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49.1935年頃 過去
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――オランダ アムステルダム 用宗 過去
オランダと日本が経済協定を結んだので、用宗らの語学学校はオランダへ進出すべく、彼はオランダの首都アムステルダムへ来ていた。用宗はオランダ語が出来ないため、現地のドイツ語が分かるオランダ人と一緒に行動している。
このオランダ人は既に用宗らの語学学校で雇入れた人物で、用宗らは日本語学校オランダ支店を彼に任せるつもりでいる。
進出予定のビルへ二人は到着し、周囲の環境をチェックする。都合のいいことに入居予定のビルの向かいにオープンカフェがあったので二人はそこでコーヒーを飲むことにした。
二人はコーヒーへ口をつけつつ、今後の学校運営について議論を交わしていく。
「ヘルマンさん。オランダと日本は江戸時代からの付き合いです。日本にもオランダ語ができる人材がきっといると思います」
「オランダ国内に日本語のできる人は皆無です。居たとしても政府関係者だけでしょう」
進出予定のオランダ人スタッフ――ヘルマンは肩を竦め現状を憂う。
「日本で一人か二人、オランダで働いてくれる人を捜してみます。ヘルマンさんは日本語の出来る人を一応当たっていただけますか?」
「私の知る限り……知り合いにはいませんが募集はしてみますね」
「ヘルマンさんが居てくれて幸いでしたよ。日本語、ドイツ語、英語、オランダ語の四つを理解するなんて貴重な人材ですよ」
用宗はヘルマンを褒めたたえると、彼は恥ずかしそうに頭をぼりぼりと掻きむしった。
「用宗さんこそ、三か国語を理解するじゃないですか」
「私は元々通訳の仕事をしていたんですよ」
「そうだったんですか。私もです。私は昔ドイツで働いていたのですよ」
「そうだったんですか! どこかでお会いしてたかもしれませんね」
「そうかもしれませんね」
二人は笑い合い、コーヒーのお代わりを注文する。
「そういえば、また西プロイセンで騒ぎがあったそうですね」
ヘルマンは眉をひそめ、用宗へ低い声で呟く。
「ええ。スペインでは泥沼の内戦。西プロイセンではまた騒ぎとはやく落ち着いてくれればいいんですが……」
「日本の艦隊がスペインに来ているとか」
「はい。私も新聞で知って驚きました。日本は十五年ぶりの実戦ですよ」
「もう十五年も経つんですか。そら私達も歳をとるわけだ」
「ははは。私もあと数年で引退ですよ」
「引退後は日本へ?」
「はい。そのつもりです」
欧州大戦から十五年、日露戦争からもう三十年近く経つのか……用宗は改めて時の流れを思い出すと、この三十年の日本の目覚ましい発展に思わず顔が緩む。
三十年前はアジア人と言うだけで、眉をひそめるドイツ人は多数いたものだが、今となってはどうだ? 歓待こそ受けるが、アジア人ということで見下されることはほとんどない。
いかにこの三十年で日本がドイツや周辺国へ影響を及ぼしたのかは、現地の人たちと接していれば良くわかる。用宗は再びコーヒーに口をつけ、大きな息を吐く。
「用宗さんが日本に帰ると寂しくなりますね」
