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78 闇に蠢く市松人形
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深夜の王都に蠢く影。
こんばんわ、沢良宜花蓮(さわらぎかれん)です。現在、王国の王都に潜入中です。
警備がちょろいので忍び込むのは簡単でした。内紛一歩手前にて、政治空白が起きているらしく、都全体がガタガタです。上がガタガタなので下の動揺も酷い有様、そのしわ寄せがすべて住民に押し寄せているらしく、ご愁傷さまです。
今回の勇者ごぼう抜き作戦において、魔王様直属の暗部の協力が得られたので、あちこちの陣営に散らばった勇者らの居場所は、すぐに判明しました。セラーさんの元同僚の方たちってとっても優秀。
だから私はちゃっちゃと、目当てのクラスメイトらのもとに押しかけては、サクッと説得しちゃいました。みんな、ほとほと困っているところでしたので、簡単でしたよ。
「ねぇ、魔族領にこない? ごはん、とっても美味しいよ。とりあえずコレ、食べてみて」
差し出した焼肉弁当に、涙ながらにかぶりつく女子たち。彼女たちは食べ終わった直後に亡命を表明、そのまま私の仲間たちが待つ地点に案内しました。
警備や見張り? そんなものはサイレンサー付きの麻酔銃で一発です。あとセラーさんや元同僚の方らが、背後から忍び寄って首筋を手刀でトンでおねんね。
食べ物でも釣られない子たちには、厳選したイケメン魔族を網羅した絵姿集を見せたら、ぐらりと傾いたので、止めに「彼らはとっても一途で誠実、万年発情王子とは違うよ」と教えてあげたら、こぞって転んで下さいました。
ある男子には「ねぇ、魔族領にこない? 可愛いモンスター娘がわんさかいるよ」と声をかけたら、即座に亡命を決意なされました。「猫耳、猫耳はいるのか!」と喰いついてきた方もいましたが、「もちろん」と答えると、彼もまたすぐに旅支度を始めました。
「のじゃ幼女はいるのか?」という意味不明な言葉を口走った方は、とりあえずバンっと一発、麻酔弾で眠らせて、ロープで縛って連れ出しました。なんとなく放置してはいけないような気がしたのです、人として。
結局、この夜だけで魔族領に亡命することになったクラスメイトらは、全部で十八名。
荷物は二つに分けて運搬します。先にフリージアさんの蒼いドラゴンが出立しました。
目をつけていた人材はとりあえず全て確保できましたし、成果としては充分でしょう。
今回、勧誘しなかった人たちは、権力に媚びたり、王子やお姫様の囲い者になって満足しているようですし、放っておいてあげるのが、いいと思うのです。
ただ、委員長については……。
そんなことを考えつつすべての積み込み作業を完了して、アルティナさんの紅いドラゴンの背に乗って飛び立とうとしたとき、そこにすっかり変わり果てた姿をした委員長の山本大樹くんが姿を現しました。どこか理知的だった風貌はすでになく、抜き身の刃のような不穏な気配をまとい、窪んだ目がランランとして、かなり危ない人に見えます。
どうやらせっせと運搬作業に勤しむ私たちの仲間の姿を、街中で偶然にも見かけたようですね。
不審がってここまで来てみれば、魔族がクラスメイトたちを攫っているの図、これはマズい状況です。彼はすっかり妄想の国の住人になっているらしく、こちらの話をまともに聞いてくれそうにありません。
「沢良宜さん! 沢良宜さんじゃないか! やっぱり生きていたんだ……、良かった。でも、それならどうして紅いドラゴンの背に? まさか! 連中、君を洗脳したのかっ! くそ、魔族どもめ、どこまで卑劣な手段を使えば気が済むんだ」
……うん、これは駄目そうです。
言葉を交わすだけ無駄ですね。だからアルティナさんに頼んで、とっとと飛び立ってもらいまいた。
