上 下
38 / 70
王城乗っ取る?(仮)

37.ついに伝説の武器を手に入れたんだが

しおりを挟む
マールは店内に入ると、自身の無さそうな顔で俺の前まで来て、両手に持った大きな袋を置いた。
「ホージョから預かって来ました。」
「あぁ、お疲れ。ちょっと待て、代金を用意する。」
お使いまでさせるとは、ホージョもやるな。それは、柵というものがある俺やマーレと違うからなのかもしれない。
いや、ホージョの事だから子細は知らずとも、察してはいるのだろう。それでも変わらない態度を取るのは、妙に人間臭いというか、律儀というか。
「はい。それと、この後は工場の建設に入るから、次の納品はその後になると、伝言です。」
「分かった。」
代金を準備した俺がマールに渡すと、そう言われた。それは仕方のない事だ。人手をメイニの方で用意してくれるとはいえ、自分たちでも作業しようとしているのだから、煙草よりも優先されるべきだからな。
「で、お前はやっていけそうなのか?」
俺がそう聞くと、マールは少し驚いた顔をする。俺たちの仕事に手を出しているし、みんなそれを許容したんだ。何時までも邪険にするわけがないだろう。それこそ、嫌な奴になっちまうじゃねぇか。
「はい。アルマディ家に居た時よりは、充実しているし、楽しめそうです。」
「それは何よりだ。勘違いしてるかもしれないが、お前をどうこうしようとか思っているわけじゃねぇ。でも柵は無くならないから、気持ちの置き場に戸惑っているだけだ。お前の態度にもよるだろうが、相手に変な気遣いや気にし過ぎはするなよ。」
触れるから気になるんだ、それはずっと水面を揺らし続けるから、逆に気になってしょうがなくなる。
「難しいですね、ちゃんと考えてみます。」
「あいつも受け入れていないわけじゃないからな。ま、頑張れ。」
「はい。」

話しが終わった直後、店の扉が開き店内に鈴の音が鳴り響く。今日はいつもより人が来るな。と思って見たら、俺の果実じゃないか。
「何故マールさんが此処に居るんですの?」
・・・
あぁ、ちゃんと事情を話してなかった気がするわ。
マールはメイニの目を正面から見据えると、メイニも何かに気付いたのだろう、俺の方に疑問の目を向ける。
「後で説明するよ。」
「あの、話したい事があります。」
前とは違う事に、気付いてはいるだろう。
「奥、借りていいかしら?」
メイニは小さく溜息を吐くと、目で住居の方を見て言った。
「いいぜ。」
他に客が居るから、気遣っての事だと分かったので、快く応じておく。メイニは目でマールに促すと、マールも続いて奥へと移動した。
良いか悪いか分からないが、何かが先に進めばいいんだけどな。

「申し訳ありませんでした。」
奥から漏れて来る第一声は、マールの声だった。声の位置が低くこもっていたから、多分土下座でもしているんだろう。
「何の真似ですの?」
「カメリの事です。貴女にも、僕は取り返しの付かない事をしました。謝ってすむ事ではありませんが、勝手ながら謝らせてください。」
・・・
この沈黙、メイニはどんな顔をしているんだろうな。気丈に振舞っていても、繊細なのは知っている。あの日の涙は、俺も忘れられないでいるのだから。
「わたくしの報復は終わりましたわ。それでも貴方を許す事はないでしょう。」
「はい。」
「ですが、それはわたくしの気持ちの問題でしかありませんわ。今の貴方であれば、直接ではなくとも手を差し伸べるくらいはしてあげますわ。」
「・・・」
どいつもこいつもお人好しな事で。だが実際、大抵の人間はそんなもんだよな。じゃないと、自分の心が疲れて壊れてしまうから。
「本当に、申し訳ありませんでした。」
「わたくしにその言葉はもう要りませんわ。それは心の中で、カメリに言い続けなさい。」
「はい。」
「わたくしには、精々儲けに貢献する事ですわね。」
「はい。」

