華麗なる婚約破棄!悪役令嬢と呼ばれた心境は…?

パリパリかぷちーの

文字の大きさ
7 / 28

7

しおりを挟む
翌朝。


『定食屋 悪役令嬢』の開店二日目。


私は、庭に転がっている死屍累々(熟睡する騎士たち)を見下ろして、仁王立ちしていた。


「起きなさい! 朝ですよ!」


カンカンカン!


フライパンとお玉を打ち鳴らす。


その音は、騎士たちにとって「起床ラッパ」というより「地獄の釜の蓋が開く音」に聞こえたらしい。


「ヒィッ! 敵襲!?」


「い、いや、店主殿だ……殺される……!」


騎士たちが飛び起き、直立不動の姿勢をとる。


「おはようございます、皆様。昨夜はよく眠れましたか?」


私は極上の笑顔(のつもり)で挨拶した。


しかし、寝起きの低血圧で目がいつも以上に座っており、しかも逆光を浴びていたため、彼らには「影を背負った魔王」に見えたようだ。


「ハッ! 快適でありました! 野宿には慣れております!」


アラン副団長が、顔面蒼白で敬礼する。


「それはよかった。では、朝食にしましょうか」


「あ、ありがとうございます! 昨日の肉が忘れられず……」


「その前に」


私はスッと右手を上げた。


騎士たちがビクッと身をすくめる。


「働かざる者食うべからず。我が家の家訓です」


「は……?」


「昨日の食事代、まだ頂いてませんよね? それに、今日も食べるおつもりなら、労働で返していただきます」


私は指をパチンと鳴らした。


「業務命令です。総員、開店準備に取り掛かりなさい!」


「イ、イエスマム!!」


騎士たちの悲鳴に近い返事が、森に響き渡った。





こうして、王国の精鋭であるはずの騎士団が、辺境の定食屋の従業員に早変わりした。


彼らのスペックは無駄に高かった。


「薪割り班、作業完了! 一刀両断にしてやりました!」


「水汲み班、完了! 筋トレついでに井戸を掘り広げておきました!」


「狩猟班、帰還! オーク三匹、仕留めました! 今日のランチはオーク肉のソテーであります!」


仕事が早い。


そして何より、力が有り余っている。


「素晴らしいわ。これなら人件費ゼロで回せそうね」


私は厨房でオーク肉の下処理をしながら、満足げに頷いた。


「ミール、あいつらをあまり甘やかすなよ」


ジークが、私の隣で大量のキャベツを千切りにしながら言った。


彼もまた、騎士団長の威厳をかなぐり捨て、完全に「厨房のオヤジ」と化している。


「甘やかしてませんよ。むしろ酷使してます」


「いや、あいつら……楽しそうだぞ」


ジークが顎で庭を指す。


見ると、騎士たちが「うおおお! もっと木を運べ! 腹を減らして最高の昼飯を食うんだ!」と叫びながら、満面の笑みで重労働に励んでいた。


「……単純な子たちで助かります」


「餌付けが完了しているな」


そんな時だった。


「た、頼もーッ!!」


入り口の方から、野太い声がした。


騎士たちが動きを止める。


「客か?」


「いや、あの装備は……冒険者だな」


現れたのは、四人組の男たちだった。


革鎧に剣や杖を持った、いかにも「駆け出し冒険者」といった風情のパーティーだ。


彼らは、店の入り口(元・廃屋の玄関)で固まっていた。


「おい、ここだよな? 森の中から美味そうな匂いがするって噂の場所……」


「で、でも見ろよあの看板。『悪役令嬢』だぞ? 罠じゃねぇか?」


「それに、あの店員(騎士)たち……目が血走っててヤベェぞ」


冒険者たちが怯んでいる。


無理もない。


ボロボロの鎧を着た大男たちが、斧や鉈を持ってニタニタ笑っているのだ。山賊のアジトにしか見えない。


「いらっしゃいませ!」


私は厨房から声を張り上げた。


「お客様、第一号ですよ! 逃がしてなるものですか!」


「言い方が怖いぞ、ミール」


ジークにツッコまれたが、私は包丁を持ったまま玄関へと向かった。


「お待ちしておりました。どうぞ中へ」


私は冒険者たちの前に立った。


逆光。


包丁。


そして、いつもの「よく見えないので凝視する目つき」。


冒険者たちの顔が引きつる。


「ひっ……! で、出た! ラスボスだ!」


「『悪役令嬢』って、物理的に悪役ヅラじゃねぇか!」


「おい、帰ろうぜ! ここはヤバイ!」


冒険者たちが踵を返そうとする。


(えっ? 帰るの? なんで?)


私は焦った。


せっかくの第一号だ。みすみす逃すわけにはいかない。


「ちょっと待ってください!」


私は彼らを呼び止めようと、手を伸ばした。


しかし、距離感が掴めず、一番後ろにいた魔法使いの少年のローブを鷲掴みにしてしまった。


「ぎゃあぁぁ! 捕まったぁぁ!」


「あ、ごめんなさい! 離しませんよ!」(意訳:行ってしまわないでください、のつもり)


「ひぃぃぃ! 食われるぅぅぅ!」


「食いませんよ! 食わせるんです!」


「同じだぁぁぁ!」


大パニックである。


「アラン! お客様をご案内して!」


私は部下(騎士)に指示を出した。


「ハッ! 了解!」


アラン副団長が、猛然とダッシュしてくる。


そして、逃げようとする冒険者たちの前に立ちはだかり、抜身の剣(薪割り用)を地面に突き刺した。


ドスッ!!


