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ドラゴン来襲編
新任の1級
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探索者組合には5人の1級がいる。
『クレーター』の館山学、『両極』の羽山一郎、『探索者』の渡辺龍雄、『水妖精』の牧山薫、『ゲリラ戦』の西馬時也。
それぞれが超レアスキルと専用装備を持っており、所属しているパーティでA級の討伐経験を持っている。
「その中に、なぜ僕が組み込まれたのか教えてもらいましょうか? 僕は4級で3級になるのを拒んでいたはずですが」
「そう怒るな。こっちも仕方なくだ。そもそも、縄文杉討伐成功の時点で、1級若しくは2級の話が国からあったんだ」
「なんでいち探索者のランクを国が気にするんですか?」
「A級を単独で討伐できる探索者が存在しないからだ。たとえどんな装備を組み合わせても、今お前が持っている生命力吸収、加重、身体強化、衝撃無効そしてドラゴンバスターに敵うものはおらん。強いて言えば、超遠距離からの確殺攻撃しかない。異世界型ダンジョンならともかく、洞窟型や建物型のダンジョンならほぼ無敵だ」
「だからと言って1級はないでしょ。まだ18ですよ、僕は」
「ん? そうか。5月3日だったな。おめでとう。問題なく成人だ」
「酒もタバコもできませんけどね!」
「車の免許は取れるな。できたら急いで取ってくれ。最悪3ヶ月の合宿で取ってもらおう」
「こき使う気でしょ! と言うか、話を逸らさないでください!」
「チッ、話の順番をミスったか」
あれから支部長に詰め寄って、1級認定を辞めてもらえるよう交渉しているが、のらりくらりと躱されている。
外堀はもう埋まっているようで、結局は僕も受け入れるしかないのだが、最後の抵抗ぐらいはしたい。
僕の他にも、飛行が出来るようになった莉乃さんと全体攻撃が出来るようになった植木さんが2級に上がった。
「別にいいじゃない、1級。日本国内なら、組合と提携しているホテルがタダで泊まれるわよ。同行者もオッケーでね。飛行機も組合持ちだし、所在確認と緊急事態の対応依頼はあるけど、今も同じような感じでしょ?」
「そう言いますが、鬼木さん。僕は仇さえ取れれば探索者を辞めるつもりなんですよ? 1級とかなったら辞めれないじゃないですか!」
「仕方ないじゃない。瀬尾くんが優秀すぎたのが悪い」
「全部僕のせい!?」
どうも、A級を単独で討伐できる探索者のランクが4級だと、他の探索者に影響がある上に、海外からも国に問い合わせがあるらしい。
下手すると、海外が僕の日本政府からの対応に不遇があるのではと勘繰ってスカウトに来る可能性があった。
なので、国内の1級と2級は国と探索者組合で一定の優遇策を決めているのだが、僕が全く1級になる気配がないものだから、今回の対応となったらしい。
僕としてはほっといてくれと言いたいとこだが、どうも周囲はそれで良いとは言えないようだ。
「しかし、1人頭38億かー。探索者控除後の税金で三分の一取られても24億? 夢があるわね~」
「企業と契約したから、最低でも1年間で後4回は潜る必要がありますけど」
「1人で行くのか?」
「天外天次第ですけど・・・まあ、あの装備があれば、慎重にいけばなんとかなると思います」
「デカい青いやつ次第よね。私の推測だと鬼どもが出ない限り大丈夫だと思うけど、勘でしかないのよね」
「鬼木がついていけばいいんじゃないかな? どうせ本部の使いっ走りしているんだろ? ストレス発散してこいよ」
「あー、どっかのデカブツが支部長の座を空けないから下が上がれないのよね。さっさと本部で用意されてる椅子に座ってくれないかしら? そしたら安心してダンジョンに行けるんですけど」
「さて、仕事するか。支部長は大変だからな」
ドタバタと支部長が自分の部屋に戻っていく。
その後ろ姿を見ながら、僕たちはため息をついた。
「あの人にもそう言う要請が来てるんですか?」
