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王城乗っ取る?(仮)

42.頭を割って見てみたいんだが

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屋敷の外に出ると、空が白み始めていた。
「夜が、明けるな。」
「まだ日付も変わってないわよ。」
・・・
気分の問題だろうが!
「先ずは此処を離れましょう。」
「そうだな。」
アホ犬はユアナに任せ、メイニの言う通り長居は危険なので、直ぐに屋敷を離れる事にした。


「まずこのアホを起こそう。」
「鼻が良いのね。」
「犬だからな。」
言いながら俺はエリサに蹴りを入れる。
「むにゃ・・・!!」
蹴りの衝撃でゆっくりと目を開けたエリサは、気怠そうにしていたが俺を見るなり飛び起きて距離を取る。
あの臭いに警戒しているのだろう。
「ご主人は、あたしを殺す気か?」
「その気があれば生きてないだろうが。」
臭過ぎてショック死とか笑えそうだが。
「その気になったって事か?」
・・・
このクソ犬。
「そもそも、今後の俺の計画にはエリサが必要なんだよ。」
新築もそうだが、今後危険な依頼も増えて来る。それを考えればエリサはどうしても必要だ。なんのために薬を改良していると思ってんだ。
ユアナに関しては主に店を任せる事になるだろうから、今回のような仕事は基本、エリサの同行が必須だ。
「え、あたしは必要なのか。」
「当たり前だ。」
言うとエリサは笑顔になって戻って来る。面倒くせぇ。
「リアちゃんって、お人好しと言うか、良い子よねぇ。」
うっせぇ!
俺は俺の野望の為に利用しているだけであって、良い人間ではない。
「良い子は毒なんか作らねぇよ。」
「万人に対し良い人間なんて居ないわ。自分にとって、善いか悪いかというだけよ。」
・・・
ある意味真理だな。
「わたくしもそう思いますわ。」
「もうこの話しはいいだろ、さっさと帰るぞ。」
「照れてるわ。」
「可愛い事ですこと。」
「うっせぇ!」




「本当に行かないとダメか?」
「ここまでお膳立てして・・・というのはこちらの都合だな、申し訳ない。出来れば登城していただきたい。」
翌日、朝から見たくもないおっさんが訪ねて来ていた。まぁ、ユーリウスなんだが、行きたくねぇって言っているのにしつこい。
本来は貴族だの王族だのには関わりたくないんだ。間違いなく面倒な事になりそうだから。だが、ユーリウスは融通も利くし、悪い気はしないから話しを聞いているんだが。
「姫というのは、美人か?」
「それはもう。まだ18故、あどけなさも多少はある。私が言うのもなんだが、かなりの麗しさだ。」
姫という単語自体、現代では可愛いや美人の象徴であり、崇拝や崇敬の対象と言っても過言じゃない。このおっさんも増して言っていても不思議じゃないが、嘘は付くようなタイプではない。
普通の男が言う姫は美人、という二次元的な妄想とは違って、美人の確度は高そうだ。
いや、でもな・・・
「今のところ、リア殿以外に頼れる者は居ない。マールの事がありながら、更なる我儘を言って恐縮ではあるのだが。」
まぁ、メイニの依頼も終わった事だし、俺自身はそこまで忙しくもない。ただなぁ、俺だけでは判断に苦しむ内容だな。
「分かったが、一つ条件がある。」
「それはありがたい。して、条件とは?」
「もう一人同行をさせたいんだが、いいか?」
俺じゃ女心はわからん。だったら、マーレを連れて行った方が良い気がした。工場の方が忙しいのは分かるが、一日くらい問題ないだろう。
「おそらく問題は無いが、必要なのか?」
「俺は薬の調合をするのが仕事だ。人の精神状態まで判断するのは難しい。姫さんの状態を確認するなら、俺よりも向いている奴が居るから連れて行きたいと思ってな。そっちも、その方が良いだろう?」
「ふむ、確かにリア殿の言う通りだな。であれば問題無い、話しは私から通そう。」
後はマーレ次第だな。
嫌だと言いそうだが、何とか説得してみるか。
「こっちも話しはしておく。」
「引き受けて頂き感謝する。それでは当日、城門前で待っておる故、よろしく頼む。」
「あぁ、分かった。」
俺が引き受けた事で、ユーリウスは満足そうに店を出て行った。その顔は良かったというよりも、安堵したといった表情だった。それは、自分の立場から出た態度なのかも知れない。
下手に肩書なんか持っていると、柵が絡みついて抜け出せないんだろうな。

