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王城乗っ取る?(仮)

40.炭は食い物じゃないんだが

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「新しい女ですか・・・」
言い方・・・
くそっ、店を間違えたぜ。そう言えば此処にはアホ女が居たんだった。だがなぁ、それでも喫煙席を用意してくれている店なんて他に無いしな。
「今日からお世話になっている、ユアナです。」
するとユアナはレアネに対し、丁寧にあいさつをする。いかんな・・・
「私はレアネと言います。これから宜しく・・・」
「待て!」
「挨拶しているだけですよ、どうしたんですか?」
ユアナはまだ事情を知らない。ここはまず、説明が先だろ。先ずは挨拶からとかクソくらえだ。
「宜しくはしない。」
「何ですかそれ、意味が分かりませんよ。ところでユアナさんは何処に住んでいるんですか?」
「リアちゃんのところでお世話に・・・」
「余計な事は言わない方がいいぞ。」
「リアさん狡いですよ!」
あぁ、やっぱり・・・
うぜぇ。
「私というものがありながら、どういう事ですか!?」
在るも無いも、そもそも前提としてその立ち位置にすらなってないだろうが。ユアナの方を見ると疑わしき眼差しを俺に向けているので、俺も目を細めて溜息を吐く。
「私の方が最初ですからね!」
次に矛先をユアナに向ける。順番とか関係無いから・・・
一回頭を割った方がいいんじゃないだろうか。
「いいから、珈琲持ってこいよ。」
「分かりました。話しはその後という事ですね!」
ねぇし。

「何なの?リアちゃんの態度からは、嫌っているような感じはするんだけど。」
レアネがテーブルを離れると、ユアナがこの意味不明な関係に疑問を投げて来る。俺も意味不明なんだが。
「嫌っているんじゃなく、関わり合いになりたくねぇ。」
「何故そこまで・・・」
かなり嫌そうに言ったのが伝わったのか、吐き出す疑問も溜息混じりだ。
「いや、自分は神です。とか言っちゃうちょっとアレな奴だ。言っている事もほぼ主観が多い。な、関わりたくないだろ?」
「え、えぇ・・・私もちょっとそういうのは。」
「マーレも関わろうとしないし、エリサに至っては敵意剥き出しだからな。」
「そんなに?」
「あぁ。」
エリサの場合はよく分からないが。本人なりに何か思うところがあるのだろう、興味が無いから聞いてはいないが。
「俺もちょっと宗教と言うか、そういうのには関わりたくねぇんだよな。」
「つまり、私も関わらない方が望ましいという事ね。」
「そこは個人の自由だから俺が制限する事じゃない。ただその場合、俺を巻き込むなよって事だ。」
「いえ、今のを聞いて関わりたいと思わないわ。」
どうやらユアナも俺たちと同様のようだ。その言葉を聞いて内心で安堵する。関わるようなら付き合い方を考えなきゃと、一瞬不安になったが、そうならなくて良かったぜ。

「お待たせしました!」
丁度会話が終わったところで、レアネが珈琲を運んで戻って来た。戻って来た?
・・・
戻って来たと思ったのは、テーブルの上に置かれた珈琲の所為だ。
「何故3つある?」
「これから私たちの今後について話すんですよ。」
何故こうなった・・・
そもそも今後について話す様な間柄でもねぇし。
この女は何処まで本気なんだろうな。いや、何から何まで本気な気がしてきた。邪険にしているにも関わらず、何故俺たちに絡んで来るのか。
「グラード!」
「何だいリアちゃん?」
そんなレアネを無視して、俺は店長の名前を大きな声で呼んだ。グラードは洗い物をしていたが、俺の声に愛想よく笑って返事をする。
「この女をクビにしろ。」
「え・・・」
俺の言葉にグラードは硬直するが、その視線を遮るように頬を膨らませたレアネが立ち上がる。
「何て事を言うんですか!私が居なくなったら、私の可愛さを見に来ているお客さんが減るんですよ!」
・・・
死ね。
「ふふふ、分かりましたよ。さてはリアさん、この可愛い私を雇いたいんですね!」
やっぱり死ね。
「一応、売り上げに貢献してくれているから・・・」
グラードが困った顔で言う。まぁ、売り上げの事を考えればそう言うよな。
「だからってな、仕事中に珈琲飲ますなよ。」
アホ女は無視してグラードに文句を言っておく。
「あれ、私は二人分しか淹れてないんだけどな。」
・・・
「おい、その珈琲はどうした?」
「え、3つあったから持ってきたんですよ。マスターの心遣いですよ。」
「レアネちゃん違う、それあっちのお客様の・・・」
「・・・さて、お仕事お仕事。」
おい。

