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学院に通う様になり、早くも一ヶ月が経った。だからと言って馴染む事はない。相変わらず遠巻きに見られては、ひそひそされていた。

だがアンネリーゼは、慣れてきた。始めはフランツの後ろでビクビクしながら虚勢を張っていたが、今では別段気にならない。

たまに王太子等と出会す時は、凄い形相で睨まれるが、それも慣れた。慣れとは凄いなぁとしみじみと思う今日この頃。

「ご機嫌よう、フランツ様」

「アンナマリー、おはよう。課題見せて~」

フランツの言葉に教室中の視線が集まるのを感じる。皆一様に目を見張る。それはそうだろう。フランツの話によれば、妹は課題どころか、授業すらまともに聞いていなかったそうだ。無論課題などの提出は必至なので、自分の信者等にノートを代わりに書かせたりしていた。因みにアンネリーゼは、彼等とは関わりたくないので距離を取り逃げ回っている。

昔からアンナマリーは勉強など頭を使う物はまるでダメだった。屋敷にいる時も、妹が勉強は無論の事、本すら読んでいる姿を見た事がなかった。それでも母が妹に怒る事は一切ない。もしアンネリーゼが同じようにしたら、大変な事になるだろう。怒鳴りつけられ、反省部屋に放り込まれてしまう。

幼い頃……まだ余り難しい事が理解出来ない年齢の時、遊んでいる妹が羨ましくて、言いつけを破り部屋を抜け出し外で遊んでいた。だが暫くして見つかってしまい、母は激怒してアンネリーゼの髪を引っ張り、地下にある反省部屋に放り込んだ。

反省部屋は真っ暗で少し肌寒く、何もない。床にはカーペットもクッションもなく、直接座るしかない。だがずっと座っているとお尻も痛くなり、冷えてきて身体を震わせた。成長してからは、反省部屋に放り込まれる事はなくなったが……たまに夢に見る。

ずっと妹が羨ましくて仕方がなかった。
その妹に、今自分は成り代わった。

私が、アンナマリー……。

だがいざそうなると、やはり自分がいい。自分でない他の誰かの人生なんて生きたくない。そんな風に感じた。それでもアンネリーゼは、家の名誉の為にと懸命にアンナマリーを演じた。

だが半月経った時、精神的に疲弊したアンネリーゼはふと我に返った。

妹が悪い筈なのに、どうして私がこんな目に遭わないといけないのか。
きっと今頃妹は、アンネリーゼとして母に甘やかされながら、実家の屋敷で悠々自適に過ごしている。

片や自分は、折角学院に通う事になったのに、アンナマリーのフリをしなくてはならない故勉強もしてはいけない、フランツ以外友人だっていない、それどころか妹が何かをやらかした所為で周囲からは遠巻きにされ無視されている……。王太子等にも事あるごとに凄まれる。まあ、アンナマリーの信者の彼等だけは味方の様だが……ちょっと気持ち悪いから近寄りたくないし。


そう考えて、やめた。下らない。

冷静になって考えてみれば、あの妹の為にそこまでする必要性を感じない。確かにラヴァル家は守りたい。だから一応アンナマリーとしては過ごす。だが、もう演じるのはやめた。

通学する際のドレスは自分の物を着用した。あんな露出で下品な物は着たくない。

毎日、確りと授業を受けて課題を自分でやって提出する。正直授業内容は退屈だった。アンネリーゼには簡単なものばかりだったが、誰かと机を並べて学ぶという事が新鮮で面白かった。昼休みにお弁当を食べる、放課後も書室へ寄る事も出来て、少しずつ学院生活を愉しみつつある。



「あの……ここ分からなくて。良かったら教えてくれない?」

三ヶ月、この生活を続けていた時だった。ある女子生徒から声を掛けられた。始め声が出ないくらい驚いたが、アンネリーゼは直様快諾した。
するとそれから暫くして、他の生徒達も話し掛けてくる様になってきた。
無論完全に無視を決め込む人間が大半だが、それでも話し相手が出来た事は嬉しい。


「結局皆、他人事なんだよ」

放課後、アンネリーゼは裏庭にいた。隣にはフランツが座っている。珍しく不機嫌そうな彼は口を尖らせる。

「どう言う意味ですか?」

「だってあんな事があったのに、少しアンナマリーが変わったからってさ、手のひら返しするんだもん」

その言葉にアンネリーゼは眉根を寄せた。時折彼は誰の味方なのか分からなくなる。まるで自分が馴染むのを、赦さないと言われている気がした。

あんな事ね……。

未だアンネリーゼは、あんな事の全貌を知らない。話し相手は出来たが、まさか本人がやらかした事を聞ける筈もない。無論フランツは教えてくれないし、気にはなるが知る術は無かった。

「でも、ほんの一部の方達だけですから」

「ふ~ん」

フランツは不満そうに適当に相槌を打ちながら、アンネリーゼに手を伸ばしてきたのでそれを慣れた様子で躱す。

「ちぇ、ケチだな」

「ケチじゃありません。破廉恥な事はお控え下さい」

フランツの事は別に嫌いではないが、隙あればこうやって触ってこようとするので正直、困っていた。

「あ、そうだ。明日から暫く僕いないから」




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