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王城乗っ取る?(仮)

44.戯れてはいないんだが

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「どう思う?あの姫さん。」
「かなりの確度で、私たちと同じ境遇じゃないかしら。」
「だよな・・・」
食後に珈琲を飲もうと、マーレを連れ出してカフェに来ていた。大事な話しだからと言って、エリサには遠慮してもらっている。もちろん、ユアナは店番だ。
「でも、もう会う事もないんでしょ。」
ところがそうでもない。俺は安定剤とは別の薬を依頼されているからな。
「アホじゃなければ、イケメンとか普通に通じていた時点で違和感を感じるんじゃないか。そうなると、向こうも気付いた可能性はあるな。」
「そっかぁ。私たちが気付くくらいだもの、その可能性はあるわね。」
言った通り、アホじゃなければ、だが。

面倒だからもう関わりたくないのは事実だ。例えば元日本人だったとしても、同じ出身だからといってコミュニティを築きたいとは思わない。
利用価値があるなら話しは別だが、馴れ合いをするつもりは毛頭ない。あくまで、利害関係の上での話しだ。
「俺は面倒臭ぇから、気付かないなら気付かない方が良いと思っている。」
「うーん、私もそうかな。話しはしてみたいけどね。」
そういうところから始まるんだよ。
「俺は興味ない。が、立場を利用出来るのであれば話しは別だ。」
「私は逆に、そういう柵は作りたくないかな。」
マーレの言いたい事もわかる。面倒だから関わりたくないというのは俺も同感だ。だが、そうなると平凡な日常を送るしかなくなってしまう。
「今の生活は、その柵があったからこそ成り立っている。たらればの話しをしてもしょうがないが、俺が王都に来なかったら?エリサが気紛れを起こさなかったら?」
と、マーレに問いを投げてみる。
一瞬陰りのある表情をしたが、マーレは直ぐに微笑んで俺の方を見た。
「そう、ね。今の生活も当たり前じゃないのよね。」
「だな。自分で取りに行かないと、何れ破綻するだろうよ。」
「ですよね、私ももっとリアさん達に飛び込んでいきます!」
・・・

「勘弁して。」
「来るな、近寄るな、話しかけるな。」
「うぅ・・・」
泣きそうな目を俺に向けながら、何故か椅子に座り出すレアネ。だから何で座るんだよ。
「お昼時間が過ぎたので、休憩時間ですよ。」
聞いてねぇ。
「此処のテーブルは休憩禁止だ、知らなかったのか?」
「ふっふーん、騙されませんよ。」
うぜぇ。
「いや、大事な話しの最中だから、外して欲しいんだけど。」
マーレが言うと、得意げな表情だったレアネは困ったような顔になる。
「マーレさんが言うなら、仕方がないですね。」
切なそうに言うと、レアネは椅子から立ち上がってテーブルを離れて行った。
「何でマーレの言う事は聞くんだろうな。」
「私が知るわけないでしょ。」
あっそう。
だが、マーレが居れば追い払う事も可能という事だな。まぁそんな状況になる事は少ないが。
「取り敢えず姫さんに関しては、言ってこない限り関知しない方向でいいか。」
「そうしましょう。」
マーレとの意見が一致したところで、煙管の葉を新しくして火を点ける。珈琲を飲みながら紫煙を吐き出すと、やはり落ち着くなと思える。
「話しは変わるけど、工場がもうすぐ出来上がるわ。見に来る?」
「お、早いな。そうだな、一度は見ておきたい。」
言い出したのは俺だからな、今後の事も考えて、状況を把握しておく必要はある。生産性が向上した事によって、メイニの店に提供できるかどうか。現地を確認しなければ頼んでいる意味も無い。
「分かったわ。どうせなら、今から行ってみる?」
今からか。その発想は無かったな。一旦、ユアナに声を掛けてから行ってみるか。
「そうだな。思い立ったが吉日って言葉もある、久々に顔を出すか。」
「それじゃ、行きましょう。」
「その前にちょっと相談がある。」
「何?」

