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「……ちょっとジークさん! そっちのボアの丸焼き、火加減が強すぎますわ! 焦げたら商売あがったりです!」
「分かってるって! だがミール、今日は俺たちの結婚式なんだぞ!? 新婦がフライパンを握って指揮を執る式なんて聞いたことがない!」
辺境の森に、かつてないほどの喧騒が響き渡っていた。
今日は『定食屋 悪役令嬢』の店主ミールと、看板ウェイター(元騎士団長)ジークの結婚式。
だが、そこに「しめやかな儀式」の気配は微塵もなかった。
広場には巨大な樽酒が並び、数十台のコンロからは肉の焼ける暴力的な香りが立ち上っている。
「当たり前でしょう! これだけのお客様が集まってくださったんです。最高の料理でおもてなしするのが、定食屋の矜持ですわ!」
私は純白のウェディングドレス……の上に、特製の「寿」エプロンを締め、眼鏡をキラリと光らせた。
右手にはおたま、左手には披露宴の進行表。
「姉御ー! 隣町の村長さんたちが到着しました! 追加の唐揚げ、三十人前お願いします!」
「アラン! 返事は『イエスマム』でしょう! ほら、ジークさん、揚げ場に回ってください!」
「……ああもう、分かったよ! 幸せすぎて涙が出るぜ(油の煙で)」
ジークがやけくそ気味に袖をまくり、大量の肉を油に放り込む。
そんな喧騒の中、広場の入り口に豪華な馬車が止まった。
「……なんだ、この下品なほどに美味そうな匂いは。辺境の民は、結婚式を炊き出しと勘違いしているのか?」
馬車から降りてきたのは、王都から駆けつけたオズワルド王子。
その隣には、すっかり辺境の空気に馴染んだ様子のリリアが、満面の笑みで立っていた。
「ミール様! ジーク様! おめでとうございますわ!」
「リリアさん、殿下! よく来てくださいました!」
私は手を休めることなく、二人を呼び寄せた。
「殿下、ちょうど良かったですわ。お客様が急増して皿が足りません。あそこの洗い場、空いてますよ」
「……貴様。私は一国の王子として、祝辞を述べに来たのだぞ? それをいきなり――」
「才能を腐らせるおつもりですか? 殿下の磨いた皿でなければ、この最高級ボア肉は映えません」
「…………ふん。そこまで言うなら、仕方のないことだ。リリア、マントを持て! 今日の私は『皿洗い将軍』として再臨する!」
オズワルドは流れるような動作で正装を脱ぎ捨て、厨房へと突撃していった。
「……あの殿下、本当に楽しそうね」
リリアが呆れたように、しかし温かい目で見送る。
「ミール様。……本当に、綺麗ですわ。眼鏡も、ドレスも」
「ありがとうございます、リリアさん。……でも、少し視界が曇ってきましたわ。幸せのせいかしら?」
「いいえ、目の前でジーク様が焼いているステーキの煙ですわよ」
私たちは顔を見合わせて笑った。
宴は夜まで続いた。
メインイベントは、ケーキ入刀ならぬ「特大ミートパイ入刀」。
「……さあ、ジークさん。共同作業ですよ」
「ああ。……これからも、お前の作る飯を一番近くで食わせてくれ」
ジークが私の手を握り、巨大なナイフを肉の壁に突き立てる。
「「「おおおおおーーーッ!!!」」」
騎士たち、冒険者、村人たち、そして皿洗いから解放された王子の歓声が夜空に溶けていく。
「……ジークさん。私、ここに来て良かったですわ」
「……俺もだ、ミール。……お前を追放した王子には、今となっては感謝しかないな」
「あら、それは私のセリフですわよ」
私は眼鏡を外し、少しだけぼやけた世界の中で、隣にいる愛しい「銀色の塊」に寄り添った。
「定食屋 悪役令嬢、明日からも大繁盛間違いなしですわね!」
「……ああ。……だが明日は、少し寝坊させてくれよ?」
「お断りします。仕込みは朝五時からですわ!」
