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学園編
14話
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久々にやって来た学園、アルは職員室へと向かい。
私は教室へと向かう、もちろん考えがあっての事だ。
案の定、私が教室で一人だと周囲からひそひそと声が聞こえる。
「今さら帰ってきて、どうするつもり?」
「平民階級の者がいると本当に気が滅入るわね」
わざと聞こえるように言っているのだろう。
彼らは私が貴族家の方々から注目されていると知らないと思っているのだろうか。
真実が明るみになる前にまた追い出そう、そんな考えが透けて見えた。
「あの……」
呟きと共に、見つめてくる周囲へ視線を返す。
『リディ、最初が肝心だよ。思い切りかましてきなよ』と、今朝アルが言っていた言葉を思い出す。
今がその時だと、彼に背中を押してもらう感覚と共に勇気が沸いた。
「さっきからコソコソと私になにか用?」
「っ!! ……」
私の言葉に返してくる者は教室にはおらず、視線を逸らしている。
さっきまではさざめくように陰口を言っていたのに、言い返せばこの有様か。
「情けない、貴族階級なんて立場を崇拝するのなら……少しはまともに会話を出来るようにしてください。それとも平民階級の私と話すのが怖いのですか?」
「なにを調子に乗っているの? あなた、自分が平民という事を分かっていらして?」
イジメの主犯だったナタリーが私へと突っかかる。
謝罪の言葉もない……これは話し合う必要もなさそうだ。
「あなた達こそ、自分達の立場が分かっていますか?」
「っ!?」
「私は自分の価値を知ったからこそ、ここへやって来ました。受けた仕打ちや扱い……全てを告発するために」
周囲の面々が一斉に顔を青ざめて下を向く。
イジメに加担していた者達は顔を見合わせ、助けを求めるように隅に座っていたグレアルフを見つめた。
「リディア、落ち着け……少しは話し合おうじゃないか?」
視線を受け、グレアルフは立ち上がって私へと歩み寄ってくる。
その表情はどこか余裕に見えた。
「グレアルフ、貴方の事も全て……私は話しますから」
「リディア、俺は……君ともう一度やり直したいと思っているんだ」
「そうですか、私はそんな気持ちは微塵もありませんので」
「な!?」
今の私には彼に抱く恋情など、残っているはずもない。
「ま、待て! お前にとって悪い話じゃないだろう? 俺は伯爵家の当主となってお前を今度こそ支えてやろうと……」
「必要ありません、私は一人でも生きていけますから」
「お前の母親も支援してやる、これならどうだ?」
「母を使って懐柔しようとしても無駄です。貴方の世話になる気はありません」
全てを否定すると、グレアルフは苛立ったように近くの椅子を蹴飛ばした。
いまさら、威嚇するのかと内心では呆れてしまう。
大きな音と共に転がった椅子と萎縮する周囲をよそに彼は私を睨んだ。
「言う事を聞け、その方がお前のためだぞ……リディア。また追い込まれたいのか?」
「それは、私への脅迫と受け取れますが?」
「いいから、平民のお前は俺に従っておけ!!」
私の元へ、グレアルフが拳を握って近づく。
しかし私へと迫る前に「止まれ!」と一喝する声が響き、グレアルフの動きが止まる。
「な……ディオネス公……」
教室へやって来たのは、アルであった。
戸惑うグレアルフに答えもせずにアルは呟く。
「さて、もう見て見ぬふりはできませんよね。講師の方々」
アルの言葉に周囲の生徒も含めて、教室の外へと顔を向ける。
そこでは、アルが連れてきた数人の講師達が気まずそうに俯いていた。
私達が別れたのは、この現場を見せるためだ。
「言い逃れはできませんよ、イジメの事実はあった。いいですね?」
「……その、先ずはリディア嬢と話し合いを」
「その前に事実を認めてください」
アルの詰める言葉に言い逃れできないと思った講師がゆっくりと頷く。
「はい……確かにイジメはありました。認めます」
その言葉と共にグレアルフやナタリー、イジメをしてきていた面々達は一気に顔を青ざめた。
はめられたと、今さら気付いたのだろう。
「その……学園長がお話をしたいと……できれば学長室へ来ていただけますか?」
「分かった。行こうか……リディ」
講師の言葉に頷いたアルが私の手を取って、私も大人しく身体をゆだねる。
その際にアルは今まで見たこともない鋭い視線を教室で黙っている面々へと向け、最後にグレアルフを睨む。
「言っておくが、今後……リディに手を出そうなど考えるな。君たちがした行為の報いは必ず行う……人の心を踏みにじっておいて、見逃されるとは思わない事だ」
グレアルフは怯えたようにわなわなと震え、膝をついた。
はめられて、逃げ場を失くしたの自分自身だと気付いたのだろう。
「さ、行こう! リディ」
私に対してはいつもと変わらない明るいアルのまま、私達は怯えた講師達に連れられて責任者でもある学園長の待つ部屋へと向かった。
◇◇◇
「今回の件、残念だったね。リディア嬢」
学長室へと入った瞬間、学園長は微笑みながらそう言った。
他人事のような、その態度に面食らってしまう
「しかしだね、今回のイジメの件はリディア嬢にも問題はあったのではないか? いじめた者だけを責めるのではなく、お互いに理解し合って今後は仲良く過ごすようにすれば良いはずだ」