「聞いてましたわね?」
「そりゃ、この距離だからな。」
店内にまで聞こえたかどうかは不明だが、カウンターの場所は直ぐ傍だからな。
「わたくしは、前に進まなければなりませんわ。」
「あぁ、分かってる。みんなそうさ。」
生きている側の勝手な解釈や思いだとしても、きっとカメリもそう望んでいるんじゃねぇか。
「少々、みっともないところを見せましたわね。」
苦笑しながら言うメイニの表情は、マールに対しての気分が、多少晴れたように感じた。俺がそう思い込んでいるだけで、実際はどうか分からないが。
「いや、格好良かったぜ。流石俺の女だ。」
「リアさんの物になった覚えはありませんわ。」
冷めた目であっさり否定される。どさくさに紛れて言ってみたが、ダメだったか。
「あの、ありがとうございました。」
「いや、ホージョ達によろしくな。」
「はい。」
メイニに続いて出て来たマールは俺とメイニに頭を下げる。俺にとってはクソガキのままだし、何よりメイニとの時間を邪魔して欲しくないので、帰るように促した。
「それで、どうしてこんな事になっているのかしら?」
マールが店から出て行くのを見た後、メイニが目を細めて聞いて来る。そうだったな。
「俺が向こうの大陸に行っている時に・・・」



「なるほど、そういう事でしたのね。」
生前の事は話しても意味はないが、適当に俺もマーレも酷い目に遭った事だけは伝えた。それから、今の結果に至ると。
「それはそうと、丁度良かったんだ。」
「何かしら?」
「この前依頼してきた薬について、幾つか確認したい事がある。」
「分かりましたわ。」
必要な内容は、先ず規模。どの範囲に効果を及ぼしたいのか。次の濃度、どの程度の効果を望んでいるのか。あまり強すぎても、死に至る結果になってしまう。効果と規模に応じて作る必要がある。
あまり使い道は知りたくないが、個人ではなく範囲、空間となるとそうもいかない。
「分かった、そこまで分れば作れる。」
いろいろ聞いた結果、目途は立った。これで後は作るだけだ。

「あ、いらっしゃい。」
ここからは仕事の話しじゃなく、プライベートな時間といこうか。そう思った時、奥からまたも邪魔者が現れる。
「あらマーレさん、いらしたのね。貴方に伝えたい事があって寄ったのですわ。」
なんだ、俺に会いに来たんじゃねぇのか。
「どうしたの?」
「明日には、資材が入り始めます。現地に運ぶように伝えてあるので、受け取りをお願いしますわ。」
「早い!流石メイニね。分かったわ、朝からホージョ達に伝えに行くわ。」
確かに早いな。設計が終わってから数日、もう始まるのか。
「あ、エリサは連れてっていいよね?」
「あぁ、どうせ力仕事になるだろ。」
「うん。」
頷くマーレは、凄く嬉しそうに笑っていた。やりがいのある事が見つかって、良かったじゃねぇか。
「では、わたくしは帰りますわ。」
「忙しねぇな、一服くらいしてってもいいんじゃねぇか?丁度今日、新しい葉も届いたし。」
「そうですの?それでは、もう少しお邪魔しようかしら。」
お、やった。
「そんな気遣う必要なんてねぇって。別邸かなんかだと思って、気軽に来て、吸って、雑談する場所だと思えばいいじゃねぇか。」
人には、そんな場所があってもいい。
生前、俺にそんな場所があったかと聞かれれば無かった。あったとしても、それは個人の居酒屋だったんだが、それでも客と店の域を出たものじゃない。だが、居心地は悪く無かったな、潰れたが。
「いいですわね。そのためには、お茶とお菓子は常備しておいて欲しいですわ。」
「勿論だ。」

それからエリサも混じり、4人で雑談をしてメイニは帰って行った。入れ替わりのように帰ってきたアニタに対し、マーレはすかさず部屋の話しを始める。
工場の建設も始まるし、新築の設計もするとなると、忙しくなるなと言いつつも、凄く楽しそうにしていた。



翌朝、起きてダイニングに来るとアニタだけが居た。
「二人はもう出かけたわよ。」
早ぇ・・・
まだ朝の7時じゃねぇか。もう居ないのかよ。珍しく早起きしたから見送りでもしてやろうかと思ったが、想定外だ。
いや・・・
「二人きりになるのは久しぶりだな。」
俺は言いながらアニタの腰に手を回す。
「リアったら、甘えて来るなんて、寂しかったの?」
・・・
違う。
そうじゃねぇ。
そんな事を言われながら頭を撫でられるとか、盛り上がるものも上がらない。そう思うと、胸に手を持って行こうとしていたが止めて、手を離す。
その瞬間、引き寄せられてアニタが抱きしめて来た。
胸が顔に当たっている時点で、本来ならテンション上がりまくりの筈なんだが、なんだろうなこの気分は。そんな気にはならなかった。
「私ももうすぐ仕事に行くからね。寂しくても一人でお留守番するのよ。」
「あぁ・・・って此処は俺の家で俺の店だっての!」
一人で留守番を言い付けられる子供じゃねぇ。
「あはは、そうだったね。」

