固定術は周囲の人間のおかしな衝動も妨害するので、彼らが思いあまった村人に害されることもないだろう。
もちろん仲間が取り返しにきたとしても、動かすことも不可能だ。
そういった言葉を重ねても、実際のところ体験しないとわからないことばかりだろうから、とりあえず彼らを見張るだけ見張り、万が一取り戻しにくる者が来たら来たでいったんは安全な所に逃げればいいとだけ言い、私はミウに同行してウルの様子を見に行くことにした。


ウルはだいぶ速く駆けたようで、村からだいぶ遠く森の中に入っていく。
鬱蒼として良からぬモノがひっそりと身を顰めるにはうってつけではあるが、そんなに邪悪なモノがいるようにも思えない。
だが──
「ウッ………」
人間の血とは違う異臭に思わず顔が歪む。
冒険者であるケヴィンたちはそれなりに慣れているのか、さっさと討伐証拠部位を切り取り、さらに魔石も取り出していた。
デューンはまだ力の抜けたままのウルを抱きかかえつつ、その大きな手には不似合いな小さなナイフを器用に動かし、ラダがケヴィンとデューンの成果を回収していく。
だがこのまま魔物の死体を放置していけば、新たな魔物や魔獣を呼びかねないが、彼らはいつもどうしているのだろう?
「……さて……後はいつものように埋めるか燃やすかだけど」
「うむ……確かにおかしいな」
周囲を警戒するようにぐるっとデューンが見渡し、ついでにミウと私を見つけて軽く頷く。
「パトリック殿。どう思う?」
「どう……と言われても」
おかしい。
それはわかる。
何がと言われれば、雑多なのだ。
かつて魔王は言った──『魔族は分裂する』と。
だが魔物や魔獣はそうではない。
人間や他の動植物と同じように番い繁殖するのだが、だいたいは同種族で群れを成す。
なのに斃されたのは二足歩行の種族もいれば、四足の魔獣もいるし、それぞれの魔物や魔獣が皆低ランクであるという以外に共通点はなさそうだ。
「それに……匂い?」
どんなモノでも死に際して香しいということはないが、それにしては酷い。
斃したばかりのはずなのに腐敗臭が酷いが──甘い?
「……魔香?」
「やはり、そうか……ラダが、調合用の薬草を採取した時に似た匂いを嗅いだことがあるらしい」
「アタシが嗅いだのはそのうちのひとつ、ね。鼻はいいんだ。嫌になるくらい」
そういうラダは顔の下半分に魔術を組み込んだマスクで覆っているため、声がくぐもっている。


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