遠ざかる足元で、必死に私の名前を呼ぶ声が聞えたような気もしますが、面倒なので聞かなかったことにしておきましょう。
こんばんわ、沢良宜花蓮(さわらぎかれん)です。現在、王国の王都に潜入中です。
警備がちょろいので忍び込むのは簡単でした。内紛一歩手前にて、政治空白が起きているらしく、都全体がガタガタです。上がガタガタなので下の動揺も酷い有様、そのしわ寄せがすべて住民に押し寄せているらしく、ご愁傷さまです。
今回の勇者ごぼう抜き作戦において、魔王様直属の暗部の協力が得られたので、あちこちの陣営に散らばった勇者らの居場所は、すぐに判明しました。セラーさんの元同僚の方たちってとっても優秀。
だから私はちゃっちゃと、目当てのクラスメイトらのもとに押しかけては、サクッと説得しちゃいました。みんな、ほとほと困っているところでしたので、簡単でしたよ。
「ねぇ、魔族領にこない? ごはん、とっても美味しいよ。とりあえずコレ、食べてみて」
差し出した焼肉弁当に、涙ながらにかぶりつく女子たち。彼女たちは食べ終わった直後に亡命を表明、そのまま私の仲間たちが待つ地点に案内しました。
警備や見張り? そんなものはサイレンサー付きの麻酔銃で一発です。あとセラーさんや元同僚の方らが、背後から忍び寄って首筋を手刀でトンでおねんね。
食べ物でも釣られない子たちには、厳選したイケメン魔族を網羅した絵姿集を見せたら、ぐらりと傾いたので、止めに「彼らはとっても一途で誠実、万年発情王子とは違うよ」と教えてあげたら、こぞって転んで下さいました。
ある男子には「ねぇ、魔族領にこない? 可愛いモンスター娘がわんさかいるよ」と声をかけたら、即座に亡命を決意なされました。「猫耳、猫耳はいるのか!」と喰いついてきた方もいましたが、「もちろん」と答えると、彼もまたすぐに旅支度を始めました。
「のじゃ幼女はいるのか?」という意味不明な言葉を口走った方は、とりあえずバンっと一発、麻酔弾で眠らせて、ロープで縛って連れ出しました。なんとなく放置してはいけないような気がしたのです、人として。
結局、この夜だけで魔族領に亡命することになったクラスメイトらは、全部で十八名。
荷物は二つに分けて運搬します。先にフリージアさんの蒼いドラゴンが出立しました。
目をつけていた人材はとりあえず全て確保できましたし、成果としては充分でしょう。
今回、勧誘しなかった人たちは、権力に媚びたり、王子やお姫様の囲い者になって満足しているようですし、放っておいてあげるのが、いいと思うのです。
ただ、委員長については……。
そんなことを考えつつすべての積み込み作業を完了して、アルティナさんの紅いドラゴンの背に乗って飛び立とうとしたとき、そこにすっかり変わり果てた姿をした委員長の山本大樹くんが姿を現しました。どこか理知的だった風貌はすでになく、抜き身の刃のような不穏な気配をまとい、窪んだ目がランランとして、かなり危ない人に見えます。
どうやらせっせと運搬作業に勤しむ私たちの仲間の姿を、街中で偶然にも見かけたようですね。
不審がってここまで来てみれば、魔族がクラスメイトたちを攫っているの図、これはマズい状況です。彼はすっかり妄想の国の住人になっているらしく、こちらの話をまともに聞いてくれそうにありません。
「沢良宜さん! 沢良宜さんじゃないか! やっぱり生きていたんだ……、良かった。でも、それならどうして紅いドラゴンの背に? まさか! 連中、君を洗脳したのかっ! くそ、魔族どもめ、どこまで卑劣な手段を使えば気が済むんだ」
……うん、これは駄目そうです。
言葉を交わすだけ無駄ですね。だからアルティナさんに頼んで、とっとと飛び立ってもらいまいた。
遠ざかる足元で、必死に私の名前を呼ぶ声が聞えたような気もしますが、面倒なので聞かなかったことにしておきましょう。
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