華麗なる婚約破棄!悪役令嬢と呼ばれた心境は…?

パリパリかぷちーの

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「ふはははは! 見ろ、ジークフリート! この皿の輝きを! 一点の曇りもない、まさに王家の審美眼が成せる業だ!」


厨房の隅で、オズワルド王子が勝ち誇ったように叫んだ。


彼の手には、洗剤の泡で真っ白になったスポンジと、不気味なほど発光している大皿が握られている。


「……殿下。あんた、いつまでそこに居座るつもりだ。邪魔なんだが」


ジークが、出来上がった料理を運ぼうとして、狭い通路を塞いでいる王子を冷たく見下ろした。


銀髪の騎士団長と、泡まみれの王子。


かつての主従関係は、この狭い定食屋の厨房において完全に崩壊していた。


「邪魔とは失礼な! 私は今、この店の『清潔水準』を劇的に向上させているのだ! 貴様のような、ただ力自慢で肉を焼くだけの男とは格が違うのだよ!」


「力自慢、か。……ミールの安全を守っているのは俺だ。皿を洗うだけで彼女の隣に立てると思うなよ」


ジークの声が、一段と低くなった。


その瞳には、かつての部下としての敬意ではなく、一人の男としての「独占欲」が微かに混じっている。


「ほほう? 隣に立つだと? 笑わせるな。ミールは私の元婚約者だ。彼女が真に求めているのは、洗練された王家の気品……そしてこの、完璧に洗浄された陶器の美しさに決まっている!」


「……あんた、本当に何も分かってないんだな」


ジークは溜息をつき、手に持っていたトレイをガシャンと台に置いた。


「ミールがどれほど苦労して、この店を守ってきたか。あんたが王宮でふんぞり返っていた間、彼女がどんな思いで辺境を走っていたか。……それを知らないあんたに、彼女を語る資格はない」


ジークが一步、王子に詰め寄る。


圧倒的な体躯と、戦場をくぐり抜けてきた男の覇気。


オズワルドは思わず「ひっ」と声を漏らし、スポンジを握りしめたまま後ずさった。


「な、なんだその目は! 反逆か!? この私を、洗剤の海に沈めるつもりか!」


「反逆? いいえ、ただの『教育』ですよ、殿下」


そこに、私が眼鏡をキラリと光らせながら割って入った。


右手には巨大な中華鍋、左手にはおたま。


今の私は、調理の熱気で少し顔が紅潮しているが、その瞳は相変わらず鋭い。


「ジークさん、殿下。私語は厳禁です。手が止まっていますよ」


「ミール! 聞いてくれ、この男が私を脅すのだ!」


「姉御、こいつがいつまでも通路を塞いで自慢話を……」


二人が同時に私に詰め寄る。


私は、至近距離で二人の顔を交互に眺めた。


(……ふむ。やっぱり眼鏡があるとよく見えるわね。ジークさんの男らしい凛々しさと、殿下の……無駄に整ったヘタレ顔)


私は眼鏡のブリッジを指で押し上げた。


「いいですか。今の私にとって、ジークさんは頼れる『右腕』。そして殿下は、非常に優秀な『自動皿洗い機』です」


「じ、自動皿洗い機……!?」


オズワルドがショックで膝をつく。


「殿下。才能があると言ったのは本心です。ですが、才能に溺れて他人の仕事を邪魔するのは、二流のすることですよ。……もしこれ以上ジークさんの邪魔をするなら、外のトイレ掃除に配置転換します」


「トイレ掃除だと……!? この私が、神聖なる排泄の場を……!」


「嫌なら、黙って磨きなさい。……ジークさんも、料理を冷まさない。お客様が待っています」


「……了解だ、姉御」


ジークは苦笑いしながら、再びトレイを持ち上げた。


彼は通り過ぎる際、オズワルドの耳元でだけ聞こえる声で囁いた。


「……ミールが見ているのは、あんたの身分じゃない。今の『働き』だ。せいぜい、クビにならないよう励むんだな」


「ぐ、ぐぬぬ……!!」


ジークが去った後、オズワルドは呪うような手つきで再び皿を磨き始めた。


「見ろ、ミール! 次の皿だ! 私は絶対にジークフリートには負けんぞ! いずれ貴様の『一番』になってみせる!」


「はいはい。一番綺麗な皿、期待してますよ」


私は適当に受け流し、再び強火で野菜を炒め始めた。


(……なんだか、店がますます騒がしくなってきたわね)


私は立ち上る炎を見つめながら、ふと思った。


ジークが私を見守る視線が、最近少しずつ熱を帯びてきていること。


そして、あんなに私を恐れていた王子が、今や私の評価を求めて必死に皿を磨いていること。


(まあ、売り上げが伸びて、店が綺麗になるなら、些細なことはどうでもいいわ!)


私は豪快に鍋を振った。


店内に、ジークの頼もしい足音と、オズワルドの必死な水音が調和(?)して響き渡る。


こうして、元騎士団長と元王子の、不毛で熱い「ミールの右腕争奪戦」が幕を開けたのである。


もっとも、当の本人は「今月のガス代が安くなるといいわね」という、極めて現実的なことしか考えていなかったのだが。
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