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二年目 見習い期間 ~調薬工房~
あほだなあ
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アスラーダさんはお仕事がひと段落すると、リエラに向かって笑みを向けつつ謝罪する。
「待たせて悪かったな。」
「リエラの方こそ、こんな時間にごめんなさい……。」
――アスラーダさんが誤る事、なにもないのに。
むしろ、夜はもう、後は寝るだけって言う時間だと思い込んでて、お仕事をしている人もいるんじゃないかという事に思い至らなかったリエラの方が悪い。
心の中で猛省しながら頭を下げ返すリエラに、スルトが追い打ちをかけてきた。
「ホントに、こんな時間に男の部屋に訪ねてくるなんて、非常識だよな。」
「スルト。」
うぐぅ。
返す言葉もない。
でも、そんなスルトはアスラーダさんの叱責の声に肩を竦める。
「でも、師匠。キチンと言っとかないと、コイツまたやるからさ。」
「次から気をつければいいだけだろう?」
――はい。
心に刻ませていただきます……。
アスラーダさんからも、遠回しに非常識判決をいただいてしまったので、次回からは夜になってから突発的にお邪魔するのは止めることにしようと心に刻む。
しょんぼりとリエラが肩を落として俯くと、「で?」と、アスラーダさんから私が訪ねた理由の催促のお言葉。
そうやって、スルトの追及の手を逸らしてくれる彼のやさしさにひっそりと感謝しながら、こんな時間にお部屋を訪ねた理由を口にする。
「――実は、報告会の時に話が出てたウチのエリザの事でご相談したくって……。」
「エリザがなんかやったのか?」
リエラの言葉に、真っ先に反応したのはスルトだ。
それまで、退屈そうに椅子に居りかかって耳をパタパタさせていたのが一転、身を乗り出してくる。
「ああ、確か、お前達にとっての妹みたいな存在だったな。」
そういやそうだっけ。
エリザは、リエラの妹なだけじゃなくって、同じ孤児院で育ってるスルトにとっても同じような存在だもの。
「んで?」
スルトに促されて話し出したのは、昨日の一幕。
リエラが調薬工房に入って良った途端に起きた、エリザが調薬中のモノをぶちまけちゃったお話だ。
話している間は、逐次スルトから「どんな状態で作業してた?」とか、「どっち向いて作業してた?」なんていう質問が飛んでくる。
リエラが相談したかった内容を全部話し終わると、スルトは耳をペタンと伏せていかにも疲れましたという風にうなだれた。
「あほだなあ……。」
「そんな事ないよ、エリザだって失敗したくてしてる訳じゃ――」
うなだれながら、ポツリと漏らされた言葉を否定しようとすると、スルトは何故かリエラの事をビシッと指差す。
「あほなのは、リエラ、お前だろ。」
「え、リエラ??」
リエラは突きつけられた指を眺めて目を瞬いた。
訳が分かんないよ。
「まず、リエラが認識してる範囲で、エリザがドジ踏むのはどういう時だ?」
「えーと、予定外の事が起きた時でしょ? それから、同年代の子の前?」
「追加で、リエラにいいとこ見せたくて気合を入れすぎた時、だろ。」
ああ、言われてみると最後のは思い当たる節がなくもない。
というか、リエラに向かって「がんばるね!」と気合入れてた時に失敗しまくるのは、いいとこ見せたいがために力みすぎたせいだったのか。
エリザとの付き合いは長いのに、今、初めて知ったよ……。
「……それだと、同年代の娘が二人いる状態で常に作業をするのはきつそうだな。」
「うう、そうなっちゃいますよね……。」
「だよなぁ。」
それまでの間、黙って話を聞いていてくれたアスラーダさんが口にした結論に、リエラもスルトも天を仰ぐ。
調薬工房で一緒に学んでいるアッシェちゃんも、テミスちゃんも、エリザとは同い年だ。