慌てて別のテーブルに珈琲を運び出すレアネ。口を付けてなくて良かったな。
「やっぱり切った方がいいんじゃねぇか?」
「まぁ、たまにの失敗くらいは大目に見てよ。」
グラードは苦笑すると、俺の言葉にそう返して来た。別に失敗なんてのは誰にでもある事だから、それに対して文句を言っているわけではない。
問題はあいつの行動だと言っているんだがな。
だがこれ以上言っても進展は無さそうだから、もう止めておくか。
「どうだ?」
「どうだって聞かれても、疲れるだけだわ。」
「だよな。なるべく相手にしない事を推奨する。」
「別のお店にすればいいじゃない。」
それはそうなんだが。そう思いながら俺は、ユアナに煙管を向ける。
「これ、店長のグラードが常連だからって融通利かせてくれてるんだ。煙草を吸える店なんか、今のところ此処しかないからな。」
生前によくやっていた、珈琲を飲みながらの喫煙。この世界でも出来た時には感動だった。それを継続して行える場所を手放したくはない。
新たに開拓するという選択肢もあるが、今在るものを捨ててまで行うのは面倒だ。
「前々から気になっていたけどそれって、煙を吸っているのよね?」
「あぁ。酒と一緒で、一種の嗜好品だ。」
「へぇ。リアちゃんが初めてなのよね、吸っているの見たのは。」
まぁ、多分この世界じゃ俺が初じゃねぇか?
「そのうち流行るさ。」
「そう?」
「生産もうちでやっているからな。」
「そうなの!?薬だけじゃないのね。」
生産に関して口にすると、ユアナが驚きの表情をする。確かに、嗜好品の生産までやっているとは普通思わないか。
「あぁ。畑があって、今は工場を建設中だ。だからマーレとエリサが居ない日が多い。俺もギルドに顔を出さなきゃいけないから、店番が欲しかったんだよ。」
「それじゃ、私は丁度良かったのかしら?」
「最高にな。」
「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいわ。」
本当は新しい家を建ててからが良かったんだが、慣れてもらう事を考えれば、良い機会だったかもしれない。

「さて、休憩も終わりにして店に戻るか。」
「分かったわ。だけど、なかなか強烈な娘ね・・・」
「本当にな。」
接客で歩き回るレアネを横目に、そんな事を離しながらグラードに金を払うと、俺とユアナは店を出た。



-翌日-

メイニからの依頼について話したかったので、マーレには一人で畑の方に行ってもらった。本人曰く最初は慣れなかったが、道中特に危険も無い事はもう分かっているから、一人で問題無いと今日も出かけていく。
エリサには仕事の説明をする必要があるので、メイニが来るまで待機してもらいつつ、俺は引き続きユアナに店内の事を説明していた。

程なくメイニが来店したので、そのまま客の居ない店内で内容について話しを詰める事にした。来たら中断すればいいという一致のもとで。

「薬はもう準備出来ている。出入口用に3つ、投げ入れるように3つだ。流石にこれだけあれば十分だろ?」
「問題ありませんわ。間取りは把握しています。正面玄関と裏口の2か所、待機する部屋は1階と2階に大部屋が1つずつ。予定では4つあれば足りますわ。」
そりゃ良かった。思ったより分散していなくて助かる。余りは予備に回せて、不測の事態にも備えられるからなおいい。
「それで、何処まで遠征するのかしら?」
ユアナの問いは俺も気になっていた。場所の特定は出来たとは聞いたが、実際に何処にあるのかまでは聞いていない。
「遠征もなにも、この王都内ですわ。」
「え?」
ふむ。木を隠すなら森の中ってやつか。てっきり郊外にアジトでもあるのかと、勝手な想像をしていたが、それは逆に目立ち過ぎるか。
何の変哲もない状況下にあればこそ、誰も気に留めない。そんなところなんだろう。
「なかなか、大胆ね。」
疑問から続けたユアナは、呆れを含んで言った。
「そうだな。計画性と慎重性が伴っていなきゃ、出来ない事だろう。それに、それを行動に移す大胆さが必要だ。」
「お陰で特定するのに苦労しましたわ。」
よく見付けたよ。一体どんな情報網を持っているんだか。