「たまには戻ってきますよ。あと十年もすれば気軽に飛行機でここまで来れるはずですから」
「航空機の発達は目覚ましいですね。そのうちオランダと日本の直通便が出来たりするかもしれませんね」
「きっとできますよ。どこへだって乗り換え無しで飛行機で来れる時代が……」
――磯銀新聞
どうも! 日本、いや世界で一番軽いノリの磯銀新聞だぜ! 今回はエッセイストの叶健太郎が執筆するぜ! え? 引退したんじゃなかったのかって。ああ。引退したよ。
俺だって歳だからなあ。磯銀新聞社は五十五歳で強制定年だからな。俺だって歳を取れば引退だよ。じゃあなんで叶が書いてるのかって? 俺はエッセイストの叶健太郎。そう磯銀新聞へエッセイを書くことを依頼されてここに書いているのだ。
どうだ。驚いたか? え? もういいって。長生きしてくれって? ああ。任せておけよ。死ぬまで磯銀新聞を書いてやるからな。覚悟しておけよ。あと二十年はいけるはずだ。
日本とイタリアが経済協力協定を締結したのは去年の話なんだが、両国は政治的には対立しているんだよなあ。それでもビジネスは別ってことなのかね。
スペイン内戦ではイタリアは独裁政権樹立を目指す反乱軍側につき軍隊を送り、日本はカタルーニャ独立派につき艦隊をイギリスと共同で派遣している。
ここでは、反乱軍もイタリアも独立派の主権を認めると宣言を出しているから、反乱軍と独立派の間に紛争は無い。元々独立派の勢力圏であるカタルーニャ地方は政府側が握っていた地域だったから、反乱軍としてはカタルーニャ地方の前に政府軍を倒す必要があるってことだな。
これで苦しくなったのはソ連が押す政府軍だ。カタルーニャ地方の戦いでは、洋上から日英軍艦隊から艦砲射撃で沿岸部から排除され、続いて日英軍の航空機による爆撃が始まると、政府軍はカタルーニャ地方から撤退した。
カタルーニャ地方はカタルーニャ共和国として再度独立宣言を行い、列強の承認を求める。彼らの領域はカタルーニャ、アラゴン、バレンシア、バレアレス諸島のスペイン南西部一帯だ。
イギリス、日本、フランス、ドイツ、オーストリア連邦はカタルーニャ共和国を即座に承認する。遅れてイタリアもカタルーニャ共和国を承認。イタリアが承認したことで、反乱軍とポルトガルもカタルーニャ共和国を承認する。
列強ではアメリカとソ連がカタルーニャ共和国を承認していないが、アメリカは局外中立を宣言しており、スペイン情勢が落ち着けば国家承認を行うと発表している。
日英の援護もあり敗れた政府軍は、カタルーニャ共和国は共和国外へ侵攻しないと表明しているので、大胆に全てのカタルーニャ側の軍を引きあげる。併せてもう一方の独立勢力であるバスク方面からも軍を引き、全て反乱軍へ差し向けた。
スペイン北西部、スペイン南西部で反乱軍と政府軍の激しい戦いが今も続いている。戦いは泥沼の様相を見せ始めているが、カタルーニャ共和国内で戦闘行為は行われておらず、日英による復興支援が始まっているってわけだ。
話がスペイン情勢に移ってしまったが、イタリアは自国の植民地に挟まれているエチオピア帝国を植民地化しようと軍を派遣する構えを見せていた。これに対し、エチオピア帝国はなんと日本へ仲裁を求めたんだ!
