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第二章 結婚生活
近所付き合い
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ラニアの別邸で一日ゆっくりと骨休めをしたので、次の日の朝早くに馬車に乗る時にも気力が充実していた。
また皆で馬車に乗って走り出した時に、コールとキムの口数が少ないことに気づいたが、昨日のことで恥ずかしがっているのだろうと思って、そっとしておいた。
半刻ほど走った時に、野原が一面黄色に染まっている場所にさしかかった。
「うわーーっ! なに?!」
こんな景色、見たことない。
「ひまわりの群生地だろう。」
ダニエルは平然としているが、セリカにとっては人生で初めて見た風景だ。
思わず馬車の窓から身を乗り出してしまう。
青い空と、馬車の前方に見える南の空の白い入道雲、そして目の前に広がる黄色のひまわりの花。
眩しい太陽の光に照らされて、くっきりと鮮やかに彩られたこんな景色を見ていると、夏を満喫できる感じがする。
ひまわりの群生地を過ぎた所に、小さな村があった。
「ここがうちの侯爵領と隣のバール男爵領の境界の村になる。」
ダニエルがそう教えてくれた時に、村の中に低い柵が巡らしてあるのがチラリと見えた。
道の先に検問所があるようで、馬車がゆっくりと止まった。
セリカはダレニアン伯爵領から外へ出たことがなく、ラザフォード侯爵領に来る時にはポチに乗って空から来てしまったので、こういう所領の境界を見るのは初めてだ。
なんだかドキドキする。
「大丈夫かなぁ。」
「今は国内に争いがないからね。検問所も形式的なものだよ。」
ダニエルが言う通り、検問所のお兄さんたちがニコニコと敬礼をしながら旅の安全を祈ってくれた。
途中、ダニエルが「あそこが、バール男爵の屋敷だ。」と言って、街道から少し奥まったところにある建物を教えてくれたが、クリストフ様の新しい屋敷になったフェルトン子爵邸よりも、一回り小さい大きさに見えた。
もう少しでバール男爵領を抜けるという最後の街で、お昼ご飯を食べることになった。
「ここの名物は何かしら。楽しみね。」
「セリカ様、ここはあんまり期待できない味かもしれません。」
コールが、食べる気満々のセリカに注意してくる。
「え? どうして?」
「バール男爵領は昔風の考え方の人が多くてね。あんまり工夫するということがないんだ。だから無難な料理を選ぶことを勧める。例えば…スープとか。」
「そうなの…。」
ダニエルの忠告を素直に聞き入れて、セリカはスープとパンを頼んだのだが…。
うーん、このスープの出汁の取り方? それとも煮込み過ぎた野菜? 塩加減? どこに文句をつければいいのかしら…。
― 全体的に味が薄いわね。
キャベツがデロデロだし。
コクもない感じ。
残念過ぎる。
このパンもいつ焼いたのか、固いわねぇ。
それでもスープがあったので、なんとかパンをふやかして食べることができた。
セリカのテンションがすっかり下がっていたので、コールが小声で元気づけてくれた。
「今日はここではなく、隣の領地のホルコット子爵領に泊まりますから、夕食は美味しいものが食べられますよ。」
そんなことを言っていたので、急に声をかけられてセリカたちは驚いた。
「ラザフォード侯爵閣下、良かったお会いできて。どちらで食事をされるのか考えて探し回りましたよ。」
図々しい笑顔で話しかけてきたのは、まだ若そうな茶髪の男の子だった。
「…ロナルド。何の用だ。」
ダニエルは眉間にシワを寄せて、迷惑そうにロナルドという人をチラリと見ただけだったが、そんなことに怯む御仁ではなかったらしい。
セリカたちがいるテーブルに椅子を持って来て、断りもせずに座ってしまった。
「自己紹介しますね。僕はバール男爵の嫡男でロナルド・バールといいます。結婚式には僕が行きたかったのに親父が行っちゃって。セリカさんですよね。お初にお目にかかります。どうぞよろしくお願いします。」
「あ、こちらこそよろしくお願いし…。」
「セリカ、こんな奴に挨拶しなくていい。礼儀も何もあったものじゃない。私たちは旅行中だ。お前に会う予定はない、さっさと帰れ!」
