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218話 幕間 王 3

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「おい貴様!ノルグ殿をすぐに開放しろ!さもないと…」
 キリアムが剣に手をかける。


「おい…何で私の前で勝手に喋って勝手に行動してる?
 いつから近衛騎士は王より偉くなったんだ?」
 私は背後を振り返りキリアムに訊ねる。


「い、いえ、そのようなつもりは…ですが我が国の貴族に対するあの仕打ちは見過ごせません!」

 コイツはあの女騎士もメイド二人の強さも感じ取れて無いのか…何でこんなのが近衛に入れてるんだ?

 …? よく考えたら、何故いまだに落ちぶれたヒグチ家の人間を庇う?
 …まだ何かがあるとでも言うのか?
 宰相に調べさせた方がいいか。


 獣人の若者は女騎士の圧から自分では太刀打ち出来ないと気づいたのか剣には触れない。
 魔法士の若者もメイドの魔力からあの二人が上位精霊だと気づいたのだろう、大人しく状況を見守っている。


「一応確認するがノルグ卿、まず貴殿は何故またこの国にいるんだ? 大使の任は解かれているだろう?」

「あ、いや、その…急に帰国してしまったので、懇意にしていた方々に改めてご挨拶に来ていたのです!」

 …お前が懇意にしてたのなんてどうせ大国にすり寄る下っ端貴族くらいのモノだろ。

「で?リルトくんを拉致して暴行を加えた、と言われているが?」

「それは勘違いなのです!
 私はこの少年が拉致されたのを助けに入ったのですが、仲間と間違われて捕らえられてしまったんです」

 …まぁ証拠が出てくるかは怪しいところだし、言い逃れるのは簡単…


《うるさい!貴様のせいでワシは…ヒグチ家は…》


 リルトくんが持つ玉から光が放射され、壁にどこかの部屋の写真が映され、動いている?
 玉からはノルグそのものの声が聞こえてくる。

「は?」
 ノルグは呆けた顔でその動く写真を見ている。


《だから闇ギルドまで使って報復ですか?》

《お、俺を雇ったのはコイツじゃねぇ。 ヒグチ家の家宰って男だ》

《…なるほど。 実家の使いっ走りってヤツですか》

《うるさい!うるさい! 存分にいたぶってからと思ったがもういい、このガキが!ぶっ殺してやる!》


「「……」」
 貴族とは思えないガラの悪いノルグを見て、自国の一員でしかも貴族だと思うといたたまれない気分になる…



「り、リルトくん。 念の為聞きたいんだけど今のは…?」

「ボクの作った"写真機"の発展型である魔道具です。
 見て頂いて分かる通り、その場の情景と音を記録出来ます」


 …素晴らしい魔道具だ。 ちょっと考えただけでも様々な有効活用法が模索出来る。
 まぁノルグからすれば最悪の魔道具だろうが。


「…監視しておくのも手間でしょうから、とりあえず飛空艇が来るまでは預かっておきますね」

 リルトくんがそう言ってメイドを振り向くと、三人の虜囚は再度ストレージ内に連れて行かれる。


「……」
 流石にキリアムもあの魔道具を見て擁護ようご出来ないと思ったのか黙って見送っている。


 リルトくんの横に女騎士、背後には二人の精霊が戻って来た。
 リルトくんはストレージを閉じるとこちらを向き直り私を見る。


「私は…アリルメリカとの折衝せっしょうを続けても本当に大丈夫ですか?」

「……」

「ベアトリーチェ殿下は会談をした際、ボクの安全に考慮して、
"まずは王と三人で話し合う"
と言ってくださいました。
 ですが国の側では、既にボクに接触していて一番に注意しなければならないヒグチ家さえ野放しにしている。
 ボクの安全に気を使うつもりは無い。という事ですか?」


 私は頭を下げる。
「…すまなかった。 完全にこちらの落ち度だ。
 かなりの制裁を加えたので大人しくなるとたかくくっていた。」

「陛下! このような下々の者に頭を下げるのはお止め下さい!」
 キリアムが声を上げる。


「そして…このようにボクに敵対的だと分かった者さえ、まだこの会談の場に留めておく…」


…ボウッ!


 リルトくんの背後に控えていた赤い髪のメイドの半身が炎に変わる。
 かろうじて人の輪郭を留める炎の身体は周囲を燃やさず、熱も伝えて来ない。
 炎の中で強く光る瞳はキリアムをジッと見つめていて、次に何か言えばその瞬間にはキリアムが消し炭になるのが幻視される。


 私は背後を振り返りキリアムを見る。
「自分の部屋に戻っていろ」

「陛下、わ、私は…」

「聞こえなかったのか? 私は戻っていろとしたんだ」

「か、かしこまりました」
 キリアムは頭を下げ部屋を出て行く。


 リルトくんは人の身体に戻った赤い髪のメイドの頭を撫でている。

「お父様…」
「ボクの為に怒ってくれたんだよね? ありがとね」

「パパ!」
 隣では黄緑髪のメイドが頭を下げ、自分の頭を両手の人差し指で指し示している。

「はいはい」
 リルトくんは小さく笑いもう一人のメイドの頭も撫でる。

(お父様?…パパ?)

「サリーも撫でてあげようか?」
「けっこうです」
 女騎士はそっぽを向く。





「…いいなぁ」

 リーチェの呟きを気にしてる場合じゃない。
 この最悪の状況をなんとかしないと…



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