これには寝耳に水の日本政府だったが、先に反応したのはイタリアだった。イタリアはエチオピア帝国の仲裁要請の事を聞きつけると日本へ対応会議の主催を提案したのだった。イタリアの提案は日本とイタリアの二国でエチオピア問題について協議したいということだった。
エチオピア帝国が無視された形になるが、日本は平和的な解決を目指すとイタリアの提案を受け入れ、エチオピア帝国とも別途会議の場を持つとエチオピア帝国へ通達した。
いやあ。数年前までだと、ここまでイタリアと日本が関わるなんて思ってもみなかったよな。何とか平和的に解決してもらいたいものだよ。
そうそう、イギリスと日本の技術交流も進んでいるんだぜ。何やら繊維会社同士が共同でポリエチレンとかいう新素材の開発に着手したとか話を聞いたぜ。日本の繊維会社はさらにアメリカの繊維会社とも技術協力を行って、ナイロンという新素材の量産に踏み切るそうだ。
ポリエチレンとかナイロンってどんな繊維なんだろうなあ。いずれお茶の間で見ることになることだろう。
オランダと日本が経済協定を結んだので、用宗らの語学学校はオランダへ進出すべく、彼はオランダの首都アムステルダムへ来ていた。用宗はオランダ語が出来ないため、現地のドイツ語が分かるオランダ人と一緒に行動している。
このオランダ人は既に用宗らの語学学校で雇入れた人物で、用宗らは日本語学校オランダ支店を彼に任せるつもりでいる。
進出予定のビルへ二人は到着し、周囲の環境をチェックする。都合のいいことに入居予定のビルの向かいにオープンカフェがあったので二人はそこでコーヒーを飲むことにした。
二人はコーヒーへ口をつけつつ、今後の学校運営について議論を交わしていく。
「ヘルマンさん。オランダと日本は江戸時代からの付き合いです。日本にもオランダ語ができる人材がきっといると思います」
「オランダ国内に日本語のできる人は皆無です。居たとしても政府関係者だけでしょう」
進出予定のオランダ人スタッフ――ヘルマンは肩を竦め現状を憂う。
「日本で一人か二人、オランダで働いてくれる人を捜してみます。ヘルマンさんは日本語の出来る人を一応当たっていただけますか?」
「私の知る限り……知り合いにはいませんが募集はしてみますね」
「ヘルマンさんが居てくれて幸いでしたよ。日本語、ドイツ語、英語、オランダ語の四つを理解するなんて貴重な人材ですよ」
用宗はヘルマンを褒めたたえると、彼は恥ずかしそうに頭をぼりぼりと掻きむしった。
「用宗さんこそ、三か国語を理解するじゃないですか」
「私は元々通訳の仕事をしていたんですよ」
「そうだったんですか。私もです。私は昔ドイツで働いていたのですよ」
「そうだったんですか! どこかでお会いしてたかもしれませんね」
「そうかもしれませんね」
二人は笑い合い、コーヒーのお代わりを注文する。
「そういえば、また西プロイセンで騒ぎがあったそうですね」
ヘルマンは眉をひそめ、用宗へ低い声で呟く。
「ええ。スペインでは泥沼の内戦。西プロイセンではまた騒ぎとはやく落ち着いてくれればいいんですが……」
「日本の艦隊がスペインに来ているとか」
「はい。私も新聞で知って驚きました。日本は十五年ぶりの実戦ですよ」
「もう十五年も経つんですか。そら私達も歳をとるわけだ」
「ははは。私もあと数年で引退ですよ」
「引退後は日本へ?」
「はい。そのつもりです」
欧州大戦から十五年、日露戦争からもう三十年近く経つのか……用宗は改めて時の流れを思い出すと、この三十年の日本の目覚ましい発展に思わず顔が緩む。
三十年前はアジア人と言うだけで、眉をひそめるドイツ人は多数いたものだが、今となってはどうだ? 歓待こそ受けるが、アジア人ということで見下されることはほとんどない。
いかにこの三十年で日本がドイツや周辺国へ影響を及ぼしたのかは、現地の人たちと接していれば良くわかる。用宗は再びコーヒーに口をつけ、大きな息を吐く。
「用宗さんが日本に帰ると寂しくなりますね」
「たまには戻ってきますよ。あと十年もすれば気軽に飛行機でここまで来れるはずですから」
「航空機の発達は目覚ましいですね。そのうちオランダと日本の直通便が出来たりするかもしれませんね」
