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189 コロナとギルドのお仕事。
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小柄なオカッパ頭の女冒険者が純朴そうな依頼主のところを訪れたとき、彼はてっきり魔法でも使って、裏庭の切株らをどうにかするもんだとばかり思っていた。なのにその娘はむんずと無造作に切株を掴むと、そのまま強引に引っこ抜いてしまった。
同じ調子で残りの五つもバンバン抜いてしまう。
あまりの馬鹿力に呆気に取られていると、女冒険者は「取り出した切株はどうすればいい?」と訊ねてきたので、つい細かくしてくれたら薪に使えるんだが、と答えてしまった。
あくまで依頼は切株の除去、依頼の内容に外れた要求は契約違反になる。ギルドとの約束事を破ったら、どんなペナルティが課せられるかわからない。
慌てて止めようとする依頼主。だがそこでまたしても彼は呆気に取られてしまう。
取り出した黒い剣にて、瞬く間に切り刻まれる切株たち。どうやって切っているのかさえわからないほどの高速で動く刃、数分後には、ほとんどサイズが整えられた薪の山が出来上がっていた。
「ご主人、これらはどちらに運んでおけばよろしいでしょうか」
目の前の出来事から受けた衝撃が強すぎて、もはや頭が満足に働かない依頼主。
ぼんやりと家の脇にある薪置き場を指さす。
薪の山をごっそりと抱き上げた娘が、さっさと置き場へと運んでしまい、ほんの数回往復するだけで、すべてを片づけてしまった。
「こんなところでしょうか。よろしければ、こちらにサインをお願いします」
女冒険者に促されるままに、依頼書に自分の名前をかく依頼主。
これにて依頼は完了となる。時間にしてほんの三十分ほどであった。
「いやー、驚いた。力自慢の奴ならこの町にもそれなりにいるが、ここまでのは見たことがないよ。あんた一体、どこから来なさった?」
「隣の王国からです」
「そんな遠くから……、なるほど。これぐらい強くないと一人旅なんて無理だもんなぁ。もしかしてあっちの娘さんは、みんなこんなに力が強いのかね?」
「そうですね。だいたい強いです。知り合いで一番強い人なら、私なんて小指一本で軽くあしらわれるでしょう」
「小指一本っ! そりゃあ、スゴイ! さすがは王国だなぁ、なんもかんもが桁違いだ」
コロナの話を真に受ける純朴な依頼主。彼女が知り合いと言ったのが、黒いドラゴンのことだとは、夢にも思わないのであろう。
二人とも無事に依頼を完了し、合流を果たす。
旅に出てからこっち、殺伐とした事が多かったので偶にはこんな仕事もいいな、なんて会話をしながら三件目の依頼の場所へと向かう。
町の中でも中央の方に位置する、お屋敷が現場であった。
小奇麗に片づけられた室内、箪笥や食器棚、リビングのテーブルや寝室のベッドを動かしたい、ついでに敷物を変えるのを手伝ってほしいという老婆。若干、依頼内容と違う気もしたが快く引き受ける。お年寄りの一人暮らしは大変だからな。
昔、商店をやっていたという彼女は人使いが上手く、彼女の指図にしたがってドンドンと家具を動かし、オレがササッと拭き掃除などをこなし、洗浄技能にて敷物だけでなくカーテンやソファーなども綺麗してから、再配置を行う。
実際に並べてみて、気に入らなければやり直すを繰り返すこと三回。普通ならば大勢の人を雇っても半日仕事を、わずか二時間ほどで終わらせ、老婆はご満悦であった。
「若いくせにやるもんだねぇ。なんならウチの孫の嫁にこないかい。もちろん、そっちの青いスーラも歓迎するよ」
そんなお褒めの言葉を頂戴しつつ、依頼書にサインをもらって三つ目の依頼も完了。
見違えるほど素敵空間になった老婆宅にて、お茶と昼食をご馳走してもらってから、オレたちはギルドへと報告に戻った。
これでノルマ達成かと思って、意気揚々と受付のオバちゃんにサイン入りの依頼書を提出したら、労いの言葉ではなくて新たな依頼書を三枚手渡された。
仕事はドブさらい、未亡人の話し相手、教会の雨漏りの修繕、といった内容だった。
「助かるよ。仕事はまだまだあるんだ。頼りにしてるよ」
どうやらオバちゃんはオレたちを使えると判断し、徹底的にコキ使うつもりのようだ。
抵抗しても無駄そうなので、大人しく引き下がったオレたちは、次の依頼先へと赴く。
未亡人の話し相手という仕事には、もの凄く興味があったが、オレが言葉を理解し話せるのは周囲には秘密なので、これはコロナに任せて、残り二つをオレが引き受けた。
結局、この日、オレたちだけでこなした依頼の総数は二十一件。
「一日での最高件数をぶっちぎっちまったよ。この調子で明日もよろしく」
陽がとっぷりと暮れるまで頑張ったご褒美は、オバちゃんの労いの言葉と、明日も今日と同じ状態が続くという、残念な宣告だった。
翌日も朝から町中を駆け周るオレたち。
せっせと片づけているハズなのに、依頼が一向に減らない。他の奴らがサボっているのかとも思ったが、どうやら青いスーラとオカッパ頭の女冒険者の仕事ぶりが評判となり、指名依頼が殺到しているらしい。
頑張れば頑張るほどに仕事が増える、まるで蟻地獄にはまり込んでしまったようだ。