「もう、侯爵閣下は変わらないなぁ。奥さんをもらって少し柔らかくなったって聞いてたのに。僕はこの男爵領を変えたいんですよ! 旧態依然として変わらないここを何とかして変えていきたいんです。侯爵閣下~、隣の領地の誼で何かいいアイデアを教えて下さいよ~。」
「そうやって、自分で考えようとしないから、何も変わらんのだろうがっ。」
ふーん、そういうことね。
いいこと思いついたー。
「ロナルドさん、私でよければ一つアイデアがありますが…。」
「セリカ!」
「へ~、さすがお姉さん。話がわかるね。どんなアイデアなんですか?」
ふふふっ。
「まずは私が食べたものと同じ料理を完食してください。そうしたらいいことを教えて差し上げますよ~。」
「よしっ、のった。おーい、僕にもスープとパンを頼む!」
ロナルドは勢い込んで、給仕の人が持って来た料理を食べ始めたが、即座に顔色が変わり、だんだんとスプーンを口に運ぶ手に力がなくなって来た。
「…まずいな。」
「そうでしょう。コールも私たちのために、なるべくいい店を選んでくれたはずです。つまり貴族も羽振りのいい商人も、この料理を食べて旅行しているわけです。この男爵領に長く滞在したいと思うでしょうか?」
「そうか…。そこからなんだな。」
「食事の良し悪しというのは、人間生活の基本を作ります。健康な身体も、食事や運動から作られます。日々の幸せや生活をしていくうえでの活力にも、食事から与えられる影響というのは大きいんじゃないでしょうか?」
セリカの話を聞いて、クシュンと萎れていたロナルドは、途中から目をキラキラさせてセリカを見上げてきた。
「お姉さん、いや師匠! 僕に料理を教えてください!」
………………。
「ほらな、こういう奴だ。」
ダニエルが呆れてロナルドを見ている。
セリカもこういう反応が返ってくるとは思わなかった。
まあでも、本気で習う気があるのなら、教えてあげないこともない。
「それじゃあ、基本の包丁さばきを練習しておいてください。それと…一緒に習う仲間を2人選出しておくこと。やる気のある人たちじゃなきゃ、ダメですよ。料理の修行というのは厳しいものです。熱意のない人じゃないと続きませんから。」
「はいっ! 何でもしますっ!」
セリカの弟子…いや子分が、誕生した瞬間だった。
また皆で馬車に乗って走り出した時に、コールとキムの口数が少ないことに気づいたが、昨日のことで恥ずかしがっているのだろうと思って、そっとしておいた。
半刻ほど走った時に、野原が一面黄色に染まっている場所にさしかかった。
「うわーーっ! なに?!」
こんな景色、見たことない。
「ひまわりの群生地だろう。」
ダニエルは平然としているが、セリカにとっては人生で初めて見た風景だ。
思わず馬車の窓から身を乗り出してしまう。
青い空と、馬車の前方に見える南の空の白い入道雲、そして目の前に広がる黄色のひまわりの花。
眩しい太陽の光に照らされて、くっきりと鮮やかに彩られたこんな景色を見ていると、夏を満喫できる感じがする。
ひまわりの群生地を過ぎた所に、小さな村があった。
「ここがうちの侯爵領と隣のバール男爵領の境界の村になる。」
ダニエルがそう教えてくれた時に、村の中に低い柵が巡らしてあるのがチラリと見えた。
道の先に検問所があるようで、馬車がゆっくりと止まった。
セリカはダレニアン伯爵領から外へ出たことがなく、ラザフォード侯爵領に来る時にはポチに乗って空から来てしまったので、こういう所領の境界を見るのは初めてだ。
なんだかドキドキする。
「大丈夫かなぁ。」
「今は国内に争いがないからね。検問所も形式的なものだよ。」
ダニエルが言う通り、検問所のお兄さんたちがニコニコと敬礼をしながら旅の安全を祈ってくれた。
途中、ダニエルが「あそこが、バール男爵の屋敷だ。」と言って、街道から少し奥まったところにある建物を教えてくれたが、クリストフ様の新しい屋敷になったフェルトン子爵邸よりも、一回り小さい大きさに見えた。
もう少しでバール男爵領を抜けるという最後の街で、お昼ご飯を食べることになった。
「ここの名物は何かしら。楽しみね。」
「セリカ様、ここはあんまり期待できない味かもしれません。」
コールが、食べる気満々のセリカに注意してくる。
「え? どうして?」