「きっとできますよ。どこへだって乗り換え無しで飛行機で来れる時代が……」
――磯銀新聞
どうも! 日本、いや世界で一番軽いノリの磯銀新聞だぜ! 今回はエッセイストの叶健太郎が執筆するぜ! え? 引退したんじゃなかったのかって。ああ。引退したよ。
俺だって歳だからなあ。磯銀新聞社は五十五歳で強制定年だからな。俺だって歳を取れば引退だよ。じゃあなんで叶が書いてるのかって? 俺はエッセイストの叶健太郎。そう磯銀新聞へエッセイを書くことを依頼されてここに書いているのだ。
どうだ。驚いたか? え? もういいって。長生きしてくれって? ああ。任せておけよ。死ぬまで磯銀新聞を書いてやるからな。覚悟しておけよ。あと二十年はいけるはずだ。
日本とイタリアが経済協力協定を締結したのは去年の話なんだが、両国は政治的には対立しているんだよなあ。それでもビジネスは別ってことなのかね。
スペイン内戦ではイタリアは独裁政権樹立を目指す反乱軍側につき軍隊を送り、日本はカタルーニャ独立派につき艦隊をイギリスと共同で派遣している。
ここでは、反乱軍もイタリアも独立派の主権を認めると宣言を出しているから、反乱軍と独立派の間に紛争は無い。元々独立派の勢力圏であるカタルーニャ地方は政府側が握っていた地域だったから、反乱軍としてはカタルーニャ地方の前に政府軍を倒す必要があるってことだな。
これで苦しくなったのはソ連が押す政府軍だ。カタルーニャ地方の戦いでは、洋上から日英軍艦隊から艦砲射撃で沿岸部から排除され、続いて日英軍の航空機による爆撃が始まると、政府軍はカタルーニャ地方から撤退した。
カタルーニャ地方はカタルーニャ共和国として再度独立宣言を行い、列強の承認を求める。彼らの領域はカタルーニャ、アラゴン、バレンシア、バレアレス諸島のスペイン南西部一帯だ。
イギリス、日本、フランス、ドイツ、オーストリア連邦はカタルーニャ共和国を即座に承認する。遅れてイタリアもカタルーニャ共和国を承認。イタリアが承認したことで、反乱軍とポルトガルもカタルーニャ共和国を承認する。
列強ではアメリカとソ連がカタルーニャ共和国を承認していないが、アメリカは局外中立を宣言しており、スペイン情勢が落ち着けば国家承認を行うと発表している。
日英の援護もあり敗れた政府軍は、カタルーニャ共和国は共和国外へ侵攻しないと表明しているので、大胆に全てのカタルーニャ側の軍を引きあげる。併せてもう一方の独立勢力であるバスク方面からも軍を引き、全て反乱軍へ差し向けた。
スペイン北西部、スペイン南西部で反乱軍と政府軍の激しい戦いが今も続いている。戦いは泥沼の様相を見せ始めているが、カタルーニャ共和国内で戦闘行為は行われておらず、日英による復興支援が始まっているってわけだ。
話がスペイン情勢に移ってしまったが、イタリアは自国の植民地に挟まれているエチオピア帝国を植民地化しようと軍を派遣する構えを見せていた。これに対し、エチオピア帝国はなんと日本へ仲裁を求めたんだ!
これには寝耳に水の日本政府だったが、先に反応したのはイタリアだった。イタリアはエチオピア帝国の仲裁要請の事を聞きつけると日本へ対応会議の主催を提案したのだった。イタリアの提案は日本とイタリアの二国でエチオピア問題について協議したいということだった。
エチオピア帝国が無視された形になるが、日本は平和的な解決を目指すとイタリアの提案を受け入れ、エチオピア帝国とも別途会議の場を持つとエチオピア帝国へ通達した。
いやあ。数年前までだと、ここまでイタリアと日本が関わるなんて思ってもみなかったよな。何とか平和的に解決してもらいたいものだよ。
そうそう、イギリスと日本の技術交流も進んでいるんだぜ。何やら繊維会社同士が共同でポリエチレンとかいう新素材の開発に着手したとか話を聞いたぜ。日本の繊維会社はさらにアメリカの繊維会社とも技術協力を行って、ナイロンという新素材の量産に踏み切るそうだ。
ポリエチレンとかナイロンってどんな繊維なんだろうなあ。いずれお茶の間で見ることになることだろう。
応援ありがとうございます!
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