それからアニタの作った朝食を食べ、アニタは準備して仕事に向かった。
(さて、俺も珈琲を飲んで伝説の武器でも手に入れに行くか。今日は一切の邪魔者が居ない。)
薬は既に作り終わっている。後は納品だけだから、さっさと終わらせてしまおう。
俺も薬を持って準備が終わると家を出た。

いつも通りグラードに珈琲を頼むと、いつもの席に座って煙草に火を点ける。ゆっくりと紫煙を吐きながら街の外に目を向けた。
開店は昼くらいになるが、そこまで客が来る店でもないので問題ない。開いている時間が不定期なところも広まっているだろう。
だがそれじゃ良く無いよな・・・
やはり店番的な役割が欲しい。
そんな考えに至った。だが、問題は賃金だ。それを払えるだけの余裕が今は無い。もし雇うとなったら、新居になってからだな。
雇うって言っても、薬関係になると厳しいかな。ある程度知っている奴がいいんだが。
「お待たせしました。」
そこまで考えるとレアネが珈琲を運んで来た。そのレアネを見て逡巡する。
「無ぇな・・・」
「人の事を見てその言い方は失礼ですよ!」
そもそも電波は論外だ。身体はいいんだが頭がちょっとな・・・
「聞いてますかリアさん。」
とりあえず無視して珈琲に口を付ける。
まだ先の話しとはいえ、図面が出来たら今の工場の様にぽんぽん進んでしまうのだろう。だったら、早いうちに見つけておいた方が良いかもしれないな。
(こっちはこっちで、やる事が多そうだな。)
そう思うと、グラードに呼ばれ戻って行くレアネの事は見ずに、俺は天井に向かって勢いよく紫煙を吐き出した。




「永久登録、しておいたよ。」
ギルドに着いてカウンターに向かうと、サーラが笑顔で親指を立てる。
何してくれてんだ、この女・・・
「俺がそういう勝手な事をされて、どういう態度を取るかまだ理解してないようだな。」
「え?」
俺は依頼分の薬をカウンターに置くと背を向ける。
「金輪際このギルドの仕事は受けない、じゃぁな。」
「ちょ、待ってよ!」
うっせぇ。
自分の得にもならない事をされて、面白くないのは当たり前の事だ。それを勝手にされるのだから尚更だろう。
「待ってってば。」
「俺はお前らの持ち物じゃねぇんだよ!」
腕を掴んで来たサーラの手を振りほどいで、ギルドの出口に向かう。俺はいい加減な人間だが、何をされても良いわけじゃねぇ。
「ごめんなさい。お願い、話しだけでも聞いて。」
「ふざけんな。」
それに、出した矛はそう簡単に納められない。むかついた時って、そういうもんだろう。
「私の事は殴るなり罵るなり好きにしていいから、せめて話しだでも聞いてよ。」
・・・
罵って好きにしていい?
いったいどんなプレイを望んでいるんだ・・・
いやいやいや、そんな事は考えるな。俺は今怒っているんだぞ。
「何か事情があるにせよ、勝手にされるのは気分悪ぃ・・・」
「うん、ごめん。」
「で、なんだよ。」
仕方がないと思い、足を止めて話しだけでも聞く事にする。
「ギルドって本部は関係無いけど、支部はどうしても差別化されるの。」

あぁ、なんとなく分かった気がする。
「弱小ギルド・・・」
「う・・・」
言ってみると、サーラが切なそうに目を逸らして唸った。図星か。それでランクに拘ってたんだな。
「ギルドへの依頼数、達成数、売上、登録者の数や質、そういった総合的な判断で格付けされているの。」
事情は分かったが、面倒くせぇ。そういうのには関わりたくねぇんだ。
「マスターを代えろ。」
「はっきり言わないでぇぇ・・・」
え?
おいおい、あいつが原因の一端か。
泣きそうな顔で大きな声を出すサーラを見て、はっきりと分かった。マスターはいい加減な奴だと思ったが、間違いじゃないんだな。
「でも、このギルドはマスターが作ったから、マスターが居なくなると支部の存続も出来ないの。」
聞いて損した。どんな理由かと思ったが、ただの内部競争じゃねぇか。
「私と弟は、マスターに育ててもらったの。」
ご愁傷様。
「当時現役だったマスターは、ランク70だけあってかなり強かったの。親が居ない私たちを育てたマスターみたいになりたいって、思うのは自然だよね。」
今のあいつみたいにはなりたくないけどな。
「そんなマスターが、もっと誰かの役に立てたらと思って設立したのがアイエル支部。だから、私もこの場所で働きたいし、無くしたくない。」
俺には関係ねぇ。
「だから、リアちゃんにはどうしてもアイエル支部に居て欲しかったの。」
まぁ、事情は分かったが。