「終わったの?」
店内に戻るとユアナが聞いて来る。どうせ今回も丸聞こえだったんだろうと思うが、一応別室という場所を提供している事でユーリウスは満足なんだろう。ユアナが誰かに話すなんて事をするとも思えないし。
「あぁ。」
「王城に行くなんて、凄いわね。私も行った事はないわ。もちろん、向こうの大陸での話しだけど。」
まぁ、そうそう行くような場所じゃねぇよな。
「俺は行きたくねぇんだよ。」
「態度から見てそれは分かるけど。記念くらいの気持ちでいいんじゃないかしら。」
だといいんだが。
そもそも下手に手を出して、事が好転しなかった場合どうなるか。王室お抱えの薬師でどうにもならないくせに、俺が駄目だった場合も仕方が無いで済ませてくれるのか?
そういう不安はどうしてもある。
「それで終わればいいんだけどな。」
「そっか、依頼なのよね。」
「あぁ。」
「それはそうと、話している間に薬の依頼がひとつ入っているわよ。」
「お、ありがと。」
渡された紙を受け取りながら礼を言う。やはり、ユアナが来てから実感したが、店番はどうしても必要だな。
しかし、新しい家には応接室も必要だな。今回の様に、通常の依頼でない場合や、メイニの依頼の様に聞かれるとまずい話しなんかは、話せる場所が必要だ。
王城へ行く件と一緒に、マーレに話しておくか。

「そろそろ昼だな、いったん休憩にするか。」
「いいの?」
「あぁ。飯を食ったらそのままギルドに行くから、帰って来るまで店は任せる。」
「分かったわ。」
ここ数日、ギルドには顔を出してないからな。




カフェに移動して、まずは珈琲を飲みながら一服する。恐ろしいのはあの女が静かな事だ。何故か態度も冷たい感じがしたが、関わらずに済むならそれに越した事は無い。
「ところで、カーマエーレンってのはどんな奴なんだ?」
厨房で忙しそうにするグラードを見て、注文したものは直ぐに出て来ないだろうと思い、気になっていた事をユアナに聞く。
「どんなって言われても、私も詳しくはないの。」
本部勤めだと言っても、全てを把握しているわけではないのだろう。
「そうか。」
「商人、行商、鑑定士、輸送といった商売に関わる知識は群を抜いているわ。もちろん、その能力でマスターにまでなっているのだけど。」
おいおい。
それだけの力がありながら、更に人様の荷物にまで手を出しているってのか?
「ギルド本部のあるアズ・オールディア大陸、城塞都市フェルブネスまでは知っているわよね?」
「そりゃ行ったからな。」
「こっちと同じ様に、当然向こうの大陸も王政なの。それは知っている?」
興味も無ぇのに知るか。
「いや。」
だが、そこまで聞くと今後の展開が想像出来て、嫌な感じがするな。
「フェルブネスから更に内陸に行くと、王都レメディールがあり、そこが大陸の中心。」
「カーマエーレンはそこに居るってのか?」
「えぇ。このミルスティ同様、支部が幾つかあるのだけど、そのうちの一つが彼女の居城と言われているわ。」
彼女?
女か!
いや、でもギルドマスターって言うくらいだから、俺の守備範囲外だな多分。
「居城?」
「そう、まるでお城の様なギルドよ。私が知っているのはそれくらいなの。」
まぁ、概要程度しか分からないわけか。支部の事まで把握はしていないのだろう。
そんな事よりも、フェルブネスより遠いってのが問題だな。メイニの態度からすれば、王都レメディールまで行く事になりそうな気がしてならない。

