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1巻

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    序章


 元禄げんろく十六年の江戸は年明けからそわそわしていた。昨年末の赤穂浪士あこうろうし討ち入りのせいである。江戸えどすずめたちも、心なしかちゅんちゅんとやかましい。
 しかし、それとは違う理由で、本所深川ほんじょふかがわは北東にある柳鼓長屋やなぎつづみながやにぎやかだった。

「おしちちゃんや、もう堪忍かんにんしておくれ」
「だめ。ご隠居いんきょさんってば、またみょうなのを拾ってきて」

 逃げる老爺ろうやを、塩が入ったつぼを抱えて追いかけ回していたのは、長屋の差配さはいをしている仁左じんざまごのお七である。ひざの調子がよくない祖父を手伝う働き者の孝行娘こうこうむすめで、歳は十二だ。そんな娘がどうして、こんなことをしているのかというと……
 なんの因果いんがかこのお七、怪異かいいたぐい滅法めっぽう強い星のもとに生まれた。僧侶そうりょ修験者しゅげんじゃらも苦戦するようなこの世ならざる者どもを、塩を投げつけるだけで、ばったばったとぎ倒すことができる。
 ゆえについた渾名あだなが、柳鼓の塩小町しおこまち
 一方で、追いかけ回されていた老爺も只者ただものではない。名を伊勢屋いせやせい右衛門えもんといい、これでもれっきとした大店おおだなの元主人である。いまは跡目あとめを息子夫婦にゆずり気楽な長屋暮らしをしながら、道楽どうらくの怪異めぐりを満喫中まんきつちゅうだ。
 しかしこのご隠居は、怪異をる目がさっぱりなわりに、やたらと拾ってくる体質だから困る。毎度その尻拭しりぬぐいをさせられるのはお七で、今もご隠居にいた怪異をはらっていたというわけだ。だから塩を投げる手につい力が入るのはしょうがない。

「いい加減に観念かんねんしてください。あと塩のおだい店賃たなちんに上乗せしておきますからね」
「うう、お七ちゃんが容赦ようしゃない」

 ご隠居はすっかり塩まみれとなった。これにてお祓いは完了である。

「もうおわった?」

 物陰ものかげから遠慮えんりょがちに、おかっぱ頭の女童おんなわらわが現れた。人形のように愛らしいこの子は、六歳になるご隠居の末孫で、名を千代ちよという。ゆえあって祖父と長屋に住んでおり、やや人見知りだがお七にはよくなついている。

「ええ、もう大丈夫。念のため千代ちゃんもね」

 お七は指先でつまんだ塩を、はらりと千代に優しく振りかけた。

「ずいぶんと扱いに差がありやせんかのぉ」

 口をとがらせるご隠居だが、お七はつんと聞こえない振りをする。このやりとりに千代はくすくす笑う。
 その時、近くの障子戸しょうじどががたりと開いた。長屋の一室から顔を見せたのは銀杏頭いちょうがしら無精髭ぶしょうひげ浪人者ろうにんものであった。着流しの前に手を突っ込んでは、ぼりぼり腹をき、おお欠伸あくびをしている。

「朝っぱらからずいぶんと賑やかだな、お七ちゃん」
「……もうこくですよ脇坂わきさかさん」

 お七はあきれ顔である。さらに千代からも「ねぼすけ」と言われた浪人者は、「ははは、こいつは参った」と、ほほをぽりぽり搔きながら笑う。
 この浪人者、名を脇坂九郎くろうという。男ぶりも剣の腕も悪くはないのだが、いかんせんやる気がとぼしい。用心棒ようじんぼうや道場の稽古けいこなどで生計を立てているが、あくせく働くのはしょうに合わない。仕官しかんにも興味がない。

