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王城乗っ取る?(仮)

39.お前らの物じゃないんだが

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「で、相談ってのは?」
ダイニングに移動すると早速話しかける。この時間、アニタは仕事だし、マーレとエリサはホージョのところに行っているから居ない。来たばかりのユアナに店番を任せるのは不安だったが、俺にとってメイニは最優先に値する。
「依頼していた薬の使い道についてですわ。」
・・・
なんとなく予想は着いた。
この前、どこぞの屋敷に乗り込んだ時と同じなんじゃないか?
「最近、強盗の被害が増えてますの。」
「強盗?」
やっぱり穏やかな話しじゃないよな。
「わたくしの馬車も襲われたのですが、下手な強盗に殺されるような乗員はおりませんわ。」
「襲われる事自体が問題だろ・・・」
「そうですわね。ですが、問題はここからです。取引先の積荷が盗られてしまうと、わたくしへ入る予定だった品が回って来ないのです。」
大問題じゃねぇか。
「商売にならねぇな。」
「件数も重なると、被害届を出して待っているだけでは、損害が増えるばかり。そこでリアさんに手伝っていただけないかと思いましたの。」
それは構わないが・・・
「薬を依頼した時からそのつもりだった?」
「いえ。当初は警告のつもりでしたわ。ですが、最近は回数も多く目に余るのです。複数の取引先でもこれ以上は限界のようですわ。」
何度もやられちゃ敵わないよな。下手をすれば商売自体出来なくなってしまうだろう。だが・・・
「それだけ被害が出ているなら、動くところも動くだろう。」
警察的な存在が無いわけじゃない。

「彼らは神出鬼没ですの。特定の場所で狙われるなら回避のしようもありますわ。それに、必ず皆殺しにして積荷だけを回収していく手際の良さ。拠点が在るのか無いのかも掴ませない徹底ぶりですわ。」
明らかに組織立っての犯行だろうな。そんな奴らに俺が協力して何とかなるのか?殺しになんの躊躇もなく、平然と物を盗んでいく。俺なら怖くて関わりたくねぇ。
「なのに今俺に話している、という事は何処の誰か判ったって事か?」
「その通りですわ。」
まぁ、予想通りの展開だな。駆り出されると思ったよ。
「で、俺も行くわけだな?」
「察しが良くて助かりますわ。」
「行く前提かよ、それはもう相談じゃねぇだろ。」
「あら、リアさんはわたくしのお願いなら、聞いてくださると思ってますのに。」
・・・
そうだけどさ。
相手に言われると腑に落ちない・・・
「当たり前だ、自分の女のお願いを聞けないで・・・」
「違いますわ!」
・・・
きっぱり否定すんなよ、傷つくだろうが。いくら適当な俺でも、否定はやはり流しきれない。多分、俺に限らず人間ていうのはそういうもんなんだろう。
「貴女とわたくしはもう一蓮托生、違いまして?」
挑発するように、メイニは小悪魔のような瞳を俺に向けて微笑んだ。くそぅ、可愛いぜ。
「あぁ、そうだな。」

「で、具体的には何をすればいいんだ?」
やるやらない・・・じゃなくて半ば強制的なこの依頼の詳細はまだ語られていない。単に強盗退治なのかどうなのか。
「出来れば、エリサさんも加わって欲しいところですわ。」
「ま、当然だろう。俺は後方支援のようなものだからな。実践には向いていない。」
「えぇ。わたくし一人でどうにか出来るなら相談はしていません。相手の実力も分からないのが現状。」
俺としてもメイニを矢面に立たせて、自分は後ろで控えるってのは気が引ける。まぁ、エリサならいいんだけどな。
「実力が分からない?」
そもそもこういうのは情報が重要だろう。そこを見誤ったら、こっちが危ないじゃねぇか。
「拠点の特定と大体の人数は把握してますわ。護衛を雇っている馬車ですら襲う事から考えれば、それなりの手練れ。」
まぁそうだろうよ。ってか護衛付きの馬車も平然と襲うのか・・・
かなり危険な仕事じゃないか?
「組織立って動いており、その指揮を執っている人物も特定出来ておりますの。ですが、その人物がどれほどのものか、そこが分かりませんわ。」
かなりやべぇ奴なんじゃね、それ。
「相手の人数は?」
「30人ほどですわ。」
「そうなると、エリサだけじゃ心許ないな。ってか、場所も規模も分かっているなら、討伐とかの要請をした方がいいんじゃないのか?」
そもそも俺らが相手をする必要はないだろう。
「この国の現状はそんなに良いものではありませんわ。それに、やられっぱなしではわたくしの気が済みませんもの。」
・・・