マーレがどういう思いで受け止めるかは分からないが、今後について考えている事がある。今のうちにはっきりさせておきたい。
「今畑の方はマーレに頼んで色々と動いてもらっているが、工場が出来た後についてだ。」
「うん?」
「終わった後、次の建物の件もあるし、工場に度々行くのも手間だろう。」
「確かにねぇ。でもホージョ達なら放っておいても問題ないんじゃない?」
まぁ、あいつらなら確かにそうかもしれない。
「ホージョ達の事は信頼している。が、人間社会との付き合いがどうしても増えて来る。その時に、表立って動く人間が必要だ。」
「確かにそうだけど、私が動けばいいんじゃないの?」
それを出来ない時の話しなんだがな。
「そうじゃない。工場にも責任者が必要だ、対外向けにな。」
「それってまさか・・・」
「あぁ、マールに任せようかと思っているんだ。これに関してはマーレにも事前に確認しておきたくてな。」
案の定、表情が曇る。何だかんだ言ったところで、何かしらの思いはありそうだな。
「私は構わないわ。私は私の生き方をするだけだもの。それより、マールで大丈夫なの?」
お、意外とあっさり受け止めたな。今後はもう少し軽く話したが方がいいかもな。何時までも同じような言い方をしたんじゃ、今の思いに水を差してしまいそうだ。

「だからだ。あいつだって生前はそれなりの年だったろう?責任を持って何かをするくらいやってもらわなきゃ。」
「まぁ、一応社会人だったから。」
だったら尚更だ。
「可能性として、ユーリウスが認めるまでになれば復帰もありえると思わないか?」
「うーん、確かに。」
「って事はだ、アルマディ家は俺に頭が上がらなくなるよな。」
「うわぁ、腹黒。そこまで考えているんだ。」
「失礼な、未来設計の一環だぞ。」
アルマディ家を取り込んでしまえば、他の貴族にも顔が利きそうだし、王室にも入り込めるようになるだろう。となれば、この王都で薬屋としては安泰だ。
「その辺は、考えるのあまり得意じゃないからリアに任せるわ。」
「分かった。とりあえず続きは現地にして、店を出るか。」
「そうね。戻ってくる前にね。」
「あぁ。」

もう一服と思ったが、一服なら向こうでも出来る。そう思うと、レアネが休憩から戻る前に店を後にし、ユアナに引き続き店番をお願いし、寝ていたエリサを蹴り起こして畑へ向かった。



久々に訪れた郊外、進んで行くと大きな建物が目に入る。それは、ホージョ達が住んでいる家が小さく見える程だった。奥にありながらその存在感は際立っている。
「思ったよりでかいな。」
「ふふん、凄いだろ。」
黙れクソ犬。
「いや、ある程度の大きさが無いと作業出来ないでしょ。」
「そりゃそうだな。」
そうではあるのだが、自分たちであれだけの規模の家を建ててしまう事に対しての驚きだ。マーレに頼んで正解だったと思えるのと、次に計画している俺の屋敷に対する期待感が膨らむ。
「マーレとは出会うべくして出会った気がするな。」
やはり、俺は持っているな。
「え?何よ、急に・・・」
俺の言葉に、マーレは少し驚いた顔をした。別に運命とか言ったわけじゃないっての。
「でも、そう、かな。そうだったら良いんだけど。私はリアに出会わなければ、多分もうこの世に存在してなかったもしれないし。」
運命という言葉は好きじゃない、それって運任せだろ。これは俺が持っているという事であって、偶然ではない。
「自分の力で勝ち得たもんだ。俺はきっかけに過ぎないだろ。」
「うん、でもやっぱりリアのお陰よ。」
「あたしはあたしは?」
「お前はただの迷い犬だ。」
「犬じゃないぞ!」
仲間外れのような気分にでもなったのか、エリサが割って入って来るので事実を伝えたのだが。
「エリサは今、楽しい?」
「うん、ご主人に会ってから美味しいもの食べられれて、色んな事が出来て、楽しいぞ。」
「なら、必要だったって事よ。」
「マーレありがと!」
甘やかしやがって。
「ね?」
「知らん。」
こっちに同意を求めるな。
笑顔で同意を求めるマーレから目を逸らし、工場の方へ歩を進めながら素っ気なく返事をする。