「ご隠居も飽きもせず熱心なこって。わざわざよそに行かずとも、うちの長屋をぶらつけば事足りるだろうに」

 脇坂がだるそうに言うと、お七があわてて注意する。

「ちょっと! 変なことを言わないでよ。ただでさえご近所でうわさになってるんだから」

 お七にすねをこつんとられて、脇坂は「あいたっ!」と顔をしかめた。
 というのも、ここ本所深川の柳鼓長屋には、名の由来にもなっている不思議な話がある。
 まだ江戸がいまよりずっとさびしかった頃のことだ。
 暗い夜道を一人歩いていたおさむらいの前を、さっと影が横切った。驚いたお侍であったが、その正体はたぬきであった。

「おのれ畜生ちくしょう分際ぶんざい武士ぶし面前めんぜんを横切るとはけしからん。成敗してくれる!」

 いきなり刀を抜いたお侍に吃驚びっくりした狸は、すぐに逃げ出した。
 狸が逃げ込んだのは近くの長屋であった。
 しぃんと静まり返っている長屋内にお侍は少し躊躇ちゅうちょするも、いまさらあとには引けず奥へと進む。しかし肝心かんじんの狸は見つからない。突き当りまで辿り着いたものの、どこにもいない。あるのは一本のやなぎの木ばかりであった。
 お侍は「まんまと逃げられた!」と悔しがり、腹立ちまぎれに柳の木を蹴飛けとばした。
 すると柳の木が、ぽーんとった。
 見事なつづみの音に、すっかりきもつぶしたお侍は、あわを食って逃げ出した。
 しかし、これを見ていた長屋の住人がいたのが運の尽きで、たちまち噂は広まり、お侍はすっかり面目めんぼくを失って、お役目を返上し出家した。
 以降、ここは柳鼓長屋と呼ばれるようになり、いつしか柳の木をたたいて鳴けば、願い事が叶うなんてことまで言われるようになった。これを面白がった住人の大工がちょちょいとほこらを建てれば、別の大工の住人が張り合って狸の彫り物をこしらえ、いまでは長屋の住人たちから柳の木ともども大切にされている。
 そんな少し不思議な柳鼓長屋なのだが、住んでいる者たちも曲者くせものぞろいにつき、毎日賑やかなのである。


     ◇


 お七はててなし子だ。
 お七の母、ひのえはいきでいなせでとってもおきゃん。世間の習慣や些事さじしばられず、思うさまに突っ走る。女ながらにむ打つ遊ぶ、喧嘩けんかもする。賭場とば諸肌もろはだ脱いでは「さぁさぁ、丁半ちょうはん、はったはった」と威勢いせいよく壺を振った。
 ひのえが顔を出せば賭場が満員御礼まんいんおんれいになるものだから、あちこちからお呼びがかかる。おかげで顔も名前も売れて、たいていのさかり場は彼女の庭であった。
 そんなひのえは、恋多き女としても有名であった。れたれたで、まさに燃え盛るほのおのごとし。でもいつも長続きしなかった。しばらくすると、自ら身を引いてしまうのだ。何故ならば、ひのえがかれるのは男そのものより、まだが出ていない才のほうだったからである。芽を育てるためにせっせと彼女は世話を焼く。すると男もその気になって、己の才と真剣に向き合い、ほどなくして開花する。
 しかし、ひのえはここで満足してしまうのだ。恋はいいが所帯しょたいを持つのは、どうにも性分しょうぶんに合わないらしかった。
 そんな暮らしを続けているうちに、身籠みごもったのがお七であった。
 好きな男に会いたい一心で火を放ち、その罪により鈴ヶ森すずがもりの刑場にて火刑かけいに処された少女から名前をとって、お七と名づけた。
 八百屋やおやお七を題目だいもくにした芝居を見て、ひのえは感心したのだ。

