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123 漆黒の亡霊編 デュラハ
しおりを挟む尊敬できる師、競い高め合える友、信頼する仲間、恋い慕う女。
良縁に恵まれた半生であったと思う。あの頃は、毎日が楽しくてしようがなかった。
だが、それを壊したのは己の過信……。
冒険者のトップランカーとしてもてはやされ、調子に乗っていた。
仲間の忠告に耳を貸さず、心配してくれた友の言葉を「自分に嫉妬している」なんぞと勘違いし、惚れた女に呆れられていることにも気づけない。なんと愚かであったことか。
挙句の果てにはチカラに驕り、油断をして大怪我を負ったオレなんかを救うために、フィオナは無理をして死なせてしまった。
彼女は超一流の『癒し』の使い手であった。
癒しは即効性のある回復魔法。それこそ瀕死の状態からでも復活させることが可能で、神の御業のごとき奇跡を為す。だがそれだけに使用者にかかる負担も大きい。それこそ命を縮めかねないほどに。
ゆえに通常時の使用では、傷口を塞いだり出血を止めたりといった、あくまでも一時的な救護処置に留めておく。
それをフィオナはオレなんかのために限界を超えて酷使した。
その結果、反動で肉体が自壊し、無残な最期を遂げてしまう。
すべてを知ったのは、病院のベッドで目覚めてからのこと。
すでに葬儀は済まされた後であった。
彼女の遺体は、あまりの損傷の酷さゆえに、火葬にて弔われたという。
オレは自分の軽率な行動のせいで、大切なヒトを永遠に失った。
ハウンドは「お前のせいじゃない。フィオナが自分で選んだことだ」と言った。
ラマンダは何も言わない。親友を殺した相手に恨み事のひとつも漏らさない。
攻守に優れ、視野が広く、つねに冷静沈着な判断をするリーダーのハウンド。
世話役で、高火力の魔法による攻撃が得意であったラマンダ。
アタッカーとして前線にて戦うオレことデュラハ。
癒しの能力にて後方支援を行うフィオナ。
歴代最強との呼び声も高かったパーティーは、ムードメーカーであったフィオナが欠けたことによって、ほどなく空中分解を起こし解散する。
ハウンドはギルドマスターへの道を歩む。前々から本部より打診されていたようだ。
ラマンダは孤児院を兼ねた寄宿舎学校の創設へと動き出した。これは生前のフィオナとの約束事でもあったらしい。彼女たちは二人とも孤児で、いずれは自分たちのような身の上の子どもたちのために、寄る辺となる場所を創ろうと決めていたんだとか。
そしてオレは、逃げるように彼らの前から姿を消した。
どうしても自分が許せない。
非力な自分が。
むざむざと惚れた女を死なせてしまった自分が。
愚かな自分が許せない。
だからチカラを求めた。
何ものにも屈しないチカラがあれば、何かを失うことなんてないだろうから。
各地を転々とし、ひたすらチカラを求めて己を追い込み、闘い続けた果てに辿りついたのは、ほとんど忘れさられた古き伝説の残る修練場。
ヒトどころかモンスターすらも寄りつかない荒野の奥にある、四方を深い谷に囲まれた過酷な台地。
かつて勇者が修行に使っていたという場所にて篭ること数年。
鍛錬に鍛錬を重ねていると、不意に異様な気配を感じる。
空間が揺らぎ、姿を現したのは紅い甲冑を着た仮面の男。
ひと目でわかった。コイツは強いと。
「馴染の場所がなにやら騒がしいと来てみれば……。いまどき酔狂な奴がいたものだな」
男はルギウスと名乗った。
オレは彼に闘いを挑み、そして負けた。
完敗だった。天と地ほどの実力差が二人の間にはあった。
「もっと強くなりたいか? 更なるチカラを求めるか?」
ズタボロとなり地面に這いつくばるオレに向かい、ルギウスがそのような言葉を口にする。
「当然だ!」
わずかに残った気力を振り絞り叫ぶ。その拍子にゴボリと血を吐くも、気にはしない。
「ならば私と一緒に来るがいい。協力するのならば、チカラをくれてやろう」
ルギウスより差し出された手を掴む。
ためらいはない。ようやくにして目指すべき頂を見つけたのだから。
オレは強くなる。そして必ずコイツを超えてみせる。
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