「バール男爵領は昔風の考え方の人が多くてね。あんまり工夫するということがないんだ。だから無難な料理を選ぶことを勧める。例えば…スープとか。」
「そうなの…。」
ダニエルの忠告を素直に聞き入れて、セリカはスープとパンを頼んだのだが…。
うーん、このスープの出汁の取り方? それとも煮込み過ぎた野菜? 塩加減? どこに文句をつければいいのかしら…。
― 全体的に味が薄いわね。
キャベツがデロデロだし。
コクもない感じ。
残念過ぎる。
このパンもいつ焼いたのか、固いわねぇ。
それでもスープがあったので、なんとかパンをふやかして食べることができた。
セリカのテンションがすっかり下がっていたので、コールが小声で元気づけてくれた。
「今日はここではなく、隣の領地のホルコット子爵領に泊まりますから、夕食は美味しいものが食べられますよ。」
そんなことを言っていたので、急に声をかけられてセリカたちは驚いた。
「ラザフォード侯爵閣下、良かったお会いできて。どちらで食事をされるのか考えて探し回りましたよ。」
図々しい笑顔で話しかけてきたのは、まだ若そうな茶髪の男の子だった。
「…ロナルド。何の用だ。」
ダニエルは眉間にシワを寄せて、迷惑そうにロナルドという人をチラリと見ただけだったが、そんなことに怯む御仁ではなかったらしい。
セリカたちがいるテーブルに椅子を持って来て、断りもせずに座ってしまった。
「自己紹介しますね。僕はバール男爵の嫡男でロナルド・バールといいます。結婚式には僕が行きたかったのに親父が行っちゃって。セリカさんですよね。お初にお目にかかります。どうぞよろしくお願いします。」
「あ、こちらこそよろしくお願いし…。」
「セリカ、こんな奴に挨拶しなくていい。礼儀も何もあったものじゃない。私たちは旅行中だ。お前に会う予定はない、さっさと帰れ!」
「もう、侯爵閣下は変わらないなぁ。奥さんをもらって少し柔らかくなったって聞いてたのに。僕はこの男爵領を変えたいんですよ! 旧態依然として変わらないここを何とかして変えていきたいんです。侯爵閣下~、隣の領地の誼で何かいいアイデアを教えて下さいよ~。」
「そうやって、自分で考えようとしないから、何も変わらんのだろうがっ。」
ふーん、そういうことね。
いいこと思いついたー。
「ロナルドさん、私でよければ一つアイデアがありますが…。」
「セリカ!」
「へ~、さすがお姉さん。話がわかるね。どんなアイデアなんですか?」
ふふふっ。
「まずは私が食べたものと同じ料理を完食してください。そうしたらいいことを教えて差し上げますよ~。」
「よしっ、のった。おーい、僕にもスープとパンを頼む!」
ロナルドは勢い込んで、給仕の人が持って来た料理を食べ始めたが、即座に顔色が変わり、だんだんとスプーンを口に運ぶ手に力がなくなって来た。
「…まずいな。」
「そうでしょう。コールも私たちのために、なるべくいい店を選んでくれたはずです。つまり貴族も羽振りのいい商人も、この料理を食べて旅行しているわけです。この男爵領に長く滞在したいと思うでしょうか?」
「そうか…。そこからなんだな。」
「食事の良し悪しというのは、人間生活の基本を作ります。健康な身体も、食事や運動から作られます。日々の幸せや生活をしていくうえでの活力にも、食事から与えられる影響というのは大きいんじゃないでしょうか?」
セリカの話を聞いて、クシュンと萎れていたロナルドは、途中から目をキラキラさせてセリカを見上げてきた。
「お姉さん、いや師匠! 僕に料理を教えてください!」
………………。
「ほらな、こういう奴だ。」
ダニエルが呆れてロナルドを見ている。
セリカもこういう反応が返ってくるとは思わなかった。
まあでも、本気で習う気があるのなら、教えてあげないこともない。
「それじゃあ、基本の包丁さばきを練習しておいてください。それと…一緒に習う仲間を2人選出しておくこと。やる気のある人たちじゃなきゃ、ダメですよ。料理の修行というのは厳しいものです。熱意のない人じゃないと続きませんから。」
「はいっ! 何でもしますっ!」
セリカの弟子…いや子分が、誕生した瞬間だった。
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