同年代の子がいると失敗する確率が上がるんじゃ、どうしようもないよね。
そこをなんとかするいい案がないか、すがるような気持でアスラーダさんに目を向けると、彼はリエラの事を安心させてくれるいつもの頼りになる笑顔を浮かべる。
「同年代がいない環境であればいいというなら、手はあるだろう。その件に関しては、アスタールとセリスに俺の方から話してみる。」
「流石アスラーダさん!」
「師匠、リエラには甘いなぁ……。」
リエラが飛び上がって喜ぶと、スルトが悪態を吐く。
アスラーダさんは、スルトにも結構甘いと思うんだけどなあ……。
なんというか、懐に入れた相手の事を大事するタイプだよね。
アスラーダさんって。
「なにはともあれ、今日はもう遅いから二人とも部屋に戻れ。」
「ほーい。んじゃ師匠、また明日―。」
「アスラーダさん、遅くに相談に乗ってくれてありがとうございました。」
言われて、書棚の片隅に置かれた時計草の鉢植えを見てみると、もうその雌しべは9時を差してる。
来たのは8時になる前だったから、随分と長居しちゃったみたいだ。
のんびりと部屋を出ようとするスルトの後に続きながら、部屋を出る前にアスラーダさんに向かって丁寧に頭を下げる。
「いや、役に立てそうな話しで良かった。おやすみ、リエラ。」
「おやすみなさい、アスラーダさん。」
奥の席から立ち上がり、ひらりと手を振ってくる彼に向かい改めて小さく頭を下げた。
――エリザの件も、なんとかなりそうなのかな?
そう思って気を抜いた瞬間、閉めた扉の横で立ち止まっていたスルトにこめかみを指ではじかれる。
「アホリエラ。さっきみたいな話なら、まずは俺に相談しろよ。」
エリザの事なら、他人事じゃないんだから。
半眼になって鼻を鳴らす様子から、そんな副音声が聞こえた。
「あー……。言われてみればそうだったかも。ごめんね?」
「なんでそこで、疑問符つくんだよ。」
不機嫌そうな表情で毒づくけど、そんなに怒っていないというのは今までの経験上丸わかりだ。
スルトってば、素直じゃないんだから。
……リエラもあんまり人の事は言えないかもしれないけど。
「待たせて悪かったな。」
「リエラの方こそ、こんな時間にごめんなさい……。」
――アスラーダさんが誤る事、なにもないのに。
むしろ、夜はもう、後は寝るだけって言う時間だと思い込んでて、お仕事をしている人もいるんじゃないかという事に思い至らなかったリエラの方が悪い。
心の中で猛省しながら頭を下げ返すリエラに、スルトが追い打ちをかけてきた。
「ホントに、こんな時間に男の部屋に訪ねてくるなんて、非常識だよな。」
「スルト。」
うぐぅ。
返す言葉もない。
でも、そんなスルトはアスラーダさんの叱責の声に肩を竦める。
「でも、師匠。キチンと言っとかないと、コイツまたやるからさ。」
「次から気をつければいいだけだろう?」
――はい。
心に刻ませていただきます……。
アスラーダさんからも、遠回しに非常識判決をいただいてしまったので、次回からは夜になってから突発的にお邪魔するのは止めることにしようと心に刻む。
しょんぼりとリエラが肩を落として俯くと、「で?」と、アスラーダさんから私が訪ねた理由の催促のお言葉。
そうやって、スルトの追及の手を逸らしてくれる彼のやさしさにひっそりと感謝しながら、こんな時間にお部屋を訪ねた理由を口にする。
「――実は、報告会の時に話が出てたウチのエリザの事でご相談したくって……。」
「エリザがなんかやったのか?」
リエラの言葉に、真っ先に反応したのはスルトだ。
それまで、退屈そうに椅子に居りかかって耳をパタパタさせていたのが一転、身を乗り出してくる。
「ああ、確か、お前達にとっての妹みたいな存在だったな。」
そういやそうだっけ。
エリザは、リエラの妹なだけじゃなくって、同じ孤児院で育ってるスルトにとっても同じような存在だもの。
「んで?」
スルトに促されて話し出したのは、昨日の一幕。