「男恋しさに江戸を焼け野原にしようたぁ剛毅ごうきだ。あたいは好きだねえ、気に入ったよ」

 けれどそんな名をつけられた娘は、たいそう迷惑であった。
 なにせ母がひのえで、娘がお七である。丙午ひのえうまの年は火災が多いと信じられ、八百屋お七もこの年の生まれであったことから、丙午生まれの女性は気性が激しく夫を殺す、なんてこともささやかれていた。
 幾ら火事と喧嘩は江戸の花とはいえ、縁起が悪いにもほどがある。
 江戸っ子はけっこうげんかつぐ。特にあきないをしている者は縁起の良し悪しを気にしており、そんな彼らが特に恐れているのが火事であった。火はすべてを灰燼かいじんす。
 よってお七なんて縁起の悪い名の娘なんぞはどこの家も願い下げで、お七は早々に奉公人ほうこうにんの道を閉ざされた。母親となってもひのえの奔放ほんぽうさは変わらず、お七は終始振り回されてばかりであったが、そんな日々はお七が十一になった頃、唐突に終わる。
 ひのえが風邪をこじらせ、ぽっくりってしまったのだ。
 母の死の間際、枕元まくらもとでお七はずっと気になっていたことをたずねた。

「ねえ、おっさん。わたしのおっつぁんってどこの誰なの?」

 しかし、ひのえはもくして語らず。白状するかと期待したがだめであった。
 かくして、お七は天涯孤独てんがいこどくの身の上……にはならなかった。
 お七も知らなかったのだが、ひのえの父、つまりお七にとっては祖父にあたる仁左が存命ぞんめいであり、彼女を引き取ってくれたのである。
 仁左は柳鼓長屋の差配をしていたので、自然とお七も長屋の住人たちと親しくなった。
 そんなお七と曲者揃いの長屋には、毎日様々な事件が舞い込んできて……



    其の一 人喰ひとくでら迷子石まいごいし


 柳鼓長屋の祠にまつられている狸の彫り物は、両手におさまる程度の大きさで、お世辞せじにも上手うま細工さいくではない。
 ただ妙に愛嬌あいきょうがあり眺めていると頬がゆるんでくる。
 実はこのご神体しんたいぬすまれたことが過去に三度ある。そのうち二度は勝手に帰ってきた。近々の一度は長屋の住人が見つけて、取り返してきてくれた。
 そんな狸のご神体をみがき、祠の掃除を終えたお七が木戸のほうへ向かっていると、ご隠居と若い男が話し込んでいるところを目にした。
 この若い男こそが盗まれたご神体を見つけてくれた長屋の住人、鉄之助てつのすけである。
 鉄之助は細目で愛想あいそのいい兄さんだ。器用な男で、万屋よろずや稼業かぎょうを営んでいる。そこそこ繁盛はんじょうしているらしく留守にしていることが多い。
 以前にお七は「どうしてそんなに色んなことができるの?」と尋ねたことがある。
 すると、鉄之助はこう答えた。

「おれは元忍もとしのびだからな」

 忍びとは色んなところに潜入せんにゅうし、秘密を探るのが主な役目である。
 ゆえに囲碁いご将棋しょうぎ大工だいく仕事、茶の湯、華道かどう、踊りにおこと、料理に算盤そろばん宴会芸えんかいげい太鼓持たいこもち、やれることは多いに越したことはない。
 釣り好きに接近するには、釣り場にて声をかけたほうが相手も気を許しやすい。囲碁好きならば、程よく勝たせてやれば上機嫌になって口も軽くなるというものだ。

「とはいえ、出来すぎもいけねえ。素人よりは上手く、玄人くろうとと話が通じるぐらいがちょうどいい」

 鉄之助はお七に匙加減さじかげん肝要かんようと語った。
 そんな青年とご隠居がこそこそ話をしている。

「……あやしい」

 お七はそろりそろり、二人へ近づく。ちなみに、この忍び足は鉄之助がたわむれに教えたものだが、思いの外、すじがよくて、お七はたちまちものにしてしまった。
 こっそり近づくと、二人の会話が聞こえてくる。

「ふむふむ、その荒れ寺に女の幽霊ゆうれいが出るというんじゃな」
「ええ、そこには迷子石なるものがありましてね。こいつが人喰ひとくい岩なんぞとも呼ばれている。そりゃあ恐ろしいじゃありませんか」

