【完結】ヒロインは暗黒龍と共に、悪役令嬢の恋を応援します！

第一章

アイデール王国 103

　災の魔力は、グリードのものと変わらない事が分かり、フィリアは皆と共に払うために災の魔力の前に立った。

　禍々しく立ち昇る災いの魔力は、近寄れば、グリードがいたあの山を思い出さずにはいられない。

　フィリアは大きく息を吐いた。

　まだ卒業式ではない。だからこそ、魔力が足りるかが分からない。

　だが、このアイデール王国編であれば足りるだろう。

　何故ならば、このアイデール王国編は災の魔力を払う方を、主としていないからである。

　フィリアは、目を閉じると歌を紡ぐ。

　その歌声は、春の風のように爽やかで、陽だまりのように温かである。

　人々はその声に心を打たれる。

　聖なる歌を、フィリアは響かせる。

　届くように。

　フィリアの声が、届くように。

　呪われた王子へと。

　レクス王子へと届くようにフィリアは歌う。




　暗闇の燃えるような熱の中で、歌声が響いて聞こえた。

　心地の良い、、、、、邪魔な歌。

　赤い瞳が開く。

　その唇はニヤリと笑う。




　災の魔力がどんどんと消えていく。

　皆の歓声が上がる。

　そして、魔力は消え、レクスが姿を現した。

　歓声が一際大きくなる。

「フィリア様！凄いですわ！」

　ルーナがそう言っとき、鋼の音が鳴り響いた。

「え？」

　ハロルドの剣が、ルーナの眼前で禍々しい魔力を纏った剣を受け止める。

「っく、、、！」

　フィリアは、剣を構えレクスの後方から仕掛けるが、レクスはいとも簡単にそれを防ぐと弾き返した。

　フィリアは宙を舞い、地面に軽やかに着陸すると、聖魔法で作り上げた光を纏う剣を構え直した。

　ハロルドはルーナを背にかばうと、言った。

「安全な所まで下がって。」

「は、、はい！」

　ルーナは慌てて下がり、ハロルドはルーナを守りつつ下がる。

　フィリアは皆に聞こえるように言った。

「災の魔力に取り憑かれているわ。彼はこの聖なる剣でしか倒せない。皆は下がって。」

　グリードは、フィリアの横に立った。

「フィリア。レクスに意識は？」

「ないわ。近くに寄ったもの、声のするものに襲いかかっているだけ。だけど、この聖なる剣を使えば戻るはず。」

　グリードは、その言葉に苦笑を浮かべた。

「それは、昔話していた未来が見えているっていうやつの通りなのか？」

　よくそんな事を覚えていたなと思いつつ、フィリアは頷いた。

「そうよ。グリード、信じてくれる？」

　レクスがこちらに襲いかかってくると、グリードはそれを剣で受け止めながら頷いた。

「もちろんだ！俺はフィリアを信じる。」

「ありがとう！このアイデール王国編は、災の魔力自体を消すのはまだ簡単。問題は、このレクスを倒せるかどうかよ。」

「その剣なら倒せるのか？」

「ええ。本当は、ヒロインが聖なる剣を国王から受け取るはずなんだけどね。私のは、私作の聖なる剣よ。」

「それで本当に大丈夫なのか？」

　フィリアはにっこりと笑った。

「大丈夫よ。だって私が作ったのよ？」

「はは！凄いな。」

　レクスがフィリアとグリードに襲いかかる。

　それを二人はギリギリで避けながら、鋼をぶつけていく。

「俺が囮になる。フィリアはそのスキをつけ。」

「分かったわ！」

　レクスは狂ったように笑い声を上げながら攻撃をしてくる。

　グリードはそれを受けながらも、フィリアが攻撃がしやすいように位置を取る。

　二人の息があっていなければできないであろうその連携は、まるで二人で舞を踊っているかのようであった。

　レクスはそれに押され、どんどんと下がっていく。

　一人だと倒すのに苦労するが、グリードがいれば心強い。

　フィリアがそう思い、レクスの胸を貫こうとしたと時、横から突然少女が現れ、フィリアは驚きのあまりよろめいた。

　それをグリードが支える。

「レクスさん！目を冷まして！」

　フィリアは叫び声を心の中で上げた。

　おいヒロイン！

　邪魔だ！

　どけ！

　なんで聖なる剣も何も持たずに現れた！？

　ふざけるな！

　そんな心の声が漏れたのか、ルーナの声が聞こえた。

「こら！ポンコツアリア様！早くお下がりなさい！」

　アリアは両手を広げたまま首を横に振る。

「駄目です。戦っては駄目！レクスさん目を冷まして！」

　目を覚ますのはお前だ！

　ヒロイン！

　フィリアは心の中で盛大に叫び声を上げた。