辺境のフェスティバルは、明け方まで終わることはなかった。
「分かってるって! だがミール、今日は俺たちの結婚式なんだぞ!? 新婦がフライパンを握って指揮を執る式なんて聞いたことがない!」
辺境の森に、かつてないほどの喧騒が響き渡っていた。
今日は『定食屋 悪役令嬢』の店主ミールと、看板ウェイター(元騎士団長)ジークの結婚式。
だが、そこに「しめやかな儀式」の気配は微塵もなかった。
広場には巨大な樽酒が並び、数十台のコンロからは肉の焼ける暴力的な香りが立ち上っている。
「当たり前でしょう! これだけのお客様が集まってくださったんです。最高の料理でおもてなしするのが、定食屋の矜持ですわ!」
私は純白のウェディングドレス……の上に、特製の「寿」エプロンを締め、眼鏡をキラリと光らせた。
右手にはおたま、左手には披露宴の進行表。
「姉御ー! 隣町の村長さんたちが到着しました! 追加の唐揚げ、三十人前お願いします!」
「アラン! 返事は『イエスマム』でしょう! ほら、ジークさん、揚げ場に回ってください!」
「……ああもう、分かったよ! 幸せすぎて涙が出るぜ(油の煙で)」
ジークがやけくそ気味に袖をまくり、大量の肉を油に放り込む。
そんな喧騒の中、広場の入り口に豪華な馬車が止まった。
「……なんだ、この下品なほどに美味そうな匂いは。辺境の民は、結婚式を炊き出しと勘違いしているのか?」
馬車から降りてきたのは、王都から駆けつけたオズワルド王子。
その隣には、すっかり辺境の空気に馴染んだ様子のリリアが、満面の笑みで立っていた。
「ミール様! ジーク様! おめでとうございますわ!」
「リリアさん、殿下! よく来てくださいました!」
私は手を休めることなく、二人を呼び寄せた。
「殿下、ちょうど良かったですわ。お客様が急増して皿が足りません。あそこの洗い場、空いてますよ」
「……貴様。私は一国の王子として、祝辞を述べに来たのだぞ? それをいきなり――」
「才能を腐らせるおつもりですか? 殿下の磨いた皿でなければ、この最高級ボア肉は映えません」
「…………ふん。そこまで言うなら、仕方のないことだ。リリア、マントを持て! 今日の私は『皿洗い将軍』として再臨する!」
オズワルドは流れるような動作で正装を脱ぎ捨て、厨房へと突撃していった。
「……あの殿下、本当に楽しそうね」
リリアが呆れたように、しかし温かい目で見送る。
「ミール様。……本当に、綺麗ですわ。眼鏡も、ドレスも」
「ありがとうございます、リリアさん。……でも、少し視界が曇ってきましたわ。幸せのせいかしら?」
「いいえ、目の前でジーク様が焼いているステーキの煙ですわよ」
私たちは顔を見合わせて笑った。
宴は夜まで続いた。
メインイベントは、ケーキ入刀ならぬ「特大ミートパイ入刀」。
「……さあ、ジークさん。共同作業ですよ」
「ああ。……これからも、お前の作る飯を一番近くで食わせてくれ」
ジークが私の手を握り、巨大なナイフを肉の壁に突き立てる。
「「「おおおおおーーーッ!!!」」」
騎士たち、冒険者、村人たち、そして皿洗いから解放された王子の歓声が夜空に溶けていく。
「……ジークさん。私、ここに来て良かったですわ」
「……俺もだ、ミール。……お前を追放した王子には、今となっては感謝しかないな」
「あら、それは私のセリフですわよ」
私は眼鏡を外し、少しだけぼやけた世界の中で、隣にいる愛しい「銀色の塊」に寄り添った。
「定食屋 悪役令嬢、明日からも大繁盛間違いなしですわね!」
「……ああ。……だが明日は、少し寝坊させてくれよ?」
「お断りします。仕込みは朝五時からですわ!」
辺境のフェスティバルは、明け方まで終わることはなかった。
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