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第二章:大統領補佐官

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「最近ではあまりやらない文化だそうだが。私やベルが子供の頃はよく行われていた。」

新郎新婦の新居の庭で、皆が二人を囲んで祝福の品を渡す。

それは、花嫁に幸運をもたらすおまじない。
何か古い物を
何か新しい物を
何か借りた物と、何か青い物を

それから、食べるに困らない様に銀貨6枚を靴に忍ばせて。
花嫁に祝福を贈る。

「こういう事はしてあげられなかったからな。」

「ふっ、それは気にしてないけど。」

「何だ?」

「新婚って何時まで言うんだよ。」

嬉しいけど、恥ずかしい言葉だな新婚って。
俺的には新婚さんがいらっしゃい出来るのが3年だからそんなもんだと思ってたんだけど。

「ベルが10年目までは新婚だと言っていた。」

「長いな。」

「デルは5年、ユディールは3年、彼の夫は...いや、止めておこう。」

「あの人、ユディール君大好きだもんなぁ。」

へらっとした口調の割に、会議等では何時でも誠実で市民派だなと思わせられる。
俺では学び得ない価値観と金銭感覚、文化、現場の空気を知っている。
それは大いに役立つ経験で。
俺なんかでは一生得られなさそうな経験だ。

「トキアキ。」

不自然な沈黙が流れた。

「自己防衛の為に出る癖は外すのに時間が掛かる。」

心当たりが無いとは言えない。
多分、俺の悪い癖というのは"何も言わない事"だ。
いや、言える時もあるんだ。
最近は言う様にしているし、こっちの人は皆、俺の言おうとしている事を理解しようと勤めてくれる人が多い。
それでも、ダメな時はそれなら納得出来るから良いんだ。

けど、自分の事を話す瞬間、その時だけはどうしようも無く怖いんだ。
アトリウムの模様替え、楽しかったんだ。
スフレ作りも、親子丼も、何もかも楽しくて、皆が褒めてくれて、自分でも気に入ってる。

けど、誰にも言ったことないんだ。
ーーー俺これ好きだなって。

白鳥が見つかった時、実は少し焦ってた。
行燈やローテーブルとは違って、ユニット折り紙には俺の思い出が詰まってた。
エルが帰ってくるまでに片付けるつもりだったんだ。
只のストレス発散の産物は捨てるか、仕舞い込むか。バラすか。
とにかくひと目に触れる予定じゃなかった。

けど、エルが自分の選択を後悔する程褒めてくれた物を、捨てるのは勿体無いと思えたんだ。
素直に白状すべきだと思った。
今まで話すべきではなくとも、話さずにいた俺の一部。
否定されたくない思い出のほんのひとつを。
ほんの一回きり、溢した好き。


「贈り物は2つある。」

「2つ。貰ってばっかりだな俺。」

「ただ、1つはお前の許可が要る。」

「それはつまり、癖を外す贈り物はちょっぴり危険って事?」

「きっかけにはなるかもだろうが、下心も有る。」

「えっちなヤツか。隠し場所変えたほうがいいと思うなエルムディンさん?」

ギクっと肩が跳ねたのが伝わってくる。

「書斎の引き出し、左の」

「それは次の機会に、」

「ふっ、素直。えっちなライオンめ。」

見ちゃったんだよね。
定期的に見たいよね、秘密の引き出しってさ。
金色の革に、白の刺繍だった。だから青のチョーカー不思議だったんだよな。でもまぁそんなのがゴロゴロ入ってたわ。多分セットだよな。見慣れない奴と、まぁ用途が分かる奴。

あの見慣れない奴なんだったんだろ。

「お前のその顔が見られるなら、今夜はこのままでも良い。」

頬をするりと撫でられる。
親指が顎と唇周辺をすりすりして、擽ったい。

「恐らく今こうして話すだけでも、お前は自分の癖を意識しただろう。」

それがお前を守っている事も、苦しめている事も知っている。
その為に皆で目に見える贈り物をした。

「癖は意識さえすれば少しずつだが外せる物だ。」

「エルにも...有る、そう言う癖。」

「有る。ひと目にも分かりづらく自分はおろか、デルモントも気付かなかったが、流石医師だな。ベルに指摘された。」

じっと耳を傾けていると、エルが髪をくしゃりと撫でて来た。

「続きはお茶を淹れてからだ。紅茶で良いか?」

「おやつ貰って来る。」

「ふっ。」

まだ寝るには早過ぎる時間、二人揃う時は何時もリビングでお茶を淹れて貰っておやつを食べている。
今日は少し早めに寝室へ運ばれてしまったけど、おやつはある筈!

「うまぁ。」

案の定有った!流石ゼフ!
バニラアイスにナッツとバナナが乗ってる。
今日2個目のアイス。

「トキ。」

「んー?」

「お前のくちから聞く"おやつ"は可愛いな。」

「あっそ。」

「お前のお陰でこの邸におやつを楽しむ習慣が出来た。」

「えっ、!?」

「ゼフが言うには皆に厨房から振る舞った者も居ないそうだ。」

くっく、と笑ってイケおじがアイス食べてる。

「私のは食い縛りというらしい。無意識に奥歯を噛み締め、今でも意識的に気を付けてはいるが。当時ベルの診察を受けるまで全く気付かなかったな。」

「痛そう。」

「虫歯か何かだと思っていた。歯が欠けたり顎がズキズキ痛んだりしたからな。」

「それで?」

「飴を1日中咥えさせられた。」

「なんか余計痛そう。」

「... ... 不味かった。」

「うへぇ。」

舐めても不味い、噛んでも不味いで次第にくちの中から余分な力が抜け、頬に飴を詰める余裕が出来た頃、果物味の飴になったらしい。

「美味かった。」

「何味になった?」

「青りんごだった。」

いちごか桃か青りんご、で青りんご選んだのかこのひと。
さっぱり甘い系か。

「それで、お前はどうしたいトキ。」
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