「当たり前じゃない。1番大きいのは瀬尾くんをしっかりコントロールしていることだけど、大噴火も無事に解決したし、今回のアタックに関しても、企業・国・組合で必ずあの人が出てまとめてたのよ? さっさと上に行けって話よ」
「ふーん。・・・鬼木さんは灼熱ダンジョンに行きたいですか?」
「私? 私はいいわ、遠慮しておく。阿蘇に来たのも、個人的な事があって組合に許可をもらって来ただけだし」
「分かりました。天外天はしばらく休養でしょうし、僕もメンテ明けまで時間はあるので、何か手助けできる事があったら言ってください」
組合のロビーに2人で戻ると、莉乃さんが沢山の女性探索者に囲まれていた。
笑顔だが、ちょっと困った顔をしていた。流石に女性陣の中へは、僕は助けに入れない。
「私が行くわ」
かっこよく鬼木さんが言って、颯爽と輪の中に入り、莉乃さんを救出してくる。
「いやー、助かりましたよ、鬼木さん。ああも囲まれちゃうと抜け出せなくて」
「まだまだよ。テレビに顔出しし始めたら、比じゃなくなるからね」
「ちょっとこの先が不安になる言葉ですね」
「大丈夫よ。私が通った道を、そのまま通ってもらうだけだから」
「・・・厳しい道じゃないですか~」
僕には鬼木さんがテレビでどんな活躍をしているのか分からないが、莉乃さんの表情を見るに、結構出ているようだ。
それからテーブルを一つ囲って僕たちは椅子に座った。
空いていた周囲の席が一気に埋まった。
「高城さんたちは、今日はホテル詰めでしょうか?」
「ホテルを変えたっぽいよ。なんだか高そうなホテルの上の方に泊まっているんだって」
「成金思考ね。急にお金持つと、取り敢えず高いとこに移動したくなるのよ」
「『愚民どもめ』をやってるかもね~」
「そんな事やらないでしょ、子供じゃないんだし」
「分からないよ。高城ちゃんなんか、意外とやる人かも」
「真面目な人ほど、ね」
高城さんは真面目なクールビューティーのイメージが僕の中であるのでやめて欲しいところだ。
「前回太っちゃったしね」
・・・そうだった。
普段はそんな事ないからすっかり忘れてた。
「あの時は鬼木さんがダイエット手伝ったの?」
「本人たちからのたっての希望だったからね。先輩探索者として手伝うわよ。他人事じゃないから」
「鬼木さんの場合はスキルが発動しなくなるから切実でしょうけど、高城さんたちはそんな問題抱えてないでしょ?」
「専用装備はね・・・」
鬼木さんの目が遠くを見た。
「簡単にサイズ変更出来ないのよ。一着何億する装備をサイズごとに取り揃える事できないでしょ」
「・・・納得です」
僕は一度席を外して、ロビーに備え付けのコーヒーメーカーで3人分のコーヒーを作って席に戻ると、真っ赤な顔をした莉乃さんとニヤニヤの鬼木さんが僕を見た。
「何を言ったんですか?」
お盆から2人にブラックコーヒーとスティックシュガー、ミルクを目の前に置く。
「別に~。面白い話をしただけよ」
「・・・」
莉乃さんが俯いて何も喋らないところを見ると、彼女に関係する事を言ったのだろうが、オモチャになる気はない。
努めて冷静を装ってコーヒーを飲んだ。
「・・・高城さんたちは、辞めますかね?」
僕の質問に、鬼木さんは頬を掻き、莉乃さんはちょっと悲しそうな顔をした。
「まあ、稼いだからね。引き際は大事よ。特にお金が目的で探索者やってる人たちは、欲をかいて失敗する例があるからね。ああ、あの時で辞めていればってね」
「高城ちゃんたちはちゃんと引き際をわきまえてる人たちだよ。だから、ここで一旦区切りをつけると思う」
「莉乃さんと友達とかでパーティ組んでたんじゃなかったんですか?」
莉乃さんが首を横に振った。
「私は元々ソロだったから。壊れちゃったけど、斬撃特化の短剣と韋駄天の単槍を持ってダンジョンアタックをしてて、鬼木さんの目に止まってみんなと引き合わせてくれたの」
「あの時の宮下は危なっかしかったからね。ブレーキが必要だと思ったのよ。凧の糸が切れたみたいにあっちこっち行くから手綱としての役割もあったわね。今後は瀬尾くんがやってくれそうだけど」
「鬼木さん!」
「良いじゃない。ちょっとからかったぐらいで瀬尾くんは怒らないから」
「・・・まあ、鬼木さん相手ですからね」
コーヒーを最後まで飲み干して、空のカップを机に置く。
