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140話 幕間 信仰の行方 1
しおりを挟む「ご馳走さまでした」
「ごちそうさま」
「キュキューン!」
朝食を終えた二人と一匹が元気に立ち上がり食堂を出て行く。
「さて、じゃあ準備して出かけようか?」
「うん」
「キュキュ!」
「いってらっしゃいませ、リルト様」
「いってきます大司教」
今日はギルドに寄ってから王都外へ出て訓練をされるらしい。
昨日"魔物引き連れ"を起こした不埒者達を国に突き出した後、何故かリルト様が何日か教会に泊まりたいと仰って、私は喜び即座に了承した。
リルト様が何者なのかは分からない。
ただ一つ言える事は、世界中探してもその危機に神託が降りたり、守る為に天使様が勅使として降りて来られたりする人間など、リルト様以外いないという事だ。
そのような神に近しい方のお世話を出来るのは、神官としての最大級の喜びだ。
オルガスティアに配属された私はなんて運がいいのだろうか…
「大司教…いや、何でもありません、いってきます」
「…いってらっしゃいませ」
リルト様が教会に泊まったのは、どうやら私に何かお話しがあっての事のようだが、今はまだ踏ん切りがつかれないご様子。
急かす必要も無いのでリルト様から切り出されるのをお待ちしている。
ーーーーーーーーーー
翌日、朝からナザリオ=パリエルス殿がリルト様を訪ねて来た。
食堂の少し離れた席で話し合っていたが、何やら手紙を受け取って読んだリルト様が、
「そっちか~、手付かずだったツケが回って来た…」
と、項垂れておられた。
ナザリオ殿が帰られ、急遽別行動する事にした二人、ポラリスさんはリルト様と同じランクになる為、依頼を受けに冒険者ギルドへ出かけて行った。
リルト様は買い物に行き戻って来られると、
"自作ポーションでの治療院の手伝いをしたい"
と仰られた。
さすがに患者の身体の事でもあるので断ろうかとも思ったが、
「…内緒ですけど実はボク、"鑑定"のスキルを持ってるんです。
なので、ちゃんとした効果のポーションしか使いませんから」
「…そうですか、それなら大丈夫ですね」
私は色々飲み込んで了承し、シスターに治療院へ案内されるリルト様を見送った。
"鑑定"はかなり希少なスキルだ、文献などを調べても習得者として知られているのは、"大賢者"、"賢者"、"勇者"、"聖女"の4職業だけ。
リルト様は【D・S】というギルドの歴史上初めて登録された希少斥候職である事を自ら明かされていた。
ワーディル老がダンジョン産の魔道具を与えてまで隠蔽した"創造錬金術師"といい、リルト様は一体どれだけの力を持ってらっしゃるのか…
夕方近く、ポーションのおかげで治療が捗ったとシスターにお礼を言われながら戻って来られたリルト様が、夕食後礼拝殿を締め切りに出来ないか?と聞かれた。
夕食後の時間であれば既に一般の入館時間は過ぎているし、通達しておけば神官達も入らないように出来ると答えると、そこで話したい事があると仰られた。
そして夕食後。
身を清め、緊張しながら礼拝殿に行くとリルト様は既にいらっしゃっており、説法の時等に使われる長椅子の列の先頭で静かに御神像を見上げて座っておられた。
私はリルト様に素早く近づき、
「お待たせして申し訳ありません」
と頭を下げる。
「いえ、大して待ってませんよ、大司教も座って下さい」
促されるまま隣に座ると、リルト様はまた神像を見上げ、そのまま話し始めた。
「大司教は神官になって長いんですか?」
「ええ、25の時に神殿の門を叩きそろそろ50年ほどでしょうか」
「…ずっとこちらに?」
「いえ、私は"紛争地帯"の出身でして」
「…たしか大陸北西の小国群地域ですよね?」
「はい、そこで傭兵をしておりました」
リルト様が驚いた顔で一瞬こちらに目を向ける。
「あそこでは手に職が無い者は皆兵隊か傭兵になりますから。
25まで様々な戦地を渡り歩き、友も、家族も、結局生まれた国さえも失って、戦いに疑問を感じて剣を置いたのです」
「…神官になって良かったですか?」
「…そうですね、少なくとも神々があの馬鹿な地域を認めておられない事が分かって安心はしました」
「そうなんですか?」
「ええ、あんな戦いしか脳の無い国々でも教会だけは安全ですから、そこから長年入って来ている情報で、あの地域だけ戦闘に関する職業やスキルの発現率が他と比べて4割は低い事が分かっています」
「4割?それは大きく違いますね」
「ええ、どれだけ研究しても原因は全く分からず"神の采配"だと言われています」
「なるほど…下らない戦いを続けるならスキルはやらん、と?」
「そうとしか思えませんね。
だから私は"神の愛"を信じる事が出来、それを広める仕事に誇りを持っています」
「そうですか…
大司教、今から私が行う事を、その結果何かが起きたとしてもその事を黙っていてもらえますか?」
リルト様の目は真剣だ。
私の答えは決まっている。
「分かりました。これからここで何が起ころうとも決して誰にも話しません」
「あぁいや、大司教が話しても問題無いと思える相手になら話しても構いませんよ。
まぁ、何も起きない可能性もある…あって欲しいなぁ…」
リルト様は少し遠い目をされていたが、意を決したように立ち上がられ、御神像前の礼拝場に進んで行かれる。
私はゆっくりとその後に続き、少し離れた場所で見守る。
リルト様はラテルを側に降ろしながら片膝を突き、両手を顔の前で組み合わせ祈りの体勢を取る。
仄かに立ち登るリルト様の魔力の行方をふと見上げて目を見開く。
マルティアル様の像の頭上遥か先の何もない空間から、糸のような細い金色の光が地上へゆっくりと伸びて、リルト様の頭上へ降りてくる。
「あ、あの光は…」
金色の光がリルト様の頭上に到達した瞬間、激しい光に襲われ視界を奪われた。
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