リエラが調薬工房に入って良った途端に起きた、エリザが調薬中のモノをぶちまけちゃったお話だ。
話している間は、逐次スルトから「どんな状態で作業してた?」とか、「どっち向いて作業してた?」なんていう質問が飛んでくる。
リエラが相談したかった内容を全部話し終わると、スルトは耳をペタンと伏せていかにも疲れましたという風にうなだれた。
「あほだなあ……。」
「そんな事ないよ、エリザだって失敗したくてしてる訳じゃ――」
うなだれながら、ポツリと漏らされた言葉を否定しようとすると、スルトは何故かリエラの事をビシッと指差す。
「あほなのは、リエラ、お前だろ。」
「え、リエラ??」
リエラは突きつけられた指を眺めて目を瞬いた。
訳が分かんないよ。
「まず、リエラが認識してる範囲で、エリザがドジ踏むのはどういう時だ?」
「えーと、予定外の事が起きた時でしょ? それから、同年代の子の前?」
「追加で、リエラにいいとこ見せたくて気合を入れすぎた時、だろ。」
ああ、言われてみると最後のは思い当たる節がなくもない。
というか、リエラに向かって「がんばるね!」と気合入れてた時に失敗しまくるのは、いいとこ見せたいがために力みすぎたせいだったのか。
エリザとの付き合いは長いのに、今、初めて知ったよ……。
「……それだと、同年代の娘が二人いる状態で常に作業をするのはきつそうだな。」
「うう、そうなっちゃいますよね……。」
「だよなぁ。」
それまでの間、黙って話を聞いていてくれたアスラーダさんが口にした結論に、リエラもスルトも天を仰ぐ。
調薬工房で一緒に学んでいるアッシェちゃんも、テミスちゃんも、エリザとは同い年だ。
同年代の子がいると失敗する確率が上がるんじゃ、どうしようもないよね。
そこをなんとかするいい案がないか、すがるような気持でアスラーダさんに目を向けると、彼はリエラの事を安心させてくれるいつもの頼りになる笑顔を浮かべる。
「同年代がいない環境であればいいというなら、手はあるだろう。その件に関しては、アスタールとセリスに俺の方から話してみる。」
「流石アスラーダさん!」
「師匠、リエラには甘いなぁ……。」
リエラが飛び上がって喜ぶと、スルトが悪態を吐く。
アスラーダさんは、スルトにも結構甘いと思うんだけどなあ……。
なんというか、懐に入れた相手の事を大事するタイプだよね。
アスラーダさんって。
「なにはともあれ、今日はもう遅いから二人とも部屋に戻れ。」
「ほーい。んじゃ師匠、また明日―。」
「アスラーダさん、遅くに相談に乗ってくれてありがとうございました。」
言われて、書棚の片隅に置かれた時計草の鉢植えを見てみると、もうその雌しべは9時を差してる。
来たのは8時になる前だったから、随分と長居しちゃったみたいだ。
のんびりと部屋を出ようとするスルトの後に続きながら、部屋を出る前にアスラーダさんに向かって丁寧に頭を下げる。
「いや、役に立てそうな話しで良かった。おやすみ、リエラ。」
「おやすみなさい、アスラーダさん。」
奥の席から立ち上がり、ひらりと手を振ってくる彼に向かい改めて小さく頭を下げた。
――エリザの件も、なんとかなりそうなのかな?
そう思って気を抜いた瞬間、閉めた扉の横で立ち止まっていたスルトにこめかみを指ではじかれる。
「アホリエラ。さっきみたいな話なら、まずは俺に相談しろよ。」
エリザの事なら、他人事じゃないんだから。
半眼になって鼻を鳴らす様子から、そんな副音声が聞こえた。
「あー……。言われてみればそうだったかも。ごめんね?」
「なんでそこで、疑問符つくんだよ。」
不機嫌そうな表情で毒づくけど、そんなに怒っていないというのは今までの経験上丸わかりだ。
スルトってば、素直じゃないんだから。
……リエラもあんまり人の事は言えないかもしれないけど。
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