婚約破棄されたら、最強魔導師が『ようやく俺のものになるな』と笑いました

ほーみ

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 ルシアンの金色の瞳に囚われたまま、私はしばし沈黙した。

 私は本当に自由になれるのだろうか?
 そして――この男の隣にいる未来を選ぶべきなのか?

 今まで王家の婚約者として生きてきた私にとって、誰かの庇護のもとで生きることは当然だった。けれど、ルシアンの言葉はそれとは違う。彼は私を「縛らない」と言った。
 それはつまり、私に選択肢が与えられたということ。

「……私が、自由に生きることを望んだら?」

 意を決して尋ねると、ルシアンは微笑みながら私の髪を撫でた。

「その時は、お前が満足するまで自由を楽しめばいいさ。だが、俺が見守ることに変わりはない。……お前がどこへ行こうと、俺は必ず迎えに行く」

「それは、自由とは言えないのでは?」

 思わず皮肉めいた言葉が口をつくと、ルシアンは楽しそうに笑った。

「そうかもしれないな。だが、俺はそういう男だ。……お前を手放すつもりはない」

 彼の瞳には、まるで獲物を捕らえた猛獣のような執着が宿っていた。それなのに、彼の言葉には不思議な優しさがある。

「お前がどんな選択をしようと、お前が何を望もうと、俺はそれを叶えてやる。……ただし、お前はもう俺のものだ」

 さらりと言われたその一言に、心臓が跳ねる。

「……勝手な人」

「俺は昔からこうだ。今さら驚くことじゃないだろう?」

 ふっと微笑む彼を見ていると、否定するのが面倒になってしまった。

「それより、お前のこれからのことを決めなければな」

 ルシアンは私の手を引き、部屋の奥へと案内した。そこには広い窓があり、塔の外の景色が一望できた。

「ここが、私のいる場所になるのね……」

「そうだ。お前が望むなら、ここで好きなように暮らせばいい。もちろん、俺の部屋に来ても構わないぞ?」

「……遠慮します」

「そうか? 残念だな」

 ルシアンは心底残念そうに肩をすくめたが、私は彼の言葉にあえて反応せず、外の景色に目を向けた。

 塔の周囲には広大な森が広がり、どこまでも続く緑の海が広がっている。王都の喧騒とはかけ離れた静寂が、ここにはあった。

「まるで、世界から隔絶された場所みたい……」

「まあ、実際そうだからな。この塔は、王宮からも遠く離れている。今のお前にとっては、最も安全な場所だ」

 私は思わず、ルシアンを見上げた。

「……王宮から離れているのは、私のため?」

「当然だ。お前は俺のものになった。そう簡単に誰かに奪われるわけにはいかないからな」

「奪われる……?」

 その言葉に違和感を覚えた瞬間、部屋の扉が乱暴に叩かれた。

「ルシアン様! 緊急事態です!」

 外から、焦燥した声が響く。ルシアンは一瞬だけ目を細め、私に「ここにいろ」と言い残して扉を開けた。

 そこに立っていたのは、ルシアンの側近である魔導師の一人、カイルだった。

「どうした?」

「王宮からの使者がこちらに向かっています。……どうやら、リリアーナ様を迎えに来るつもりのようです」

 その言葉に、私は驚いてルシアンを見た。

「迎えに? でも、私はもう婚約破棄された身のはず……」

「……どうやら、そう単純な話ではないらしいな」

 ルシアンは低く呟くと、金色の瞳に鋭い光を宿した。

「……王宮は、お前をまだ利用するつもりなのか」

 彼の声は静かだったが、その内側に怒りが滲んでいた。

「俺のものになったお前を、今さら返すつもりはない。……王宮の連中には、俺の意思を思い知らせてやるとしよう」

 そう言うと、ルシアンは私の手を強く握った。

「リリアーナ、お前はもう王宮に戻る気はないな?」

「……もちろんよ。私はもう自由なんでしょう?」

 その言葉を聞いたルシアンは、満足そうに微笑んだ。

「ならば、俺がお前を守る。何があっても、絶対に」

 彼のその言葉に、私は知らず知らずのうちに胸が高鳴るのを感じた。

 ――この人は、本当に私を守ってくれるのだろうか。

 婚約破棄され、王宮を追われた私。
 その先に待っていたのは、最強の魔導師による束縛と、守護だった。

 そして今、王宮が私を奪い返しに来ようとしている。

 私は、これからどうなるのだろう?
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