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144話 幕間 伏魔殿の住人 1

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 夜のオルガスティア城。
 いつもなら城で働く者達のいる場所以外は灯りも消え静まり返っているが、今夜は違う。

 城へ続く道には魔道具のランプがともされ、玄関口である正門前では馬車が次々ときらびやかな服装の人々を吐き出し、城勤めの従者による案内で城内へ吸い込まれていく。

 上層にある窓からその光景を眺めていたリナ王妃は部屋を振り返るとため息をつく。

 そこには、
 せっかく整えた髪をいつものクセで掻きむしる夫ランドルフと、
 それを見て呆れた表情のマリウス、
 そして両手を煌めく赤い髪の後ろで組みランドルフを見てケラケラと笑う、ゼニス領主であり元パーティーメンバーのアレクトスの三人がソファーに座っている。

「もう、いい加減にしなさいよランディ」
 冒険者時代のメンツが集まると今でもつい出てしまう昔の呼び名で夫をたしなめる。

「だってよ~…」

「考えても無駄ですよ。
 それとも大司教に力ずくで口を割らせるんですか?」

「…そんなの無理な事くらい俺だって分かるわ」


「確かにあの"神託騒ぎ"の大元であるエルフ少年がまさか"創造錬金術師"様だったなんて、いよいよ何者なのか気にはなるけど追及しちゃダメって天使様に言われてるんでしょ?
 いい加減冒険者時代の探求心の強さは仕舞って 諦めなさいよ」


 そう、ナザリオ=パリエルス殿を介して助力を得られた"創造錬金術師"様が、晩餐会後に私達と面談したいという事で喜んで了承したところ、錬金術師様はナザリオ殿ではなく、ロンドル大司教と一緒に晩餐会に出席すると言われた。

 一体どういう事かと思っているところに差し出された教会からの出席届けには、大司教の名と共にあのリルトというエルフ少年の名前が書かれていたのだ。


「モノホンの天使様か~、俺も見たかったな~。
 しかも"第一位階"だろ?」
 アレクトスは気楽な調子でマリウスに問う。

「ええ、確かにあの女性天使様は自らを"熾天使セラフィム"と言っていました。
 魔力の強さも圧力も全く感じる事が出来なかったのでなんとも言えませんが、背後にいた護衛の天使様二人は圧の強さからおそらく大天使アークエンジェルだったと思います」

「"鑑定"しなかったのかよ?」

「…神託の勅使の方を鑑定する馬鹿がどこにいるんですか」
 マリウスは呆れ顔だ。


 私達は冒険者時代、挑戦していたダンジョンの深い階層で天使(こちらは本物ではなく幻影のようなものだけど)に遭遇して、あまりの強さにその階層で攻略を諦めた過去がある。
 あの時の天使は"第五位階 力天使ヴァーチャー"。
 2体同時に現れれば撤退と決めていた相手の4つ上の強さ…正直想像がつかない。


「だいたいお前らはいいじゃん、丁寧に接してればいいんだからよ。
 俺なんて謝罪スタートだぞ? 気が重いっつーの」
 アレクトスはそのままの体勢で口を大きく開け上を見上げる。


 アレクトスは娘さんが町中でリルトさんに一目惚れした挙げ句、貴族を笠に着て冒険者ギルドから配下に引き込もうとした、というなかなかな事を仕出かしていて、今日出会ったらまずはその謝罪をしなければならない。
 …確かにそれは気が重いだろう。


「でもギルドには報告は上がってなかったんだろ?」
 ランドルフが問う。

「まぁ、娘には"リーフ"って名乗ったらしいけど、普段そんな略称使ってないみたいだからな」

「そっちは錬金術師として使ってる略称みたいですね、
"うやむやにしておくからそちらも…"
という事なんでしょう」

「それがなかったら、冒険者ギルドと、教会と、神様と揉める事になってた、ってことか」
 ランドルフがニヤニヤしながらアレクトスを見る。

「…勘弁してくれ。
 そういう意味でも今日は謝罪と感謝だな」

「娘さんは大丈夫?」

「あぁ、さすがに今回の事で元妻絡みの従者は全員追い出したからな。
 うちの古参従者達がガンガン躾直してるぞ」


 アレクトスは15歳で許嫁の伯爵家息女と婚姻したが、そのあまりの我が儘、浪費家ぶりにアレクトスがキレて2年で離縁した。

 産まれた娘はアレクトスの父親が可愛がっていたので引き取ったが、元妻の置いていった従者が甘やかしアレクトスも娘を放って冒険者を楽しんでいたので、いつの間にか由緒正しいダメ貴族になりかけていた。

 ランドルフの王位継承でパーティーが解散になったのに合わせてアレクトスも冒険者を辞めて伯爵位を継承したが、慣れない領主業に四苦八苦していて気づかない間に今回の騒動が起きてしまった、という訳だ。


「まぁ、私とランドルフも寝ている時に一度見ただけですが綺麗な少年だったので、年頃の娘さんが暴走するのもしょうがないですよ。
 ギルドの評判では温厚で人当たりも柔らかいという事ですから、穏便に済むと思いますよ?」

 マリウスがアレクトスを慰めるように言う。
 元、とはいえパーティーメンバーの娘が仕出かした事だ、私達も一緒にフォローしなければ。



 ランドルフとの子を産む、という私の夢も今日一歩前進するかも知れないのだ。
 まずはその助力をしてくれるリルトさんの為に今夜の晩餐会とオークションを成功させなくては!




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