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58話 陛下

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 私が原初の剣の教育者プロフェッサーに所属して一か月半がたった。
 シアンに誘われたのがまるで昨日のことのように思えるほど一瞬過ぎ去った一か月半である。
 毎日睡眠不足になるほど多忙だった時期も終わり、今ではかなり落ち着いてきている。

 ちなみにまだクラウスは捕まっていないそうだ。
 彼は頭だけは冴える男である。多くの逃げ道を知っているのだろう。
 だが、それも長くは続かない。騎士団が追っているのだ。すぐに捕まるはずである。

「アリア様。招集命令が出ております」
「うわっ、びっくりした。ウィルみたいなことするの止めてよね」

 ギルドの二階、隊員しか立ち入りを許されていない階層で、私はゴロゴロとしていた。
 そんな私の背後に音もたてずネイトは現れる。

「我は漆黒の堕天使ルシファーの眷属。神を模倣とするのは道理で――」
「だからその喋り方止めて。分かりにくいから」
「なっ!? しかし、アリア様は漆黒の堕天使ルシファーと同等、いや、それ以上のお方……くっ! わ、分かりました。喋り方を戻します……!」

 そんなに苦しんで悩むことなのだろうか。
 ネイトが帰って来てからずっとこのありさまである。
 しっかりと暗部として、暗殺者としての在り方を学んできたようだが、喋り方まで学んで来いとは言ってない。

「それで招集命令って何?」
「対外的には国王からのパーティーの招待状になっています。ですが、本質的に言えばアリア様の強制招集です。王様に目をかけられたのでしょう」
「王様ね……ん? 王様?」

 今、国王と聞こえたのだが聞き間違いだろうか。

「えぇ。この国の国王。アレク様の父君です」
「ちょっ! ちょっと待って! なんで私が国王に誘われなきゃいけないのよ」
「そりゃあこれほど暴れてしまえば目をかけられるでしょう。なんせ今一番話題の教育者プロフェッサーですから」
「そういわれるのは嬉しいけれど、私そんな大層な人間じゃないし……」

 そもそも私は国王のことが嫌いなのだ。
 アレクを独りにさせた張本人。良い印象など一ミリたりともない。
 それこそ会えるのであれば一発殴ってやりたいほど……ん?

「あ、やっぱり行くわ」
「ん? 今の間は何ですか? 絶対悪いこと考えてるでしょう?」

 まるでお見通しても言いたげにネイトは言った。
 せっかく国王に会えるのだ。このチャンスを逃さないわけにはいかない。

「アレクとシアンの二人を連れていこうかしら」
「ふふっ、そういうことですか。なら私もお供しましょう。情報隠蔽なら得意です」

 アレクという名前を聞いて何となく察したのだろう。
 ネイトは歪な笑みを浮かべながら頷いた。

 王族にとってアレクはゴミ。それこそ使いようがなく捨てるほどのゴミだ。
 そんなゴミが自分たちよりも必要とされている。そう気づいた時、弟はどんな反応を見せるのだろうか。
 
 もちろん趣味が悪いことは重々承知である。
 しかし、こんな機会を逃すわけにはいかない。今もアレクを苦しめている呪縛を解き放つためには最もふさわしい会場だ。

「王族を一発ぎゃふんと言わせてやるわよ!」
「はい! これは楽しみですね!」

 私とネイトはにやにやと口角を釣り上げたのだった。
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