 鉄之助の話をよくよく聞いてみると、どうやらこういうことらしい。
 ある荒れ寺には、迷子石という名の奇妙な願掛がんかけがあり、行方ゆくえ知れずとなった我が子をさがし求めて、石に願いをたくすという。
 あわれな女の幽霊が死後も消えた我が子の姿を求め彷徨さまよっている、なんて噂があったのだが、事態じたいは幽霊騒ぎにはとどまらない。願掛けに通う者たちが一人消え、二人消え、ついには誰もいなくなってしまったというのだ。

「ちょっと鉄之助さん! またご隠居さんに変な話を吹き込んでっ」

 いきなりお七にしかられて、男たちは仰天ぎょうてんした。
 ご隠居は怪異ぐるいだ。
 その手の話を耳にすれば、いそいそ出掛けるほどの熱の入れよう。そういうわけで、あまり噂話は聞かせたくないのだ。
 一方で、万屋稼業をしている鉄之助は職業柄しょくぎょうがらあちこちに出入りしている。
 その耳には自然と江戸中の噂が流れ込んでくるもので、ご隠居からせがまれるまま、つい聞きかじった怪異話を披露ひろうしてしまったのだろう。
 お七に叱られた二人は「うひゃあ」と逃げ出す。
 すたこら遠ざかる店子たなこたちに、お七は「もう」とふくれっ面をした。


     ◇


 そんなことがあったこともすっかり忘れていた夕暮れの刻。
 お七と仁左が住む家を千代が訪ねてきた。半べそをかいており、なにやら様子がおかしい。

「どうしたの千代ちゃん?」
「お七さん……おじいちゃんが帰ってこないの」

 ご隠居が千代を近所の者にあずけて、一人で出掛けることはままある。
 けれど行く先も告げずに、ましてやこんな時刻になっても音沙汰おとさたがないというのは、これまでになかったことだ。ご隠居は道楽者だが千代をとても大事にしている。そのことは、長屋の者ならばみな知っている。
 お七はなんとなく胸騒ぎがした。生まれながら怪異に滅法強いお七は、かんも相当にするどい。ひとまず千代を仁左に任せて、一人長屋へと向かう。その道すがら、お七が思い出したのが昼間のやりとりである。

「まさか!」

 幸い鉄之助が家にいたので、お七が事情を説明する。
 そうしたら、鉄之助はたちまち表情をくもらせた。

「実はあれからよくない噂を耳にしたんだ。近頃、あそこには人相風体にんそうふうていの悪い浪人どもが出入りしているとか。ほら、少し前に金貸しが押し込みにやられただろう。ひょっとしたらその下手人げしゅにんどもじゃないかって」

 その事件ならばお七も知っている。つい十日ほど前に、店の者全員が惨殺ざんさつされて金蔵かねぐらが荒らされたのだ。
 そんな連中がたむろしているところに、身なりのいい老爺がのこのこ出掛けていったら、よくて身包みぐるみをがれるか、あるいはかどわかされて身代金をせしめられたり、最悪殺されたり、ということもある。

「大変! こうしちゃいられない」

 いきなり駆け出そうとするお七の腕を、鉄之助が慌てて掴む。

「いけねえ、お七ちゃん。まだそうと決まったわけじゃねえんだから」
「でも凄く嫌な予感がするの。さっきからずっと首の後ろがちりちりしている。急がないと手遅れになる」
「いや、しかし――」

