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幕間6 三姉妹の優雅な作戦会議
しおりを挟む――それは、メイベル達がお風呂を上がり、着替えて部屋に戻った直後のこと。
「「じー…………」」
「あ、あの……二人とも……?」
エリーはソフィアとメイベルによって壁際へ追い込まれ、無言の圧力を受けていた。
「あ、謝るから許してよぉ……。これからはもっと恥じらいを持ちます……ごめんなさい……」
涙目になりながら、がくりと項垂れるエリー。
「……あんたがお風呂でお兄ちゃんに抱きついたことに関してはちょっとだけムカついてるけど……問題はそこじゃないわ」
「ふぇ…………?」
「お兄ちゃんの態度……見たでしょ」
「…………ど、どういうこと?」
エリーは首を傾げながら問いかける。
「このわたしが! あられもない姿でお風呂に入って来たっていうのに、あの反応は一体どういうことよ?! 顔くらい赤くしてもいいじゃない!」
「……私の裸を見ても……おにーさまは何とも思ってない……。子供扱い……屈辱だわ…………!」
「エリーに至ってはあんな格好で抱きついたのよ? それなのに、何が『もうちょっと恥じらいを持って欲しいな』よ! 恥じらいがないのはお兄ちゃんの方でしょ!」
「あぁ……おにーさまにとって私達は……どこまでいってもただの『可愛い妹』なのね…………」
そう言って露骨に落ち込むメイベルとソフィア。
「可愛い妹じゃだめなの……?」
「ふん! あんたがそれで良いなら良いんじゃない?」
「わ、分かんないよぉ……」
「――あんただって知ってるでしょ? わたし達とお兄ちゃんに血の繋がりはないの……本当はもう、わたし達はお兄ちゃんの妹ですらないのよ……」
「え…………?」
メイベルから改めてそう指摘されたエリーは、きょとんとした顔をした。
それから、段々と言われたことの意味を理解し始め、涙目になっていく。
「そんなぁ……! そんなの……やだよぉ……! 血の繋がりなんて関係ないもん!」
「……でも、悪いことばかりではないわ。いえ……血が繋がっていないからこそ……良いこともある……」
「ど、どうしてそんなこと言うのソフィア!? おにーちゃんのこと嫌いになっちゃったの……?」
「…………最後まで話を聞いて。血が繋がっていないということはつまり……」
「つまり?」
「おにーさまと……結婚できるということよ……!」
「――――――ッ!」
刹那、エリーの身体を電流が駆け巡った。
エリーは小さい頃に「あたち、おにーちゃんとけっこんすゆ!」と告白し、「兄妹どうしはけっこんできないんだよ!」と返され大号泣したことがある。
それ以来エリーは無意識のうちに、アニに対する淡い恋心を「おにーちゃん大好き!」という妹としての気持ちに置き換えて、押し殺して来たのだ。
だがしかし、ソフィアの指摘によって突然その障害が取り払われたのである。
押さえつけてられていたエリーの想いは、一気に溢れ出した。
その結果――
「じゃあおにーちゃんと結婚して来る!!」
エリーは暴走した。
「ま、待ちなさいよエリー!」
「今すぐにしようとするのは……無謀よ……!」
部屋を出て行こうとするエリーを、慌てて取り押さえるメイベルとソフィア。
「離してよぉっ! あたしはおにーちゃんと結婚するの! いっぱいキスとかしちゃうのっ! らぶらぶになるのぉっ!」
「ばか、落ち着きなさい! さっきのお兄ちゃんの態度を見たでしょ? お兄ちゃんはわたしたちのことを妹だとしか思ってないの!」
「今告白したところで……絶対に成功しない……引かれて距離を置かれるだけ……!」
――二人にそう言われて、エリーは漸《ようや》く理解する。
「つまり、今のあたしには……オトナのオンナとしてのみりょくが足りない……ってこと……??」
「少しズレてるけど、大体そんな感じよ! 何とかして、鈍感なお兄ちゃんにわたし達の魅力を理解させるの!」
「…………お風呂に忍び込んだのは……おにーさまの気持ちを探るため……結果としてぜんぜんダメだったわ……」
ため息混じりに呟くソフィア。
「なるほど、おにーちゃんは強敵なんだね……!」
「そうよ。だから三人で力を合わせて倒すの!」
「……どうやったらおにーさまを恋に落とせるか……作戦会議を始めましょう」
本題に戻り、肩を寄せ合う三人。
「「「おー!!!」」」
――妹達の思惑を、アニはまだ知らない。
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