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78話 出会いの旅路 6
しおりを挟む領都ゼニアスに着いた翌日。
ゼニス伯爵への謁見は叶ったようで、エリザベットさんは朝から"灰狼の牙"の男2人と店長を連れてでかけていった。
王様に謁見するのが先なので、販売はまだしないが、懇意にしているゼニス伯爵には先にオレのアクセサリーを見てもらうらしい。
"人との関り合いをもっと積極的にする"とは言ったが、やっぱり貴族とはあんまり関わりたくないので、オレは付いていかない。
ーーーーーーーーーー
「きゃー!これ可愛い!」
「こっち!このちょっと"カッコいい"が入ってるのがいいの!」
「このちょっと綺麗系もいいですよ」
「どれも王子様みたいだねー」
…オレは今、着せ替え人形になっている。
出かけたいというジャネットちゃんの要望に、店員さんと"灰狼"の女性陣が加わり、オレも付いていったんだけど、
「リルトくんの着飾った服が見たい」
という話になり、オレも平民服しか持ってないし、「必要になるかもな」と思ったのが運の尽き。
ちょっと高級めの服屋に入ったので、最初は静かな雰囲気に飲まれてたんだけど、服屋の女性店員もノリノリで加わり、騒ぎを聞き付けた女性店主まで「お安くしますので、オーダーメイドで作りましょう!」とか言い出して…
かれこれ2時間は「あれがいいこれじゃない」が続いている。
「…そろそろ勘弁してもらえないでしょうか?」
ーーーーーーーーーー
「ふ~、…紅茶が美味しい」
やっと着せ替え人形から解放され、今は昼食後のデザート&ティータイム。
オレは最初に自分で選んだ、ちょっと刺繍が入っているオシャレめのトーガ風の服を着ている。
ちなみに人形にされてた間に髪もサイドを編み込まれ、イヤーカフのようなアクセサリーまで着けている。
着飾っているからか、疲れたアンニュイな表情が刺さったのか、周りの女性客の視線がいつもよりも多い。
「リルトくん」
"灰狼"の斥候ビアンカさんが、目線だけで"あるテーブル"を指し示す。
そこには赤い髪の、いかにもお嬢様といった出で立ちの若い女性と、メイド服の女性がこちらを見ながら話している。
あの二人には、店に入った時から注意していた。
そもそも店の外に、オフの冒険者のような剣を佩いた男が二人いて、店内を伺っていたのを見たからだ。
(貴族のお嬢様と付き人&護衛、なんだろうな…)
「出た方がいいですかね?」
「…遅かったみたい」
例のテーブルを見ると、お嬢様がこちらを指差しながら何か言い、メイド服の女性が他のテーブルの間を縫って、こちらへ向かって来ている。
(…チッ)
メイドはすぐにオレ達のテーブルの横に立った。
「ご歓談中、失礼します、そちらの方」
「ボクですか?」
「はい、当家のお嬢様が、少しお話しをしたいと仰っております。
あちらの席へおいで頂けないでしょうか?」
「分かりました。
すぐに伺いますので、席でお待ち頂けますか?」
「ありがとうございます。
それではお待ちしております」
メイドは軽く会釈すると席へ戻って行く。
「リルトくん…」
"灰狼"のマーガレットさんが、心配そうに話しかけてくる。
「とりあえず、ボクが向こうの席に行ったタイミングで店を出て下さい。
お嬢様を置いて護衛が離れる事は無いでしょうから。
ボクは適当に切り抜けますから、もし夕食までに宿へ戻って来なかったら、気にせず明日早めの時間に出発して下さい」
「分かった」
ビアンカさんが強く頷く。
「…お兄ちゃん」
ジャネットちゃんも不穏な空気を感じたのか、心配そうだ。
「大丈夫だよ、一緒に王都に行くからね」
「うん!」
オレは席を立ち、お嬢様のテーブルへ向かう。
(残念だったねお嬢様、こういう事態は想定済みだよ)
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