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王都から馬車で一週間。山岳と森に囲まれた自然豊かな土地だが、近年“異変”が続いていた。魔物の出現率が上がり、村々が襲われ、住民の避難が相次いでいる。だが、中央はまともに取り合おうとしない。
その理由も、私は知っていた。
視た未来で、ここセイル領に「魔鉱石」が発見される。
それは魔力を飛躍的に高める新鉱物であり、手に入れた者は軍事力で圧倒的な優位を持つという。
だが、中央の貴族たちはそれを秘匿し、自分たちの利益にしようと画策していた。
――私がそれを手に入れるわけにはいかない、と彼らは考えた。
未来では、その計画の中心にセリア嬢と、私の元婚約者であるレオン殿下がいた。
(このまま放っておけば、再び破滅への道を辿ることになる)
ならば私が動くしかない。
婚約者として王族に仕える立場を捨てた今、私はただの“公爵令嬢”だ。だが、その肩書きもまた、動くには十分すぎるほどの力を持つ。
「リシア様、予定より一日早く到着できそうです」
声をかけてきたのは、私の従者であるエリオット。
彼は幼少の頃から私に仕えてきた忠実な護衛であり、文武両道の優秀な青年だ。
「ありがとう、エリオット。馬車を降りたら、まず領主に挨拶を」
「……それが、少々問題が」
エリオットが顔を曇らせる。
「領主様――フレイグ・セイル伯爵は、体調不良のため寝込んでおられるそうです。代わりに執務を代行しているのが……その、領主の甥だそうで」
「甥? あの家は男子が一人だけだったはず」
「ええ。つい最近、遠縁の青年を養子に迎えたとの話です。どうやら中央からの派遣だとか」
私は眉をひそめた。
中央から派遣――つまり、王宮がセイル領の動きを監視し始めたということ。
(未来の動きよりも、早い?)
誰かが、私の動きを警戒している?
それとも、未来そのものが“変わり始めている”のか。
いずれにせよ、好ましい流れではなかった。
セイル領の領主館は古いが、堅牢で静謐だった。
私を迎えたのは、代行執務を名乗る若い男――ルーク・ヴァレンという名の青年だった。
「はじめまして、公爵令嬢。ルーク・ヴァレンと申します。突然の訪問、驚きましたよ。……まるで、何かを嗅ぎ回りに来たようだ」
その言葉は一見穏やかだが、明確な警戒が込められていた。
彼の背後に立つ数人の護衛も、目を離そうとしない。
「ご挨拶が遅れました。リシア・エルフォードと申します。王命ではなく、あくまで私的な視察です」
私は微笑を浮かべ、動じずに返す。
腹の探り合いは王都で慣れている。
「……そうでしたか。ならば歓迎しましょう。どうか、セイルの自然を心ゆくまで」
(歓迎、ね)
ルーク・ヴァレン。未来視には登場しなかった名だ。
だが、彼の瞳に浮かぶ漆黒の色は――魔力の濁り。何かを隠している者の証だ。
三日後。
私は密かに村落へと足を運んでいた。
地元の古老から話を聞き、魔鉱石の噂を追っていたのだ。
「……あれは、二ヶ月ほど前じゃった。山の奥から光が見えたんじゃ。青いような、紫のような……不気味な輝きだったよ」
「それ以来、魔物が増えたと?」
「ああ。いままではおらんかったような化け物まで出るようになってのう。誰も山には近づけんよ」
やはり、噂は本当だ。
光る鉱石、魔物の増加、王都の無関心。
すべてが繋がっている。
「ありがとう。私が何とかします」
「嬢ちゃん……無茶だけはしなさんなよ」
その言葉に、私は頷いた。
だが、止まる気はなかった。未来を変えるとは、そういうことなのだ。
調査隊を結成するのに時間はかからなかった。
エリオットの手配で、腕利きの冒険者数人と合流し、翌日には山に入る。
「リシア様、本当に行かれるのですか?」
エリオットの問いに、私は頷いた。
「行かなければ、このまま誰かが死ぬ。放っておけない」
彼は静かに剣の柄に手をかけ、うなずいた。
「……了解しました。命に代えても、お守りいたします」
山道を進むうちに、空気は変わっていった。
冷たい霧、揺らめくような瘴気。間違いなく“異常”だった。
「! 前方、何かいる!」
エリオットの叫びと共に、木々の間から黒い影が飛び出した。
異形の魔物――本来この大陸には存在しない種類。未来視で見た“汚染された魔獣”だった。
「全員、戦闘準備!」
私は魔法陣を展開する。得意の精霊魔法で、空気中の風精を呼び起こす。
「〈風よ、斬り裂け〉!」
刃のような風が魔獣の一体を切り裂く。が、まだ三体もいる。
「数が多い、囲まれるぞ!」
「私が正面を引きつける! 後衛は援護!」
戦闘は熾烈だった。
だが、かつて婚約者の影に隠れていた“令嬢”の私は、そこにはいなかった。
「……終わりましたね」
息を切らしながらも、私は立っていた。
周囲には魔物の残骸。精霊たちも霧の中に戻っていく。
「リシア様、こちらを……!」
エリオットが手にしていたのは、魔物の胸から引き抜いた“鉱石”だった。
紫に淡く光る、それは確かに――魔鉱石。
(……ついに、見つけた)
だが、私は同時に気づく。
この石は、ただの資源ではない。
それは“封印”だった。
何かを封じるための、あるいは、力を蓄えるための――“鍵”。
その瞬間、私の中で何かが“目覚めた”。
脳裏に新たな未来が走る。
――崩れる王宮、叫ぶ人々。
――黒衣の男と、空を裂く光。
