【本編完結】欠陥Ωのシンデレラストーリー

カニ蒲鉾

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3【発情期】

3-7 嫌がらせ(3)

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「な…にこれなにこれなんなのこれぇっ!」
 
 
 悲鳴をあげながらその壁へ駆け寄っていく花ちゃんを追って端から端までじっと視線を動かす。
 
 
「楓真くん何ぼっとしてんの!早く剥がして!上の方は僕じゃ届かないから!」
「っ、ごめ――」
 
 
 咄嗟に動けなくなる俺の背中をバシッと叩き現実に引き戻してくれる花ちゃん。
 勢いよく剥がしていく彼に続き、A4のコピー用紙へと腕を伸ばし、破くように剥がしていった。
 
 
 あっという間に跡形もなく全て剥がし終えると、先の廊下へ視線を飛ばす。
 この15階には最奥から社長室、社長専属秘書室の他にあと数名の重役とその秘書の部屋が位置している。
 
 
「花ちゃん、それつかささんの目に入らないよう秘書室で処理してもらってもいい?」
「もちろん任せて」
 
 
 剥がしたもの全てを花ちゃんへお願いし、共にした道のりを俺だけ途中で立ち止まる。
 別れて先に進む後ろ姿を見送って、普段素通りするエレベーター降りて4番目の部屋の前へ立った。
 
 
 【専務秘書室】
 
 
 人の気配は感じない。
 
 だけど本能が、ここに居る、と告げていた。
 
 
 コンコンコン―――
 
 
「……」
 
 
 返事はない。
 
 微動だにしないドアノブに手を伸ばすとそっと回し、ゆっくり押し開く。
 少しずつ広がっていく向こうの空間を細目で見つめていると、不意に、その扉が別の力で勢いよく引っ張られた。
 
 
「っ」
 
 
 バランスを崩した拍子に伸びてきた腕に室内へ引っ張り込まれ、気付いた時には強く壁に押し付けられていた。
 
 
 両脇を腕で囲われ、つかささんの慣れた引くさよりさらに低い位置にある顔がじっと俺を見上げてくる。
 
 
「――、何のつもりですか……椿姫さん」
 
「来るのを待っていました楓真さん」
 
 
 にっこりと、妖艶に微笑む椿姫さんに離れてくださいと距離を取ろうにもビクともしない力に内心驚いてしまう。
 そうこうしているうちにピッタリ密着させられる身体をスーツの中のワイシャツ越しに撫でられる。
 
 
「なんのつもりです……セクハラで訴えますよ」
「それは、この状況だとオメガの方が立場は弱いんじゃないかなぁって、思うのですが、どう思います?」
「……どういう、事ですか」
「発情するオメガと、それを襲うアルファ。見え方的に、世間が同情するのはオメガの方ですよね」
 
 
 そんな椿姫さんの発言にハッと鼻で笑ってしまう。
 そんな状況、天と地がひっくりかえっても起こるはずがない。
 
 
「ふざけるのも大概にしてください。今朝あなたがした事、今からしようとしている事は立派な犯罪です。だから大人しく――」
 
 「振り向いて貰えないのなら!!――壊すまでです」
 
 
 いい加減離れて、と、もう一度力を込め引き剥がそうとした、その瞬間、爆発的に大声をあげられ一瞬反応が遅れてしまった。
 にやりと笑うその腕ににぎられた注射針が向かう先は――椿姫さん自身。
 
 
「や、めっ」
 
 
 その針が目標めがけて突き刺さるその前に、握った拳が容赦なくその腕を叩き落とす。
 
 
「っ!?」
 
 
 ギリギリで、間に合った。

 
「いい加減にしてください!!!俺をあなたの発情に巻き込むな!!」
 
 
 床に転がる注射針を勢いよく踏み割り、叩きつけた反動で床に座り込んでしまった椿姫さんに容赦なく怒鳴りつけた。
 一瞬ビクッと震えた彼は、それでも気丈にも睨み返してくる。
 
 
「な、んで――なんでですか!金も力も権力も!僕の方があの人より上だ!!何がダメなんですか!」
 
「そんなもの……俺は求めてません」
 
 
 でも……とまだ何か言おうと口を開く椿姫さんを後目に、胸ポケットに入れていたスマホが振動し着信を知らせる。
 確認するとそれはさっき別れた花ちゃんから。
 
 すぐに通話ボタンを押し耳に押し当てる。
 
 
「もしもし」
 
『ぁ、楓真くんっ!秘書室、ダメだ先輩が来るまでに間に合わないっ』
 
「もしもし?花ちゃん?どういう事!?」
「プレゼント、送っておきました」
「!?」
 
 
 いまだ床に座り込む椿姫さんに視線を戻せば開き直った表情で笑っている。その笑みがどこか狂気に満ち溢れ、背筋がぞっとした。
 
 
『とにかく、急いでこっち来て!僕も1回部屋でるから』
「わかったよ」
 
 
 通話を切ると、いま一度椿姫さんを見遣り何も行動を起こす気配がないことをその目で確認し、急いで扉を開け外に飛び出でる。
 
 
 速足で駆け抜ける廊下の角を曲がった先が目的地。
 最短距離でカーブを描き開いた視界に飛び込んでくる光景は今まさに、その扉を開けようとするつかささんの姿。
 
 
「っ!つかささん待っ―――」
 
 
 惜しくも間に合わず、その扉が開かれてしまった。
 
 
 
 
 
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