「お客様ァァァ!! 席は空いております!! どうぞこちらへェェェ!!」


アランは大音量で叫んだ。


これは彼なりの「最上級の接客(軍隊式)」だったのだが、効果は逆だった。


「脅迫だ! 座らないと殺される!」


「座ります! 座らせていただきます!」


冒険者たちは涙目でテーブル席(切り株)に着席した。


直立不動で震えている。


「……なんか、思ってたのと違うわね」


私は首を傾げた。


「もっとこう、アットホームな雰囲気にしたいんだけど」


「無理だろ、このメンツじゃ」


ジークが呆れ顔で水を運んでいく。


「ほら、水だ。落ち着け」


「あ、ありがとうございます……あ、あれ? あんた、どこかで……?」


冒険者の一人が、ジークの顔を見てハッとした。


「まさか、王国最強の騎士団長、ジークフリート様!?」


「人違いだ。俺はただのウェイターだ」


「いやいや! その銀髪、その傷跡! 間違いねぇ! なんでこんな所に!?」


「借金のかたに売られたんだ」


「えええええ!?」


冒険者たちが私を見る目が、さらに恐怖に染まった。


『王国最強の男を、借金漬けにして奴隷にする女……』


『真の闇のフィクサー……』


ヒソヒソ声が聞こえる。


(……まあいいわ。料理を食べれば誤解も解けるはず)


私は厨房に戻り、フライパンを振るった。


今日のメニューは『オーク肉のスタミナガーリックソテー・山盛り』だ。


ジュウウウウ!


ニンニクと脂の弾ける香りが、恐怖で凍りついた空気を溶かしていく。


「……い、いい匂いだ」


「ヤベェ、腹が鳴る……」


冒険者たちの生存本能(食欲)が刺激される。


「はい、お待ちどうさま!」


ドンッ!


山盛りの肉料理が運ばれる。


「食え。残したら店主(ミール)が悲しむ。……悲しむと、何をするかわからんぞ」


ジークが脅し文句(アドバイス)を添える。


冒険者たちは覚悟を決めて、フォークを突き刺した。


そして。


「…………美味いッ!!」


「なんだこれ!? オーク肉ってこんなに柔らかくなるのか!?」


「味が濃い! 脂が甘い! 最高だ!」


一瞬で恐怖が吹き飛んだ。


彼らは夢中で肉を貪る。


「お代わり! 金ならあるんだ! いくらでも払う!」


「まいどあり!」


私はニヤリと笑った。


(勝ったわ。胃袋さえ掴めば、こっちのものよ)


騎士たちも、客が美味そうに食べるのを見て、なぜか誇らしげに胸を張っている。


「そうだろそうだろ! 俺たちの店主殿の料理は世界一だ!」


「食ったら働けよ! あ、いや、金払えばいいのか」


店内は奇妙な活気に包まれた。


恐怖と食欲が同居する、カオスな空間。


冒険者たちは完食後、膨れた腹をさすりながら言った。


「いやぁ、死ぬかと思ったけど、来てよかった」


「また来ます! 次は仲間も連れてきます!」


「ええ、ぜひ。歓迎しますよ(物理的に)」


私は出口まで見送った。


彼らは何度も振り返り、手を振って去っていった。


「……どうやら、成功みたいだな」


ジークが私の隣に立つ。


「ええ。これで噂が広まれば、もっと繁盛しますよ」


「だが、変な噂にならなきゃいいが……」


ジークの懸念は的中する。


数日後、最寄りの街のギルドでは、こんな噂が持ちきりになっていた。


『北の森に、凶悪な魔女が支配する館がある』


『そこには、洗脳された元騎士団長と狂戦士たちが待ち構えている』


『だが、そこで出される料理は、魂が震えるほど美味い』


『通称、命がけのレストラン』


結果として、怖いもの知らずの冒険者や、味を求めて死地に向かう美食家たちが殺到することになるのだが、それはまた別の話だ。


「さあ、今日は稼ぎましたね! 明日はもっと効率よく働かせますよ!」


「お手柔らかに頼むよ、店主殿」


ジークが苦笑いする。


夕焼けの中、私は売上金(銀貨数枚)を数えながら、確かな手応えを感じていた。


私のスローライフ改め、定食屋経営ライフは順調だ。


……ただ一つ、ジークとの距離感が、妙に近いこと以外は。


(あれ? ジークさん、なんで私の眼鏡を探してくれてるのかしら? というか、顔が近すぎて呼吸音が聞こえるんですけど)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?

ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」  華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。  目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。  ──あら、デジャヴ? 「……なるほど」

【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

【完結】この運命を受け入れましょうか

なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」  自らの夫であるルーク陛下の言葉。  それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。   「承知しました。受け入れましょう」  ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。  彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。  みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。  だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。  そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。  あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。  これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。  前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。  ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。     ◇◇◇◇◇  設定は甘め。  不安のない、さっくり読める物語を目指してます。  良ければ読んでくだされば、嬉しいです。

君といるのは疲れると言われたので、婚約者を追いかけるのはやめてみました

水谷繭
恋愛
メイベル・ホワイトは目立たない平凡な少女で、美人な姉といつも比べられてきた。 求婚者の殺到する姉とは反対に、全く縁談のなかったメイベル。 そんなある日、ブラッドという美少年が婚約を持ちかけてくる。姉より自分を選んでくれたブラッドに感謝したメイベルは、彼のために何でもしようとひたすら努力する。 しかしそんな態度を重いと告げられ、君といると疲れると言われてしまう。 ショックを受けたメイベルは、ブラッドばかりの生活を改め、好きだった魔法に打ち込むために魔術院に入ることを決意するが…… ◆なろうにも掲載しています

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける

堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」  王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。  クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。  せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。  キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。  クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。  卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。  目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。  淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。  そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

処理中です...