――そして、私の名を呼ぶ“誰か”。
――「リシア、君しか止められない」――
私は目を見開く。
(運命は……変わり始めている)
その理由も、私は知っていた。
視た未来で、ここセイル領に「魔鉱石」が発見される。
それは魔力を飛躍的に高める新鉱物であり、手に入れた者は軍事力で圧倒的な優位を持つという。
だが、中央の貴族たちはそれを秘匿し、自分たちの利益にしようと画策していた。
――私がそれを手に入れるわけにはいかない、と彼らは考えた。
未来では、その計画の中心にセリア嬢と、私の元婚約者であるレオン殿下がいた。
(このまま放っておけば、再び破滅への道を辿ることになる)
ならば私が動くしかない。
婚約者として王族に仕える立場を捨てた今、私はただの“公爵令嬢”だ。だが、その肩書きもまた、動くには十分すぎるほどの力を持つ。
「リシア様、予定より一日早く到着できそうです」
声をかけてきたのは、私の従者であるエリオット。
彼は幼少の頃から私に仕えてきた忠実な護衛であり、文武両道の優秀な青年だ。
「ありがとう、エリオット。馬車を降りたら、まず領主に挨拶を」
「……それが、少々問題が」
エリオットが顔を曇らせる。
「領主様――フレイグ・セイル伯爵は、体調不良のため寝込んでおられるそうです。代わりに執務を代行しているのが……その、領主の甥だそうで」
「甥? あの家は男子が一人だけだったはず」
「ええ。つい最近、遠縁の青年を養子に迎えたとの話です。どうやら中央からの派遣だとか」
私は眉をひそめた。
中央から派遣――つまり、王宮がセイル領の動きを監視し始めたということ。
(未来の動きよりも、早い?)
誰かが、私の動きを警戒している?
それとも、未来そのものが“変わり始めている”のか。
いずれにせよ、好ましい流れではなかった。
セイル領の領主館は古いが、堅牢で静謐だった。
私を迎えたのは、代行執務を名乗る若い男――ルーク・ヴァレンという名の青年だった。
「はじめまして、公爵令嬢。ルーク・ヴァレンと申します。突然の訪問、驚きましたよ。……まるで、何かを嗅ぎ回りに来たようだ」
その言葉は一見穏やかだが、明確な警戒が込められていた。
彼の背後に立つ数人の護衛も、目を離そうとしない。
「ご挨拶が遅れました。リシア・エルフォードと申します。王命ではなく、あくまで私的な視察です」
私は微笑を浮かべ、動じずに返す。
腹の探り合いは王都で慣れている。
「……そうでしたか。ならば歓迎しましょう。どうか、セイルの自然を心ゆくまで」
(歓迎、ね)
ルーク・ヴァレン。未来視には登場しなかった名だ。
だが、彼の瞳に浮かぶ漆黒の色は――魔力の濁り。何かを隠している者の証だ。
三日後。
私は密かに村落へと足を運んでいた。
地元の古老から話を聞き、魔鉱石の噂を追っていたのだ。
「……あれは、二ヶ月ほど前じゃった。山の奥から光が見えたんじゃ。青いような、紫のような……不気味な輝きだったよ」
「それ以来、魔物が増えたと?」
「ああ。いままではおらんかったような化け物まで出るようになってのう。誰も山には近づけんよ」
やはり、噂は本当だ。
光る鉱石、魔物の増加、王都の無関心。
すべてが繋がっている。
「ありがとう。私が何とかします」
「嬢ちゃん……無茶だけはしなさんなよ」
その言葉に、私は頷いた。
だが、止まる気はなかった。未来を変えるとは、そういうことなのだ。
調査隊を結成するのに時間はかからなかった。
エリオットの手配で、腕利きの冒険者数人と合流し、翌日には山に入る。
「リシア様、本当に行かれるのですか?」
エリオットの問いに、私は頷いた。
「行かなければ、このまま誰かが死ぬ。放っておけない」
彼は静かに剣の柄に手をかけ、うなずいた。
「……了解しました。命に代えても、お守りいたします」
山道を進むうちに、空気は変わっていった。
冷たい霧、揺らめくような瘴気。間違いなく“異常”だった。
「! 前方、何かいる!」
エリオットの叫びと共に、木々の間から黒い影が飛び出した。
異形の魔物――本来この大陸には存在しない種類。未来視で見た“汚染された魔獣”だった。
「全員、戦闘準備!」
私は魔法陣を展開する。得意の精霊魔法で、空気中の風精を呼び起こす。
「〈風よ、斬り裂け〉!」
刃のような風が魔獣の一体を切り裂く。が、まだ三体もいる。
「数が多い、囲まれるぞ!」
「私が正面を引きつける! 後衛は援護!」
戦闘は熾烈だった。
だが、かつて婚約者の影に隠れていた“令嬢”の私は、そこにはいなかった。
「……終わりましたね」
息を切らしながらも、私は立っていた。
周囲には魔物の残骸。精霊たちも霧の中に戻っていく。
「リシア様、こちらを……!」
エリオットが手にしていたのは、魔物の胸から引き抜いた“鉱石”だった。
紫に淡く光る、それは確かに――魔鉱石。
(……ついに、見つけた)
だが、私は同時に気づく。
この石は、ただの資源ではない。
それは“封印”だった。
何かを封じるための、あるいは、力を蓄えるための――“鍵”。
その瞬間、私の中で何かが“目覚めた”。
脳裏に新たな未来が走る。
――崩れる王宮、叫ぶ人々。
――黒衣の男と、空を裂く光。
――そして、私の名を呼ぶ“誰か”。
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