【完結】もう我慢できないので婚約破棄してください!!逃げ出した先の伯爵家に愛されすぎてます

なか

文字の大きさ
34 / 42
天才魔法少女はこの気持ちを認めない

ep6ーリワインドー

しおりを挟む
「うそだよな……なぁ……」

冷たくなっていく彼女を俺は抱き上げる
その瞳は閉じられ、声をかけても開くことはない

「ラ、ラバルトさん?」

「ダメだ、エウィ……今は来たらダメだ」


俺の言葉にエウィは素直に従い
この場所には入って来ない

これでいい、少女に見せるべきでない


「おい……起きろよ……生徒が待ってるんだ……なぁ…お願いだ」

どれだけ声をかけても
彼女がその問いかけに反応する事はない
少しずつ失われていく体温が、俺たちとルルを引き離すように
現実を突き付けてくる


「俺はお前に…ルル、お前に何度も教えられたんだ…クズでどうしようもない性根の腐った俺が、お前の意思を見て変わろうって思わせてくれたんだ!」

ラバルトはルルを抱きしめる
彼女の血が服に流れていく、温かな血が

「まだまだ教えてもらいたいことはあるんだ!だから…だから……」


ラバルトの涙は止まらない


「帰ってきてくれ………………お願いだ…」


いくら抱きしめても
彼女の体温は無慈悲に冷たく、冷たく


ラバルトから世界から


彼女を奪っていく






































ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ラディウス王国
特別重罪人を閉じる牢の中

全ての力を失い、野望も夢も失った老人

かつて賢者と言われたグラッジは暗闇の中で思考する


あの戦い

全てを狂わせた始まり、それは少年の力の覚醒であった

何かを守りたいと思う気持ちが
その覚悟が、あの力を目覚めさせた

(あれは決して人間が意図して引き出せる力ではない)

グラッジは思考し
自分自身である答えを見つけた

魔力とは人間に宿るもう一つの意思だ

恐怖で魔力が上がるのは主を守るため
そして少年の強い意志、願いに答えてその真の力を引き出したのだ

あの少女…アリサは無意識で転移魔法や蘇生魔法を使った
それも、魔力が主のために自己で判断したと思えば説明がついた

魔法とは本来、人によって得意分野は様々である



だからこそ、グラッジはある男を気にしていた

ラバルトと呼ばれていた男
精神魔法を使い
記憶の追体験ができる

精神魔法は聞いたことがある
だが記憶の追体験とはなんだ


まるで過去に未練があるように
過去をやり直したいと願うようなその力

(あり得るはずはない、だが…だがもし)


あの男が強く願い、何かを捨ててでも叶えたい思いがあるのなら

主に答えるために真の力が引き出せたのなら
あの男の魔法はきっと空間や常識
倫理や世界の理でさえも変えてしまうのかもしれない




(あり得るはずがないがな)

馬鹿馬鹿しい
そうグラッジは結論を出した








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


すっかり冷たくなってしまったルルを抱えながら
俺はずっとその場を離れられないでいた

「俺はな、お前に惹かれていたんだ…俺はクズみたいにしか魔法を使えなかった……けどルル、お前は正しく、誰かを守るためにしか使ってこなかったよな」


お前は全部守ったのに、俺は何一つ
守れなかったんだ


「お前が、好きになってたんだ……明るく前向きなお前が……けどお前は俺みたいなクズとは一緒じゃいけないんだ………過去を後悔したよ…やり直して罪を無かったことにしたいって」


けどもう、罪を無くさなくっていい!
罪を背負って、贖罪する人生がいい

魔法なんていらない

ただの無力な人間でいい



俺はただ


「お前が生きている世界で!ただ隣にいられたら…それでいいんだ!!」


ラバルトがそう叫んだ瞬間










全ての時が止まる


生物も自然も、全ての現象が停止した


そして、ラバルトに宿る全ての魔力が

空間さえも捻じ曲げて

世界の理を変えていく



全ての事象が巻き戻る、全ての行動が


誰も認識できないその魔法は
世界を巻き戻し
主の願いを叶えるために

自身の存在を世界に捧げた

たった一つの願いを叶えるために








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「たく…手間かけさせやがって」

ラバルトは外にいた警備の人間達が倒れているのを確認して
施設内に入る、そして…気づいた


(?………なんだ!?俺の魔力がない?なぜだ!?)


動揺するラバルトの中になぜか見知らぬ光景が見えた

血だらけで横たわるルルの姿

そして体温を失い冷たくなる彼女を抱きしめる自分の姿が


(!?)


何かに背中を押されたようにラバルトは走り出した

なぜか分からない、けど身体が勝手に動いた
何かを取り戻すために一直線に

走り出す

(意味がわからねぇ!!何がどうなってるかも!けど、けど今走らないと…俺はきっと一生後悔する!!)



息も荒く
走ったラバルトは広間に辿り着いた


そして、エウィを抱きしめるルルと
ナイフを振り上げた男の姿が

「ルル!!!!」

叫んだラバルトは全力で走る
今この瞬間のために


魔力も失い、何も残っていない男は
たった一つの大切な人を守るために、この瞬間へ



「おぁぁぁぁぁ!!!!!」

全力で、ナイフを持つ男に体当たりしたラバルトは

そのままルルとエウィを抱きしめる

「な!?ラバルト!?な、なにを…」

二度と聞けないと思ったその声を
この喜びを感じながら


「もう、俺はお前を手放さない、必ずだ」

ラバルトはそうつぶやいた



しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!

山田 バルス
恋愛
 王都の中央にそびえる黄金の魔塔――その頂には、選ばれし者のみが入ることを許された「王都学院」が存在する。魔法と剣の才を持つ貴族の子弟たちが集い、王国の未来を担う人材が育つこの学院に、一人の少女が通っていた。  名はベアトリス=ローデリア。金糸を編んだような髪と、透き通るような青い瞳を持つ、美しき伯爵令嬢。気品と誇りを備えた彼女は、その立ち居振る舞いひとつで周囲の目を奪う、まさに「王都の金の薔薇」と謳われる存在であった。 だが、彼女には胸に秘めた切ない想いがあった。 ――婚約者、シャルル=フォンティーヌ。  同じ伯爵家の息子であり、王都学院でも才気あふれる青年として知られる彼は、ベアトリスの幼馴染であり、未来を誓い合った相手でもある。だが、学院に入ってからというもの、シャルルは王女殿下と共に生徒会での活動に没頭するようになり、ベアトリスの前に姿を見せることすら稀になっていった。  そんなある日、ベアトリスは前世を思い出した。この世界はかつて病院に入院していた時の乙女ゲームの世界だと。  そして、自分は悪役令嬢だと。ゲームのシナリオをぶち壊すために、ベアトリスは立ち上がった。  レベルを上げに励み、頂点を極めた。これでゲームシナリオはぶち壊せる。  そう思ったベアトリスに真の目的が見つかった。前世では病院食ばかりだった。好きなものを食べられずに死んでしまった。だから、この世界では美味しいものを食べたい。ベアトリスの食への欲求を満たす旅が始まろうとしていた。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

処理中です...