「お待たせです。」
気になる事はまだあるが、覇気の無い声で置かれた料理を食ってからでもいいか。それとレアネは邪魔だしな。
「って何故自分の前に置いて座る・・・」
ユアナの前には普通に置いたが、俺の分は自分の前に置いたうえに椅子に座りやがった。
「リアさん。そろそろ私たちの今後について真面目に話した方がいいと思うんですよ。」
・・・
こいつの頭の中は一体どうなってんだ。
戻さなくていいから誰か割って見てくれないかな。
「今後どころか以前も無いがな。」
「手を差し出しておいて放置ですか?」
そもそもそれが間違いの元だった。
「何の進展も無いなんて、私がどれだけ寂しい思いをしているか分かりますか?」
まったく。
「とりあえず話しの続きは帰ってからにするか。」
「そうね。」
「どうしてそんな冷たい態度を取るんですか!」
言って通じるかどうか分からないがいい機会だ、レアネにはっきりと言った方が良さそうだな。
「あのなレアネ・・・」
「捨てるんですか?」
話そうとしたら、冷めた目線で間髪入れずに言ってくる。そもそも拾ってねぇし。こいつ、実は分かっててやってんじゃないだろうな。
「行き倒れに付け込まれて助けさせられた。それ以上の関係じゃない。それに俺は宗教に関わりたくねぇんだよ。という事で、冷たいとかじゃなく相手にしたくねぇんだよ。」
「そんな事を言うなんて、酷いです。」
あぁ、分かってるよ。
ただ、これ以上そんな事を言う奴には関わって来ないだろう。

「何度も言っているじゃないですか、宗教じゃないんですよ。どうして信じてくれないんですか。」
「って、抱き着くな・・・」
今にも泣きそうな顔になりながら、がっしりと掴みかかってるレアネ。信じてくれじゃなく、逃がすかという勢いにしか感じないんだが。
「ちょっとレアネちゃん、リアちゃんが嫌がって・・・」
「シャァァァッ!」
・・・
何故威嚇する。
「なんか、嫌われているみたい。」
苦笑して言うユアナに、俺も苦笑いを返した。
「でも神なんだろ?」
「違います、元・神です。」
・・・
「えい!」
「きゃふっ・・・」
真面目な顔で返して来たレアネを、床に転がしてやる。どっちでもいいわ。
「何するんですか!」
「だから何度も言っているだろうが!元だろうが何だろうが、自分の事を神とか言っちゃう奴とは関わりたくねぇって!」
「じゃ、神じゃないです。これでいいですね。」
今まで拘っていたのはなんなんだ。
「いや、既に手遅れだ。」
「私、友達いないんですよぉ、リアさん達はいつも楽しそうにしていて羨ましいんです。私も、仲間になりたいんです。」
急に真剣な目でそんな事を言い出した。多分、それが本音なのかもしれない。が、嫌だ。
「後から来たこの人とは仲良しなのに、どうして私は駄目なんですか・・・」
どうしても何も、言った通りだが。
切なそうな顔で言うレアネに、間髪入れずに突っ込もうと思ったが、普段とは違って本当に寂しそうだったので戸惑ってしまった。
本当は神とかどうでもよく、単に話し相手が欲しいだけなのかもしれない。

「レアネちゃん、お料理貯まってるから運んで!」
「はい!ただいま!」
黙っていたグラードも、いい加減にしろと言わんばかりに声を上げた。まぁ、当然だよな。それに対するレアネの反応もいつも通り。
まさか、今までのは演技か?
「続きはまた明日にしましょう。」
レアネはそれだけ言うと、料理を取りに去って行った。