「今後、俺に黙って勝手な事はするな。」
「え・・・うん、勿論。」
感情は意固地になりやすいけど、時間が経てば落ち着く事もある。今の俺に、他に行く理由も無いしな。
ただ、勝手な事をされるのだけは納得できないから、それだけ伝えると、サーラの表情が明るくなった。
「で、後ろ向け。」
「こ、こう?」
背中を向けたサーラを、俺は後ろから抱きしめる。
「リアちゃん?」
俺より身長は小さいので、肩を包む感じになる。そう言えば、生前はこんな事をした事もあったな。この世界じゃ、俺より小さいのはサーラくらいしかいねぇし。
「そんな、気を遣わなくてもいいよ?」
さて、やっと伝説の武器が手に入るぜ。俺はサーラの胸に下から手を当てると持ち上げた・・・持ち上げ・・・
おい・・・
上がるどころか、俺の手が埋もれていくじゃねぇか。伝説は伊達じゃないって事だな。ってかなんだこの質感、柔らかくて包まれるような、こんなの初めてだぜ。
「あの、リアちゃん。何してるの?」
「さっき何しても良いって言ったじゃねぇか。」
「それは、殴るなり、罵倒するなりで、こんな事をしていいとは言ってないんだけど?」
「痛いよりいいんじゃねぇか?」
お、だんだん持ち上がって来た。かなりの弾力だな。こいつは、世界に数えるほどしかないだろう。俺の勝手な想像だが。しかも、手に入れるとなると選ばれた人間しか無理だ。
「そういう問題じゃないかな。」
「酷い目に遭わされた俺が、納得してもか?」
「その言い方は、ちょっと狡くなぁっ・・・って、何処触ってるの!?」
「胸。」
「そういう事を言ってるんじゃないの。」

「私は、あまり好きじゃないの。」
サーラは自分の胸を見下ろすと、哀しそうな声で言った。顔は見れないが、声と同様なんだろう。
「俺は好きだが?」
「そう、そうやって好奇の目に晒されるし、動くの大変だし。」
惹き付けてしまうのは仕方がない。そこに存在するのだから。それに困るけど、自分じゃどうしようもないのは、歯痒いよな。
「人目を惹けるほど、魅力的って事だろう?」
「そうだったら、いいけど。そうじゃない方が、多いもん。」
「サーラは素直じゃないか。色んな葛藤を抱えても、前を向ているように感じるし、見た目も可愛いだろ。そりゃみんな惹かれるさ。」
「うぅ・・・恥ずかしい事を言うな。それに、リアちゃんは女の子でしょ、私はそんな趣味無いからね。」
・・・
そうだった。俺は女でした。こんな状況になろうと無いものは無いじゃねぇか!
「ね、そろそろ離して?」
「嫌だ。」
「えぇ・・・」
「何してるのよっ!!」
「いっっっったぁぁ!!」
目の前に光が迸るほどの衝撃を後頭部に感じた。

「お前が何してくれてんだ!」
後頭部を摩りながら振り向くと、拳を握りしめて立っているマーレが居た。後ろではエリサがニヤリと笑っているのは、俺が殴られたのが楽しいのだろう。
「もう、油断も隙もないんだから。」
「油断も隙も、マーレには関係ないだろうが。」
「いや、そうだけどさ。」
「罵って好きにしていいって言ったのはサーラだぞ?」
「だからそんな言い方はしてないってば。」
概ね合ってるだろうが。
「それより、サーラは大丈夫?」
あ、逃げやがった。
「え、うん。どちらかというと、助けてもらってたが近いかな。」
「え?そうなの?」
本人も、色々と悩みを抱えていたんだろうな。ギルドの事もそうだし、自分の見た目に対するコンプレックスもあったんだろう。
「それより何でギルドに居るんだよ。」
「あぁ、搬入が終わったから。本格的な作業は明日からにして、今日は切り上げて来たのよ。ギルドに来たのは、時間が在るからエリサが依頼を確認したいって。」
エリサが?
本当かよ、サボ犬のくせに。
「あたしだって、依頼は受けたいぞ!なんたって、58だからな!」
あぁ、自分の力を試したい系か。
「そっか。ちょっと待ってて、見て来るから。」
サーラは言うと、カウンターの方に向き直る。あぁ、せっかくのボーナスタイムが。
「リアちゃん、ありがとね。あと、次は油断しないから。」
ぬぉ・・・
立ち止まって振り向いたサーラが微笑んで言う。それは良い笑顔で可愛いと思ったが、その後にいつもの圧力が飛んで来た。ユアナから聞いていたな、ギルドの受付はそれなりの力があるって。すっかり忘れてたぜ・・・

