【本編完結】欠陥Ωのシンデレラストーリー

カニ蒲鉾

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1【運命との出会い】

1-9 社内案内(5)

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 *****
 
 
 
「落ち着いたかな?」
「……はい、すみません取り乱してしまって」
「全然。様子を見に行ってみてよかったよ」
 
 
 楓珠さんと対面して座るここは社長室。
 数分前カフェから飛び出したところを楓珠さんと遭遇し、僕の表情を一目見てとりあえず移動しようかとそのまま連れてきてもらって今に至る。 

 
「午前中一緒に行動してた水嶋くんから、二人が社内のカフェでランチまで一緒していると聞いてね。息子たちが仲良くなったことが嬉しくてお節介なおじさんは野次馬精神が働きました」
 
 
 おどけてそう仰っているが、目の前に座る楓珠さんもここには居ない水嶋さんも間違いなく多忙な人達。それなのに、注目を浴びることを苦手とする部下を心配し、気にかけてくださる優しい二人に申し訳ない気持ちで顔が上げられない。
 
 
「ご心配をおかけしてしまって…すみません」
「つかさくんが謝る事なんて何も無いよ、楓真くんの配慮がたらなかったのが悪い。父親として教育し直さないとだね~好きな子不安にさせるなんてナンセンスすぎ。外見はイケメンに育ってくれたのに中身が紳士じゃないなんて御門家のアルファとしてダメダメだよ全く」
 
 
 はぁ、とため息を吐く楓珠さんの言葉に目を見張ってしまう。
 
 
「そんなっ楓真さんは全然悪くなくて……僕が勝手に、耐えられなくなってしまって……」


 慌てて否定するが、特に上手い言い訳も出てこず口ごもっていると意外なところで楓珠さんが驚いたリアクションを投げてきた。


「名前で呼んでるんだ」
「え――」
「楓真くんのこと、名前で呼んでくれてるんだね。つかさくんがこの短時間で名前で呼ぶくらいには楓真くんは心を許された、って解釈してもいいのかな?」
「あ……」
 
 
 嬉しそうにそう尋ねてくる楓珠さんの優しい表情が、つい先程まで一緒にいた楓真さんと重なり、楓珠さんを通して年齢を重ねた楓真さんを想像してしまう。
 
 
「楓真さんは……とても優しい方ですね」
「どこら辺が?」
「すごく気にかけてくださるんです。何をするにも常に僕が最優先で、ニコニコ見守られて…」
 
 
 一瞬も悩むことなく即答できてしまったことに驚きながらもスラスラ言葉を続ける僕を、楓珠さんは本当に嬉しそうに見守ってくれる。
 そういうところまで親子揃って似ているんだと、また更に共通点を見つけていた。
 
 
「親の私が言うのもなんだけどね、楓真くんは本当に優しい子なんだ。一見ちょっと迫力あるから近寄り難い所もあるんだけど、大切な人をちゃんと大切にできるいい子。
 離れて暮らしていたのも、当時、番を亡くして、だけど仕事は待ってくれない状態で、お恥ずかしながら全然余裕のなかったあの時の私を気遣って自ら海外に行くなんて10歳の子に言わせてしまってね……。あの子に父親らしい事を何一つやってあげられなかったから、今からでもできる事はなんでもやってあげたいんだ。だから、つかさくんには悪いんだけど、私は二人の恋のキューピットとして動き回っちゃうよ」
 
 
 許してね、とウインクまでいただいてしまう。
 そこでふと、湧き上がる疑問。

 この人は当然のように僕が楓真さんの番だと受け入れているように見えて―――
 
 
「あの…もし本当に僕が楓真さんの運命で、万が一、番になるなんて事になったら――」
「もちろん私は大歓迎だよ。元々つかさくんは息子も同然なんだから、それが婿として御門家に来てくれたら――本当の家族になれたら私は嬉しい」
「……家族」
 
 
 とっくの昔に僕がなくしてしまった存在。
 
 実は何度も楓珠さんから養子縁組しようと話を持ち掛けていただいていたが、今で充分良くしていただいてこれ以上望むことはできなかった。
 なのに―――
 
 
「……と、この話はここまでにしようか、そろそろ楓真くんが乗り込んできそうだ」
 
 
 そう言いながらスマホの画面をヒラヒラ見せられる。そこには『父さん今どこ?』『つかささんと一緒だよね?』『社長室?』と連投する楓真さんのメッセージ画面が映されていた。きっとつかさくんの方にも連絡行ってるんじゃないかな、と言われ確認してみるとまさに有り得ないほどの通知が今もなおリアルタイムで届いていた。
 
 勝手なことをして楓真さんを置いてきてしまった僕に対するメッセージを見るのが怖く、開けないでいると、頭にポンと小さな衝撃を受ける。
 驚き顔を上げると、いつの間にか目の前に立つ楓珠さんに優しい手つきで頭を撫でられた。
 
 
「これだけは覚えておいてね。楓真くんのお父さんであると同時に私はつかさくんの味方でもあるから、もし楓真くんに泣かされるようなことがあったら……私が代わりにつかさくんをお嫁さんに貰おうかな」
「え――」
 
 
 聞き返そうとしたちょうどその時、なんの前触れもなく派手な音を立て社長室の扉が開かれた。
 大きな音にビクッと揺れてしまう肩を、楓珠さんの手が宥めるように撫でてくれる。
 
 
「いた、つかささん」
「ふう…ま、さん」
 
 
 ソファに座ったまま動けないでいる僕だけを見つめ、室内へ入ってくる彼の様子は先程とだいぶ変わり果てていた。綺麗に着こなしていたスーツのジャケットはボタンが全て外されネクタイも緩められている。前髪も少し乱れていた。
 その姿はまるで、ここまで走ってやって来たことを表しているようで言葉を失う。
 
 誰も何も言わないまま縮まる距離。
 とうとう目の前まで到達すると、彼の視線は肩の上に置かれた楓珠さんの手へ向かった。
 
 そして――素早い動きでその手を払い除けたかと思えば、彼の元へ引き寄せられる。

 
「っ、」
「俺を置いていかないで…つかささん…」

 
 お願い、お願いだから、と強く抱きしめられ、しまいには座った僕の腹部に抱きつくような形でズルズル座り込んでしまう楓真さん。
 
 誰をも魅了するピラミッドの頂点アルファが、一人のオメガに跪き縋る、そんな信じられない光景がいま目の前で繰り広げられていた。
 
 
 
 
 
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