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「あさひくん、疲れたね。シャワー浴びた方がいいけど無理でしょ?蒸しタオル作ってるからそれで体拭こうね?って…あれ?あさひくん?眠っちゃったんだ…初めてだから疲れたよね。ちょっと体拭くからね」そう言いながら僕はあさひくんの体を蒸しタオルで拭こうと、まだ着ていたシャツを脱がせた。その時に見てしまった、体のあちこちに残るアザと火傷の跡を…なんで…こんなに…さっき見たお尻のアザはぶつけたんじゃなかったんだ…見えない所ばかりにアザがある。二の腕や太ももの内側や背中やお尻、黄色くなってるアザやまだ新しくできたばかりのアザ…大きさもさまざまだ。そして…この大きさはタバコだよね⁈押しつけたような跡が背中に10ヶ所近くある…どうしてこんなこと…僕は泣きながら、あさひくんの体を拭いた。こんな辛い経験をしていたなんて知らなかった。だからあんな薬を飲んだんだろうか?

新しい院内衣を着させて、防水シーツも取り替えた。穏やかな顔で眠っているあさひくんにそっと布団をかけてから番であり医師の達也に電話をした。

ー春樹?あさひくんどう?大丈夫?春樹何か…あった?

ー達也…グスッ…たつ…や

ーどうした?今そっちに行っていいか?

ーうんっ…今すぐ…来て

ーわかった。待ってろ。

俺はなぜ春樹が泣いてるのかわからなかった。ただ何か悲しいことがあったんだろうか…

「何かあったのか?」幸樹に呼び止められた。春樹の泣き声を聞いて幸樹の存在を忘れていた。
よくわからないけど春樹が泣いてるから行ってくる。お前はここにいろよ。俺の病院でラットになられたら困るからな。そう言い切って…

アイツは、あさひくんが発情した匂いに気がついた時にアルファ用の緊急特効薬を打ったばかりだ。あの薬は緊急用だけあって、そんなに打てる薬ではない。それこそ副作用で倒れてしまう。幸樹は、冷や汗と涎を垂らし、股間を膨らませながらも、他のアルファにあさひくんが襲われないように必死で管理病棟に運び入れた。ベッドに寝かせてから幸樹を外に出して鍵をかけた。頑丈なセキュリティの部屋だからいくら大柄な幸樹でも開きはしないが…でもラットになりかけてたアイツは俺が春樹を呼びに戻っても自己処理のためにしばらくトイレに篭っていたしな。幸樹のいう運命の番が本当なら…よく我慢したと褒めてやりたい。
それに…あさひくんにあげた香水の匂いは…きっと自分のフェロモンの匂いじゃないかと思っている。そんな事を思い出してるうちに部屋についた。鍵を開けると春樹が俺の胸に飛び込んできた。その身体を受け止めながら「春樹?どうした?何があった?」と聞くと、春樹はぐすっ…ぐすっ…と鼻を啜りながら、あさひくんのアザと火傷の話をしてくれた。

同じオメガなのに…自分は親に愛されて育ってきた。俺という番もいて愛されてるのに…どうしてこんないい子がいじめか虐待かわからないけど、こんな身体に傷をつけられなきゃいけないの?って…

確かに俺も幸樹が運んできたあさひくんを診察する時に見ている。確かに酷い怪我だった。処置にあたった他の看護師達もみんな息を呑んだくらいだ…
でも、あさひくんにはまだそのことについて聞いてない。もしかしたら発情期が来ないようにした原因かもしれないが…

「春樹?あさひくんの怪我は今はまだ、そっとしておこう?彼がちゃんと話ができるまで…ねっ?」

「うん。わかった。でも…達也…あさひくんを幸せにしてあげたいよ」

「そうだな。まぁ…アイツなら大丈夫だろ?」

「幸樹さん?」

「うん。そうなんだ。幸樹があさひくんのこと運命の番だって言ってたから」

「そうなの?運命の番なの?幸樹さんが渡したって言ってた香水、あさひくん落ち着く匂いだって…だから、タオルにスプレーして渡してあげたの。その匂い嗅ぎながら吐き出すことができたんだよ」

「そうか…あさひくんは本能ではわかってるのかもな。運命の番だって。それより、あさひくんはこれから1人でできそうか?」

「とりあえずやり方は教えてみたけど…ちゃんと1人でできるかって言われたら微妙かも…もうちょっとお手伝いしてあげてもいいかな?」

「わかった。俺は手伝えないからな」

「手伝ったら困るよ」

「わかってる。じゃあ春樹に任せるから頼むな」
もう一度、愛しい番を抱きしめ口づけを交わした。
幸樹にも幸せになってほしい。あんなに苦しんだアイツにも。番がいるだけで、こんなにも心が満たされるんだから…
じゃああとはよろしく。そう言って部屋から出た。

この管理病棟はオメガがヒートになった時用の緊急時に対応している。防音で外に声が漏れることもないし、フェロモンの匂いが外に出る心配もない。一度部屋から出ると登録している人間以外は二度と中には入れない仕組みだ。部屋までに3つの扉があり、顔認証を使っているので、セキュリティは万全だ。シャワーとトイレもある。発情期の時は食事もおろそかになってしまうので、病院側で管理をしてあげなければならない。

それにしても…あさひくんの口から過去の話をどうやって聞き出そうか…と悩みながら医局に戻った。





 
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