 お七と鉄之助が押し問答をしていたら、そこに脇坂が姿を見せた。
 軽く一杯引っかけてきたようで、顔が少し赤い。

「なんだ、痴話喧嘩ちわげんかか? おまえたちがそんな仲だったとは知らなかったなぁ」

 にやにやと揶揄からかう脇坂であったが、お七にとっては天の助けである。

「脇坂さん、ちょうどよかった。これからすぐに一緒に来て。あっ、刀もちゃんと持ってきてよね。それから鉄之助さんは例の荒れ寺への道案内をお願い」

 言い出したら聞かないお七は、四の五の言わずにまずは動く。それは紛れもなく、亡くなった母譲りの性分なのだが、周囲の心配をよそに当人はまるで気がついていない。


     ◇


 荒れ寺にやってきたお七たちだが、流石さすがにいきなり乗り込んだりはしない。まずは様子を探ることにした。

「というわけで行ってらっしゃい」
「よっ、元忍び」

 軽く送り出された鉄之助は「なんだかなぁ」とぶつぶつ言いながら、一人境内けいだいへと入った。
 夜陰やいんに紛れて、鉄之助は音もなく本堂へと近づく。その足が石塚いしづかの前で止まった。名が彫られた石がうず高く積まれている。

「これが迷子石か。大きな岩みたいなのを想像していたんだが、なんとも薄っ気味の悪い。おっと、こうしちゃいられない。ぐずぐずしていたらお七ちゃんに叱られちまう。ご隠居、ご隠居っと」

 軽く手を合わせてから、鉄之助は先を急ぐ。
 本堂からは明かりがれていた。
 建物のわきへと回り込み壁に耳を当てると、男たちの濁声だみごえが聞こえてきた。七人以上はいる。
 鉄之助は壁から耳を離すと、縁の下へ潜り込んだ。
 暗闇くらやみの中、しばし目が慣れるのを待つ。だが、あらわとなった床下の光景に、鉄之助は危うく声を上げそうになった。
 なんと、一面に人骨じんこつが散乱していたのだ。転がる髑髏どくろをざっと数えただけでも、二十はゆうに超えている。

「これじゃあ人喰い岩じゃなくて、人喰い寺じゃねえか」

 眉をひそめつつ、鉄之助はおくすることなく奥へとい進む。そのかたわらで聞き耳を立て、床上から伝わる声も拾う。

「しかし、いい隠れ家があったものだなぁ」
「ここならば寺社奉行じしゃぶぎょうの預かりになるから、町方まちかたもおいそれとは踏み込めぬ。江戸を去るまでの時間稼ぎにはもってこいだ」
「なぁに昔つるんでたやつがここを使ってたんだよ。いい加減に潰れちまったかと思ったが、こいつも御仏みほとけのおみちびきかねえ」
「くくく、違いねえ」
「それにしても、おまえさんの昔の連れといえば例のあれだろう? 俺たちも大概たいがいだが、流石にあれには負けるぜ」
「おうとも。迷子を探す親をだましてしぼるだけ絞りとったら、あとはり捨てる。とんだ外道げどうがいたものよ」
「そういうおまえだって、この前の押し込みでは嬉々ききとして女や子どもをあやめていたではないか」
「ふふふ、たまに血を吸わせてやらねば、愛刀がへそを曲げるからなぁ」

 耳をふさぎたくなるような会話である。鬼畜きちくな所業を平然と語り、男たちはげらげら笑っていた。これには鉄之助も嫌悪感けんおかんを露わにする。
 そして男たちは、続けてこんな話をした。

「仏のお導きといえば、よもやあの伊勢屋のじじいが転がり込んでくるとはな」
「そのことよ。仮にも大店の隠居だぞ。一人でこんなところをうろつくものか?」
「ああ、おれは前に顔を見たことがあるからたしかだ。せっかく打ち出の小槌こづちを手に入れたことだし、江戸からおさらばする前に、もうひと稼ぎといこうじゃないか」
「その大事な小槌は、どうしている?」
「奥の納戸なんどしばって転がしてある。ぽっくり逝かれてはたまらんから、あとで水とにぎり飯でも差し入れてやるさ」

 探し人の居所いどころが知れた。
 鉄之助は床下を這って、そちらへと向かう。
 納戸に辿り着くと、手足を縛られ、猿轡さるぐつわをかまされている老爺がすぐに見つかった。床下から「ご隠居」と呼びかければ、老爺は身をよじらせて口元をもがもがさせる。

「しっ、連中に気づかれる。すぐに助けるから、ちょいと待っててくれ」

 鉄之助はご隠居をたしなめ、いったんその場を離れた。

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