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前編

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 至って普通の一国民だった俺。ある日突然、才能が開花し、魔物を倒し、魔獣を倒し、魔王を封印した。国は平和になり、俺はすこぶるモテた。
 だが、お偉いさんが勧めてくる女はどれも好きじゃない。思い込みかもしれないが、奴らは派手で、高飛車で、庶民の俺を見下してる節があり、気が強い。俺はこう、もっと清楚な感じでおとなしくて聡明な女が好きなんだ。そう、あの文官みたいな。
 うるんだ黒目がちの瞳に伏せがちなまつげ、サラサラのストレートロングでぽってりと柔らかそうな唇。文官らしく控えめなメイクとカッチリとしたスーツが似合う。まさにどストライクだ。
 一生を添い遂げるなら、彼女がいい。

 俺は自慢じゃないが、女に困ったことはない。勝手に向こうからやってくる。だから、向こうからやってこない相手はどうしたらいいんだ?

「そりゃ、押し倒してアンアン言わせりゃいいだろ。俺はいつもそうだ。」
 一緒に魔王を封印する旅をした戦士は、口の端をわずかに上げて笑った。

 うん。いいな。押し倒そう。
 処女だし(決めつけ)、洒落た宿屋に連れ込んで、じわじわ楽しみたいな。とりあえず、飯でも誘って、酒でも飲んで、気が緩んだところをペロッといこう。なかなかいい作戦(平凡)を思い立ち、文官の執務室へ向かった。

 文官の執務室のドアは珍しく薄く開いており、隙間から覗いても誰もいる様子はない。留守か。
 そう思って立ち去ろうとしたとき、俺の超絶優秀な聴覚はかすかな声をキャッチした。

「はぁ……んっ。」

 誰かいる。クローゼットの中か。

「……んっ。ふぁ。」くちゅ。

 荒い息遣い。かすかな水音。

「はぁ……今日も……かっ……いぃ。」

 これは。

「ぁん。はぁ……あ、いきそ。」

 紛れもなく……ヤってる?

 気づいたら俺は、その場を走り去っていた。
「くそ。誰とやってんだ。うらやまけしからん。処女じゃなかったのかよ。」
 ちょっとだけ泣いた。
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