「食うか。」
「そうね。」
嵐が去ったので、放置されていた昼飯を食べる事にする。
ちなみに明日、この店には来ない。
そう誓って。



「ようサーラ。依頼はあるか?」
「もちろん。というか貯まってるよ。」
貯めんな、バカか。
「ギルド所属の薬師は少ないの。だからどうしても貯まりやすいのよね。」
あぁ、そういう事か。
「前はそんなに無かっただろうが。」
「多分、リアちゃんがここに登録してからじゃないかな。依頼があると受けてくれていたでしょ。」
つまり、俺のお陰でギルドへの依頼が増えたという事か?流石俺。
「これは益々、俺に感謝が必要だろう。」
再び伝説の武器を手にする日も近いんじゃないか。次は邪魔者が入らない状況で手にしなければ。
「分かってるよ。常備薬の依頼者からも評判が良いし、新規の依頼も増えているからね。」
新規、ねぇ。
そんなに新規が簡単に増えるとも思えない。人は自分の生活範囲で物事を済まそうとするもんだからな。開拓ってのはいろいろと労力を要するものだ。
「ほんと、うちのギルドとしても嬉しいよ。」
・・・
何か嘘くせぇな。
「サーラ。」
「な、なに?」
「登録はしてやるが、触れ回って良いとは言ってねぇぞ。」
「え・・・そんな事、するわけないでしょ。」
この女、やりやがったな。おかしいとは思ったんだよ。かまをかけてみたら動揺した事から、間違いないだろう。
「ご、ごめん。ちょっとだけ、だから辞めないで。」
サーラが慌てて立ち上がると、気まずそうに言った。勢いよく立ち上がるものだから、当然伝説の武器も猛威を振るう。
侮れないな、多分俺の心を揺さぶるために、敢えて揺れる動作をしたに違いない。くそっ、なんて賢しい真似をしやがんだ。
「まぁ、今回だけだぞ、次は無いからな。」
俺としてもそうそう手放せるものでもない、何せ伝説だからな。
「うん、ありがと。」
「で、どれくらいあるんだ?」
「確か5、6件。ちょっと持って来るから待ってて。」
サーラは言いながら、カウンターの奥へと移動していった。

「お待たせ、5件かな。」
戻って来たサーラがカウンターに依頼書を並べる。
「と、もう1件。」
明らかに他とは違う依頼書を最後に追加した。黒で縁取りされた羊皮紙は、それだけで物々しい。多分、裏の方の依頼書なんだろう。
「裏か。」
「そう。出来れば人目に触れないように確認してね。」
だったら堂々とカウンターに置くなよ。とは思いながら、出されたものなので内容を確認する。
・・・
下半身不随にする薬。
無理だろ、アホか。
まったく人間というのは、ろくな事を考えないな。
「出来る?」
「結果そうなった、程度なら出来なくもないが、特定の場所にだけ作用させるのは無理だな。それより、こんな依頼ばっかりか?」
だったらもうやりたくねぇな。
「それは稀な依頼。殆どは殺して欲しいとか、知られずに殺す方法とか、毒が欲しいとかかな。」
まだそっちの方が健全だな。生きたまま人体に弊害を齎すとか、胸糞悪ぃ。まぁ価値観の違いなんだろうが、人を殺しちまってる俺が言えた義理じゃないか。
「悪いがこれは受けれない。」
「うん、分かった。他のは?」
常備薬3件、腰痛に効く薬、倦怠感の改善、まぁ普通か。
「残りは受ける。」
「ありがと。常備薬以外は早めの希望、仕事に影響があるんだって。」
どのみに、数日後には城に行かなきゃならない。今は店番も頼めるし、1日2日でなんとかなるだろう。
「俺も都合があるからな、明後日までには用意しよう。」
「ほんと!?助かる。」
「それじゃ、帰ったらさっそく取り掛かるか。」
「よろしくね。」



その日の夜、マーレには事情を説明して一緒に城に行く事は承諾してもらった。まぁ、俺と一緒で行きたくはなさそうだったが。
それから予定していた日までに薬を作り、ギルドには納品した。

翌日、ついに行きたくもない場所の城門を前に、俺とマーレは聳える城を見上げ、ユーリウスが来るのを待っていた。

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