あっけらかんと言い放つ学園長の言葉に、私の胸がざわついた。
私は教室へと向かう、もちろん考えがあっての事だ。
案の定、私が教室で一人だと周囲からひそひそと声が聞こえる。
「今さら帰ってきて、どうするつもり?」
「平民階級の者がいると本当に気が滅入るわね」
わざと聞こえるように言っているのだろう。
彼らは私が貴族家の方々から注目されていると知らないと思っているのだろうか。
真実が明るみになる前にまた追い出そう、そんな考えが透けて見えた。
「あの……」
呟きと共に、見つめてくる周囲へ視線を返す。
『リディ、最初が肝心だよ。思い切りかましてきなよ』と、今朝アルが言っていた言葉を思い出す。
今がその時だと、彼に背中を押してもらう感覚と共に勇気が沸いた。
「さっきからコソコソと私になにか用?」
「っ!! ……」
私の言葉に返してくる者は教室にはおらず、視線を逸らしている。
さっきまではさざめくように陰口を言っていたのに、言い返せばこの有様か。
「情けない、貴族階級なんて立場を崇拝するのなら……少しはまともに会話を出来るようにしてください。それとも平民階級の私と話すのが怖いのですか?」
「なにを調子に乗っているの? あなた、自分が平民という事を分かっていらして?」
イジメの主犯だったナタリーが私へと突っかかる。
謝罪の言葉もない……これは話し合う必要もなさそうだ。
「あなた達こそ、自分達の立場が分かっていますか?」
「っ!?」
「私は自分の価値を知ったからこそ、ここへやって来ました。受けた仕打ちや扱い……全てを告発するために」
周囲の面々が一斉に顔を青ざめて下を向く。
イジメに加担していた者達は顔を見合わせ、助けを求めるように隅に座っていたグレアルフを見つめた。
「リディア、落ち着け……少しは話し合おうじゃないか?」
視線を受け、グレアルフは立ち上がって私へと歩み寄ってくる。
その表情はどこか余裕に見えた。
「グレアルフ、貴方の事も全て……私は話しますから」
「リディア、俺は……君ともう一度やり直したいと思っているんだ」
「そうですか、私はそんな気持ちは微塵もありませんので」
「な!?」
今の私には彼に抱く恋情など、残っているはずもない。
「ま、待て! お前にとって悪い話じゃないだろう? 俺は伯爵家の当主となってお前を今度こそ支えてやろうと……」
「必要ありません、私は一人でも生きていけますから」
「お前の母親も支援してやる、これならどうだ?」
「母を使って懐柔しようとしても無駄です。貴方の世話になる気はありません」
全てを否定すると、グレアルフは苛立ったように近くの椅子を蹴飛ばした。
いまさら、威嚇するのかと内心では呆れてしまう。
大きな音と共に転がった椅子と萎縮する周囲をよそに彼は私を睨んだ。
「言う事を聞け、その方がお前のためだぞ……リディア。また追い込まれたいのか?」
「それは、私への脅迫と受け取れますが?」
「いいから、平民のお前は俺に従っておけ!!」
私の元へ、グレアルフが拳を握って近づく。
しかし私へと迫る前に「止まれ!」と一喝する声が響き、グレアルフの動きが止まる。
「な……ディオネス公……」
教室へやって来たのは、アルであった。
戸惑うグレアルフに答えもせずにアルは呟く。
「さて、もう見て見ぬふりはできませんよね。講師の方々」
アルの言葉に周囲の生徒も含めて、教室の外へと顔を向ける。
そこでは、アルが連れてきた数人の講師達が気まずそうに俯いていた。
私達が別れたのは、この現場を見せるためだ。
「言い逃れはできませんよ、イジメの事実はあった。いいですね?」
「……その、先ずはリディア嬢と話し合いを」
「その前に事実を認めてください」
アルの詰める言葉に言い逃れできないと思った講師がゆっくりと頷く。
「はい……確かにイジメはありました。認めます」
その言葉と共にグレアルフやナタリー、イジメをしてきていた面々達は一気に顔を青ざめた。
はめられたと、今さら気付いたのだろう。
「その……学園長がお話をしたいと……できれば学長室へ来ていただけますか?」
「分かった。行こうか……リディ」
講師の言葉に頷いたアルが私の手を取って、私も大人しく身体をゆだねる。
その際にアルは今まで見たこともない鋭い視線を教室で黙っている面々へと向け、最後にグレアルフを睨む。
「言っておくが、今後……リディに手を出そうなど考えるな。君たちがした行為の報いは必ず行う……人の心を踏みにじっておいて、見逃されるとは思わない事だ」
グレアルフは怯えたようにわなわなと震え、膝をついた。
はめられて、逃げ場を失くしたの自分自身だと気付いたのだろう。
「さ、行こう! リディ」
私に対してはいつもと変わらない明るいアルのまま、私達は怯えた講師達に連れられて責任者でもある学園長の待つ部屋へと向かった。
◇◇◇
「今回の件、残念だったね。リディア嬢」
学長室へと入った瞬間、学園長は微笑みながらそう言った。
他人事のような、その態度に面食らってしまう
「しかしだね、今回のイジメの件はリディア嬢にも問題はあったのではないか? いじめた者だけを責めるのではなく、お互いに理解し合って今後は仲良く過ごすようにすれば良いはずだ」
あっけらかんと言い放つ学園長の言葉に、私の胸がざわついた。
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