メイニらしいと言えばそうなんだろう。そこはいい、だがその前に聞き捨てならない事を言ったな。
「国民が困っている時に動いてくれないと?」
「リアさんは把握出来ておりませんのね。」
「あぁ・・・」
把握も何も、知ろうとも思ってないし、興味もねぇ。当たり前のように殺しが起きている世界だと、逆に存在自体が希薄に感じてしまう。
「わたくし達が居たセルアーレはまだ良かったですわ。駐留兵が真面目な方だったので、街の衛兵とも連携を取り治安を維持しておりましたわ。」
へぇ・・・
「ですが、王都になると数も多い。当然、数が多ければ不逞な者の数も増えますわ。」
人間ってのは、何処に行っても変わらねぇなぁ。
「言ったところで、動かないどころか賄賂を受け取って揉み消すのも当たり前。だから、わたしたち商人では頼らない者の方が多いですわ。」
なるほどね。
「それで、俺も駆り出されるのが必然と言っていい状況になるわけだな。」
「えぇ。」
だが人数が多いな。メイニが依頼してきた薬が何故単体ではなく、部屋への効果なのかは分かった。だが、それでもそこに全員が集まっているなんて事はないだろう。
「薬で黙らせる規模は、どの程度なんだ?」
「事前に室内に設置するのは無理ですわ。」
・・・
おい、前提が違うじゃねぇか。
「出入口に気付かれないように置きます。相手が外に出ようと吸い込めば、効果はあるのでしょう?」
「そりゃそうだが・・・」
「薬の効果が現れる頃合いに、窓からさらに投げ入れます。」
そうか。
部屋に広がった薬の効果に気付き、逃げようとすれば出入口に漂っている毒を吸う事になる。
「ある程度の人数はそれで動きを封じれます。残りをわたくしや、エリサさんで何とかする必要がありますわ。」
どっちにしろ危険な事には変わりが無いな。だが少人数であれば、エリサでも十分対応可能だろう。

「問題は、拠点内にあまり居ない場合ですわね。」
「だな。エリサだけじゃ対応しきれない可能性もある。」
「出来れば、一人として逃したくありません。」
うーん・・・
「あ、ユアナが居るじゃねぇか。」
そこで今、店番をさせているユアナの事を思い出す。あの短剣捌き、間違いなく手練れレベルだ。居れば確実に戦力になるだろう。
「先程の新しい方かしら?」
「そうだ。少し前までギルド本部で働いていたんだ。実力もそれなりの筈だし、ギルドで働いている以上こういった揉め事も問題ないんじゃないか。」
「まぁ、それは頼もしいですわね。」
あの短剣捌きなら、かなりの実力だろう。まぁ、俺に向けるのは止めて欲しいんだが。
「ちょっと声を掛けてみるか。」

「今のところお客は来てないわ。」
店内に移動すると、ユアナが言って来た。それはよくある事なので、余計なお世話だよ。
「それはいい、店とは別で話しがあるんだ。」
「何かしら?」
俺はメイニの方を向いて最終確認をする。詳細は言わないが、話して問題無いかの確認だ。メイニは無言のまま首を縦に軽く振る。
「実は、仕事を手伝って欲しいと思ってな。ほら、短剣の腕前はかなりのものじゃないか。」
「ありがとう。それで、仕事の内容は何?」
「強盗退治。」
と、言った瞬間ユアナは憂いの顔で視線を下に落とした。
「私ね、特技は寸止めなの。」
「知ってるって。俺がどれだけやられたと思ってんだ。それより、何か気になる事でもあるのか?」
確認してみるが、ユアナは表情に困惑を混ぜて苦笑する。
「寸止めが・・・特技なの。」
いや、2度も言わんでいい。
いや・・・
待てよ。
「まさか・・・」
俺がそこまで言うと、ユアナは椅子から勢いよく立ち上がって顔を逸らした。
「そうよ!寸止めまでしか出来ないのよ!」
・・・
はぁ・・・
「使えねぇ。」
そんなんで大声出されても困るわ。
「つ、使えるわよ!脅しとか、抑止とか、貴重な能力でしょ!」
頑張って自己肯定しているようにしか聞こえないが。そう思ってメイニの方を見ると、冷めた目をしていた。
だよなぁ・・・

