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番外編

お気に入り190記念 SS

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あの日は給料日だった。

定時後10分で退社して、スーパーに行く筈だった。
ステーキ焼いて冷凍野菜をソテーするつもりで。
その前にATMへ行く途中、男の子の財布を拾った。

「すみません、そこの、財布落としましたよ!」

スニーカー、ウインドブレーカー、バックパックの男の子が隣の子に小突かれて、振り向くと慌てて走って来た。

「すみませんっ、!ありがとうございます!」

今時の子は背ぇ高いな。
しかもイケメン。モテそう。

「桃李ーっ!」

「今行くーっ、!じゃっ、ありがとうございますお兄さんっ!」

お礼にって、リュックから炭酸桃味の飴を取り出してくれた。
しっかり手も握られて眩し過ぎる笑顔で去って行った。

「若い。大学生か」

俺はしがないおっさんになったなぁ。
良いなぁ。モテモテだろうなぁ。
俺、大学はバイトばっかしてたからなぁ。
弁当屋の。

パートのおばちゃんどうしてるかなー。

そんな事を考えてたらATMに辿り着いた。
まぁ、想像通り混んでるけど。
さっきくれた飴、美味しいな。

「鱗太郎、」

「あん?」

「セツがまりとっ、まりとっそ...?と、紺様が苺大福食べたいそうだ。」

「あいつらデブらないのか。」

「まあ...紺様はともかくセツは粥ばかりだからな。」

「あぁー。」

珍しい物を聞いた。
今時固有名詞に様を付けるなんて。

「俺も。」

「うん?」

「明日の朝飯、お粥にする。」

「... ... 松様の分も買って良いか。」

「ウチのお供物そなえものって自由だよな。」

あぁ、御神体の話だったのか。
この辺にそんな神社有ったか?


「あ、なぁお兄さん。向こう空いたよ?俺ら次で良いからさ。」

「良いの?」

「良いよ。」

ーー今日はなんだかよく話しかけられる日だ。

「ありがとう。」

ペコッと頭を下げて譲らせて貰う。
随分不思議な雰囲気だな。
神職系の人って皆、ああなのか。

ATMを操作して、引き上げる時にまた頭を下げておいた。
というか仕事以外で人と喋ったの久しぶりだな。

「良いなぁ。」

俺も連れが欲しい。
恋人かあんな風に笑い合える友人でも良い。

えーっと、スーパーはあっちだから。
まぁ良いか。
偶には別の道でも通ろう。

「良悟ー、陸也居た?」

「居た。」

「わざわざ待ち合わせしてデートなんて、楽しみだね良悟。」

「買い出しはデートじゃ無いだろ。」

「そんな事ないよ?」

ーーーーー

「友康、」

「何だよ。」

「俺、何年かぶりに財布落とした」

「ふーん。何か縁が有るんだろ。旅先で財布無くすとか最悪な旅になる所だったなー?」

友康は普通の人には見えない物を見ていた。
薄桃色の風が吹き、ふわりと財布を落とさせ、"彼"は桃李の手ずから飴を受け取った。

封じていても仙桃妃だ。
無意識に整えて回るのを僕は止められない。
大学生の旅行先にしては特に何も無い場所だけど。
此処には稲置神社が有る。

結界の様子を見に来たという事を桃李は知らない。
まだ知らなくて良い。

それにしても彼、何か有るな。
桃李の加護が役に立つと良いんだけど。

「あの飴、最後の一個だったんだよなぁ。」



※天塚桃李~四人の龍王様の嫁になりました~
ーーーーー

「あのお兄さん、どうなる?」

「さぁ。俺には分からん。それより、天塚さんに出す茶菓子は何が良いだろうな。」

「探せば本人が近くに居そうだけどな。」

「紺様並みの神気だったな。」

「ヤバ過ぎだろ...マジで桃の匂いするんだな。」

最初は、あのお兄さんが食ってた飴かなんかだと思った。
けど、アレはそんな次元の話じゃ無い。

「変な不意打ち止めろよな。緊張してATMの順番譲るとか変な事した。」

「だが、表向きは只の観光だ。気を付けろよ鱗太郎。」

「あくまで大学生の神社観光だろ。セツが張り切ってた。」


とりあえず。
この辺を観光してる天塚神社から来て居るであろう二人の為に、茶菓子買わないと。

「さっきの、」

「あ?」

「明日の朝飯が粥で良いのは、本当か鱗太郎。」

「ホントに決まってるだろっ、」

「期待してる。」


※ 沼に頭から落ちたら恋人が出来ました。
ーーーーー

「良悟バス好きだよねー。」

「高校の時、バス通学に憧れた。」

「俺達歩きだったもんねー。」

少し遠くのスーパーの駐車場で陸也が待ってる。
バス停はちょっと遠くて、俺と和己は歩いて辿り着くしかない。

でも、帰りは陸也の車で三人で帰る。

偶に出かけるんだ。
陸也が会社を出る時間に合わせて、和己と二人でバス停まで散歩してスーパーの最寄で降りて、陸也に米を背負わせて三人で家に帰る。

その為に陸也の車はデカくてゴツイ。

「バスは楽しかったか良悟?」

「ん。お疲れ陸也。」

「お前もな。それで?米だろ。他にも有るか?」

「んーー。アイス。」

「それは和己に聞いてみろ。」

「分かった。」


※ 二人の主人と三人の家族
ーーーーー



人間の価値は諭吉の数ではないと言うが。
こんな時ばかりは、自分も社会の歯車に乗って、付加価値のある人間なのだと錯覚できる。

無意味で無色で冷たい自分の腹の中を誰かに溢した事は無い。
良い歳した男がそんな事をぼやけば、さぞ頼り甲斐のない男だと揶揄されてしまうだろう。
嫁に逃げられても文句は言えないのかもな。

「ま、そんな相手もいねえんだが。」

ハハッと苦笑する俺の横を、誰かがドンと押した。
声も出なかった。
気付いたら体は傾き、重心を直すことも無いまま池へと落ちた。

ドボンという音を聞いた気がする。

ーーーーー

それぞれがすれ違い、
それぞれがトキの為に
無意識でも、意識化でもほんの少しだけ願った。


「あのお兄さんに何か良い事があると良いな。」
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