カウンターに戻って来たサーラが、何枚かの用紙を持っていた。それがカウンターに置かれると同時に、俺は一番上の紙を確認もせず取るとくしゃくしゃに丸める。
「あ!」
「俺も何度も同じ手はくわん。」
丸めた紙を横に放って笑みを浮かべる。
「むぅ、やるわね。」
だが、丸めて放った紙をエリサが取って、開き始める。何してくれてんだ・・・
「ご主人、あたしこれ行く!」
・・・
何故わざわざ死地に向かわなきゃならないのか・・・
ドラゴン退治の依頼が書かれた紙を見て、俺は目を細めた。
「駄目だ。」
「何でだ?」
「なぁサーラ、エストアーハってどれくらいかかる?」
「えーと、馬車で3日くらいかな。」
「だ、そうだ。お前はマーレを手伝う必要があるだろう。俺だってまたそんなに店を空けるわけにもいかない。」
「・・・」
俺が言うと、エリサは残念そうに肩を落として項垂れた。
「一段落ついて、その依頼が残っていたらにしろ。」
「分かったぞ・・・」
返事はしたが、納得はいってなさそうだ。
「私は別にいいのよ?メイニが手配してくれた人たちも居るし、多少進捗が悪くなる程度だもの。」
それはマーレの話しだからいい。マーレに任せてあるから、自分で調整すればいいだけの事だ。
「そういう話しをしてんじゃねぇ。エリサ自身が自分の状況を把握して、依頼を餞別してない事を問題視してんだ。」
「それは確かに、大切だけど・・・」
「もういい、今日は帰る。」
エリサは言うと、出口に向かって走り出した。
「ちょっとエリサ!」
ったく、ガキの相手は疲れるな・・・
追い掛けるマーレも、放っておきゃいいのにと思いながら、黙って出て行くのを見ていた。
「いいの?」
「一時的な物だろ。ま、俺も帰るわ。今日は依頼無しって事で。」
「うん、分かった。」
サーラもすんなり頷いたので、俺も店に戻る事にした。



「どうだ?」
店に帰ると、マーレが浮かない顔でカウンターに座っている。
「放っといてって、部屋から出て来ないのよ。」
面倒くせぇ・・・
「仕方ねぇな。とりあえず店を閉めるか。」
「ちゃんと説明しないから拗れるのよ。」
「うっせぇ。」
そんなもん、生きていく間に学んでいけ。内心で悪態を付きながら、扉まで来た俺は鍵を掛けようとする。
「いだっ!」
その時扉が突然開き、鼻を打った。何処の馬鹿だ!いきなり扉を開けやがって。
「リアちゃん!」
「ぶほ・・・」
鼻を摩っていると、突然何かが衝突してきた。衝撃のあと、俺の顔が何かに埋もれているのがわかる。何度目だろ、何度でもいい感触なのだが、誰だ?
一瞬アホ女かと思ったが、そこまで大きくもないし、アニタに近い大きさだが違う。それにアニタはちゃん付けで呼ばない。

うーん、でも、どっかで聞いた事のある声なんだよなぁ・・・
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界薬剤師 ~緑の髪の子~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:178

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:610pt お気に入り:9,823

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,160pt お気に入り:3,822

迷宮都市の錬金薬師 覚醒スキル【製薬】で今度こそ幸せに暮らします!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:149pt お気に入り:2,978

無能な癒し手と村で蔑まれ続けましたが、実は聖女クラスらしいです。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:7,089

天使志望の麻衣ちゃん

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:1

異世界バーテンダー。冒険者が副業で、バーテンダーが本業ですので、お間違いなく。

Gai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:6,653pt お気に入り:568

処理中です...