だが、本人が言う様に使えない事はない。むしろ、俺の方が変わってしまったのか?本来、それで済めば良いに越した事はない。何時から、生死を前提に考えるようになっちまったんだろうな。
だが、俺はこの世界でそれを受け入れたんだ。自分から望んで手を染めた。だから、ユアナの事は馬鹿になんて出来ない。

「拘束は出来るのでしょう?」
「え、えぇ。むしろ、そういう方が得意だわ。」
俺がつまらない事を考えていると、メイニがユアナに聞いた。確かに、拘束出来るのならいろいろ便利かもしれない。今回の場合でも、外に居る奴や運よく逃げ出した奴を無力化出来るのなら、それだけでも上等だろう。
手を下すだけなら、俺でも出来る。
「わたくしは十分だと思いますわ。」
「あぁ、俺もそう思っていたところだ。ユアナが拘束出来るなら、戦闘の出来ない俺でもなんとかなる。」
「ですわね。」
メイニとの意見も一致したところで、話しを進められるな。
「具体的な日程は決まっているのか?薬ならその日に合わせて用意出来るぞ。」
「それは頼もしいですわ。」
「あの、まだ私は行くと言ってないのだけど・・・」
「行かないのか?」
「行きませんの?」
「え・・・あの・・・もう、行くわよ!」
話しの腰を折って言ったユアナに、俺とメイニが同時に聞き返す。さも行くのが当たり前のように組み込まれていた事に、ユアナは一瞬戸惑いを見せたが、最後はやけくそのように叫んだ。
「改めて具体的な話しをしようか。」
「エリサさんはいいのかしら?」
「どうせ分からないだろうから、後で簡単に伝えておくよ。」
「分かりましたわ。」

それから小一時間ほど話して、大体の内容が決まるとメイニは店を後にした。
昼に差し掛かる頃合いだったので、もう少しユアナに説明してから昼にしようとなったのだが、間もなく望んでもいない客が訪れる。



「いらっしゃ・・・」
ユアナが声を上げるのを制する。
「リア殿、話しに進展があったのでな、寄らせてもらった。」
いやぁ、聞きたくねぇ。
「お嬢さん、少しリア殿を借りるぞ。」
「あ、はい。」
「俺は聞きたくねぇんだが。」
「では早速、奥へ行くとしよう。」
聞けよバカ!
ユーリウスは俺の腕を掴むと、自分の家のように奥へと移動した。紳士とか貴族って言葉を何処かに置いてきたんじゃねぇのか、このおっさん。

「随分と強引だな。」
「私も出来る事なら、早いところ解放されたいのでな。」
正直な事で。
なら放っておけばいいじゃねぇか。とも思うが、立場がそうはさせないのだろう。
「あの後、ゼフトを含め姫様に会う機会があってな。事情を説明したら直ぐにでも来て欲しいと言っていた。」
「いや、行きたくねぇって言っただろうが。」
本気で連れて行く気かよ。
「心配せずとも良い。私も一緒だ。」
本当に人の話しを聞かねぇおっさんだな、おい。
「直ぐにでもと言っていたが、流石にリア殿も準備があるだろうと思ってな。そこは考慮してもらったぞ。」
そりゃどうも。
「という事で、明日になった。」
・・・
「準備もくそもねぇだろうが!アホか!」
思わず言っちまったよ。流石に我慢できなかったわ。
「むぅ、なるべく早い方が良かったのだが、本当に明日は無理か?」
「無理。」
「そこまではっきりと言われては致し方ない、ゼフトには明後日に調整してもらうしかないか。」
神妙な面持ちで言ってはいるが、言ってる内容はバカだ。明日だろうが明後日だろうが大差ねぇっての。
「こっちの都合を聞け。明後日でも無理だ・・・」
「なんと!?」
何か、だんだん腹が立ってきた。
「どうしてもか?では何時なら可能なのだ?」
「こっちにも色々やる事があるんだ。せめて1週間後・・・いや、7日後にしてくれ。」
未だに1週間が7日だった癖が抜けない・・・