二日目も陽が暮れるまで頑張って二十四件の依頼をこなし、歴代最多記録を更新する。
三日目も四日目も同じように過ごし、更に記録を更新し続ける。
一方で、遺跡へと向かった連中からは、何の連絡も届かなかった。
同じ調子で残りの五つもバンバン抜いてしまう。
あまりの馬鹿力に呆気に取られていると、女冒険者は「取り出した切株はどうすればいい?」と訊ねてきたので、つい細かくしてくれたら薪に使えるんだが、と答えてしまった。
あくまで依頼は切株の除去、依頼の内容に外れた要求は契約違反になる。ギルドとの約束事を破ったら、どんなペナルティが課せられるかわからない。
慌てて止めようとする依頼主。だがそこでまたしても彼は呆気に取られてしまう。
取り出した黒い剣にて、瞬く間に切り刻まれる切株たち。どうやって切っているのかさえわからないほどの高速で動く刃、数分後には、ほとんどサイズが整えられた薪の山が出来上がっていた。
「ご主人、これらはどちらに運んでおけばよろしいでしょうか」
目の前の出来事から受けた衝撃が強すぎて、もはや頭が満足に働かない依頼主。
ぼんやりと家の脇にある薪置き場を指さす。
薪の山をごっそりと抱き上げた娘が、さっさと置き場へと運んでしまい、ほんの数回往復するだけで、すべてを片づけてしまった。
「こんなところでしょうか。よろしければ、こちらにサインをお願いします」
女冒険者に促されるままに、依頼書に自分の名前をかく依頼主。
これにて依頼は完了となる。時間にしてほんの三十分ほどであった。
「いやー、驚いた。力自慢の奴ならこの町にもそれなりにいるが、ここまでのは見たことがないよ。あんた一体、どこから来なさった?」
「隣の王国からです」
「そんな遠くから……、なるほど。これぐらい強くないと一人旅なんて無理だもんなぁ。もしかしてあっちの娘さんは、みんなこんなに力が強いのかね?」
「そうですね。だいたい強いです。知り合いで一番強い人なら、私なんて小指一本で軽くあしらわれるでしょう」
「小指一本っ! そりゃあ、スゴイ! さすがは王国だなぁ、なんもかんもが桁違いだ」
コロナの話を真に受ける純朴な依頼主。彼女が知り合いと言ったのが、黒いドラゴンのことだとは、夢にも思わないのであろう。
二人とも無事に依頼を完了し、合流を果たす。
旅に出てからこっち、殺伐とした事が多かったので偶にはこんな仕事もいいな、なんて会話をしながら三件目の依頼の場所へと向かう。
町の中でも中央の方に位置する、お屋敷が現場であった。
小奇麗に片づけられた室内、箪笥や食器棚、リビングのテーブルや寝室のベッドを動かしたい、ついでに敷物を変えるのを手伝ってほしいという老婆。若干、依頼内容と違う気もしたが快く引き受ける。お年寄りの一人暮らしは大変だからな。
昔、商店をやっていたという彼女は人使いが上手く、彼女の指図にしたがってドンドンと家具を動かし、オレがササッと拭き掃除などをこなし、洗浄技能にて敷物だけでなくカーテンやソファーなども綺麗してから、再配置を行う。
実際に並べてみて、気に入らなければやり直すを繰り返すこと三回。普通ならば大勢の人を雇っても半日仕事を、わずか二時間ほどで終わらせ、老婆はご満悦であった。
「若いくせにやるもんだねぇ。なんならウチの孫の嫁にこないかい。もちろん、そっちの青いスーラも歓迎するよ」
そんなお褒めの言葉を頂戴しつつ、依頼書にサインをもらって三つ目の依頼も完了。
見違えるほど素敵空間になった老婆宅にて、お茶と昼食をご馳走してもらってから、オレたちはギルドへと報告に戻った。
これでノルマ達成かと思って、意気揚々と受付のオバちゃんにサイン入りの依頼書を提出したら、労いの言葉ではなくて新たな依頼書を三枚手渡された。
仕事はドブさらい、未亡人の話し相手、教会の雨漏りの修繕、といった内容だった。
「助かるよ。仕事はまだまだあるんだ。頼りにしてるよ」
どうやらオバちゃんはオレたちを使えると判断し、徹底的にコキ使うつもりのようだ。
抵抗しても無駄そうなので、大人しく引き下がったオレたちは、次の依頼先へと赴く。
未亡人の話し相手という仕事には、もの凄く興味があったが、オレが言葉を理解し話せるのは周囲には秘密なので、これはコロナに任せて、残り二つをオレが引き受けた。
結局、この日、オレたちだけでこなした依頼の総数は二十一件。
「一日での最高件数をぶっちぎっちまったよ。この調子で明日もよろしく」
陽がとっぷりと暮れるまで頑張ったご褒美は、オバちゃんの労いの言葉と、明日も今日と同じ状態が続くという、残念な宣告だった。
翌日も朝から町中を駆け周るオレたち。
せっせと片づけているハズなのに、依頼が一向に減らない。他の奴らがサボっているのかとも思ったが、どうやら青いスーラとオカッパ頭の女冒険者の仕事ぶりが評判となり、指名依頼が殺到しているらしい。
頑張れば頑張るほどに仕事が増える、まるで蟻地獄にはまり込んでしまったようだ。
二日目も陽が暮れるまで頑張って二十四件の依頼をこなし、歴代最多記録を更新する。
三日目も四日目も同じように過ごし、更に記録を更新し続ける。
一方で、遺跡へと向かった連中からは、何の連絡も届かなかった。
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