「それで、どうやって家の中に置くんだ?」
一番重要なのはそこだ。知り合いでもなければ中に入るのは難しいだろう。
「見張りの交代を狙って仕掛けますわ。裏口に関しては見張りはなく、鍵も掛かっていないことから置く事自体は容易ですわね。」
なるほど。この前と同じ様な作戦で行くわけか。
「裏口で出くわすなんて事は無いのか?」
「無いとは言い切れませんわね。その場合は黙らせる必要があります。」
だと、俺じゃ無理だな。そもそも戦闘出来ねぇし。この身体で大の大人と喧嘩・・・違うな、殺し合いなんか出来るわけもない。相手は女子供に容赦するような奴らじゃないだろうしな。
「あたしの出番か?」
「いや、エリサは正面だ。見張りは交代ごと排除する必要がある。」
そもそも、エリサに薬瓶を預ける方が怖いわ。
「私かしら?」
「拘束は出来ても排除は出来ないだろうが。」
「あ・・・」
あ、じゃねぇよ。気付けよ、自分の事くらい。
「仕方がありませんわ、わたくしが裏口に回ります。」
消去法からいってそれしかないよな。
「正面は二人で拘束及び、排除な。ユアナが拘束した分については俺が殺る。」
「う、うん。分かったわ。」
どうやら人死に自体に抵抗がありそうだが、関わった以上そこは覚悟してもらう必要がある。それが出来ないなら、留守番をさせるしかないな。
「大丈夫なのか?」
「これでも元ギルド本部の人間よ。そういう場面はいくらでも経験してきたわ。」
ならいいが。
慣れないのなら、今後は控えた方がいいかもしれないな。その躊躇が取り返しのつかない事態を招く可能性ある。

「なら、メイニが置いて正面に戻って来たら決行だな。」
「それでは裏口が空いてしまいますわ。」
「そこはこれだ。」
「なんですの?」
俺は瓶に詰めた粘着質の物質を取り出す。一同が疑問の顔を向けて来る。
「瓶を置いて蓋を開ける前に、扉の枠部分に一周、これを塗るんだ。」
「どうなりますの?」
「接着される。多分、余程の怪力じゃない限り開かないだろう。」
「そんな便利なものがありましたのね。」
何故か知識として持っていたので利用した。薬師として、植物の成分は知識として蓄えているのだろう。当然、薬にならない成分も多々あるが、そこを知らないと有効な成分を選り分けられない。だが、お陰で薬じゃないものも副産物として精製出来るのは、持っている知識の強みだ。
その一つがこの接着剤だ。カシトールという植物に含まれる成分を利用した接着剤なんだが、これが思った以上に強力だった。おそらく、扉に一周塗れば普通の人間が押したり引いたりしても開かなくなるだろう。
「もし裏口に回っても、開かない扉に意識を取られていると、動けなくなるわけだ。」
「考えましたわね。」
「まぁな。」
さすが俺。