「国の一大事だというのに、それよりも大事な用事があると申すか?」
何が一大事なのかさっぱり分からねぇし、くだらねぇ。
「そうだ。そもそも姫の情緒不安定が一大事になる国なんざ滅びてしまえ。」
馬鹿馬鹿しい。
そう思って言ったのだが、どうやらユーリウスにとってはそうでもないらしい。ゆっくりと立ち上がって俺を見据えて来る。
「私とて国を担う一貴族、いくらリア殿とて今の言葉は聞き捨てならんぞ。」
そうやって威圧すれば相手が怯むと思ってんなら、所詮上から目線に変わりはねぇ。俺も立ち上がると下から睨め付ける。
「俺は国の持ち物でも、あんたの持ち物でもねぇ。自分らの都合の良いように扱えると思ったら大間違いだぞ。」
「・・・」
何を考えて黙っているのか分からないが、自分のやっている事がどういう事か理解していないようだな。だから、まだ睨んで来ているユーリウスに追い打ちを掛けてやる事にする。これが通じないなら、こいつとはもう取引は無しだ。
「どこぞクソガキが権力を使って好き勝手やってたな、あれは何処のクソガキだったかなぁ?」
「!?」
「立場立場と言えば相手が納得するとでも思ってんのかねぇ、自分の地位を口にしているだけで、相手の立場になろともしない。だから常に上からしか物が見えねぇんだよ。」

そこまで言うと、ユーリウスは机に両手を付いて頭を下げた。
「すまぬ。リア殿の言う通りだった。マーレの事を非難しておきながら、その真を見てなかった。」
まぁ、話しが通じる相手で良かったよ。そう思いながら、俺はユーリウスの胸倉を掴むと顔を上げさせる。
「謝れば良いってもんじゃねぇんだよ。あんたの立場での発言は力を持つんだ。一度口から出された言葉は消える事はない、言われた方はその言葉に力がある程、忘れられないし、恐怖に縛り付けられるんだ。それこそ、自分の立場を理解して物事を言え。」
そこまで言うと、掴んでいた胸倉を突き放す。
「私が一方的だった事も、先程の言葉も申し訳なく思っている。」
「あんたは話しが通じると思ったから言っただけだ。もう一つ言えば、さっきのあんたより今の息子の方がまだまともだ。自分の立場をもう少し考えた行動をとった方がいいんじゃないのか?」
やれやれ、俺もお節介が過ぎるな。
「分かったら出直して来い。」
ユーリウスは俺を正面から見据えると、ゆっくりと頷いた。今度は、無理な事を言ってきたりはしないだろう。
「うむ、そうするとしよう。ところで、先程の7日後というのは当てにして良いのか?」
そうそう、そういう事。やっとまともな会話が出来そうな気がする。
「今のところはな。」
「分かった。ではそれで調整してみよう。」
ユーリウスは言うと一礼して、店の方へと向かう。
「リア殿には本当に世話になりっぱなしだ、感謝している。ありがとう。」
こっちを見ずに言うと、店の方に歩き出した。そういうのは、相手の目を見て言えよ。いい歳して気取ってんじゃねぇ、バカが。


「これでやっと昼飯を食いにいけそうだな。」
ユーリウスが帰ったあと、店内のユアナに話し掛ける。
「外に行くの?お店は?」
「そんなもん、休みに決まってんだろ。」
俺は言いながら、お昼休憩中と書かれた札をユアナに見せる。
「あ、有なのね。」
「ここは個人店だからな。ギルドとは違うぞ。」
「うん。ところで、丸聞こえだったんだけど。」
あ・・・
それは、まずいな。姫さんの話しは機密事項だったっけ。まぁ、いいか、俺が困るわけじゃないし。
「リアちゃんって、格好いいわね。」
「まぁな。」
「・・・自分で言う?」
うっせぇ。
「見た目は可愛い女の子なのに。」
「余計なお世話だ。」
微笑んで言うユアナに、俺も笑って言い返す。
「それより飯行こうぜ。今日は奢ってやるよ。」
「本当?嬉しいわ。」
って、抱き着くな・・・


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