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235 起死回生の矢

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 赤べこが荒野を駆ける。
 短い足にてシャカシャカ走るフセ、コミカルな動きのわりにかなりの速度が出ている。
 風を切り突き進むその背に必死に掴まりながら、枝垂は後方をちらり。
 追いかけてくる星骸二十三号、体格差があるがゆえに、せっかくフセが稼いでくれた距離がじりじり縮まっていく。彼方に目を向ければ不時着した飛空艇ヒノハカマの姿がはや遠く、豆粒ほどにもなっている。

(けっこう引き離したけど、もっともっと離れないと。あの青いブレスなら、これぐらい届きそうだし)

 枝垂はふたたび視線を星骸二十三号へと戻す。
 ヤツの足取りはややおぼつかない。千鳥足とまではいわないが、運動会の保護者参加のリレー競技にて、張り切り過ぎた父親っぽいカクカクした動き。
 脆い地形の影響もあるのだろうが、これまでの攻撃が効いているのだ。消耗もかなりしている。連合軍や勇者隊、ヴァシリオスの星斬り、エレン姫の光魔法など、コツコツと積み上げてきたものは無駄ではなかった。
 きっとあと少しのはず、なのだけれども虚弱体質の星クズの勇者にとれる攻撃手段は限られている。

(……となれば、やはり狙うのは真紅の宝石なんだろうけど)

 さすがに星骸二十三号も用心しているはず。おめおめとは攻撃を喰らってはくれないだろう。チャンスはそう多くない。
 枝垂が横に顔を向ければ、シュタタタと並走している飛梅さんと目が合った。
 飛梅さんがコクンと小さくうなづく。
 主従の間に言葉は不要、枝垂の意を汲み取り、木偶人形が赤べこのそばを離れては二手に分かれた。
 星骸二十三号……一華は枝垂にしか興味がない。
 分かれた飛梅さんは無視して、フセにまたがる枝垂のみを追い続けている。
 だからそれを利用して仕掛ける!

  ☆

 飛空艇ヒノハカマからは十分に距離がとれた。
 あとは起死回生の一矢をヤツに見舞うのみ。
 そのタイミングを計りながら逃げ続ける枝垂たちであったが、不意にゾクリとして背後からもの凄い圧を感じた。
 たちまち周囲の雰囲気が変わり、ジリリと空気が焼けたような感覚に襲われる。
 慌てて枝垂がふり返ろうとした時、それはやってきた。

 ゴォオォォォォオォォォォォォ――――!

 蒼い熱線による一閃が中空を染めあげ疾駆する。破壊光線が枝垂たちの頭上を越え、その前方へと突き刺さったとおもったら、右へとゆっくり移動し大地にギリリと爪を立てるようにして薙ぎ払う。
 チョロチョロ逃げ回る枝垂たちに業を煮やした星骸二十三号による攻撃である。
 もちろん当てるつもりはなく、あくまで牽制だ。
 とはいえ、たった一撃にて地面を深々と抉り、爆煙を盛大にあげ、熱波が吹き荒れる。

(――っ! くそっ、前方および右方面を潰された)

 これにより枝垂たちは進路を左へととるしかなくなった。
 でも、それこそが星骸二十三号の狙いであった。

 ほどなくして、地面が緩やかな下り坂へと変わる。
 ここは浅いすり鉢状になっている超巨なクレーターにて、見晴しがよく、身を隠す場所がどこにもない。
 追われる側にとっては檻にも等しい死地である。
 まんまと誘導されたことに枝垂は歯噛みしつつも、すり鉢の底へと向かうしかなかった。

  ☆

 クレーターの底へと到達する。
 地面が平らになってからほどなくしてフセが足をとめた。
 枝垂はフセの背から降り、乾いた大地に立つ。
 ペチリとお尻を叩かれたフセが、しぶしぶといった風にて枝垂のもとを離れていく。
 それを横目に、斜面を見上げれば、土煙をあげながら坂を転がるようにして駆けおりてくる星骸二十三号の姿があった。

『……オニイ……チャン……ギイィイィィィ……オォォォニイチャ……』

 星骸二十三号の胸元に浮かんだ一華の顔がダミ声をあげては、洞のような双眸から黒い液体を垂れ流している。
 灰皿に溜まった汚水のようなそれは喜びの涙なのか、たんに体内の汚染物質が漏れ出ているだけなのかはわからない。

「さぁ、鬼ごっこはおしまいだよ、一華。ケリをつけよう」

 枝垂は星骸二十三号をにらんだまま、左腕にはめた金の腕輪にそっと触れた。
 この腕輪は魔道具、星の勇者たちに支給される証の品。それをエレン姫が魔改造を施して強固な防護機能を付与してある。
 勇者隊に選ばれるような猛者が張ったシールドすらも、たやすく破壊する星骸二十三号にどこまで通じるのかはわからない。
 だが、一瞬だ。ほんの一瞬だけでいい。
 ヤツの動きを止めさえすれば……

 枝垂は右手をうしろにまわす。自身の背に隠すようにしてから、意識を手の甲に刻まれた紋章へと集中する。
 しっかり練り上げるようにして、星のチカラを高めていく。


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