そして、何気なく外を眺めると、高城さんたちの姿がそこにあった。
『クレーター』の館山学、『両極』の羽山一郎、『探索者』の渡辺龍雄、『水妖精』の牧山薫、『ゲリラ戦』の西馬時也。
それぞれが超レアスキルと専用装備を持っており、所属しているパーティでA級の討伐経験を持っている。
「その中に、なぜ僕が組み込まれたのか教えてもらいましょうか? 僕は4級で3級になるのを拒んでいたはずですが」
「そう怒るな。こっちも仕方なくだ。そもそも、縄文杉討伐成功の時点で、1級若しくは2級の話が国からあったんだ」
「なんでいち探索者のランクを国が気にするんですか?」
「A級を単独で討伐できる探索者が存在しないからだ。たとえどんな装備を組み合わせても、今お前が持っている生命力吸収、加重、身体強化、衝撃無効そしてドラゴンバスターに敵うものはおらん。強いて言えば、超遠距離からの確殺攻撃しかない。異世界型ダンジョンならともかく、洞窟型や建物型のダンジョンならほぼ無敵だ」
「だからと言って1級はないでしょ。まだ18ですよ、僕は」
「ん? そうか。5月3日だったな。おめでとう。問題なく成人だ」
「酒もタバコもできませんけどね!」
「車の免許は取れるな。できたら急いで取ってくれ。最悪3ヶ月の合宿で取ってもらおう」
「こき使う気でしょ! と言うか、話を逸らさないでください!」
「チッ、話の順番をミスったか」
あれから支部長に詰め寄って、1級認定を辞めてもらえるよう交渉しているが、のらりくらりと躱されている。
外堀はもう埋まっているようで、結局は僕も受け入れるしかないのだが、最後の抵抗ぐらいはしたい。
僕の他にも、飛行が出来るようになった莉乃さんと全体攻撃が出来るようになった植木さんが2級に上がった。
「別にいいじゃない、1級。日本国内なら、組合と提携しているホテルがタダで泊まれるわよ。同行者もオッケーでね。飛行機も組合持ちだし、所在確認と緊急事態の対応依頼はあるけど、今も同じような感じでしょ?」
「そう言いますが、鬼木さん。僕は仇さえ取れれば探索者を辞めるつもりなんですよ? 1級とかなったら辞めれないじゃないですか!」
「仕方ないじゃない。瀬尾くんが優秀すぎたのが悪い」
「全部僕のせい!?」
どうも、A級を単独で討伐できる探索者のランクが4級だと、他の探索者に影響がある上に、海外からも国に問い合わせがあるらしい。
下手すると、海外が僕の日本政府からの対応に不遇があるのではと勘繰ってスカウトに来る可能性があった。
なので、国内の1級と2級は国と探索者組合で一定の優遇策を決めているのだが、僕が全く1級になる気配がないものだから、今回の対応となったらしい。
僕としてはほっといてくれと言いたいとこだが、どうも周囲はそれで良いとは言えないようだ。
「しかし、1人頭38億かー。探索者控除後の税金で三分の一取られても24億? 夢があるわね~」
「企業と契約したから、最低でも1年間で後4回は潜る必要がありますけど」
「1人で行くのか?」
「天外天次第ですけど・・・まあ、あの装備があれば、慎重にいけばなんとかなると思います」
「デカい青いやつ次第よね。私の推測だと鬼どもが出ない限り大丈夫だと思うけど、勘でしかないのよね」
「鬼木がついていけばいいんじゃないかな? どうせ本部の使いっ走りしているんだろ? ストレス発散してこいよ」
「あー、どっかのデカブツが支部長の座を空けないから下が上がれないのよね。さっさと本部で用意されてる椅子に座ってくれないかしら? そしたら安心してダンジョンに行けるんですけど」
「さて、仕事するか。支部長は大変だからな」
ドタバタと支部長が自分の部屋に戻っていく。
その後ろ姿を見ながら、僕たちはため息をついた。
「あの人にもそう言う要請が来てるんですか?」
「当たり前じゃない。1番大きいのは瀬尾くんをしっかりコントロールしていることだけど、大噴火も無事に解決したし、今回のアタックに関しても、企業・国・組合で必ずあの人が出てまとめてたのよ? さっさと上に行けって話よ」
「ふーん。・・・鬼木さんは灼熱ダンジョンに行きたいですか?」
