131 / 263
二年目 見習い期間 ~調薬工房~
やっちゃった……
しおりを挟む
廊下に出ると、そこはもう既にシンと静まり返ってた。
そりゃそうだよね。
もう、みんな、部屋に戻って寝る準備をしている――むしろ、寝ていてもおかしくない――時間だもの。
エルドランにいた時と比べると、魔法で気軽に明かりを灯せる分グラムナードにきてから、リエラも夜更かしさんになっちゃったんだけど、それでも、夜の九時にもなると眠さの限界。
体力づくりの為の走り込みがあるから、朝が早いしね。
コンカッセちゃん達もグラムナードにやってきて、やっと一月半。
まだまだ慣れない事ばっかりで、きっと、精神的にも疲れてるだろう。
リエラは、足音を忍ばせながら三階の『師範フロア』(コンカッセちゃん命名)にあるアスラーダさんのお部屋に向かった。
こんな時間に誰かが出歩くというのが想定外なのか、廊下は完全な真っ暗闇に閉ざされてる。
暗くて静かなのって、なんだか怖い。
リエラは、手の平の上に小さな光玉を作った。
ほんの直径三センチ程度の小さな灯りでも、暗闇に対する不安を消すのには十分に効果的だ。
光玉をちょっぴり自分よりも先に進ませるようにして、行き先を照らしながら足音を殺して歩き出す。
周りが静まり返ってるものだから、音がたたないようにと気をつけていても、どうしてもペタペタと言う足音が廊下に響く。
なんだか、いけない事をしているような気分だね。
考えてみれば、誰かから呼ばれてもいないのに夜に部屋から出るのって初めてだった。
そう気が付いたとたんに、妙に胸がドキドキしちゃう。
――やっぱり、明日の朝にしようかな……。
アスラーダさんの部屋の前に辿り着いたら、不意に頭が冷えた。
いくらまだ、ぎりぎり非常識じゃない程度の時間だからって、やっぱりこんな時間に男の人の部屋を訪ねるのは良くない……ような気がしてきたよ。
だから、扉を叩こうかと上げていた手を散々彷徨わせた挙句に、今日相談するのはやめて部屋に戻ろうとした瞬間、あちらの方から勝手に扉が開いちゃうなんてのは想定外もいいところだ。
「お前さ、こんな時間になにしてんの?」
「うひゃ?!」
どういう訳だか、中から顔を出したのはスルト。
「――んで?」
突然開いた扉に驚いたリエラが気を取り直すのを待ってから、左耳をピコピコしながらそう問うスルトは、なんだか妙に上から目線の呆れ顔だ。
「なんで、スルトがアスラーダさんの部屋にいるの?」
「なんで、リエラがこんな時間に師匠の部屋にきてるんだ?」
そんなスルトの様子にちょっぴりムッとしながらも、疑問を口にしてみると、逆に質問が返ってきた。
「なんで質問に質問で返してくるの?」
「オレは、師匠の仕事の手伝いだよ。そんなふくれっ面になってると、ブサイクになるぞ。」
「ぶさ……?!」
「スルト、リエラと仲が良いのもいいが、時間を考えろ。」
スルトのあんまりと言えばあんまりな台詞に思わず言葉に詰まっていると、部屋の奥からアスラーダさんの叱責の声が飛んでくる。
その声にスルトは肩を竦めると、扉を大きく開いてリエラが中へ入れるように脇に避けた。
「はーい。入れよ、リエラ。」
「……お邪魔します。」
頬を膨らましたままスルトを睨んでみたけど、本人は涼しい顔でリエラの無言の抗議を受け流してる。
相手になんてしませんよって言う雰囲気が、ちょっと腹立たしい。
リエラが中に入ると、アスラーダさんは奥の方に置かれた執務机で何やら書類に目を通している。
アスラーダさんの席の手前には同じような机が二つ向かい合わせに置かれてた。
スルトが慣れた様子で入って左手の方の机に向かって行くところを見ると、そっちの方はスルトの席らしい。
ってことは、もう片方はポッシェ君の席かな?
本人がいないから、当て推量だけど。
それにしても、いつもは体力作りとか武術の指導をしてくれているアスラーダさんが書類仕事をしてるのは、なんだか少し意外な感じだ。
いや、むしろ、見た目的には書類仕事の方がしっくりくるんだけど、普段の姿とのギャップを感じる。
ちょっぴり知的なイメージが強化されて、カッコよく見えたっていうのは心の中にしまっとこう。
剣を振るう姿とかも十分カッコいいと思うけどね!