「おぉリア殿、久方ぶりだな。」
「まぁな。元気そうでなによりだよ。」
「うむ。」
「アッカガもミナットモもターラも元気そうじゃねぇか。」
ホージョの後ろに居た3人にも声を掛けるが、頷いただけだった。相変わらず口数は少ない。
「あ、姐さーんっ!・・・ぶべっ。」
鬱陶しいブタが走り寄ってダイブして来たので、叩き落としておく。
「お前も元気そうだな。」
「もちろんっす。」
弾んで着地したシマッズは、小さい手を握って得意げに言った。やはり、鼻に火種じゃないと効果が薄いか。
「して、今日は何用か。」
「途中経過の確認。それと今後について相談があってな。」
「分かった。もうすぐ休憩故、それまで待ってもらえるか?」
「あぁ構わないぜ。」

「しかし、よくあれだけの工場を建てたな。」
「私は設計しただけよ。ホージョ達って、思った以上に力持ちなのよ。」
「へぇ。」
近くの切り株に座り、改めて見た感想を口にする。マーレは謙遜して言うが、設計しただけじゃ出来はしない、毎日現場で指揮を執っていたからこそ、ちゃんと出来たんだろうよ。
「次は、俺らの家だな。」
「うん、この工場に比べるとかなり大きいし部屋数も多いから、ちょっと時間がかかりそう。」
「何、納期なんてものは無いんだ、じっくりとやったらいいさ。」
「言われてみればそうね、期限とか懐かしい、レポートに追われ続けていた気がする。でもそうね、今は時間があるなら、納得のいく家にしてみせるわ。いろいろ相談すると思うけどよろしくね。」
「あぁ。」
笑顔で言うマーレに、俺も軽く笑顔を作って応えておく。自分で言って思い出したが、生前は納期とか期限に追われるのが当たり前だったな。
今でも無いわけじゃないが、自分で左右出来る部分が多いから、追われている感じはしない。
「でも、今回ので結構自身が付いたわ。これもリアのお陰ね。」
「だから自分の力だって。」
「きっかけの話し。」
そういうのは要らねぇんだよ。そう思って俺はまた工場の方に目を向ける。
「リアって褒められたりお礼言われたりするの苦手でしょ。」
うっせぇ。
「うーん、しかし、女だったらいい女になってたぜ、きっと。」
鬱陶しいから話題を逸らす。マーレは生前19歳と言っていたが、話してみるとなかなかだ。19なんてガキかと思っていたが、そうでもないんだな。まぁ、そんな年齢の女と話す機会なんて無かったのも一因だが。
「な、なによ。ってか女子です!」
「は?」
今のお前は男だろうが、そう思ってマーレの股間に目を向ける。
「っぶ!」
直後、顔面にグーが飛んで来た。
「お前な、か弱い乙女の顔を殴るんじゃねぇよ・・・」
「私が殴ったのはくだらない事を言うおっさんですぅ。」
このやろ・・・

「何を戯れている。」
「戯れてねぇよ!」
切り株から落とされ地面に寝転がったところに、ホージョが現れて呆れた顔をする。呆れてぇのはこっちだ。
「一段落着いたから話しを聞こう。」
起き上がって周囲を見ると、うんこ座りで煙草を吹かす連中が目に入る。シマッズに関しては足が短すぎて座っているのか立っているのかの判断は付かないが。だが、そんな事より驚いたのが、マールまで同じ事をしている。
まぁ、馴染んだなら何よりだが。
「畑の拡張はどうだ?」
「うむ、問題無い。工場の規模からすればもう少し増やしてもいいと思っている。」
「そこは無理しない程度にな。」
「うむ。」
今まではあの自宅で作っていた事を考えれば、かなりの量を作れるはずだ。大体、4体で住んでいるんだからかなり手狭だったろうな。
「もう一つ、生産性があがると出来上がったものを捌く必要が出て来る。これは主に人間向けになるだろう。」
「そうだな。」
「そこで、対外も考慮してマールをここの責任者にしようと思うがどうだ?もちろん、ホージョ達の場所だというのも分かっているし、みんなが納得してくれればの話しだ。」
もともとはホージョ達の縄張りだしな。今は利害関係が一致しているとは言え、踏み込んだのは俺たちの方だ。だから無理にとは言えない。
「実はその事だが、我らもそうしようと話していたところだ。」
へぇ。
流石ホージョ。賢しいと思ってはいたが、そこまで考えているとはなかなか。
「つまり、一致という認識でいいのか?」
「うむ。我もリア殿に提案しようとしてたのでな、丁度良かった。」
こっちも願ったりだよ。
「マール殿、こちらへ。」