「瓶の蓋を開けてから3分程度で、動けなくなる程度の成分が空気中に漂う。投げるならその時間が経ってからだな。裏口に関しては接着するから、空気の流れで霧散する可能性も限りなく減るだろう。」
うん、我ながらよく出来ている。
「良いですわね、見張りの交代時間も把握出来ておりますの。裏口にはその時間に合わせて設置する必要がありますわ。」
「だな。後は決行日だけだが・・・」
ここまで準備が出来ていれば、不測の事態でもない限り問題無さそうな気はする。そこはメイニが考えているのだろうから大丈夫だとは思うが。
「明日がいいですわ。」
急だとは思わない。そもそも話しが持ち込まれた時、薬の準備が出来た時、既に心構えはしていたのだから。それよりも。
「明日の理由は?」
「馬車が襲われようと、商品を必要としている人はいるんですの。賊に怯えて商売を疎かにする事は出来ませんわ。明後日以降、また商品の輸送がありますの。出来ればその前に排除したいのですわ。」
「そりゃ、明日じゃないとダメだな。」
確実に襲われる、とは言い切れないだろうが、話しを聞く限り確度は高いだろう。
「そうね。これ以上被害を出さない為に、私も協力するわ。」
「あたしに任せておけ。」
ユアナもエリサも、意を決したように頷いた。

「頼もしいですわね。では、明日は夜の8時にわたくしの店に集まって頂けます?」
「メイニの?」
現地集合じゃないのか。まぁ、場所は聞いてないが。
「場所を伝えていませんでしたわね。目的の拠点はセイドール地区にありますの。このアイエル地区からなら、わたくしの店は通り道になりますわ。」
「なるほど、分かった。」
セイドール地区ねぇ、名前だけは聞いた事がある程度で、そっちの方には行った事がない。だからどんな雰囲気の場所なのかも不明だ。
「では明日、お願いしますわ。」
「あぁ。」
となると、針とかの準備も今日中には用意しておく必要がありそうだな。扉から出て行くメイニを目で追いながら、必要なものを考える。
「リアちゃんて、ギルドだけじゃなく危険な依頼受けているのね。」
「ん、あぁ。もともとはこっちが本業みたいなものだからな。ギルドはおまけだ。」
「逆かと思っていたわ。」
そう思われても仕方が無いが、ギルドは単に資金稼ぎのためだけに足を運んだのがきっかけだったか。
「あたしも!ギルドはおまけだ。」
と、エリサも得意げに言った。アホ犬の場合は言いたかっただけだろうな。


その後、戻って来たマーレには内容を説明しておく。エリサが必要になるのは夜だから、昼間は連れて行っても良いという事を含めて。
アニタには晩飯を食いながらついでの要領で、メイニの手伝いを3人でしてくるとしか言ってない。納得しているのか、していないのかは不明だが、メイニの名前を出したらそれ以上は聞かれなかった。

まぁ、依頼の話しはその程度で終わったからいいが、それよりもだ
「この黒い塊はなんだ?」
「何って、見ての通り卵を焼いたものに決まっているでしょう。」
アニタの手伝いをしていたユアナは、目を逸らして言った。見て分からないから聞いてんだろうが。
「どうして止めなかった。」
「他の料理を作っていて、気付いたらもうその状態だったのよ。」
・・・
この家で料理をしちゃいけない奴が増えたな。エリサに続いて二人目だ。俺はそもそも出来ないからやらないが。バーベキュー的なものくらいか、出来ても。
「今後禁止な。」
「えぇ!?」
「うん、私がやるから、ユアナはリアの手伝いを頑張って。」
アニタにまで言われると、ユアナ自信が無さそうに俯く。
「そんなに、ダメ?」
「経験不足ね。」
「駄目だわ。」
と、アニタとマーレが即答する。
「素材に謝れ。」
「犬の餌にもならないぞ・・・」
エリサが焦げた部分を噛んで、嫌そうに言う。ってか、自分の事を言ってるじゃねぇか。
「つまり自分の餌にはならないと。」
「あたしは犬じゃない!」
アホ犬の反応に、落ち込んでいたユアナが少しだけ笑う。
「なに、俺も料理は出来ねぇ。人には得て不得手があるんだ、自分が出来る事をやればいいじゃねぇか。」
「うん、ありがと。」
落ち込んでいたユアナは笑顔になって頷く。その隙に、視界にダークマターを俺の皿にこっそり増やしている奴が映った。
「おっと手が滑った。」
「むがふっ・・・」
「ぷ、あははっ。」
すかさずエリサの口の中にダークマターを押し込んでやると、その場に笑いが起きる。
ま、決戦前夜としてはいいんじゃねぇかな。
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