「それじゃ、師匠、俺はこれで戻っていいですか?」
「もう少しここにいてくれ。」
「へいへい、了解。」
楽し気に退室の許可を求めるスルトに、アスラーダさんは書類から視線を動かさないまま残っているように指示する。
スルト自身も、そう言われるのが分かっていた雰囲気で、なんだかニヤニヤしながら自分がいつも使っているらしい椅子に腰を下ろすと、リエラにもその対面の席を勧めた。
「取り敢えず、座っといたら?」
「うん……。」
勧められた席に腰を下ろしながら、リエラは、その場の勢いでアスラーダさんを訪ねてきちゃったことを後悔しはじめてた。
だってね、こんな時間にアスラーダさんがお仕事をしてるなんて思ってなかったんだよ。
忙しくしてる時に相談事なんてしにきちゃうなんて、迷惑すぎる……。
落ち着いて考えたら、別に、今日でなくてもいい相談事だから尚更だよ。
そりゃそうだよね。
もう、みんな、部屋に戻って寝る準備をしている――むしろ、寝ていてもおかしくない――時間だもの。
エルドランにいた時と比べると、魔法で気軽に明かりを灯せる分グラムナードにきてから、リエラも夜更かしさんになっちゃったんだけど、それでも、夜の九時にもなると眠さの限界。
体力づくりの為の走り込みがあるから、朝が早いしね。
コンカッセちゃん達もグラムナードにやってきて、やっと一月半。
まだまだ慣れない事ばっかりで、きっと、精神的にも疲れてるだろう。
リエラは、足音を忍ばせながら三階の『師範フロア』(コンカッセちゃん命名)にあるアスラーダさんのお部屋に向かった。
こんな時間に誰かが出歩くというのが想定外なのか、廊下は完全な真っ暗闇に閉ざされてる。
暗くて静かなのって、なんだか怖い。
リエラは、手の平の上に小さな光玉を作った。
ほんの直径三センチ程度の小さな灯りでも、暗闇に対する不安を消すのには十分に効果的だ。
光玉をちょっぴり自分よりも先に進ませるようにして、行き先を照らしながら足音を殺して歩き出す。
周りが静まり返ってるものだから、音がたたないようにと気をつけていても、どうしてもペタペタと言う足音が廊下に響く。
なんだか、いけない事をしているような気分だね。
考えてみれば、誰かから呼ばれてもいないのに夜に部屋から出るのって初めてだった。
そう気が付いたとたんに、妙に胸がドキドキしちゃう。
――やっぱり、明日の朝にしようかな……。
アスラーダさんの部屋の前に辿り着いたら、不意に頭が冷えた。
いくらまだ、ぎりぎり非常識じゃない程度の時間だからって、やっぱりこんな時間に男の人の部屋を訪ねるのは良くない……ような気がしてきたよ。
だから、扉を叩こうかと上げていた手を散々彷徨わせた挙句に、今日相談するのはやめて部屋に戻ろうとした瞬間、あちらの方から勝手に扉が開いちゃうなんてのは想定外もいいところだ。
「お前さ、こんな時間になにしてんの?」
「うひゃ?!」
どういう訳だか、中から顔を出したのはスルト。
「――んで?」
突然開いた扉に驚いたリエラが気を取り直すのを待ってから、左耳をピコピコしながらそう問うスルトは、なんだか妙に上から目線の呆れ顔だ。
「なんで、スルトがアスラーダさんの部屋にいるの?」
「なんで、リエラがこんな時間に師匠の部屋にきてるんだ?」
そんなスルトの様子にちょっぴりムッとしながらも、疑問を口にしてみると、逆に質問が返ってきた。
「なんで質問に質問で返してくるの?」
「オレは、師匠の仕事の手伝いだよ。そんなふくれっ面になってると、ブサイクになるぞ。」
「ぶさ……?!」
「スルト、リエラと仲が良いのもいいが、時間を考えろ。」
スルトのあんまりと言えばあんまりな台詞に思わず言葉に詰まっていると、部屋の奥からアスラーダさんの叱責の声が飛んでくる。
その声にスルトは肩を竦めると、扉を大きく開いてリエラが中へ入れるように脇に避けた。
「はーい。入れよ、リエラ。」
「……お邪魔します。」
頬を膨らましたままスルトを睨んでみたけど、本人は涼しい顔でリエラの無言の抗議を受け流してる。
相手になんてしませんよって言う雰囲気が、ちょっと腹立たしい。
リエラが中に入ると、アスラーダさんは奥の方に置かれた執務机で何やら書類に目を通している。
アスラーダさんの席の手前には同じような机が二つ向かい合わせに置かれてた。
スルトが慣れた様子で入って左手の方の机に向かって行くところを見ると、そっちの方はスルトの席らしい。
ってことは、もう片方はポッシェ君の席かな?
本人がいないから、当て推量だけど。
それにしても、いつもは体力作りとか武術の指導をしてくれているアスラーダさんが書類仕事をしてるのは、なんだか少し意外な感じだ。
いや、むしろ、見た目的には書類仕事の方がしっくりくるんだけど、普段の姿とのギャップを感じる。
ちょっぴり知的なイメージが強化されて、カッコよく見えたっていうのは心の中にしまっとこう。
剣を振るう姿とかも十分カッコいいと思うけどね!
「それじゃ、師匠、俺はこれで戻っていいですか?」
「もう少しここにいてくれ。」
「へいへい、了解。」
楽し気に退室の許可を求めるスルトに、アスラーダさんは書類から視線を動かさないまま残っているように指示する。
スルト自身も、そう言われるのが分かっていた雰囲気で、なんだかニヤニヤしながら自分がいつも使っているらしい椅子に腰を下ろすと、リエラにもその対面の席を勧めた。
「取り敢えず、座っといたら?」
「うん……。」
勧められた席に腰を下ろしながら、リエラは、その場の勢いでアスラーダさんを訪ねてきちゃったことを後悔しはじめてた。
だってね、こんな時間にアスラーダさんがお仕事をしてるなんて思ってなかったんだよ。
忙しくしてる時に相談事なんてしにきちゃうなんて、迷惑すぎる……。
落ち着いて考えたら、別に、今日でなくてもいい相談事だから尚更だよ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつもりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。