話しがまとまったところで、ホージョがマールを呼ぶ。
「例の話しだが、リア殿も同じ考えでな、決定だ。」
言われたマールは驚いた表情で俺とマーレを交互に見る。
驚く事じゃないだろうと思うが。あぁ、俺たちがそうさせないと思って引き受けたんだな、こいつ。馬鹿め。
「自分の考えでやってみせろ。背負う責は重いだろうが、こっちはある程度自由だぞ。」
俺は言うとマーレの方に目を向ける。マーレもその言葉に頷いてマールに目を向けた。だが、マールはまだ戸惑っている。歩んできた経験ってのはそんな簡単に変わるものじゃないが。
「今のお前なら、任せてみても良い、そう思っただけだ。」
まだ若かったなら尚更だろうな。
「分かりました、やってみます。」
ま、今のマールなら下手な事はしないだろ。後は工場が完成したら精々頑張ってくれ、俺のために。
「さて、俺も久々に混じって一服するかな。」

それから全員で休憩をして帰った。マールも生前は吸ってなかったらしいが、此処に居座る事で感化され、吸い始めたのだとか。
まだ、慣れてはいないらしいが、嫌いではないとか。それは任せるにあたって、プラスになるだろうと思えた。






-神都ヴァルハンデス-

「やっと、やっと見つけたぞ、ローラ・マクレディ・・・」
ソアは羊皮紙を持つ指に力を籠め震えていた。
「あのクソ駄神の所為で、余計な時間を費やしてしまった。そんな俺の時間よりも、もっとろくでもない事をしでかしやがったがな。」
ソアは机上に置かれた啓示に目を向ける。

ローラ・マクレディを探すにあたり、虱潰しでは埒が明かなかったため、ソアは先に啓示を依頼して内容を確認した。啓示が示す内容からならば、ある程度絞り込めるとの判断だったが、それが功を奏した。
この世界に転生した以上、それはこの世界の一部として組み込まれているという事。既に生を終えているならば何も降りないが、都合の良い啓示は逆引きも可能なのだ。

ローラ・マクレディ 28歳 中学教諭
温厚でありながら実直であり行動力に優れる。多少融通の利かない部分在り。
(本来であれば、アルマディ家と王都を反映に導く筈だった彼女は、この性格だからこそなのだろう。)
生前の情報を見ながらソアは思うが、その表情は険しい。現状王都の窮地は拭い去られたものの、啓示は新たな危機を示している。
(実直と融通が利かないというのは、組み合わせとしてはかなりの危険を孕んでいる。状況や立場が変われば、その指標はまったくの別物になる。アルマディ家であれば繁栄の未来もあったのだが、今の啓示は危機的と言っていい。)

アデル・オルブリフト 21歳 活動家
ローラを内包するこの世界の人物と、啓示の内容をソアは見比べる。活動家と言っても、依頼を受けて報酬を貰う何でも屋のようなものであり、一部は寄付でまかなっている小さな組織の一員だ。
性格は温厚で、組織内外問わず人に好感を持たれる人物のようだ。過去の記録によれば、それだけで生を終える人間となっている。だが、示された内容はそんな平和なものでは無かった。
(あのクソ駄神、次こそは首を絞めてやる。)
ソアは思いながら歯を噛み締めると、前段だと言わんばかりに持っていた羊皮紙を握り潰した。
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Gai
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