「私? 私はいいわ、遠慮しておく。阿蘇に来たのも、個人的な事があって組合に許可をもらって来ただけだし」
「分かりました。天外天はしばらく休養でしょうし、僕もメンテ明けまで時間はあるので、何か手助けできる事があったら言ってください」
組合のロビーに2人で戻ると、莉乃さんが沢山の女性探索者に囲まれていた。
笑顔だが、ちょっと困った顔をしていた。流石に女性陣の中へは、僕は助けに入れない。
「私が行くわ」
かっこよく鬼木さんが言って、颯爽と輪の中に入り、莉乃さんを救出してくる。
「いやー、助かりましたよ、鬼木さん。ああも囲まれちゃうと抜け出せなくて」
「まだまだよ。テレビに顔出しし始めたら、比じゃなくなるからね」
「ちょっとこの先が不安になる言葉ですね」
「大丈夫よ。私が通った道を、そのまま通ってもらうだけだから」
「・・・厳しい道じゃないですか~」
僕には鬼木さんがテレビでどんな活躍をしているのか分からないが、莉乃さんの表情を見るに、結構出ているようだ。
それからテーブルを一つ囲って僕たちは椅子に座った。
空いていた周囲の席が一気に埋まった。
「高城さんたちは、今日はホテル詰めでしょうか?」
「ホテルを変えたっぽいよ。なんだか高そうなホテルの上の方に泊まっているんだって」
「成金思考ね。急にお金持つと、取り敢えず高いとこに移動したくなるのよ」
「『愚民どもめ』をやってるかもね~」
「そんな事やらないでしょ、子供じゃないんだし」
「分からないよ。高城ちゃんなんか、意外とやる人かも」
「真面目な人ほど、ね」
高城さんは真面目なクールビューティーのイメージが僕の中であるのでやめて欲しいところだ。
「前回太っちゃったしね」
・・・そうだった。
普段はそんな事ないからすっかり忘れてた。
「あの時は鬼木さんがダイエット手伝ったの?」
「本人たちからのたっての希望だったからね。先輩探索者として手伝うわよ。他人事じゃないから」
「鬼木さんの場合はスキルが発動しなくなるから切実でしょうけど、高城さんたちはそんな問題抱えてないでしょ?」
「専用装備はね・・・」
鬼木さんの目が遠くを見た。
「簡単にサイズ変更出来ないのよ。一着何億する装備をサイズごとに取り揃える事できないでしょ」
「・・・納得です」
僕は一度席を外して、ロビーに備え付けのコーヒーメーカーで3人分のコーヒーを作って席に戻ると、真っ赤な顔をした莉乃さんとニヤニヤの鬼木さんが僕を見た。
「何を言ったんですか?」
お盆から2人にブラックコーヒーとスティックシュガー、ミルクを目の前に置く。
「別に~。面白い話をしただけよ」
「・・・」
莉乃さんが俯いて何も喋らないところを見ると、彼女に関係する事を言ったのだろうが、オモチャになる気はない。
努めて冷静を装ってコーヒーを飲んだ。
「・・・高城さんたちは、辞めますかね?」
僕の質問に、鬼木さんは頬を掻き、莉乃さんはちょっと悲しそうな顔をした。
「まあ、稼いだからね。引き際は大事よ。特にお金が目的で探索者やってる人たちは、欲をかいて失敗する例があるからね。ああ、あの時で辞めていればってね」
「高城ちゃんたちはちゃんと引き際をわきまえてる人たちだよ。だから、ここで一旦区切りをつけると思う」
「莉乃さんと友達とかでパーティ組んでたんじゃなかったんですか?」
莉乃さんが首を横に振った。
「私は元々ソロだったから。壊れちゃったけど、斬撃特化の短剣と韋駄天の単槍を持ってダンジョンアタックをしてて、鬼木さんの目に止まってみんなと引き合わせてくれたの」
「あの時の宮下は危なっかしかったからね。ブレーキが必要だと思ったのよ。凧の糸が切れたみたいにあっちこっち行くから手綱としての役割もあったわね。今後は瀬尾くんがやってくれそうだけど」
「鬼木さん!」
「良いじゃない。ちょっとからかったぐらいで瀬尾くんは怒らないから」
「・・・まあ、鬼木さん相手ですからね」
コーヒーを最後まで飲み干して、空のカップを机に置く。
そして、何気なく外を眺めると、高城さんたちの姿がそこにあった。
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