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学園編

15話

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「仲良くするとは……どういった意味でしょうか?」

 私の疑問に、学園長は淡々と答える。

「言葉通りだよ、お互いに話し合って……認め合えば仲良くなれる。きっと分かり合えるはずだ」

 アルが何かを口にしようとしたが、私が先に声を出す。

「アル、ごめん……私に話をさせて」

「リディ……」

 怒りを抑えられない。
 だからこそ、私が話すべきだと心を決める。

「彼らに私の……なにを分かってもらうというのですか?」

「イジメはあったのは事実、しかし君にも問題はあったはずだ。それを反省して謝ればきっとお互いに歩み寄れる。学園に通う仲間になれるはずだ」

「私は……彼らに何かした事なんてありません。平民だからとイジメられただけ、それでも私に問題があると?」

「君が気付いていないだけで、小さな事は積み重なっているのかもしれないだろう? 意地にならずに彼らと話し合えばきっと分かり合える」

「彼らは話し合いなんて、してくれなかった……私をだまして、暴力をふるってきたんです」

「そうやって君が否定するのが良くないんだ。まずは君から一歩、分かり合う道を探してみればいい」

 学園長の表情を見て気付く、本気で言っているのだ。
 起きた出来事に関係なく、この人は両者が悪いと決めつけてこの問題を片付けようとしている。
 最もらしい綺麗な言葉を吐きながら。

「話になりません、今回の件は諸侯貴族へ告発いたします」

 その言葉でようやく焦りを見せたのか、学園長は額に汗を流す。
 しかし、この状況においても罪悪感すらみせずに言葉を吐く。

「今は冷静でいられないのだろう。少し時間を置いて考えればきっと考えも変わるはずだ。今まで君と似たような生徒は幾人かいたが、私の説得に応じてくれた。君も考えて行動すればいい」

「私の考えは変わりません」

「君はまだ若いから分かっていない。この程度の事で問題にする癖がつけば、将来は苦労してしまう。私は君のために言っているんだよ」

 若いから仕方ない、分かっていない。
 そんな言葉で臭い物に蓋をして、問題を無かった事にしようとしている目の前の大人に。
 無性に、腹が立つ。

「綺麗事を口にしないで、貴方も講師も……誰も私の事を想って行動などしてくれなかったくせに」

「そんな事はない、私達は君たちの自主性、協調性を信じていたんだ。立派な大人になって欲しかったんだ」

「目の前の問題から目を逸らすのが、貴方の望む立派な大人ですか?」

「っ…………」

 言い返す言葉に黙ったのは、学園長の方だった。
 渋い表情のまま、私を見つめているが目を逸らすことなどしない。引く気などあるはずもない。

 威圧して、私を言いくるめられると思っているのだろうか?
 私はお母さんのため、村のために覚悟を決めて来た……考えは覆らない、譲歩などしない。

「本気なんだね? リディア嬢」

 尋ねてくる学園長の言葉に当然だと頷くと、返すように彼は大きなため息を吐いた。

「残念だよ。君は特待生として迎え入れたが……こうして問題を起こすのなら、退学をしてもらう必要もある。その後の告発は自由だが、それは嫌だろう?」

「……それが、貴方の考えですか?」

「君は学園の意思決定に従わなかったのだから……当然の」

 バンッっと耳に響く音が部屋の中に木霊する。
 言葉を遮るように、アルが険しい表情で机を叩いたのだ。
 当然ながら、学園長は突然の音と行動に目を丸くして言葉を詰まらせた。

「さっきから大人しく見ていれば、好き勝手に言ってますね」

 アルの言葉に、汗を一筋ながしながら学園長は答える。

「この学園の決定は例え公爵家の貴方でも不介入が鉄則です。文句は言わせませんよ」

「加害者を守るのが、学園の決定ですか」

「話し合う道を先に閉ざしたのは、リディア嬢ですから」

「そう、話にならないね……リディ、もういいね?」

 彼の問いかけに頷く。
 学園に向かう前、早朝にアルはとある事を言っていた。
 
『学園は権威を守るため、イジメを隠蔽する温床になっている。だから……話し合いが出来ない時は』

 アルが言っていた言葉、それを実行する気なんだ。
 彼は持ってきていたトランクから、複数の紙を取り出しながら学園長を睨む。

「話し合いができないのなら、この学園が抱える問題をさらに大きくさせてもらう。謝罪すらなく、与えたチャンスを踏みにじったのは、そちら側だ」

 淡々と、アルは言い放つ。
 この学園を追い込む、証拠を手にしながら。
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