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【幕間2】※3人称

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 ソルエンデュ帝国には聖女が居る。

 そんな噂が立ち始めた。
 ソルエンデュ帝国内だけでなく他国にもその存在が知れ渡ろうとしている。

 聖女が皇帝陛下の命を救った。
 聖女が皇太子の命を救った。
 聖女が皇妃から絶大の信頼を寄せられている。

 ソルエンデュ帝国の民はその事実に、この戦争に絶望以外のモノを見出せるようになってきていた。

 良い傾向だ。
 絶望からは何も生み出されない。
 希望は人に活力を与える。

 マーチの存在は実績以上に評価されて民の間で噂が広がった。

 :::

「何だか民衆の『聖女様信仰』が怖いのですが……」

「絶望から一気に希望だ。民が信仰するのも仕方ないさ」

「でも民衆の『聖女様像』が私と違いすぎて…私は大したことが出来るわけでは無いのに。あまり期待をされると成果が残せなかった時が怖いです………」

「君は自分を過小評価しすぎだマーチ。兵士の傷を癒し、死霊を殲滅させた。十分な功績を残している。もっと自信を持ってくれないか?君は十分に私たちを支えてくれているのだよ」

 フェブラリの瞳にじっ、と見つめられマーチは頬に熱が集まるのを自覚した。
 こんな時でも恋心と言うのは止められないものらしい。
 いや、こんな時だからこそ恋心が加速する。
 死を意識した時の生存本能が、異性と子を成すことを促す。
 実際戦場で芽生える恋は少なくない。

(私のこの恋は…戦争に突き動かされた生存本能なのでしょうか………?)

(マーチと結ばれたいと思うのは男の本能なのだろうか…出会った時よりずっと、私は今マーチの存在に惹かれている………)

 戦争はまだ終わらない。
 終わった時に、この恋が生存本能から来ているものだと知るのが怖い。
 それは2人の共通の思いであった。

 このまま、この場所で時が止まってしまえばいいのに…そう2人が望んだのは誰も責められないだろう。
 
 誰よりも重責のある皇太子と、誰より期待されている聖女。
 2人でいる時だけが、その責務から離れられる。
 ただの男と女でいられるのだ。

 だが時間はむなしくも過ぎていく。
 明日になれば守りに徹していたソルエンデュ帝国は兵を派遣する。
 本格的な戦争が始まるのだ。

 だから今の間だけでも、2人は互いの存在に溺れてしましたかったのだった。
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